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憎悪と嫉妬の武闘祭(予選)
62話 新たな武器を求めて
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「おぉー! 人がいっぱいです!」
門から出て辺りを見渡したリリーが、物珍しそうに歓声を上げた。
大陸東、ロスタル帝国の帝都に着いた俺達は、何事もなく帝都入りを果たすことができた。
流石大国の首都だけあって、以前行ったブルクサックの街と比べて、規模も賑わいも段違いだ。
祭りの前とあって、人が行き交う通りからは行商人の客引きの声が絶え間なく聞こえる。
自然と俺の気分も上がり、クウとリリーと共に喜びをあらわにする……そう思っていた。
「……ごしゅじんさま?」
「マスター、どうかされましたか?」
「……いや、気にするな」
何だ、このえも言われぬ胸騒ぎは。
帝都に足を踏み入れた瞬間から感じたそれは、決して嫌なものではない。
ただ、無性に落ち着かない。
「……行くぞ」
頭に浮かぶ困惑を振り払い、俺は歩き出した。
しばらく平穏に過ごすのは無理そうだと、気を引き締めて。
「本当にこの道で合っているのか?」
「はい、得ている知識によると、この先に住んでいるようです」
門からしばらく歩き、大通りから外れた小道を進んでいくと、景色は一変した。
いつ崩れてもおかしくない家々がポツポツと立ち、静謐ながらも張り詰めた空気が辺りを支配している。
人の気配は感じるが、どれも息を潜めており、大通りの賑わいとは正反対だ。
スラム街。己の持つ力こそが全てであり、貧しい者は暴力によって一方的に奪われるしかなく、そこには夢も希望もない。
ただその日を生き延びることだけを考える、生きた死人の蔓延る場所だ。
「うぅ……臭いが酷いです」
リリーが鼻を抑えて涙目で呻く。
この世界にも、上下水道などが整備されている場所はあるが、ここスラムにはそんなものあるはずがなかった。汚物垂れ流しは基本である。いや、他にも腐敗した死体なんかの臭いも混じっていることだろう。
「クウ、俺から離れるなよ」
「はーい!」
この国は聖国とは違い、奴隷も普通に存在する。いくら力があるとはいえ、騙されてクウが誘拐される可能性もあるのだ。
「おい、そこのガキ、女を置いてがふっ……」
「え、ちょ、まっぐぅっ!」
早速絡んできたガラの悪い男二人組に剣の柄を勢いよく叩き込み、意識を奪う。
殺すことはしない、衛兵に見つかると面倒だし、少なくとも祭りが終わるまでは大人しくしているつもりだ。
帝国祭が始まるのは二日後。
四年に一度、帝都全体を使って大規模な祭りを行う帝国祭。一週間に渡って開かれ、大陸中から多くの人々が集まってくる。
俺達の目的はその中で行われる催しの一つ、帝国武闘祭だ。
祭りの大きな目玉となっている帝国武闘祭は、予選と本戦、それぞれ五日目と六日目に分けて行われる。帝国主催なだけあってそれはもう盛り上がるらしく、上位に入ると貰える景品や賞金もかなり豪華なのだ。
まあ、全ては真白の受け売りなのだが。
それからスラムの奥へ奥へと進み、絡まれた回数が二桁を超えたところで俺達は目的の場所へたどり着いた。
「……本当にここなのか? 確かに誰かの気配は感じるが……いや違う、ここじゃないよな……うん」
「マスター、場所は合っています。大丈夫です……多分」
「多分って言うなよ!」
スラムの雰囲気も異様だったが、その店は更にその上をいっていた。
建物を構成する腐りかけた木のあちらこちらには赤黒いシミが見られ、不思議な紋様が描かれた髑髏がいくつも繋がって入口を作っている。
その他にも何に使うか分からない怪しいガラクタが店の周りには無造作に置かれ、中には寒気を感じるようなオーラを放っている物まである。
