人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

18話 街を目指して

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「ゲギャグギャッ!」

 背中は老人のように曲がり、俺の腰よりも少し低い背丈をした濃緑色の魔物――ゴブリンが、その小さい手に持った錆びれた短剣を構え、その醜悪な面をさらに醜く歪める。

 数は七匹。陣形をとっている訳では無いが、それなりに頭はあるらしい。
 獲物である少女、というよりは幼女だが、その幼女を注意深く取り囲む。
 ゴブリンやオークなどの雄しか存在しない魔物の多くは、他種族の雌を攫って孕ませることで繁殖するらしいが、彼女も対象にはなるんだろうか? と、俺は呑気に少し離れた場所でその光景を見ながら考えていた。

 別に見捨てたとかではなく、さっきまではファンタジーのゴブリンにテンションが上がって虐殺を繰り返していた俺を見て、クウが自分も戦いたいと言い出したのだ。
 幼い外見の彼女に頼っていいものかと迷いもしたが、よく考えれば俺より強いのだから心配の必要もなかった。

 あくびを噛み殺しながら、ゴブリンに囲まれているクウを見ると、俺が見ていることに気が付いたのか、笑顔で手を振ってきた。可愛い。

 その瞬間、決定的な隙を見せた獲物にゴブリン達は一斉に飛びかかる。
 さっきも戦っていて思ったが、ゴブリンはそれなりに賢いようだ。獲物のクウは見た目はどう見ても無害な幼女。それでも警戒は怠っていなかった。

 ――だが、相手が悪すぎた。

 クウの着ている黄色のレインコートが一部形を変え、針のように全方向に飛び出す。
 何が起こったのかもわからず串刺しにされたゴブリン達は、刺された内部から溶かされあっという間に跡形もなくなってしまった。
 これがSSSランクとFランクの圧倒的な差。例え短剣であちこち刺そうとしたとしても、クウがダメージを負うことは無かっただろう。

「あー、あれじゃあ何も素材が手に入らないな」

 ゴブリンの肉はくそ不味くて食えたもんじゃないらしいが、それでも一応魔物なので魔石は採れる。
 でもあの状態だと期待はできなさそうだ。

 俺は静かに溜息を吐いた。





 小屋を出て一週間。森を抜けた俺達は、街に向けて歩いていた。
 途中、寄ろうと思っていた村があったのだが、遠目で見ると入口に何人もの武装した人がいたので、仕方なく村は迂回してそのまま街へと行くことにしたのだ。

 もう一日、出るのが遅かったら危なかったかもしれない。思ったより行動が早かったようだ。
 まあ、こちらにクウがいる以上、負ける可能性は限りなく低いと思うが下手にリスクを負う必要も無い。

 それから何体かゴブリンや犬型の炎を吐く魔物――フレイムドッグを狩って、街の方角へと進む。

 小屋の周辺もそうだったが、この辺りは魔物も少なく、弱い魔物が多いようだ。
 小屋は小型の魔道具で結界が張ってあり、テイムされた魔物以外は入れなくなっていたが、弱い魔物しか生息していないのも、あの小屋が魔物に襲われてなかった理由の一つだろう。

「あ! おっきなのがみえたよ!」

 前を歩いていたクウがはしゃぎながら俺を手招きする。
 おっきなの、ではイマイチ分からないのだが、あの喜び様は街がみえたのだろう。
 未だに、クウは人の多い所には行ったことがない。この世界で言えば俺もだ。
 だからはしゃぎたくなる気持ちもわかる。
 今まではずっと城で軟禁されているような感じだったからな。

 はやくはやくと急かすクウに向かって苦笑いしながら歩み寄って行くが、そこで俺の【気配察知】に反応があった。こちらに向かって来ているようだ。

 【魔力感知】で魔力量を測ると、さっきまで戦っていた魔物よりも大きな魔力を持っていた。それでも、俺やクウと比べると遥かに小さい。
 もちろん、魔力の大きさだけで強さが分かるわけではない。もしかすると、クウにもダメージが通るような強力な物理攻撃を放ってくる可能性もあるのだ。

 クウには周りを警戒するように合図をし、俺は呪壊魂とデュランダルを両手に構える。
 これが俺の今の戦闘スタイルだ。【武器支配】は魔力を使う訳でもなく便利なのだが、頼りすぎるのもよくない。あの能力は、隠しておくに越したことはないからな。

