人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

24話 頼みと冒険者活動

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「さて、ここからが本題なんだがな」

 ブルクサック冒険者ギルドのギルドマスター、アルノルトは、対面に座る俺を見つめながら再び話し始める。

「本題? まだ何かあるのか?」

 そろそろ俺は依頼を受けたいのだ。
 金銭に余裕の無い今、時間は大切にしたい。
 早く話を進めるように目で促すと、アルノルトは話を切り出した。

「実はとある依頼を受けて貰いたい。本来はエッボのパーティが受ける筈だったんだが、……ボウズが殺してしまったからな。報酬は勿論出るぞ」

 途中、僅かに殺気がアルノルトから漏れたが、俺が身構える前に自ら押さえつけたようだ。
 ちなみにクウは、出されたクッキーを食べ終わり、俺にもたれ掛かってウトウトしている。今の殺気にも全く動じていない。

 それにしても依頼か。
 これはもしかすると、エッボとその取り巻きを殺したペナルティという理由も含んでいそうだ。いくら規則があるとはいえ、あそこまでやられてはギルド側の面子みたいなものもあるだろうし、ここは断るべきでは無いだろう。

 エッボはDランクだったから、依頼の難易度もそのくらいか。あの程度の実力で受けられる依頼なら問題は無い。報酬も俺が受けられる依頼より割がいいのは間違いないだろう。

「……内容は?」

「護衛依頼だ。だが、対象は商人ではなく研究者のだがな。護衛期間は一日。場所はここから馬車で数時間の場所にあるダンジョン『白骨宮殿』。調査中に襲ってくる魔物から守って欲しいそうだ」

「ダンジョンか……」

 城でダンジョンについても基本的なことは教わっている。
 そのうち行こうとは思っていたが、こうにも早く機会が来るとは思わなかったな。

「分かった、引き受けよう」

「そうか、助かる。ダンジョンへの出発は三日後の早朝だ。向こうにも話は通しておくから、当日になったらギルドに来てくれ」

 こうして俺とクウは、初のダンジョンへ挑むことになったのだった。







 ダンジョンの護衛依頼が始まる三日後に向け、俺は討伐依頼がてらレベル上げをすることにした。

 冒険者ギルドの依頼は、基本的に五種類に分けられる。
 商人や貴族などの警護をする護衛依頼、指定された魔物を討伐する討伐依頼、街中での手伝いが主な雑用依頼、薬草採取や素材納品を目的とした納品依頼、後は常に必要とされている魔石の納品が対象の常時依頼だ。

 俺は、ブルクサックから少し離れた草原で、ホップディアーの肉の納品依頼と、ゴブリン十体の討伐依頼を受けていた。

 どちらもEランクの依頼だ。
 受けられる依頼は、ランクの一つ上までだが、最初なので簡単なものにした。

 ホップディアーは後ろ足が異常に発達した鹿のような魔物だ。
 宿で食べたが、その肉は柔らかく弾力があり、人気が高い。その分需要も高いので、狩るのも楽なこの魔物はこの辺りのEランク冒険者にとっていい獲物らしい。

「――キュイィィ……」

 宙に浮いた水精の短剣が、ホップディアーの心臓を一突きで貫く。
 思ったよりも可愛い鳴き声を上げ、ホップディアーは地に伏した。

「これで、納品依頼は終了っと」

 最近は飲み水を出すだけの水筒と化していた水精の短剣だが、これでも魔剣だけあって斬れ味は鋭い。
 メインウェポンとして両手に持つのはデュランダルと呪壊魂だが、【武器支配】の対象として操るには大きさ的にも邪魔になりにくいこの短剣が丁度いいのだ。

 俺は数メートル離れた所に倒れたホップディアーに近づくと、短剣を回収する。
 死んだホップディアーの足に呪壊魂を刺し、【武器支配】で持ち上げて逆さにする。
 水精の短剣で喉元を斬って血抜きをすると、そのまま不要な内臓は取り除いてクウにあげる。
 喜んで腕から内臓を吸収するクウを横目に、短剣に魔力を通して生み出した水で血を洗い落とせば完了だ。

 魔獣の森での経験は確実に生きている。
 城からの脱出後も何度か野宿したので、解体はかなり上達したと自負している。
 呪われた剣で魔物を固定してもいいのかとか、クウに内臓をあげると毎回グロい光景が繰り広げられることについては気にしない。

「――あっ!」

 その時、この世界に来てから五感の鋭くなった俺の耳が、後ろの方からの小さな声を拾う。
 ここは草原。見通しもいいので宙に浮いたホップディアーの姿は遠くからでも見えてしまうだろう。

「チッ!」

 現在の【気配察知】の有効範囲は六十メートル程。その範囲外だったので、誰かが近づいていることに気が付かなかったようだ。
 俺は小さく舌打ちすると、呪壊魂を腰に差し、精一杯の作り笑顔で声が聞こえた方に向かって歩いていく。
 クウにはホップディアーが盗まれないように番を頼んだ。

