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銀雷は罪過に狂う
39話 過保護
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暖かな木漏れ日が地面に差し込む森の中、陽気な天気とは裏腹に、俺達は絶え間なく襲い来るゴブリンと相対していた。
……いや、俺達ではなく彼女達か。
「――とぉー!」
元気な掛け声と共にクウの膨らんだ両手がゴブリン達を纏めて体内に絡めとる。
叫び声を上げることもできず瞬く間に消化されたゴブリンは、赤い小さな魔石を残し、腕から押し出すようにして排出される。
「――『次元消失』」
無駄に大層な魔法名を真白が唱えると、まるで初めから無かったかのようにゴブリン達の頭が消え去り、残った胴体が血を噴いて倒れる。
……いや、ゴブリンにそんなの使うなよ。
戦闘ではなく蹂躙。
楽しそうに笑顔でゴブリンを喰らい尽くしていくクウと、簡単な作業をこなす様に淡々とゴブリンを処理する真白。
巣に勝手に踏み込まれた挙句、ここまでやられているゴブリン達にとって、二人は悪夢でしかないだろう。
そしてそんな彼女達を見ている俺はと言うと……。
「うおっ!」
高速で俺の背に体当たりをしてきた半透明の魔物――クウの分体に驚き、思わず俺は声を上げる。
だが、分体によるダメージらしきものはなく、ポヨンと少しの衝撃を残して分体は跳ね返って地面へと落ちる。
辺りを改めて見渡せば、相変わらずゴブリンを殲滅する二人に加え、俺を囲むようにして陣形をとるクウの分体達。
分体は俺を攻撃しようと近付くゴブリンを殺し、残った分体はさっきから俺に攻撃とも言えない体当たりを繰り返していた。
「よっ、ほっ……、なあ真白ー! 何で俺は一人で訓練してるんだー?」
四方八方から優しく襲い掛かって来る分体を捌きながら、俺は戦闘中の真白に呼び掛けた。
そう、これは訓練だ。
戦闘が始まる直前、何故か俺は真白に後ろに下げさせられ、ここで分体の攻撃を避ける練習をするように言い渡された。
仕方なく俺はクウに協力を頼み、現在に至るという訳だ。
二人が戦っている今、倒したゴブリンによる経験値は俺にも入ってきている。
だが、俺にはまだ戦闘経験が多くは無い。だからここで少しでも実戦経験を積んでおきたかった。
とはいえ、真白は俺に絶対服従の人形だ。
俺の不利益になるようなことはしないと分かっている。それでもまあ、理由は一応聞いておきたいのだが……。
「……マスターが万が一にも怪我をされては困りますので――」
「過保護かっ!」
俺は真白に向かって、分体を思いっ切り投げた。
クウがブルクサックの街を滅ぼしてから丁度一週間。
あの後、生存者がいないことを確認した俺達は、ずっと泣きじゃくるクウを連れ、急いで街から離れた。
アルノルトが俺と真白を連れ去って……と、架空の作り話で死人に責任を押し付けたお陰で、ようやくクウも泣き止んで納得してもらうことができた。
説明している間、真白が無表情でひたすら頷いていたのが印象的だった。
今俺達がいる場所は、アロンディア領内から少し南下し、ヴェグリーズ大森林を通って東に向かっている所だ。
このままヴェグリーズ獣王国に向かっても良かったのだが、どうせなら娯楽の多いと言われるロスタル帝国に行きたいと思い、生贄にされた一万七百九十六人分の知識を持つ真白の案内で、近道を通ってロスタル帝国へと向かっている。
ロスタル帝国は大陸の東側、西側にあるシオン王国とは正反対の位置にあるので、追手の心配も少ないしな。
「それにしても、魔物が多いな」
ゴブリンの魔石を回収しながら、俺は一人ごちる。
あまり知られていない裏道を通っているからなのか、さっきから魔物との遭遇率も高い。
まあ出会った端からクウが食べてしまうのだが。
この一週間、俺達はずっと野宿をしていた。
真白の人形の秘密部屋には大きくふかふかのベッドがあるので、そこで全員で寝ようと考えもしたのだが、あそこは俺と真白しか入ることができないとあの夜に聞いていたので諦めた。
事前に言っておけばクウも癇癪を起こさないとはいえ、幼女を一人で森に置き去りにするのは流石にはばかられる。
だが、結構色々と限界が近い。
寝ている間の見張りは大丈夫だ。俺以外の二人はそもそも寝る必要が無いし、番はクウの分体で充分だ。
