人間不信の異世界転移者

遊暮

文字の大きさ
上 下
38 / 95
二代目転移者と白亜の遺産

29話 VS人形狂い

しおりを挟む
----------------------------------------------------------
名前:安壮昭二
種族:マッドレブナント
Lv:141
称号:転移者 創造魔法士 人形狂い
   Aランク魔物
<パッシブスキル>
水耐性(4) 風耐性(3) 土耐性(3) 闇耐性(6)
状態異常耐性(6) 物理耐性(4) 眷属強化(3)
気配察知(5) 痛覚無効 暗視 詠唱破棄
<アクティブスキル>
剣術(4) 斧術(4) 槍術(4) 投擲術(4)
砲術(6) 刀術(4) 錬金術(7) 鍛治(4)
薬学(5) 調合(4) 鑑定(9) 再生(6)
<ユニークスキル>
創造魔法(8) 狂乱演舞(5)
----------------------------------------------------------

----------------------------------------------------------
虐殺人形スロータードール
等級:英雄級
効果:怪力 物理耐性 魔法耐性
安壮昭二が制作。殲滅に特化した自動人形オートマタ
その身に宿す魔力が尽きるまで、永遠に動き
続ける。
----------------------------------------------------------

 【鑑定】した結果を見て、俺はすぐに決断する。

「クウ! 逃げるぞ!」

 明らかに初めてのダンジョンで戦うような相手ではない。
 俺はいつの間にか隣に居たクウの腕を掴むと、入ってきた入口に向けて走り出す。

 だが、突如目の前に現れた巨大なタワーシールドによって行く手を阻まれる。
 縁を金属で補強された分厚い木製の盾は、並の攻撃では通さないことが見て取れる。

「――はぁっ!」

 しかし、それも【絶対切断】を持つ魔剣デュランダルを相手にすればハリボテ同然だ。
 手の塞がっていた俺は、即座に【武器支配】でデュランダルを抜刀し、盾を斬って押し退けて前に進む。

「なっ!」

 どうやらそれも織り込み済みだったようだ。
 入口を囲むようにして並ぶ複数のタワーシールド。アリ一匹逃がすつもりも無いらしい。

 これは逃げるのは諦めた方が良さそうだ。

 後ろを振り返った俺の目に映る、学生服の男と白い顔無しの人形達。

 男の外見は青白い肌と目の下に浮かんだ濃い隈、ガリガリの体格をしている。その目に生気は無く、あるのは虚ろな目の中に感じる狂気だけだ。
 人形達は【鑑定】した通り、生物ではなくアイテム。つまりはただの物だ。
 だが等級は英雄級であり、効果を見る限り苦戦は免れない。数えてみればその数は十体。
 俺がもしも一人だったならば、勝率は殆ど無かっただろう。

 ――だが、俺には頼れる反則級の従魔なかまがいる。

「クウ、お前はあの白い人形達を頼む。俺は男の方と戦う」

「ごしゅじんさまぁ……」

 珍しく、クウが不安な表情で俺を見てくる。
 クウも相手の強さを感じて俺を心配してくれているのかもしれない。
 俺は安心するように笑いかけながら、頭を撫でて言う。

「俺のことは気にしなくていい。まあ、できれば早めにそっちを片付けて手伝いに来てくれると嬉しいけどな」

「……う、うん! わかった!」

 クウの顔に笑顔が戻った所で、俺達は敵へと向き直る。
 話している間も、一応攻撃が来ないか警戒はしていたが、男の様子がおかしいようだ。

「ア、アァ……、ニ、エヲ、モッ――」

「『ロックウォール』、『ロックウォール』!!」

 その隙を逃す筈も無い。
 特大の壁を二つ生成し、男と人形を分断する。

「戦闘開始だ!」

「おー!!」

 俺の心は何時になく、強敵との戦いに高揚していた。


 △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △


 大好きな主人の命令を受けたクウは、虐殺人形スロータードール達に向かって【突進】していく。

 彼女の戦い方は、大量の分体による物量戦と、捕らえたあらゆるものを溶かすユニークスキル、【万物融解】によって敵がどれだけ硬くとも確実に溶かして勝利するというものだ。

 しかし、今まで相対してきた敵はどれもSSSランクの魔物である彼女にとって、取るに足らない敵だった。
 つまり、本当の意味での戦闘というのは初めてのことだったのだ。