リリーの口から、「うわぁ……」と声が漏れる。
クウも忌避感を感じたのか、警戒したように俺の腰にしがみついた。
「ここがマスターの求めていた場所――裏鍛冶師ヘルゲが営む鍛冶屋です」
裏鍛冶師ヘルゲ。
主に裏社会の人間――いわゆるアウトローな人達を客にしている、知る人ぞ知る有名な鍛冶師である。
その腕は他の裏鍛冶師だけでなく、表の鍛冶師と比べても頭一つ抜けた腕前で、彼が世に送り出した武具の数々はありえない程高値で取引されているという。
しかし、彼には変わった趣味があった。
それが呪われたアイテムの収集だ。力ない者が見れば精神を犯され、持てば発狂すると言われる呪いのアイテムは、一部の愛好家が存在するとはいえ一般人には嫌う者も多い。
そのため、いくら腕があろうとも表立って鍛冶屋を営むには難しく、裏鍛冶師として活動しているという訳だ。
活動すると言っても、本人の性格は気難しく頑固であり、店の場所も知る者は極わずか。仮に見つけたとしても、仕事を頼むのは困難を極めることになるという。
そう、そんな人物であると、俺は真白に聞いていた……はずだったのだ。
「うむ! お主にはタダで武器を作ってやるぞ!」
そう言ったのは、黒く染まった衣服の上からでも分かるほど盛り上がった筋肉に短足低身長を持つドワーフの人物、その名をヘルゲ。
その顔はこれ以上ないくらいにだらしなく緩み、机の上に置いた剣に頬ずりしていた。
彼が夢中になっているその剣とは、俺がシオン王国の宝物庫から盗み出し、これまで愛用してきた魔剣デュランダルである。
流石は神域級の武器。
当初、店を尋ねた俺達の顔を見てすぐに追い払おうとした頑固な親父ドワーフは、俺が腰に下げた魔剣デュランダルを見た途端に華麗な手のひら返しを見せた。
武器を見せるというのを条件に、武器を作って貰えることになったのだ。
マニアの執念は、思っていたよりも凄まじい。
「んー、むっ! んー、むっ! この触れただけで呪い殺されかねん強力な呪い……素晴らし過ぎて頭がおかしくなりそうじゃっ!」
いえ、もうおかしいです。というかキモい。
頬ずりしては声を上げて顔を離すヘルゲは、どう見ても頭のイカれた人間である。
……俺の【武器支配】で呪いを押さえ込んでいるからそれだけで済んでいるのだが、言えば解除しろと言われそうなので黙っておく。
「うわぁ……」
リリー、本日二度目のうわぁ。
「むっ!? シンと言ったか、その腰に下げた脇差も見せてみろ!」
一目見ただけで脇差と分かるのか……この世界でも刀はそれなりにり珍しいはずだが、腕の良い鍛冶屋なら知っていても当然なのかもしれない。
「……ほら」
一瞬迷うが、ここは素直に見せることにする。
魔剣デュランダルを見せた時点で今更だし、裏の人間であれば情報管理も徹底しているだろう。
……どの道、帝国武闘祭で広まるだろうと考えている。今の俺達ならば、真白の魔法で簡単に逃げることもできるので問題は無い。
「ぬおっ!」
ヘルゲが呪壊魂に触れようとした瞬間、突然ヘルゲが声を上げて伸ばした手を勢いよく引っ込めた。
引いた手にあったのは、小さな切り傷だ。しかし、呪壊魂は鞘に収まったまま。
俺は何が起きたのかよく分からなかったが、ヘルゲは神妙に頷いて言った。
「これはワシには無理じゃな。刀自身が、シンを主と認めておる。お主には何も害が無いようじゃが、他の者が触れればたちまち呪われて死ぬことになるじゃろう」
「マジか……」
異世界だと、そういうこともあるのか。
今まで何も気にせず使ってきたがそんなことになっていたとは。
「この刀は意思を持っているということか?」
「いや、今の時点でそこまでの知性はない。本能的なものと思えばいいじゃろうて」