疲労もそこまで溜まってはいない。真白の【空間魔法】によって作られた亜空間に荷物を仕舞うことができたので体は軽い。
だけど本当に、毎晩クウが寝静まった後で俺に見せるようにして部屋の扉を作り、頬を上気させて期待に満ちた目で見つめてくる真白がヤバイ。
いや、行きたいのは俺も同じなんだが、クウを置いておける訳がないし、次に言い訳は通じない気がする。
まあだからと言ってクウがいる場所でやるわけにもいかない。クウには純粋無垢な子に育って欲しいのですよ。
それでもふかふかのベッドも恋しいし、俺はテントで寝るのはあまり好きではない。
という訳で、俺は色々と限界に近かったのだ。
そしてそのストレスを、俺は魔物にぶつけることにした。
「『アースバレット』、『ウィンド』」
加速して放たれた土の銃弾が、薄緑の体毛に、手足の先が茶色になっている猿のような魔物――スローエイプの脳天を貫く。
樹上にいたスローエイプが地面に落下するのを横目に、俺は前に飛び込むような形で後ろから飛来して来た石を避ける。
【気配察知】で敵のいる場所は把握済みだ。
十五メートル程の高さから俺を見下ろすのは残り二体のスローエイプ。
この世界に来て飛躍的に上がった身体能力を持って、俺は地面を垂直に飛ぶ。
そして【武器支配】によって浮かせていた解体用のナイフ二本と壊呪魂を足場に、器用に方向転換をしながら片方のスローエイプに迫る。
驚きを見せるスローエイプをデュランダルで袈裟斬りに斬り裂くと、もう一方の硬直していたスローエイプは手をこちらに向けて口を動かす。
俺にはその内容は分からない。
しかし、どうやら魔法を使おうとしているようだ。
戦闘前にステータスを除いた際、【土魔法】の表記があったことを思い出す。
魔法は魔力を使って現象を生み出す力だ。魔力はこのファルシアという世界においてどんな生物でも有しているが、使わないことも多い。
魔法を使う魔物はそれなりに強敵とされるらしいので、Dランクの魔物の中でもスローエイプは上位に入るだろう。
だが、魔法なんて使う前に倒してしまえばいい。
詠唱をしていたスローエイプの背後から、残していた水精の短剣が心臓を一突きにする。
驚愕の表情で地面へと落下するスローエイプ。かなりの勢いで地面に叩き付けられて絶命する。
俺の【武器支配】のスキルレベルは四になっていた。
同時に操れる数は四本になり、効果範囲は二十メートルにまで伸びている。
奇襲に使えたり足場にもできたりと、汎用性も高いので結構便利になったように思う。
武器を操り、階段のようにしてゆっくりと地面へと降りた俺は、レベルアップの感覚と共にステータスを開いた。
----------------------------------------------------------
名前:シン
種族:人族
Lv:82
称号:人間不信 同族殺し 転移者 呪剣士
<パッシブスキル>
身体強化(5) 精神耐性(9) 並列思考(5)
詠唱短縮 魔力感知
<アクティブスキル>
双剣術(5) 風魔法(4) 土魔法(3) 気配察知(6)
家事(3) 鑑定(8) 隠密(4) 威圧(2) 演技(1)
回避(2) 拷問 直感 調教
<ユニークスキル>
武器支配(4) 偽装
----------------------------------------------------------
強敵だったマッドレブナントはやはり得られる経験値も多かったらしく、ダンジョンに潜る前と比べるとレベルが七も上がっている。
称号の[魔剣士]が[呪剣士]になっているのは、呪われた武器である魔剣デュランダルと霊刀壊呪魂を使っているせいだろうか。
効果は真白に聞いてみたところ、呪剣使用時に【双剣術】スキルにかなり補正がかかったり、育ちやすくなるらしい。
[魔剣士]も似たような効果だったそうだが、こちらの方が効果も高く珍しい職称号だそうだ。
スキルレベルは、【武器支配】の他に【並列思考】と【風魔法】が上がっている。
新しく覚えた【回避】というスキルは、必死でマッドレブナントの攻撃を避けていたから覚えたのだろう。回避に補正がかかって動きやすくなった。
俺はかなり強くなっていると思う。この世界に来た時と比べれば雲泥の差だ。
今ならきっと、城にいた兵士にもまともに戦っても勝つことができるだろう。
だが――
