人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

19話 ブルクサック

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「――おっ! 見ない顔だな。ようこそ『楽園』に近い街、ブルクサックへ!」

 街の紹介が『楽園』に近い街ってなんか微妙だな、と思いながらも、街に到着した俺とクウの二人は門番と言葉を交わす。

 俺の格好や黒髪黒目に対して何か言われるかと思ったが、門番の人は全く気にしていないようだ。
 差別のない聖国領内の街だからなのだろうか。

「……通行料は?」

「通行料は一人銀貨一枚、二人いるから銀貨二枚だな。……身分証は持っていないのか? だったらギルドで発行してくるといい。その代わり通行料は銀貨四枚だな」

 国によって鉱物の含有量やデザインは多少違うが、基本的に使われる硬貨は上から順に白金貨、金貨、銀貨、大銅貨、銅貨の五種類だ。

 身分証が無いと、通行料が値上がりするのか。
 聖国首都で発行しようと思っていたが、早めにこの街で発行しておいた方がいいかもしれない。

「王国金貨ならあるんだが……」

「なるほど、シオン王国から来たのか。じゃあ両替商の場所を教えるから後でしっかり持ってこいよ!」

 価値が違うため、この国でシオン王国通貨は使いにくい。両替商がこの街にあるらしいので場所を教えてもらう。

 それにしても気味が悪いくらい親切だ。
 普通、このままお金を誤魔化さないかと疑うと思うんだが。
 なんか首都に入る前からこの国は俺に合わない気がしてきたぞ。そのうち我慢ができなくなりそうだ。

 まあ見た目が少年と幼女ということもあるだろう。日本人は若く見られると言うし。
 門番のおっちゃんに笑顔で手を振るクウの反対の手を引きながら、街の入口の門をくぐる。

 こうして俺達は無事、ブルクサックという街に足を踏み入れることができたのだった。





 早速両替商に向かい、王国金貨十枚を聖国金貨六枚と銀貨三十五枚に替えてもらった。
 貨幣はそれぞれ十枚で一つ上の貨幣と同じ価値のようだ。
 目に入った物価を見る限り、銀貨一枚で千円くらいだろうか? わざわざ日本円に直して考えるのも面倒なので早く慣れたいところだ。

「ひとがいっぱーい!」

 今は昼前だが、市場はかなりの人で賑わっている。クウも初めて見る人の多さにテンションが上がりっぱなしだ。
 斯く言う俺もかなり感動している。流石『楽園』に近い街と言ったところか。
 人族の割合が多いのは確かだが、見たこともない種族も同じように行き交っている。

 猫の耳と尻尾が生えた猫人族の女性、小柄な体に筋骨隆々の体躯を持ったドワーフ、あの角と蝙蝠のような羽を持つのは魔族だろうか? 聞いた悪魔族の特徴の一致している。

「ごはんがいっぱーい!」

 クウさんや、それは市場に並んでる食材に言ってるんだよな? そうだよな?
 育て方を間違えたかもしれないと心配になったが、気にしないことにしよう。

 ……もしかしたらこの中の誰かが敵になるかもしれないんだから。

「よし! じゃあ門番の人に通行料払ったら昼飯にするぞ!」

「やったー! いっぱいたべるー!」

 通行料を無事払い終えた後、俺達は再び市場を巡る。
 かなり賑わっているので、クウが迷子にならないように手を繋ぐと、並べられている商品に目を通していく。

 一代目転移者が色んな文化を広めたのは本当だったのか、日本でも見たことのある食べ物が結構並んでいる。家電製品ぽい物も幾つかあるようだが、あれは魔石を使った魔道具だろう。

 現在、クウは左手にポップコーンのカップを大事そうに抱えながら反対の手で俺と手を繋ぎ、俺は時々右手に持ったコーラを手ずからストローで飲ませている。

 ……一代目やりすぎじゃね?
 恐ろしいのはコーラのレシピまで簡単に分かってしまう【叡智の書】か。
 四ノ宮優樹がどんな人物だったのか分からないが、良くも悪くもこの世界に大きな影響を与えたのは間違いないようだ。

 実は魔物のゴブリンやオークなんかの名前も命名したのは四ノ宮優樹だという。
 元々は違う種族名がステータスにも書いてあったらしいのだが、その名前を広めたことで書き変わったらしい。
 称号に二つ名が付くように、多くの人に認知されると自動的に書き変わるようだ。
 どうして元の世界にあった神話なんかの生物の名前が付いているのか、と疑問に思っていた所で聞かされたその真実に、その時は呆れ果てたものだ。

 もう一度言おう、やりすぎです。

 まさか異世界でコーラを飲めるとは思っていなかったので微妙な気持ちだ。
 嬉しさが半分、あとの半分はファンタジー世界の雰囲気をぶち壊されたような気分になるということだな。

「このくろいしゅわしゅわおいしーね!」

 まあクウの笑顔が見れたのでよしとしよう。

 その後は何軒か回って満足したところで宿を予約することにする。
 ここに来るまでは野宿で睡眠の必要が無いクウに夜は守ってもらっていた。
 だが、必要が無いだけで寝られない訳では無いのだ。少しは休ませてあげたい。

 ポップコーンを買った店でオススメの宿は聞いておいた。
 そこは料理が素晴らしいらしいので今から夕食が楽しみだ。

 しばらく歩き、市場から少し離れたところにその宿は建っていた。
 宿の名前は『幸福の止まり木亭』。木造二階建ての小綺麗な建物で一回に食事処があるようだ。
 外にまで賑わいの声が聞こえてくる。

 俺達が中に入ると、俺より年下っぽい茶髪の女の子が笑顔で駆けてきた。

「いらっしゃいませ! 幸福の止まり木亭へようこそ! 二名様ですか?」

「ああ、宿の予約をしたい。部屋は空いてるか?」

「大丈夫ですよ! ダブルが一部屋で一泊銀貨二枚です。食事は一回で銅貨四枚、湯をご希望でしたら銅貨一枚を頂きます」

 相場がイマイチ分からないが、それなりに安いんじゃないかな?

「一泊で今日の夜と明日の朝の食事を頼む。」

 そう言って俺は銀貨三枚を渡して銅貨二枚と部屋の鍵を受け取る。
 休むのは一日だ。暫くはここに居てもいいんだが、早く収入を得ないと不味い。

 思ったよりも消費が激しいのだ。主に食費が。
 クウはスライムだから当然かもしれないが、本当によく食べる。さっきもポップコーンを三回お代わりしていたのだ。
 この調子だと思ったよりも早くお金が無くなるかもしれない。

「それと聖国首都までの馬車はどこで乗れるか教えてくれないか?」

 お釣りを受け取りながら質問する。

「はいはい、乗合の馬車なら出てますよ。後で教えますね! ……ところでちゃんと通行証は持ってます?」

「え゛」

 これで大丈夫のようだ、と安心したのも束の間、予想外のことを聞かれる。

 通行証って……なに?
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