 そして今、彼女はその力を存分に解放する。

「いくよー!」

 【突進】による攻撃を散開して躱す人形達。
 その瞬間、クウの腕が何倍にも膨張、十体全ての人形に向かって枝分かれすると、先端を鋭く槍のように変形させて猛烈な勢いで伸びた。

 だがそれを受けるのは英雄級アイテムの虐殺人形スロータードールだ。
 一体一体がCランクの冒険者をも超える戦闘力を宿している人形達は、それぞれ腕が剣のように変形し、今にも貫かんと迫ってきていたクウの腕を斬り落とす。

「えいやぁ~」

 そこで、気の抜けるような掛け声と共に、斬り落とされた全ての腕が人形を包み込むように広がった。
 一部の人形は、設定されたプログラムに従って躱すが、避けられないと判断した人形の何体かは咄嗟に変形した腕を振るう。

 ――だが、先程容易に斬り落とせた筈のそれは、全く刃を通すことは無かった。

 それも当然だ。本来クウの体は高い【物理耐性】によって鉄をも凌ぐ硬度と、スライムの特性である弾力性によって殆どの攻撃を無効化してしまう。
 作戦に嵌ってしまった人形は、あっという間に半透明の分体に包み込まれ、溶かされることでクウの魔力源として吸収される。

 意思があるはずの無い残りの人形達は、どこか呆然とした様子でその光景を見ていた。
 それは、これから自分達の身に起こる、逃れられようのない運命を幻視していたのかもしれない。

「……むー」

 しかし一方で、クウも焦っていた。
 残りの人形の数は残り六体。この時点で自分が負けることは無いと分かっているが、壁の向こうで男の方と戦っている主人のことが心配だった。
 あの男は強い。それを魔物の本能で察していた彼女は、向こうから絶え間なく聞こえる声や金属のぶつかり合う音に不安を積もらせる。

 いつも優しくしてくれる大好きなご主人様。
 生まれたばかりの自分の命を救ってもらい、色々なことを教えてくれた人。
 頭を撫でられると自然と笑顔になる。抱きしめられると心が暖かくなる。二人で共に眠ることは、食べるのと同じくらい好きだ。

 彼女の全てと言っても過言ではなく、命に変えてもずっと一緒に居ると決めた存在。
 精神の幼い彼女であっても、その思いは強固だった。

 一刻も早く向こうに向かおうと、その目に闘士を燃やした彼女は、残りの人形に攻撃を仕掛ける。

「たいれーつ!」

 腕と足から、分かれるようにして瞬く間に分体が大量に生成される。

 危機を察知した人形達は、剣になっていた腕を変形、機械音が響くこと数秒で機関銃のような形状に変わっていた。

 だが、その間にもクウの分体は凄まじい速度で増えていく。大きさは進化する前のクウと同じくらいだったが、それが分断されたエリアの半分を埋め尽くした。

 一斉に人形達は本体である人型のスライムに向かって銃口を向ける。
 それと同時に、クウの掛け声が広間へと響き渡った。

「――てえー!」

 銃口が連続して火を噴く。無数の銃弾がクウの体を貫く寸前、全ての分体から発射された紫色の液体によって、塗りつぶされるように銃弾が掻き消えた。

 いや、全ての銃弾が一瞬にして溶かされたのだ。
 そのまま【万物融解】によって作られた強酸が酸弾となって人形達に降り注ぐ。

 無数の分体によって放たれるそれは、避ける隙間はなく、銃弾も、人形も、壁でさえも平等にその形を失っていく。

 これが大陸でさえ滅ぼす力を持つと言われるSSSランク魔物の力。
 一分後、クウの目の前にあるのはドロドロに混ざりあった濁った液体だけだった。



「ごしゅじんさまー!」

 そんな光景も、彼女にとってはどうでもいいことだ。
 圧倒して敵を殲滅したクウは、急いで分体を回収して主人の元へと向かう。

 ご主人様は強いけど大丈夫かな? もっと役に立てれば、また頭を撫でて褒めてくれるかな?

 心配と期待が入り交じり、自然と足が急ぐ。

 邪魔な岩壁を腕を叩き付けて破壊し、主人が戦っているであろう場所に飛び込む。

「ごしゅじんさま! くーがき……た」

 そこで彼女が見たのは、剣で貫かれ、無数のアンデッドに囲まれた大好きな主人の姿だった――
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...