 振り向いた先に居たのは男一人に女が二人の武装した人族だった。
 恐らく冒険者だろう。女二人とは、ハーレムパーティで羨ましい限りだ。
 彼らは俺が近づくと警戒を見せるが、こちらが武器を仕舞って笑顔なのに気が付くと、僅かに警戒を緩めた。
 ブルクサックの冒険者のようだが、どうやら俺の顔は知らないっぽいな。知っていればもう少し警戒するだろう。

 丁度いい。この後はゴブリンの討伐だ。彼らにも手伝ってもらおう。

「先輩方こんにちは。こんな所にどうしたんですか?」

 リーダーらしき男が一人、前に出る。
 俺が首から下げるプレートを見て、Eランクだと気が付いたらしい。

「やあ、邪魔した様で悪かったね。少し気になるものが見えたから確かめようと見に来たんだ」

 爽やかな笑顔で声を返してきた若い男が首から下げるプレートは銀色に輝いている。
 確か冒険者ランクEFが銅、DCが銀、BAが金、それ以上がミスリルのプレートと説明を受けたのを思い出す。
 他の女二人も同じ銀のプレートを下げていることから、少なくとも一人一人がエッボと同等以上の実力があると見て間違いないだろう。

「そうですか」

「あれは見た所、相当珍しい魔道具だね。もしくはそう言った効果を持つ魔剣って線もあるかな」

 物知り顔で予想する男に、ユニークスキルだとバラしたくなったが、我慢する。
 ユニークスキルを持っている者は稀なのだ。わざわざ自分の手の内を明かす必要はない。

「すごーい! あんなのあったんだー」

「確かに便利そうね」

 今まで黙っていた女二人も警戒を解いて騒ぎ出す。
 装備を見ると男が剣士、女が魔法使いと弓士だろうか。皆外見は二十歳くらいだろうから、三十を超えていたであろうエッボと比べると、冒険者の中でも優秀な部類だろう。

 さて、そろそろいいかな。

「ねえ君、もし良ければあの魔道具を――」

 刹那、俺は男の不意を突いて腰に差した呪壊魂を魔法使いの女に向かって左手で投げる。

「――えっ……」

 抵抗なく脳天に突き刺さった脇差を見て、唖然としたまま女は倒れた。

「いやああぁあああ!!」

「レオナっ! お前えぇええええ!!!!」

 流石銀プレートと言ったところか。弓士の女は恐慌状態に陥ったが、剣士の男の方は即座に剣を抜いて襲いかかってくる。

 俺は右手で抜いたデュランダルを、目の前で今にも俺に剣を振り下ろそうとしている男に向けて振るう。

「なっ! ぐうぅうう!」

「カイ! このっ、……って、え?」

 カイとかいう男の右腕を、剣と共に斬る。我に返った弓士の女は反撃しようと手に持っていた弓を構えるが、既に【武器支配】によって操られた呪壊魂によって玄が切れており、弓は使えない。

「よっ、ほっ、とう!」

 そのまま男の残りの四肢も斬り落とし、地面に男の胴体だけが投げ出された。

「あっ、ひっ!」

「うわ、きったね……」

 声がしたので弓士の女を見ると、恐怖のあまり失禁したのか、地面に黒いシミが広がる。

「な、ナディア……逃げ――」

 何故か三人の名前を知ることになってしまったが、気にせず俺はデュランダルを男の口に突っ込み喋れないように口を塞ぐ。

「おごっ! ガアアアァ……」

 口から血が溢れ出した男の顔は既に、涙と鼻水と涎と血で酷いことになっている。この様子では例え【詠唱破棄】を持っていたとしても魔法は使えないだろう。あのスキルは習得難度が高くて持っている人も少ないらしいが。

 弓士の女はいつの間にか白目を剥いて気絶している。これならゴブリン狩りも手伝うことができるだろう。
 もう少し苦戦もするかと思ったが、予想以上に相手が油断していたからか、戦闘らしいものは無かったな。
 冒険者は同業者に対してでも警戒を怠るなと、登録時に言われたが、俺が若く、一人だったからだろうか。

「ふんふふんふふ~」

 自分の機嫌が良くなるのを感じながら、三人の荷物を漁って持っていたお金を回収する。
 ゲームのドロップ品みたいだ。

 ついでに使えそうな縄もあったので弓士の女を縛り、身動きが取れないようにする。
 何をするのか、と目で胴体だけになった男が聞いてくるので、素直に答えてあげた。

「ゴブリンってさ、他種族の雌を攫って繁殖するんだろ? 釣るためのいい餌になるとは思わないか?」

 男は絶望しきった表情で助けを求めるように俺を見る。まあ当然助ける訳が無いんだが。
 絶望した男の言葉が聞けないのは失敗だったと思いながら、俺は残りの荷物も漁った。

 その後、クウを呼んで死体の処理をして、ゴブリン狩りを行った。
 巣に引きずられていく仲間を見届けた男と、目を覚まして動けないままこの先の未来を想像した女の顔はかなり良かった。

 そうして俺の作戦は見事に嵌り、巣まで辿り着いた俺とクウはゴブリンを殲滅した。
 苦戦もしたが、多対一はあまり慣れていなかったので、いい経験になった。




 こうして、ブルクサックのCランクパーティ、《新生の息吹》は一人の少年の手によって全滅したのだった。
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