人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

33話 真白のステータス

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 変わることのない無表情を顔に貼り付け、メイド服を着た白い少女――真白ましろは、淡々と説明する。

「マスターが魔石を捧げる時、私に抱いていたイメージがこの服装だったのでしょう。……つまり趣味です」

「違うわ! 安壮昭二の妻が元々は従者だったイメージが強かったからじゃないか?」

 多分だけど。

「……なるほど。まあマスターの趣味はさて置き、これから私について少しご説明させていただきます」

 分かってないだろ!
 埒が明かないのでツッコミは我慢した俺は、それから少しの間、彼女について本人から教えてもらう。

 彼女は永遠の忠誠を主――俺に誓い、その命令は絶対であること。
 彼女は主の理想を追求し、理想の伴侶となるある意味完成された人間の形であること。
 圧倒的な強さを誇り、主に一番の信用を置かれる存在として作られたということ。

 他にもいろいろとあったが、正直ツッコミ所が多すぎて覚えきれなかった。
 どこか安っぽくも聞こえるが、それらを語る真白の目は本気だった。

 何と俺が強く念じるだけで、彼女に備えられた爆弾が爆発し、殺すことができると言う。
 命令に背いた時や、気に食わなかったら念じてくださいと無表情で言われた時は、かなり引いた。

 そして、圧倒的な強さを持つとの彼女の発言だったが、【鑑定】をすればあながち誇張ではないことも分かった。

----------------------------------------------------------
名前:真白
種族:ドールクイーン
Lv:1
称号:最高傑作 人形ヲ統ベシ者  
<パッシブスキル>
物理耐性(5) 全属性耐性(5) 状態異常無効
精神耐性(10) 怪力 詠唱破棄 高速思考
<アクティブスキル>
空間魔法(7) 鑑定(5) 再生(4)
<ユニークスキル>
最高位命令権 魔力変換 無欠家政 ■■■■■
----------------------------------------------------------

 レベル一にしてこの圧倒的なステータス。
 これなら確かに、大抵の相手に負けることは無いだろう。
 知らないスキルも多いため、本人に聞いてみる。

「真白、スキルの説明を頼む」

「はい、マスター。まずは――」

 【空間魔法】は、空間属性という極めて珍しい魔法属性を持った魔法で、無属性と同じで極端に使い手が少なく、ユニークスキルではないもののそれに匹敵する程強力な魔法だ。

 空間を歪めて別の場所に通り道を作ることで長距離の転移ができたり、亜空間を作成して中に物を仕舞えたりと、魔力の消費は大きいものの、それ相応の便利で絶大な効果が発揮できる。
 どうやらこのスキルは、俺が捧げた魔石が関係しているらしく、ここまで強いスキルを持っているのは謎だと首を傾げていた彼女に、使ったのは幻想級の魔石だと伝えると、無表情ながらも驚きに目を一瞬見開いていた。

 ユニークスキルは四つ。俺が見た中では最大の数だ。黒く塗り潰されて見えないスキルがあるが、これは聞くと特殊な条件下でしか発動ができないらしい。

「どんな条件なんだ?」

「――私は自ら魔力を生成することは可能ですが、それとは別に【魔力変換】によってマスターから魔力を分けていただくことで、私自身の魔力として変換し溜めておくことができます。このスキルは、どうやら私の溜めた魔力が一定になると発動できるようになるようです」

【魔力変換】は、特定の相手から魔力を受け取ることでそれを貯蔵し、自身の魔力として使用できるスキルのようだ。
 このスキルの凄いところは、自身の上限無く、無限に魔力を溜めることができるということ。
 真白の場合、主である俺からしか魔力は受け取れないが、日頃から少しずつでも溜めておくことで、この隠れたユニークスキルだけでなく、魔力の消費が激しい【空間魔法】を安心して使えるようにもなるらしい。
 この隠されたスキルは、本人にもどんなスキルか分からないそうなので、結構楽しみだ。