「二人共チート過ぎるんだよなあ……」
俺は戦いを見ていた大切な二人の元に、苦笑を漏らしながら歩いていった。
……いや、俺達ではなく彼女達か。
「――とぉー!」
元気な掛け声と共にクウの膨らんだ両手がゴブリン達を纏めて体内に絡めとる。
叫び声を上げることもできず瞬く間に消化されたゴブリンは、赤い小さな魔石を残し、腕から押し出すようにして排出される。
「――『次元消失』」
無駄に大層な魔法名を真白が唱えると、まるで初めから無かったかのようにゴブリン達の頭が消え去り、残った胴体が血を噴いて倒れる。
……いや、ゴブリンにそんなの使うなよ。
戦闘ではなく蹂躙。
楽しそうに笑顔でゴブリンを喰らい尽くしていくクウと、簡単な作業をこなす様に淡々とゴブリンを処理する真白。
巣に勝手に踏み込まれた挙句、ここまでやられているゴブリン達にとって、二人は悪夢でしかないだろう。
そしてそんな彼女達を見ている俺はと言うと……。
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高速で俺の背に体当たりをしてきた半透明の魔物――クウの分体に驚き、思わず俺は声を上げる。
だが、分体によるダメージらしきものはなく、ポヨンと少しの衝撃を残して分体は跳ね返って地面へと落ちる。
辺りを改めて見渡せば、相変わらずゴブリンを殲滅する二人に加え、俺を囲むようにして陣形をとるクウの分体達。
分体は俺を攻撃しようと近付くゴブリンを殺し、残った分体はさっきから俺に攻撃とも言えない体当たりを繰り返していた。
「よっ、ほっ……、なあ真白ー! 何で俺は一人で訓練してるんだー?」
四方八方から優しく襲い掛かって来る分体を捌きながら、俺は戦闘中の真白に呼び掛けた。
そう、これは訓練だ。
戦闘が始まる直前、何故か俺は真白に後ろに下げさせられ、ここで分体の攻撃を避ける練習をするように言い渡された。
仕方なく俺はクウに協力を頼み、現在に至るという訳だ。
二人が戦っている今、倒したゴブリンによる経験値は俺にも入ってきている。
だが、俺にはまだ戦闘経験が多くは無い。だからここで少しでも実戦経験を積んでおきたかった。
とはいえ、真白は俺に絶対服従の人形だ。
俺の不利益になるようなことはしないと分かっている。それでもまあ、理由は一応聞いておきたいのだが……。
「……マスターが万が一にも怪我をされては困りますので――」
「過保護かっ!」
俺は真白に向かって、分体を思いっ切り投げた。
クウがブルクサックの街を滅ぼしてから丁度一週間。
あの後、生存者がいないことを確認した俺達は、ずっと泣きじゃくるクウを連れ、急いで街から離れた。
アルノルトが俺と真白を連れ去って……と、架空の作り話で死人に責任を押し付けたお陰で、ようやくクウも泣き止んで納得してもらうことができた。
説明している間、真白が無表情でひたすら頷いていたのが印象的だった。
今俺達がいる場所は、アロンディア領内から少し南下し、ヴェグリーズ大森林を通って東に向かっている所だ。
このままヴェグリーズ獣王国に向かっても良かったのだが、どうせなら娯楽の多いと言われるロスタル帝国に行きたいと思い、生贄にされた一万七百九十六人分の知識を持つ真白の案内で、近道を通ってロスタル帝国へと向かっている。
ロスタル帝国は大陸の東側、西側にあるシオン王国とは正反対の位置にあるので、追手の心配も少ないしな。
「それにしても、魔物が多いな」
ゴブリンの魔石を回収しながら、俺は一人ごちる。
あまり知られていない裏道を通っているからなのか、さっきから魔物との遭遇率も高い。
まあ出会った端からクウが食べてしまうのだが。
この一週間、俺達はずっと野宿をしていた。
真白の人形の秘密部屋には大きくふかふかのベッドがあるので、そこで全員で寝ようと考えもしたのだが、あそこは俺と真白しか入ることができないとあの夜に聞いていたので諦めた。
事前に言っておけばクウも癇癪を起こさないとはいえ、幼女を一人で森に置き去りにするのは流石にはばかられる。
だが、結構色々と限界が近い。
寝ている間の見張りは大丈夫だ。俺以外の二人はそもそも寝る必要が無いし、番はクウの分体で充分だ。
疲労もそこまで溜まってはいない。真白の【空間魔法】によって作られた亜空間に荷物を仕舞うことができたので体は軽い。
