人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

31話 人形ノ王

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 夢だ。

 この光景を見た時、俺はすぐさまそう認識した。

 どこまでも闇が続く世界に、憎悪と怨嗟の声が響き渡る。
 暗闇でもハッキリとその姿が見えるのは、夢だからだろう。

 血に濡れた腕を持ち上げ、這うようにしてこちらに向かってくる一組の男女、原型を留めていない程溶けた全身から、赤黒い肉を垂らしながら歩いて来る男達に、腹にポッカリと穴を開け、それでも蹌踉めきながら歩いて来る鎧を着た兵士の男。

 肉の腐ったような悪臭と、俺を呪うようなその声は、俺に夢と現実の認識を曖昧にさせる。
 だが、これは夢だ。

 両親、城にいた兵士から、クウに喰い殺された人まで。
 笑ってしまう。こんな夢を見るのは、俺が罪悪感を感じているとでもいうのだろうか?

 いや違う。こいつらは、俺が心を理解することができた人達なのだ。苦しんで絶望して、挙句の果てに殺された。程度に違いはあれど、俺がある意味信じられるようになった人達でもある。

 そう思えば後は簡単だった。
 他人にとっては悪夢に感じようと、俺には甘美な夢へと変わる。

「ああ! 最高だ!」

 この場に武器はないが、こいつらと戯れるのに必要は無い。
 地に這いつくばった両親の頭を踏み潰す。心地の良い音とともに脳漿が飛び散り、興奮が高まっていく。
 殺してやる、死ね、そんな言葉を浴びながら、俺は死者と心を通わせる。
 心を知った今、こいつらは俺の家族で、友人だ。だけど、もっと知りたい。

 肉を裂き、骨を砕く。無限に再生する彼らを、何度も何度も壊し続けた俺の笑い声が、怨嗟の声に混じってこの空間にいつまでも響く。

「あはっ! あはははははは!!」

 楽しい、だけどまだ全然足りない。
 沢山感じて、知りたい。人の感情を、心を。

 その為には、もっと増やしていかないと――。





 目を開けると、顔をくしゃくしゃにして泣く、クウの姿が目に入った。

「……クウ?」

 抜けていない若干の疲労感を感じつつも、声を絞り出した俺に、眼前のクウは素早く反応する。

「――ごしゅじんさまっ!」

 体が重い。
 そう思って視線を下にずらすと、クウのスライムの体が、俺の全身を覆っていた。
 のしかかる形になっているクウは、涙を拭うことも忘れ、勢いよく俺に抱き着く。
 上半身で俺の首へと手を回して抱き着き、下半身は俺の体を包んでいるクウからは、子供特有の暖かい太陽のようないい匂いがした。

「ごしゅじんさま、ごしゅじんさまぁ……」

 何度も俺を呼び、頬擦りをしてくるクウを宥めながら、意識を失う前のことを思い出す。
 確かあの時、俺は腹を投げ付けられた呪壊魂によって貫かれた筈だ。
 動けないまま、恐らく安壮昭二の持っていたユニークスキル、【狂乱演舞】で呼び出されたアンデッド達によって、殺される寸前だった。

 体は動けないので、目だけを動かして辺りを見ると、魔石が大量に散らばり、壁や床には破壊跡や溶解液によって溶かされたのか、煙が上がっている所が多く見受けられた。
 記憶にもクウが来た所までは覚えているし、きっとクウが助けてくれたのだろう。

「……クウ、ありがとな」

「――う゛んっ!」

 労わるように頭を撫でると、ようやくいつもの笑顔に戻る。まあまだ泣き止んではいなかったが。
 それから暫く、クウが泣き止むまで俺は頭を撫で続けた――。



 クウが落ち着き、このままずっとこの場所に留まる訳にもいかないので、俺の上から退いてもらう。
 少し渋るクウだったが、一度強く俺に抱きついた後、ようやく離れてくれた。
 解放された俺は、蹌踉めきながらもゆっくりと立ち上がる。

「ん?」

 立ち上がってから気付く。確か俺は足を銃で打たれていたし、腹部にも穴が空いている筈だ。
 目線を下に下げ、その場所をよく見てみると、半透明のゼリーに覆われ、透けて見える中には、血液が通っているのが見えた。

「クウ、これは?」

 間違いなく、これはクウの仕業だろう。
 違和感は感じるが痛みは無く、まるで失った肉体を補填しているかのようだ。

「がんばってなおしたの!」

 ということらしい。説明が足らないのはいつものことだ。見ればロリコン一直線の笑顔を見せられて、問い詰めることなど誰ができようか。

 気にしないことにした俺は、クウに荷物を持ってくるように頼み、その間に落ちている魔石を拾い集める。
 中でも一際大きな魔石は、灰に半分埋まっていた。深い緑色をしたAランクの魔物であるマッドレブナントの魔石は、宝石の様に美しかった。

「これは……?」

 ふと灰の中に、キラリと光る物を見つける。そっと取り出し、付いていた灰を払うと、銀に輝く指輪のようだった。安壮昭二の持ち物だろう。

 【鑑定】すると、ミスリルの結婚指輪と出た。これは……売るか。死者に気遣いなんて必要ない。他人のどんな思い出よりも、金の方がよっぽど大切だ。

「もってきたよー!」

 すっかり元気になったクウが、預けていた俺の荷物と、血塗れになったダーフィトさんのリュックを持ってくる。
 お礼を言って受け取り、集めた魔石を俺のバッグに入れる。
 ダーフィトさんの荷物は、見た目こそ針に貫かれてボロボロだったが、中身は意外と無事な物も多かった。

 中から日記だけを取り出し、後はここに置いていくことにする。傷を癒すアイテム――ポーションがあればよかったのだが、瓶に入っていたようで割れて中身が漏れだしていた。これでは使えない。

 日記以外をクウに預け、装備が揃っているか確認すると、俺は先に進むことに決める。
 実はここで行き止まりだと思っていたのだが、クウによって溶かされた壁から、隠し部屋の入口と思われる扉が現れたのだ。

 俺は軽く体を動かして、調子を確認する。流石にまたAランクと戦うのは無理だが、多少のスケルトンやレイスクラスの相手なら問題は無さそうだ。
 もし相手が強そうならクウに任せよう。うん、もうプライドとか気にしてられない。

 扉を見れば、これまた固く閉ざされていた。何重にも魔法陣が刻まれていることから、さっきの扉や宝物庫の扉よりも厳重に管理されているかもしれない。

「まあそれもこの剣があれば関係無いんだけどね」

 魔剣デュランダルを一閃。扉を蹴れば、あっさりと向こう側に倒れる。
 この剣は本当に、初期で手に入れていい武器ではない気がする。

 扉の中は、殺風景で左程広くもない部屋だった。
 部屋の中央には祭壇のような物が置かれており、その上にはクウが戦った虐殺人形スロータードールよりも少し小さめの顔の無い人形だけが置かれている。

 これがもしかすると、安壮昭二がアンデッドになってまで守っていた物で、白の虐殺に関係しているのだろうか?
 俺は人形に近寄ると、【鑑定】を使用した。

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[王の憑代人形]
等級:神域級
効果:魂贄ノ儀式
人間の魂10796個が込められている。
魔石を一個捧げることで儀式は完了する。
全ての人形の王になる器として作られた
最高傑作。主には絶対の忠誠を。
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 …………どうしようこれ?
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