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二代目転移者と白亜の遺産
37話 癇癪
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心地よい倦怠感を感じながら、俺は目覚める。
……昨夜は本当に凄かった。
まさかあそこまで俺が夢中になるとは。途中から完全に理性を失っていた気がする。
考えてみれば、出会ったその日にここまでいっちゃったんだよなあ……。
それにしても、触った時の感触だけでなく、体の構造や反応まで人間と殆ど変わらないとは。
いや、まあ初めてだったから比較対象も無いんだけど。
「……おはようございます、シン様」
「あ、ああ、真白、おはよう」
声が聞こえた方を見れば、ベッドの傍らに立つ真白の、真紅の瞳と目が合った。
着ているメイド服には皺一つ見当たらない。
昨夜はあんなに乱れていたというのに、また人形らしい無表情に戻っていた。
途中教えてくれたことによると、大量の魂を捧げられた影響か、彼女は人間の持つ欲求がかなり強い傾向にあるらしい。
昨日見た通り、食欲や性欲、睡眠欲などだ。
だが、いずれも本来は必要なく、娯楽の一部としてということだが。
優先順位で言えば俺の命令の方が高いらしいので、あまり気にはしていない。抑えようと思えば抑えられるようだし。
ちなみに、性欲が強いなら他の男とも……、と言いかけたところ、とても主に向けるようなものでは無い絶対零度の視線を受けることになった。
人形相手にもデリカシーは大事なようだ。
まあ他の男にやるつもりはないし、そもそも主以外の男には反応もしないらしいから心配も要らない。無理にしようとすれば防御装置が働くそうだ。案の定自爆のようだが。
この辺りは妻を連れ去られて慰み者にされた製作者の後悔が伝わってくる。
「さて、そろそろ向こうに戻るか。クウも起きて寂しがってるかもしれないしな」
俺が戻ろうと立ち上がった時だった。
真白が無表情ながらも少し緊迫した様子を漂わせ、静かに告げた。
「報告があります。ブルクサックの街が――壊滅しました」
突然の報告を受けた俺は、急いで真白の作った人形の秘密部屋から出る。
「――! これは……」
街に出ると、酷い有様だった。
朝日が昇り、無残な街の様子を鮮明にする。
建物の多くからは異臭を放つ白い煙が上がり、何かに溶かされたような跡があった。
生き物の気配は近くには感じられず、かと言って死体も見当たらない。
こんなことが可能なのは、俺の知る限り一人しかいない。間違いなく、クウの仕業だろう。
俺の後に続いて部屋から出た真白は、街の光景を見て目を微かに細める。彼女も犯人が誰か、理解できているようだ。
「シン様、あれを」
「ん?」
真白が指を指した方角を見ると、そこには狂乱したように暴れるクウと、その攻撃を防ぐ、大きな魔法陣によって張られた結界があった。
俺は慌ててその結界が張られている冒険者ギルドの建物へと向かう。
「――うわああぁああああああああ!!」
「ぐっ! この……化物め……」
冒険者ギルドに到着すると、辺りは濃厚な死の香りが漂っていた。
冒険者のものと思われる死体が幾つも転がり、結界内で怯える数名のギルド員と、その前で守護するアルノルトが、半死半生に近い姿で溶けかかった大斧を振り回している。
対するクウは、絶叫のような泣き声を上げ、無数に枝分かれした腕を伸ばし、鞭のようにアルノルトや結界に叩きつけている。こちらは無傷。
どうにかアルノルトは攻撃を捌いているようだが、このまま放っておけば、結末は火を見るより明らかだ。
アルノルトを助けるつもりは全く無いが、放っておくこともできない。
「――クウっ!!」
戦場へと一歩踏み込み、精一杯の大声でクウへと呼びかける。
そして、その効果は劇的だった。
「ああぁぁ……、――ごしゅ、じんさ、ま……?」