今の時点で……か。
よし、もしも刀が喋り出した日にはこの刀を捨てるかどうにかして意思を殺す方法を考えよう。
武器に求めるものは、ただ純粋な力だけ。
俺にはそれ以外、不要なものでしかなかった。
それからしばらくして、名残惜しそうな顔で俺が武器を腰に差し直すのを見届けたヘルゲが、どかりと椅子に腰を落ち着けて口を開いた。
「シンは見たところ剣士のようじゃが、武器は揃っているのではないか? もしや、そちらの銀髪の嬢ちゃんの分か?」
「はいです! 欲しいでふぅっ! ……シン様酷いです」
「いや、俺の武器で合っている。そうだな……まあいいか」
リリーの頭に拳骨を落とし、俺は新たに解体用のナイフを取り出す。
そしてそれを軽く宙へと放り投げて――
「止まれ」
そのまま空中でナイフが停止した。
「……ほう」
「数に限りはあるが、俺はこうやって武器を自在に操ることができる。だからヘルゲ……さんには、そのための武器を作って欲しいんだ」
そのまま回したり飛ばしたりしながら、俺は説明する。
「同じ呪われた武器を愛する者同士じゃ、ヘルゲでよい。話は分かった、約束通り依頼は受けてやる。それで、何か要望はあるのか?」
「材料に使ってほしい物がある。真白」
「はい、マスター」
ゴトリと机の上に置かれた物を見て、ヘルゲは目を剥いた。
「なっ! これは……!」
----------------------------------------------------------
[高純度オリハルコン]
等級:伝説級
伝説に謳われる世界で最も希少な鉱石。
加工できる者は、殆ど存在しない。
----------------------------------------------------------
青白い光をうっすらと放つその石は、いつかクウがプレゼントしてくれたファンタジー定番の金属、オリハルコンだ。
「まさかオリハルコンとは……しかもここまで純度の高い物を見たのは初めてじゃぞ……!」
興奮した様子で、ヘルゲはオリハルコンを手に取る。
「加工はできるか?」
「難しい……じゃが……是非やらせてほしい」
「代金はどうする? 加工にはお金がかかるんじゃないのか?」
「お金は腐るほどあるわい。それよりも、ドワーフにとってこんな素晴らしい素材で武器を作れることの方が大事じゃ!」
ただの呪いのアイテムマニア何じゃないかと心配していたが、自信に溢れた顔の彼を見て安心する。
タダでやってくれるみたいだし、このまま任せても大丈夫だろう。
「じゃあ頼む」
「うむ、任された! それで、どんな武器が欲しいんじゃ?」
「実は前から考えていて――……」
「ほう、それは面白そうじゃな。それにこれを足して――……」
それから俺とヘルゲは、何時間に渡って話し合った。
「今日から徹夜で仕上げてやる。完成は一週間後、祭りの最中じゃが受け取りに来れるか?」
「問題ない、その日の朝には貰いに行く」
予選には間に合わないが、本戦ではお披露目できそうだ。まだ予選を通過できるのかも分からないが。
俺の返事を聞いたヘルゲが、腕を組んで頷いた。
「期待しておくといい。このヘルゲ、全霊をもって作らせてもらおう」
「ああ、楽しみにしておくよ」
話が終わり、暇そうにしていた子供二人に声をかけて、俺はおもむろに立ち上がった。
ヘルゲに背を向け、立ち去ろうとしたところで、一つ気になったことを聞いてみる。
「そういえば、呪いのアイテムが好きだと言う割に一度も俺の武器を欲しがらなかったな。何でだ?」
その問いに、彼はフンと返事を返した。
「……ワシの戦闘能力なぞ、一般人に毛が生えた程度のもの。じゃが、裏に通ずる者として、敵に回していい者くらいの判別は付くつもりじゃ」
その言葉に、一応納得する。
