人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

22話 買い物

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 ランクアップ試験翌日。
 暫くは幸福の止まり木亭で宿を取ることにした俺は、昨日のうちに追加料金を一週間分払っておいた。

 今日の朝食は、コーヒーを飲みながら目玉焼きと食パンを食べる洋風スタイルだった。
 昨日は黒パンにシチューだったのに、この差異は一体なんだろうか。

 朝食を食べ終えた俺達は街へと出掛ける。
 昨日のことで何か変化でもあるかと思ったが、街は来た時と何ら変わりなく、今も活気づいている。

 クウの分体トラップに何も引っ掛かってなかったことも考えると、衛兵に捕まるようなことも無さそうだ。
 昨日は興奮し過ぎたせいで、宿に帰ってから「あれ、もしかしてやり過ぎた……?」と心配になって暫く頭を抱えることになったので少し安心した。

 ちなみにシオン王国からの追っ手に見つからないように目立たない方がいいと分かってはいるが、せっかくの異世界だ。
 好き勝手に楽しませてもらおう。それで俺が死ぬことになっても別に構わない。特に自分の命に執着することも無いからな。

 今日は防具や冒険者に必要な道具を買うことにする。
 後は昨日途中だった冒険者登録の続きだ。
 冒険者の証である首から下げるプレートをまだ貰っていない。

「ごしゅじんさま、くーあれたべたーい!

 街を歩いていると、串焼きの出店をクウが目ざとく見つけ、俺の手をそっちに引っ張る。

「いや、さっき朝食べたばっかじゃねーか、流石にそんなすぐには――」

「だめ……なの?」

「さあ! 何本食べたいんだ?」

 潤んだ目で見つめられた俺に勝てる術はない。言われるがままに五本を購入し、クウに全て渡す。

「はい! くーからのぷれぜんと!」

 受け取ったクウはキラキラした目で一本を渡してきた。
 だったら最初から四本買えよ、とは口が裂けても言えない。この笑顔を曇らせる訳にはいかないのだ。

 朝から二度目の食事を摂った俺は、俺達の様子を微笑ましそうに見ていた串焼き屋のおっちゃんに防具屋と道具屋の場所を尋ねる。

「ああ、防具屋でオススメはこの道をまっすぐ行って突き当たりを左だ。お前さんは冒険者だろう? 必要なアイテムはギルドの横の店で揃うと思うぞ」

「分かった、ありがとう」

「おう! また買ってくれよ!」

 お礼を言って先に防具を揃えることにする。
 今はお金があるが、この調子だとすぐに無くなりそうだ。早めに揃えるのに越したことは無い。

「クウ、行くぞ」

「うん! えへへー」

 はぐれないように手を繋いだ俺達が言われた通りに道を進むと、鎧が描かれた看板がぶら下がる店があった。

 少しワクワクした気持ちで店へと入った俺達は、店内を見渡す。
 店内は少し薄暗く、独特の匂いがあった。
 思ったよりも狭いが、そこかしこに置いてある防具からは、素人の俺から見ても質の良さそうな印象を受ける。

 入口で少しの間立ち尽くしていると、中から一人の女性が出てきた。

「いらっしゃい、どんなものをお探しかな?」

 その女性を見て俺は驚く。
 薄緑の髪にスラリとした肢体、美人なのは勿論なんだが、その女性の耳は上向きに尖っていた。

「……エルフ?」

「エルフ付け耳ね~、あるよ、幾つ買う?」

「いや、そうじゃねえよ!」

 ハッ! 思わず突っ込んでしまった。
 というか、エルフ付け耳ってなんだよ。

「あっはっはっは、冗談だよ冗談。お客さんエルフを見るのは初めてかい?」

「ああ、シオン王国もこの街でも見なかったからな」

「シオン王国は人族至上主義だからね~、人族以外の種族は奴隷が殆どでしょ。元々エルフは森に篭ってばっかりだからこの街にも少ないしね」

 どれだけシオン王国は俺の好感度を下げる気なのだろうか。まあ、別に奴隷を否定する訳では無いんだけどな。
 それとこの人は俺の苦手なタイプだ。さっさと防具を選んでしまおう。

「お姉さんは一人でこの店を?」

「ナンパかな? ダメだよ~、旦那がいるんだから。ちなみにこの店は私一人! 隣で旦那が武器屋やってんの」

 そろそろこのノリもウザくなってきた。
 他の人がいるならその人に頼もうかと思ったのだが、仕方ないな。
 武器に関しては、今の俺に必要は無い。もう少し【武器支配】のスキルレベルが上がってから考えれば十分だ。

「黒めのコートが欲しい。できればいいやつで」

「ハイハイ、コートね。【魔法耐性】の付いてるやつと【打撃耐性】のやつとがあるけどどっちにする?」

 やっぱり異世界に来たら黒のコートしかないだろう。完全に中二思考だと自分でも思うが。

「【打撃耐性】の方で」

「はい、じゃあこれね。サイズは確かめてみて」

 受け取った黒いコートを【鑑定】する。

----------------------------------------------------------
[ナイトコート]
等級:上級
効果:打撃耐性 軽量化
魔法糸で縫われた質のいいコート。
装備者が受ける衝撃を和らげる。
----------------------------------------------------------

 持ってみると驚く程軽い。等級は上級で武器と比べると低く見えてしまうが、十分に高いと言えるだろう。
 後は靴を頼んで持ってきてもらう。いつまでもスニーカーを履く訳にはいかない。

----------------------------------------------------------
[黒狼のブーツ]
等級:上級
効果:軽量化 忍び足
ブラックウルフの皮を使用したブーツ。
装備者の足音を消す。
----------------------------------------------------------

 選んだのはこれだ。黒い高級感のあるブーツで、いくら乱暴に歩いても足音が一切しなくなるという効果がある。

「ごしゅじんさまかっこいー!」

 試着した俺にクウがいつにも増してキラキラした目を向けてくる。
 上半身から下半身を覆う漆黒のコートとブーツ。これに霊刀呪壊魂と魔剣デュランダルを装備すれば完成。

 ……日本だったらどう見ても痛いやつである。というか黒過ぎて不審者に見えなくもない。
 しかし、ここは仮にもファンタジー世界。街を見てももっと奇抜な格好をした者も多い。

 ということで、購入を決めた俺だったが、ローブの下に着るものだったり、武器を腰に差すための剣帯をその後購入した結果――

「金貨十六枚と銀貨五枚になります」

「なっ!」

 その後、何とか金貨十五枚まで値引きしてもらい、俺はまだ両替のしていなかった王国金貨での支払いも了承させ、なんとか購入することができたのだった。
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