クウの泣き声が途切れ、俺と目が合った瞬間、クウの姿がブレたかと思うと、俺の体に衝撃が走る。
「――ぐっ! おお、よしよし」
猛烈な勢いで抱き着いてきたクウを抱きしめ返し、頭を優しく撫でる。
「ごしゅじんさま、ごしゅじんさま、ごしゅじんさまぁ。…………くー……、いらなくなってない?」
そう言って彼女は、俺の後ろに立つ真白へと視線を向けた。
起きたら俺がいなくなったことで、捨てられたと思ったらしい。真白が新たに加わったことも関係しているのだろう。
俺がクウを捨てる訳ないのにな。
「大丈夫だ。ずっと一緒だからな」
「――うんっ!」
クウの笑顔を取り戻し、朝から大変だったと胸を撫で下ろした俺に、そこで邪魔が入った。
「おいボウズ! これは一体――」
「てめえ! よくもうちのクウを泣かしてくれたな! 真白っ! やっちまえ!」
「畏まりました、マスターッ!」
憎悪に染まった顔で怒鳴るアルノルトの言葉をわざと遮り、今は動けない俺に変わって真白に命令を下す。
……はい、思いっ切り責任転換です。
流石に真白とよろしくやってましたなんて子供のクウには言えないので、彼らに責任は背負ってもらおう。死人に口無しだ。
真白も心無しか、気合いが入っている気がする。どうやら俺と心は一つのようだ。
「散りなさい」
真白が一言、呟くと同時に、アルノルトの頭が爆ぜる。脳漿を撒き散らし、胴体だけになった彼は、地面に倒れた。
アルノルトは俺が殺したかったのだが、こうなっては仕方が無い。最後にいい表情を見れただけでもよしとしよう。
それよりも、真白の強さも凄まじいな。一瞬空間が歪んだのが見えたから、恐らくは【空間魔法】による攻撃だと思うが……。
街一つをあっさり一晩で滅ぼすクウといい、何か戦力がおかしいことになっている。二人の主である俺が一番弱いというのは問題だ。
それについてはまた考えるとしよう。
その後、結界をデュランダルで斬り裂き、中に居たデリアさんらギルド員を全員殺して、この事件は幕を閉じた。
この出来事を俺は、『幼女癇癪事件』と名付けることにしたのは内緒の話である。
……昨夜は本当に凄かった。
まさかあそこまで俺が夢中になるとは。途中から完全に理性を失っていた気がする。
考えてみれば、出会ったその日にここまでいっちゃったんだよなあ……。
それにしても、触った時の感触だけでなく、体の構造や反応まで人間と殆ど変わらないとは。
いや、まあ初めてだったから比較対象も無いんだけど。
「……おはようございます、シン様」
「あ、ああ、真白、おはよう」
声が聞こえた方を見れば、ベッドの傍らに立つ真白の、真紅の瞳と目が合った。
着ているメイド服には皺一つ見当たらない。
昨夜はあんなに乱れていたというのに、また人形らしい無表情に戻っていた。
途中教えてくれたことによると、大量の魂を捧げられた影響か、彼女は人間の持つ欲求がかなり強い傾向にあるらしい。
昨日見た通り、食欲や性欲、睡眠欲などだ。
だが、いずれも本来は必要なく、娯楽の一部としてということだが。
優先順位で言えば俺の命令の方が高いらしいので、あまり気にはしていない。抑えようと思えば抑えられるようだし。
ちなみに、性欲が強いなら他の男とも……、と言いかけたところ、とても主に向けるようなものでは無い絶対零度の視線を受けることになった。
人形相手にもデリカシーは大事なようだ。
まあ他の男にやるつもりはないし、そもそも主以外の男には反応もしないらしいから心配も要らない。無理にしようとすれば防御装置が働くそうだ。案の定自爆のようだが。
この辺りは妻を連れ去られて慰み者にされた製作者の後悔が伝わってくる。
「さて、そろそろ向こうに戻るか。クウも起きて寂しがってるかもしれないしな」
俺が戻ろうと立ち上がった時だった。
真白が無表情ながらも少し緊迫した様子を漂わせ、静かに告げた。
「報告があります。ブルクサックの街が――壊滅しました」