これならば、情報が漏れることも無いだろう。
「……おっかないお嬢ちゃん達をけしかけられたら堪らんわい」
それは俺も嫌だ。
門から出て辺りを見渡したリリーが、物珍しそうに歓声を上げた。
大陸東、ロスタル帝国の帝都に着いた俺達は、何事もなく帝都入りを果たすことができた。
流石大国の首都だけあって、以前行ったブルクサックの街と比べて、規模も賑わいも段違いだ。
祭りの前とあって、人が行き交う通りからは行商人の客引きの声が絶え間なく聞こえる。
自然と俺の気分も上がり、クウとリリーと共に喜びをあらわにする……そう思っていた。
「……ごしゅじんさま?」
「マスター、どうかされましたか?」
「……いや、気にするな」
何だ、このえも言われぬ胸騒ぎは。
帝都に足を踏み入れた瞬間から感じたそれは、決して嫌なものではない。
ただ、無性に落ち着かない。
「……行くぞ」
頭に浮かぶ困惑を振り払い、俺は歩き出した。
しばらく平穏に過ごすのは無理そうだと、気を引き締めて。
「本当にこの道で合っているのか?」
「はい、得ている知識によると、この先に住んでいるようです」
門からしばらく歩き、大通りから外れた小道を進んでいくと、景色は一変した。
いつ崩れてもおかしくない家々がポツポツと立ち、静謐ながらも張り詰めた空気が辺りを支配している。
人の気配は感じるが、どれも息を潜めており、大通りの賑わいとは正反対だ。
スラム街。己の持つ力こそが全てであり、貧しい者は暴力によって一方的に奪われるしかなく、そこには夢も希望もない。
ただその日を生き延びることだけを考える、生きた死人の蔓延る場所だ。
「うぅ……臭いが酷いです」
リリーが鼻を抑えて涙目で呻く。
この世界にも、上下水道などが整備されている場所はあるが、ここスラムにはそんなものあるはずがなかった。汚物垂れ流しは基本である。いや、他にも腐敗した死体なんかの臭いも混じっていることだろう。
「クウ、俺から離れるなよ」
「はーい!」
この国は聖国とは違い、奴隷も普通に存在する。いくら力があるとはいえ、騙されてクウが誘拐される可能性もあるのだ。
「おい、そこのガキ、女を置いてがふっ……」
「え、ちょ、まっぐぅっ!」
早速絡んできたガラの悪い男二人組に剣の柄を勢いよく叩き込み、意識を奪う。
殺すことはしない、衛兵に見つかると面倒だし、少なくとも祭りが終わるまでは大人しくしているつもりだ。
帝国祭が始まるのは二日後。
四年に一度、帝都全体を使って大規模な祭りを行う帝国祭。一週間に渡って開かれ、大陸中から多くの人々が集まってくる。
俺達の目的はその中で行われる催しの一つ、帝国武闘祭だ。
祭りの大きな目玉となっている帝国武闘祭は、予選と本戦、それぞれ五日目と六日目に分けて行われる。帝国主催なだけあってそれはもう盛り上がるらしく、上位に入ると貰える景品や賞金もかなり豪華なのだ。
まあ、全ては真白の受け売りなのだが。
それからスラムの奥へ奥へと進み、絡まれた回数が二桁を超えたところで俺達は目的の場所へたどり着いた。
「……本当にここなのか? 確かに誰かの気配は感じるが……いや違う、ここじゃないよな……うん」
「マスター、場所は合っています。大丈夫です……多分」
「多分って言うなよ!」
スラムの雰囲気も異様だったが、その店は更にその上をいっていた。
建物を構成する腐りかけた木のあちらこちらには赤黒いシミが見られ、不思議な紋様が描かれた髑髏がいくつも繋がって入口を作っている。
その他にも何に使うか分からない怪しいガラクタが店の周りには無造作に置かれ、中には寒気を感じるようなオーラを放っている物まである。
リリーの口から、「うわぁ……」と声が漏れる。
クウも忌避感を感じたのか、警戒したように俺の腰にしがみついた。