 魔力の供給方法は後回しにして、説明は続く。

 【最高位命令権】は、他の全ての自動人形オートマタに対して、自由に命令を下して操ることのできるスキルらしい。
 ダンジョンから時々発見される人形達は、その高い忠誠心から貴族や王族に重宝され、魔石を捧げる前ならば高額で買い取ってもらうことができる。忠誠を誓うのは魔石を捧げた本人のみなので、一度起動してしまえば価値は無くしてしまうが、決して裏切らない人形を求める者は多い。
 しかし、それもこのスキルを使えば主より優先度の高い命令を下すことができるという。使い方によっては、かなり有用なスキルと言える。
 ……主に暗殺方面で。

 【無欠家政】はユニークスキルにしては珍しく、戦闘とは一切関係の無いスキルだ。
 効果はただ、家事仕事がとてつもなく上手くなる。うん、それだけ。
 何か今までのが凄かった分、どうしても物足りなく感じてしまうが、詳しく聞くと個人的にはかなり嬉しいスキルだった。
 料理、掃除、洗濯、あらゆる家事のスペシャリストである彼女は、料理の味は三ツ星レストラン並、掃除洗濯は完璧に数秒で終わらせるなど、俺とクウに足りなかった生活力を存分に補ってくれそうだ。

 ちなみに、三ツ星レストランなんて単語が出たので気になって聞くと、彼女には安壮昭二だけでなく、生贄になった一万人以上もの人達の知識があるらしい。

 しかしそうなると今度は、さっき倒した安壮昭二の魂がどうして……という疑問が浮かぶのだが、これはかなり複雑なことになっていた。

 まあ簡単に説明すると、このダンジョンで死んだ魂は自動で捧げられる仕組みになっている。
 このダンジョンに生息するアンデッドは生前の魂の欠片と魔力で出来た紛い物の魂が組み合わさって魔物として動いている。
 だからアンデッドを呪壊魂で切っても吸収できた魂が少なく感じたのだ。
 紛い物の魂は吸えないし、生前の魂も欠片しかないのでスキルも殆どが失われている。

 だが、あのマッドレブナントだけはそのまま安壮昭二の魂が使われていた。
 つまり、俺は生前の先輩転移者と戦っていたようなものだったのだ。いや、むしろ魔物になって能力もアップしている分タチが悪い。
 よくあそこまで戦えたと自分を褒めてもいいんじゃないだろうか。

 ちなみに知識はあっても記憶は無いので人格に影響は無いんだとか。

 説明が終わり、床に座っていた俺達は一息つく。すると、真白が何か言いたそうに俺の方を見ていることに気が付いた。

「……ん? なんだ?」

「……宜しければ、私の名前の由来があれば教えて頂けませんか?」

 質問をした真白の顔は、変わらず無表情だったが、どこか真剣さを感じたので、俺は正直に答える。

「……家族だ」

「家族……?」

「お前を見た時、別れてしまった家族を思い出したんだ」

 そう、この美しい白い髪に凛々しくも見える赤い目は、向こうの世界に置いてきてしまった大切な家族、ウサギのシロを彷彿とさせた。だから、俺の元の名前の真と合わせて『真白ましろ』。

「だからお前にも、同じように家族として、これから一緒にいて欲しいと願ってこの名前にした」

 それを聞いた真白は、目を閉じて言葉を噛み締めるように沈黙した後、俺を真っ直ぐ見据えて口を開く。

「……私は、主のどんな望みも叶えるべく生まれた人形です。その願い、私が絶対に叶えてみせましょう。――ずっと、我が身はマスターのお側に」

 真白の忠誠心が上がった!
 俺の脳内に、そんなアナウンスが聞こえた気がした。
 まあそれは気のせいだとは思うが、実際彼女がら俺を見る目は、少し熱を帯びているように感じた。
 ……せっかくなのでペットの名前が元だったことは内緒にしておこう。