だけど本当に、毎晩クウが寝静まった後で俺に見せるようにして部屋の扉を作り、頬を上気させて期待に満ちた目で見つめてくる真白がヤバイ。
いや、行きたいのは俺も同じなんだが、クウを置いておける訳がないし、次に言い訳は通じない気がする。
まあだからと言ってクウがいる場所でやるわけにもいかない。クウには純粋無垢な子に育って欲しいのですよ。
それでもふかふかのベッドも恋しいし、俺はテントで寝るのはあまり好きではない。
という訳で、俺は色々と限界に近かったのだ。
そしてそのストレスを、俺は魔物にぶつけることにした。
「『アースバレット』、『ウィンド』」
加速して放たれた土の銃弾が、薄緑の体毛に、手足の先が茶色になっている猿のような魔物――スローエイプの脳天を貫く。
樹上にいたスローエイプが地面に落下するのを横目に、俺は前に飛び込むような形で後ろから飛来して来た石を避ける。
【気配察知】で敵のいる場所は把握済みだ。
十五メートル程の高さから俺を見下ろすのは残り二体のスローエイプ。
この世界に来て飛躍的に上がった身体能力を持って、俺は地面を垂直に飛ぶ。
そして【武器支配】によって浮かせていた解体用のナイフ二本と壊呪魂を足場に、器用に方向転換をしながら片方のスローエイプに迫る。
驚きを見せるスローエイプをデュランダルで袈裟斬りに斬り裂くと、もう一方の硬直していたスローエイプは手をこちらに向けて口を動かす。
俺にはその内容は分からない。
しかし、どうやら魔法を使おうとしているようだ。
戦闘前にステータスを除いた際、【土魔法】の表記があったことを思い出す。
魔法は魔力を使って現象を生み出す力だ。魔力はこのファルシアという世界においてどんな生物でも有しているが、使わないことも多い。
魔法を使う魔物はそれなりに強敵とされるらしいので、Dランクの魔物の中でもスローエイプは上位に入るだろう。
だが、魔法なんて使う前に倒してしまえばいい。
詠唱をしていたスローエイプの背後から、残していた水精の短剣が心臓を一突きにする。
驚愕の表情で地面へと落下するスローエイプ。かなりの勢いで地面に叩き付けられて絶命する。
俺の【武器支配】のスキルレベルは四になっていた。
同時に操れる数は四本になり、効果範囲は二十メートルにまで伸びている。
奇襲に使えたり足場にもできたりと、汎用性も高いので結構便利になったように思う。
武器を操り、階段のようにしてゆっくりと地面へと降りた俺は、レベルアップの感覚と共にステータスを開いた。
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名前:シン
種族:人族
Lv:82
称号:人間不信 同族殺し 転移者 呪剣士
<パッシブスキル>
身体強化(5) 精神耐性(9) 並列思考(5)
詠唱短縮 魔力感知
<アクティブスキル>
双剣術(5) 風魔法(4) 土魔法(3) 気配察知(6)
家事(3) 鑑定(8) 隠密(4) 威圧(2) 演技(1)
回避(2) 拷問 直感 調教
<ユニークスキル>
武器支配(4) 偽装
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強敵だったマッドレブナントはやはり得られる経験値も多かったらしく、ダンジョンに潜る前と比べるとレベルが七も上がっている。
称号の[魔剣士]が[呪剣士]になっているのは、呪われた武器である魔剣デュランダルと霊刀壊呪魂を使っているせいだろうか。
効果は真白に聞いてみたところ、呪剣使用時に【双剣術】スキルにかなり補正がかかったり、育ちやすくなるらしい。
[魔剣士]も似たような効果だったそうだが、こちらの方が効果も高く珍しい職称号だそうだ。
スキルレベルは、【武器支配】の他に【並列思考】と【風魔法】が上がっている。
新しく覚えた【回避】というスキルは、必死でマッドレブナントの攻撃を避けていたから覚えたのだろう。回避に補正がかかって動きやすくなった。
俺はかなり強くなっていると思う。この世界に来た時と比べれば雲泥の差だ。
今ならきっと、城にいた兵士にもまともに戦っても勝つことができるだろう。
だが――
「二人共チート過ぎるんだよなあ……」
俺は戦いを見ていた大切な二人の元に、苦笑を漏らしながら歩いていった。
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