「ここがマスターの求めていた場所――裏鍛冶師ヘルゲが営む鍛冶屋です」
裏鍛冶師ヘルゲ。
主に裏社会の人間――いわゆるアウトローな人達を客にしている、知る人ぞ知る有名な鍛冶師である。
その腕は他の裏鍛冶師だけでなく、表の鍛冶師と比べても頭一つ抜けた腕前で、彼が世に送り出した武具の数々はありえない程高値で取引されているという。
しかし、彼には変わった趣味があった。
それが呪われたアイテムの収集だ。力ない者が見れば精神を犯され、持てば発狂すると言われる呪いのアイテムは、一部の愛好家が存在するとはいえ一般人には嫌う者も多い。
そのため、いくら腕があろうとも表立って鍛冶屋を営むには難しく、裏鍛冶師として活動しているという訳だ。
活動すると言っても、本人の性格は気難しく頑固であり、店の場所も知る者は極わずか。仮に見つけたとしても、仕事を頼むのは困難を極めることになるという。
そう、そんな人物であると、俺は真白に聞いていた……はずだったのだ。
「うむ! お主にはタダで武器を作ってやるぞ!」
そう言ったのは、黒く染まった衣服の上からでも分かるほど盛り上がった筋肉に短足低身長を持つドワーフの人物、その名をヘルゲ。
その顔はこれ以上ないくらいにだらしなく緩み、机の上に置いた剣に頬ずりしていた。
彼が夢中になっているその剣とは、俺がシオン王国の宝物庫から盗み出し、これまで愛用してきた魔剣デュランダルである。
流石は神域級の武器。
当初、店を尋ねた俺達の顔を見てすぐに追い払おうとした頑固な親父ドワーフは、俺が腰に下げた魔剣デュランダルを見た途端に華麗な手のひら返しを見せた。
武器を見せるというのを条件に、武器を作って貰えることになったのだ。
マニアの執念は、思っていたよりも凄まじい。
「んー、むっ! んー、むっ! この触れただけで呪い殺されかねん強力な呪い……素晴らし過ぎて頭がおかしくなりそうじゃっ!」
いえ、もうおかしいです。というかキモい。
頬ずりしては声を上げて顔を離すヘルゲは、どう見ても頭のイカれた人間である。
……俺の【武器支配】で呪いを押さえ込んでいるからそれだけで済んでいるのだが、言えば解除しろと言われそうなので黙っておく。
「うわぁ……」
リリー、本日二度目のうわぁ。
「むっ!? シンと言ったか、その腰に下げた脇差も見せてみろ!」
一目見ただけで脇差と分かるのか……この世界でも刀はそれなりにり珍しいはずだが、腕の良い鍛冶屋なら知っていても当然なのかもしれない。
「……ほら」
一瞬迷うが、ここは素直に見せることにする。
魔剣デュランダルを見せた時点で今更だし、裏の人間であれば情報管理も徹底しているだろう。
……どの道、帝国武闘祭で広まるだろうと考えている。今の俺達ならば、真白の魔法で簡単に逃げることもできるので問題は無い。
「ぬおっ!」
ヘルゲが呪壊魂に触れようとした瞬間、突然ヘルゲが声を上げて伸ばした手を勢いよく引っ込めた。
引いた手にあったのは、小さな切り傷だ。しかし、呪壊魂は鞘に収まったまま。
俺は何が起きたのかよく分からなかったが、ヘルゲは神妙に頷いて言った。
「これはワシには無理じゃな。刀自身が、シンを主と認めておる。お主には何も害が無いようじゃが、他の者が触れればたちまち呪われて死ぬことになるじゃろう」
「マジか……」
異世界だと、そういうこともあるのか。
今まで何も気にせず使ってきたがそんなことになっていたとは。
「この刀は意思を持っているということか?」
「いや、今の時点でそこまでの知性はない。本能的なものと思えばいいじゃろうて」
今の時点で……か。
よし、もしも刀が喋り出した日にはこの刀を捨てるかどうにかして意思を殺す方法を考えよう。
武器に求めるものは、ただ純粋な力だけ。
俺にはそれ以外、不要なものでしかなかった。