 話しが一段落付き、そろそろこのダンジョンから脱出することに決める。いい加減、白い壁や床も見飽きたところだ。
 そう思って俺が立ち上がると、真白が俺の体を見て小さく息を呑む。

「――!! マスターっ! その傷は一体!?」

「ああ、治療はクウがしてくれたから問題ない」

「クウ……? もしかしてその子供でしょうか?」

 真白を警戒していたクウは、黙ってずっと俺の背中に張り付いていた。その存在に今更気が付いたようだ。

「その辺の説明は後だ。俺のことも教えるから」

「……畏まりました。では少しここでお待ちになってください。一応ポーションの場所に心当たりがあります」

 そう言い残し、真白は部屋から出て行ってしまった。

 残された俺とクウは静寂の中、動かないままに時は流れていく。それなりに人懐っこい性格のクウだが、それは相手が自分よりも圧倒的に格下だったからなのかもしれない。
 敵対しても問題は無く、障害にはなり得ない。
 だが、真白を見てその力に気が付いた。自分にも匹敵するかもしれない彼女は、クウにとって警戒するべき対象になる。

 俺としては少しでも仲良くして欲しいものだが、それは時間に任せよう。
 少し話しただけでも、彼女が悪い性格ではないことは分かっているからな。

 考え事をしている内に、真白が部屋に戻ってきた。俺の前まで来た彼女は、虚空に手を突っ込み、赤い液体が入った瓶を手渡してくる。
 これが【空間魔法】か。

「上級ポーションです。これを飲めば傷も全て元通りになるでしょう。それと、ダンジョンの崩壊が始まっているようです。このままここに入れば脱出の心配は必要ありません」

「ありがとう。ダンジョンが崩壊してるってことはあいつがダンジョンマスターになっていたってことか。確か崩壊すると中に潜っていた生物なんかは外に放り出されるんだっけ?」

「はい。……流石はマスターです。まさかここのダンジョンマスターを倒していたとは思いませんでした」

 ダンジョンが崩壊すると、中にいた冒険者やテイムされた魔物は外に放り出されることになる。
 不思議と、テイムされていない魔物なんかはダンジョンと共に消えてしまうらしく、出た直後に戦闘、みたいなことにはならないらしい。

 受け取ったポーションの瓶を開け、俺は一気に飲み干した。
 色は真っ赤だが、味はスポーツドリンクのような感じだ。意外と飲みやすくて美味しい。
 ポーションを飲み終わると、体温が上がるのを感じる。同時に、クウの一部に覆われていた傷口が、一部を押しのけるようにして再生していく。まるで、時間が巻き戻しを見ている様だった。

「これは……凄いな」

 体を動かして不調が無いか確かめるが、むしろ戦う前よりも元気になった気がする。
 ポーションはそれなりに高価で、下級の物でも銀貨数枚はする。上級ともなれば、金貨が飛ぶことになるだろう。
 お金が欲しい今、少し勿体なく感じてしまうが、好意を無駄にする訳にはいかないのが悔しいところだ。

「これか」

 気が付けば、ダンジョンの崩壊が始まっていた。制限時間はダンジョンマスターを倒してから一時間程か。
 部屋の外側から、内側に向かって侵食するように空間ごと崩れ落ちていく。既に崩壊した外側を見れば、暗闇が延々と広がっていた。
 大丈夫だと分かっていても、この光景は不安と恐怖を多少なりとも感じてしまうのは生物の本能によるものだろう。

 俺にぎゅっとしがみつくクウを左腕で抱え、右手で寄り添うように俺の横に来た真白の手を握る。
 真白の手はスベスベで、少し低めの体温を感じた。例え人形だと言われても、ステータスを見なければ信じることは無かったかもしれない。

 そして、大切な仲間の存在を感じつつ、俺は崩壊に飲み込まれていった――
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