人間不信の異世界転移者

遊暮

文字の大きさ
上 下
27 / 95
二代目転移者と白亜の遺産

19話 ブルクサック

しおりを挟む
「――おっ! 見ない顔だな。ようこそ『楽園』に近い街、ブルクサックへ!」

 街の紹介が『楽園』に近い街ってなんか微妙だな、と思いながらも、街に到着した俺とクウの二人は門番と言葉を交わす。

 俺の格好や黒髪黒目に対して何か言われるかと思ったが、門番の人は全く気にしていないようだ。
 差別のない聖国領内の街だからなのだろうか。

「……通行料は?」

「通行料は一人銀貨一枚、二人いるから銀貨二枚だな。……身分証は持っていないのか? だったらギルドで発行してくるといい。その代わり通行料は銀貨四枚だな」

 国によって鉱物の含有量やデザインは多少違うが、基本的に使われる硬貨は上から順に白金貨、金貨、銀貨、大銅貨、銅貨の五種類だ。

 身分証が無いと、通行料が値上がりするのか。
 聖国首都で発行しようと思っていたが、早めにこの街で発行しておいた方がいいかもしれない。

「王国金貨ならあるんだが……」

「なるほど、シオン王国から来たのか。じゃあ両替商の場所を教えるから後でしっかり持ってこいよ!」

 価値が違うため、この国でシオン王国通貨は使いにくい。両替商がこの街にあるらしいので場所を教えてもらう。

 それにしても気味が悪いくらい親切だ。
 普通、このままお金を誤魔化さないかと疑うと思うんだが。
 なんか首都に入る前からこの国は俺に合わない気がしてきたぞ。そのうち我慢ができなくなりそうだ。

 まあ見た目が少年と幼女ということもあるだろう。日本人は若く見られると言うし。
 門番のおっちゃんに笑顔で手を振るクウの反対の手を引きながら、街の入口の門をくぐる。

 こうして俺達は無事、ブルクサックという街に足を踏み入れることができたのだった。





 早速両替商に向かい、王国金貨十枚を聖国金貨六枚と銀貨三十五枚に替えてもらった。
 貨幣はそれぞれ十枚で一つ上の貨幣と同じ価値のようだ。
 目に入った物価を見る限り、銀貨一枚で千円くらいだろうか? わざわざ日本円に直して考えるのも面倒なので早く慣れたいところだ。

「ひとがいっぱーい!」

 今は昼前だが、市場はかなりの人で賑わっている。クウも初めて見る人の多さにテンションが上がりっぱなしだ。
 斯く言う俺もかなり感動している。流石『楽園』に近い街と言ったところか。
 人族の割合が多いのは確かだが、見たこともない種族も同じように行き交っている。

 猫の耳と尻尾が生えた猫人族の女性、小柄な体に筋骨隆々の体躯を持ったドワーフ、あの角と蝙蝠のような羽を持つのは魔族だろうか? 聞いた悪魔族の特徴の一致している。

「ごはんがいっぱーい!」

 クウさんや、それは市場に並んでる食材に言ってるんだよな? そうだよな?
 育て方を間違えたかもしれないと心配になったが、気にしないことにしよう。

 ……もしかしたらこの中の誰かが敵になるかもしれないんだから。

「よし! じゃあ門番の人に通行料払ったら昼飯にするぞ!」

「やったー! いっぱいたべるー!」

 通行料を無事払い終えた後、俺達は再び市場を巡る。
 かなり賑わっているので、クウが迷子にならないように手を繋ぐと、並べられている商品に目を通していく。

 一代目転移者が色んな文化を広めたのは本当だったのか、日本でも見たことのある食べ物が結構並んでいる。家電製品ぽい物も幾つかあるようだが、あれは魔石を使った魔道具だろう。

 現在、クウは左手にポップコーンのカップを大事そうに抱えながら反対の手で俺と手を繋ぎ、俺は時々右手に持ったコーラを手ずからストローで飲ませている。

 ……一代目やりすぎじゃね?
 恐ろしいのはコーラのレシピまで簡単に分かってしまう【叡智の書】か。
 四ノ宮優樹がどんな人物だったのか分からないが、良くも悪くもこの世界に大きな影響を与えたのは間違いないようだ。

 実は魔物のゴブリンやオークなんかの名前も命名したのは四ノ宮優樹だという。
 元々は違う種族名がステータスにも書いてあったらしいのだが、その名前を広めたことで書き変わったらしい。
 称号に二つ名が付くように、多くの人に認知されると自動的に書き変わるようだ。
 どうして元の世界にあった神話なんかの生物の名前が付いているのか、と疑問に思っていた所で聞かされたその真実に、その時は呆れ果てたものだ。

 もう一度言おう、やりすぎです。

 まさか異世界でコーラを飲めるとは思っていなかったので微妙な気持ちだ。
 嬉しさが半分、あとの半分はファンタジー世界の雰囲気をぶち壊されたような気分になるということだな。

「このくろいしゅわしゅわおいしーね!」

 まあクウの笑顔が見れたのでよしとしよう。

 その後は何軒か回って満足したところで宿を予約することにする。
 ここに来るまでは野宿で睡眠の必要が無いクウに夜は守ってもらっていた。
 だが、必要が無いだけで寝られない訳では無いのだ。少しは休ませてあげたい。

 ポップコーンを買った店でオススメの宿は聞いておいた。
 そこは料理が素晴らしいらしいので今から夕食が楽しみだ。

 しばらく歩き、市場から少し離れたところにその宿は建っていた。
 宿の名前は『幸福の止まり木亭』。木造二階建ての小綺麗な建物で一回に食事処があるようだ。
 外にまで賑わいの声が聞こえてくる。

 俺達が中に入ると、俺より年下っぽい茶髪の女の子が笑顔で駆けてきた。

「いらっしゃいませ! 幸福の止まり木亭へようこそ! 二名様ですか?」

「ああ、宿の予約をしたい。部屋は空いてるか?」

「大丈夫ですよ! ダブルが一部屋で一泊銀貨二枚です。食事は一回で銅貨四枚、湯をご希望でしたら銅貨一枚を頂きます」

 相場がイマイチ分からないが、それなりに安いんじゃないかな?

「一泊で今日の夜と明日の朝の食事を頼む。」

 そう言って俺は銀貨三枚を渡して銅貨二枚と部屋の鍵を受け取る。
 休むのは一日だ。暫くはここに居てもいいんだが、早く収入を得ないと不味い。

 思ったよりも消費が激しいのだ。主に食費が。
 クウはスライムだから当然かもしれないが、本当によく食べる。さっきもポップコーンを三回お代わりしていたのだ。
 この調子だと思ったよりも早くお金が無くなるかもしれない。

「それと聖国首都までの馬車はどこで乗れるか教えてくれないか?」

 お釣りを受け取りながら質問する。

「はいはい、乗合の馬車なら出てますよ。後で教えますね! ……ところでちゃんと通行証は持ってます?」

「え゛」

 これで大丈夫のようだ、と安心したのも束の間、予想外のことを聞かれる。

 通行証って……なに?
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...