それからしばらくして、名残惜しそうな顔で俺が武器を腰に差し直すのを見届けたヘルゲが、どかりと椅子に腰を落ち着けて口を開いた。
「シンは見たところ剣士のようじゃが、武器は揃っているのではないか? もしや、そちらの銀髪の嬢ちゃんの分か?」
「はいです! 欲しいでふぅっ! ……シン様酷いです」
「いや、俺の武器で合っている。そうだな……まあいいか」
リリーの頭に拳骨を落とし、俺は新たに解体用のナイフを取り出す。
そしてそれを軽く宙へと放り投げて――
「止まれ」
そのまま空中でナイフが停止した。
「……ほう」
「数に限りはあるが、俺はこうやって武器を自在に操ることができる。だからヘルゲ……さんには、そのための武器を作って欲しいんだ」
そのまま回したり飛ばしたりしながら、俺は説明する。
「同じ呪われた武器を愛する者同士じゃ、ヘルゲでよい。話は分かった、約束通り依頼は受けてやる。それで、何か要望はあるのか?」
「材料に使ってほしい物がある。真白」
「はい、マスター」
ゴトリと机の上に置かれた物を見て、ヘルゲは目を剥いた。
「なっ! これは……!」
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[高純度オリハルコン]
等級:伝説級
伝説に謳われる世界で最も希少な鉱石。
加工できる者は、殆ど存在しない。
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青白い光をうっすらと放つその石は、いつかクウがプレゼントしてくれたファンタジー定番の金属、オリハルコンだ。
「まさかオリハルコンとは……しかもここまで純度の高い物を見たのは初めてじゃぞ……!」
興奮した様子で、ヘルゲはオリハルコンを手に取る。
「加工はできるか?」
「難しい……じゃが……是非やらせてほしい」
「代金はどうする? 加工にはお金がかかるんじゃないのか?」
「お金は腐るほどあるわい。それよりも、ドワーフにとってこんな素晴らしい素材で武器を作れることの方が大事じゃ!」
ただの呪いのアイテムマニア何じゃないかと心配していたが、自信に溢れた顔の彼を見て安心する。
タダでやってくれるみたいだし、このまま任せても大丈夫だろう。
「じゃあ頼む」
「うむ、任された! それで、どんな武器が欲しいんじゃ?」
「実は前から考えていて――……」
「ほう、それは面白そうじゃな。それにこれを足して――……」
それから俺とヘルゲは、何時間に渡って話し合った。
「今日から徹夜で仕上げてやる。完成は一週間後、祭りの最中じゃが受け取りに来れるか?」
「問題ない、その日の朝には貰いに行く」
予選には間に合わないが、本戦ではお披露目できそうだ。まだ予選を通過できるのかも分からないが。
俺の返事を聞いたヘルゲが、腕を組んで頷いた。
「期待しておくといい。このヘルゲ、全霊をもって作らせてもらおう」
「ああ、楽しみにしておくよ」
話が終わり、暇そうにしていた子供二人に声をかけて、俺はおもむろに立ち上がった。
ヘルゲに背を向け、立ち去ろうとしたところで、一つ気になったことを聞いてみる。
「そういえば、呪いのアイテムが好きだと言う割に一度も俺の武器を欲しがらなかったな。何でだ?」
その問いに、彼はフンと返事を返した。
「……ワシの戦闘能力なぞ、一般人に毛が生えた程度のもの。じゃが、裏に通ずる者として、敵に回していい者くらいの判別は付くつもりじゃ」
その言葉に、一応納得する。
これならば、情報が漏れることも無いだろう。
「……おっかないお嬢ちゃん達をけしかけられたら堪らんわい」
それは俺も嫌だ。
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