突然の報告を受けた俺は、急いで真白の作った人形の秘密部屋から出る。
「――! これは……」
街に出ると、酷い有様だった。
朝日が昇り、無残な街の様子を鮮明にする。
建物の多くからは異臭を放つ白い煙が上がり、何かに溶かされたような跡があった。
生き物の気配は近くには感じられず、かと言って死体も見当たらない。
こんなことが可能なのは、俺の知る限り一人しかいない。間違いなく、クウの仕業だろう。
俺の後に続いて部屋から出た真白は、街の光景を見て目を微かに細める。彼女も犯人が誰か、理解できているようだ。
「シン様、あれを」
「ん?」
真白が指を指した方角を見ると、そこには狂乱したように暴れるクウと、その攻撃を防ぐ、大きな魔法陣によって張られた結界があった。
俺は慌ててその結界が張られている冒険者ギルドの建物へと向かう。
「――うわああぁああああああああ!!」
「ぐっ! この……化物め……」
冒険者ギルドに到着すると、辺りは濃厚な死の香りが漂っていた。
冒険者のものと思われる死体が幾つも転がり、結界内で怯える数名のギルド員と、その前で守護するアルノルトが、半死半生に近い姿で溶けかかった大斧を振り回している。
対するクウは、絶叫のような泣き声を上げ、無数に枝分かれした腕を伸ばし、鞭のようにアルノルトや結界に叩きつけている。こちらは無傷。
どうにかアルノルトは攻撃を捌いているようだが、このまま放っておけば、結末は火を見るより明らかだ。
アルノルトを助けるつもりは全く無いが、放っておくこともできない。
「――クウっ!!」
戦場へと一歩踏み込み、精一杯の大声でクウへと呼びかける。
そして、その効果は劇的だった。
「ああぁぁ……、――ごしゅ、じんさ、ま……?」
クウの泣き声が途切れ、俺と目が合った瞬間、クウの姿がブレたかと思うと、俺の体に衝撃が走る。
「――ぐっ! おお、よしよし」
猛烈な勢いで抱き着いてきたクウを抱きしめ返し、頭を優しく撫でる。
「ごしゅじんさま、ごしゅじんさま、ごしゅじんさまぁ。…………くー……、いらなくなってない?」
そう言って彼女は、俺の後ろに立つ真白へと視線を向けた。
起きたら俺がいなくなったことで、捨てられたと思ったらしい。真白が新たに加わったことも関係しているのだろう。
俺がクウを捨てる訳ないのにな。
「大丈夫だ。ずっと一緒だからな」
「――うんっ!」
クウの笑顔を取り戻し、朝から大変だったと胸を撫で下ろした俺に、そこで邪魔が入った。
「おいボウズ! これは一体――」
「てめえ! よくもうちのクウを泣かしてくれたな! 真白っ! やっちまえ!」
「畏まりました、マスターッ!」
憎悪に染まった顔で怒鳴るアルノルトの言葉をわざと遮り、今は動けない俺に変わって真白に命令を下す。
……はい、思いっ切り責任転換です。
流石に真白とよろしくやってましたなんて子供のクウには言えないので、彼らに責任は背負ってもらおう。死人に口無しだ。
真白も心無しか、気合いが入っている気がする。どうやら俺と心は一つのようだ。
「散りなさい」
真白が一言、呟くと同時に、アルノルトの頭が爆ぜる。脳漿を撒き散らし、胴体だけになった彼は、地面に倒れた。
アルノルトは俺が殺したかったのだが、こうなっては仕方が無い。最後にいい表情を見れただけでもよしとしよう。
それよりも、真白の強さも凄まじいな。一瞬空間が歪んだのが見えたから、恐らくは【空間魔法】による攻撃だと思うが……。
街一つをあっさり一晩で滅ぼすクウといい、何か戦力がおかしいことになっている。二人の主である俺が一番弱いというのは問題だ。
それについてはまた考えるとしよう。
その後、結界をデュランダルで斬り裂き、中に居たデリアさんらギルド員を全員殺して、この事件は幕を閉じた。
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