 だから今は、腰に下げた皮袋に入っているナイフを偶に操って使うくらいだ。
 暫くは、二刀流で戦おうと考えている。

 ……それにしても、俺の今の格好はかなり浮いている気がする。
 禍々しい長剣と脇差を構え、布の服と元の世界から今も唯一持っているアイテムのスニーカーという奇抜なファッションになっている。
 街についたら、このあたりの装備も整えたいところだ。

 構えた方角から、土煙を上げて大きな一つの塊がこちらに突進してくるのが見えた。
 まだ衝突まで多少の時間はある。
 俺はそう判断してそいつに向けて【鑑定】を発動した。

----------------------------------------------------------
種族:クラッシュボア
Lv:46
称号:Dランク魔物
<パッシブスキル>
身体強化(6) 斬撃耐性(3) 突撃耐性(2)
怪力 気配察知(3) 危機察知(2)
<アクティブスキル>
突進 威圧(2) 直感
----------------------------------------------------------

「問題ないな」

 元の世界にいた猪の何倍もの大きさの魔物を視認して、俺は一人呟く。
 さっきまで戦っていたのがレベル二十未満が殆どだったから倍近いレベルにはなるが、余裕で勝てる相手だ。

 【直感】を持っているので【鑑定】したことは分かる筈だが、突進してくるその姿に迷いはない。

 俺は突進してくるクラッシュボアに向けて走ると、衝突寸前で体を翻し、呪壊魂で横から腹を切り裂く。

 だが、思ったよりも敵は硬く、擦り傷を追わせることしかできない。
 デュランダルで切るべきだったと俺は軽く舌打ちすると、横を通り過ぎたクラッシュボアへと向き直る。

 振り向いた時には、既にクラッシュボアは次の突進への体勢を整えており、こちらに向けて再び走り出す。

 ――しかし、何かにつまづいたように前のめりになると、そのまま俺の眼前まで転がって停止した。

「お、発動したか」

 よく見れば、既にクラッシュボアは息絶えており、さっき俺が斬った傷口には、黒い紋章の様なものが貼り付けられている。
 これが、霊刀呪壊魂じゅかいこんの持つ効果の一つ、【呪殺】だ。
 一定の確率で斬った相手を呪い殺す、かなり危ない効果である。

「ごしゅじんさまおわったー? あっ! これたべていいの?」

 戦いを見ていたのか、終わったのを見計らってクウがこっちに来る。

「ああ、いいぞ」

 言うが早いか、軽トラック程の大きさもあるクラッシュボアは、大きく開いたクウの右腕によって食べ尽くされてしまった。
 ……魔石採るの忘れたけどまあいいか。

 レベルが久しぶりに上がる感覚があったので、ステータスを開いて確認する。

----------------------------------------------------------
名前:羽吹真夜
種族:人族
Lv:65
称号:人間不信 同族殺し 転移者 魔剣士
<パッシブスキル>
身体強化(5) 精神耐性(9) 並列思考(1)
詠唱短縮 魔力感知
<アクティブスキル>
剣術(5) 風魔法(2) 土魔法(3) 気配察知(6)
家事(3) 鑑定(8) 隠密(4) 威圧(1)
拷問 直感 調教
<ユニークスキル>
武器支配(3) 偽装
----------------------------------------------------------

 多少は上がったが、まだまだ弱いと感じる。
 新しく覚えた【威圧】は、相手を怯ませることができるスキルのようだ。
 相変わらず[転移者]の称号のお陰でスキルの習得が早い。
 そういえば【偽装】の設定も変えてなかったことを思い出したので、街に入る前に更新する。

----------------------------------------------------------
名前:シン
種族:人族
Lv:65
称号:魔剣士
<パッシブスキル>
身体強化(5) 精神耐性(9) 詠唱短縮
魔力感知
<アクティブスキル>
剣術(5) 風魔法(2) 土魔法(3) 気配察知(6)
家事(3) 鑑定(8) 隠密(4) 威圧(1)
直感 調教
----------------------------------------------------------

 これくらいでいいだろう。
 思い切って名前も変えて名乗ることにした。もし何かの拍子に俺の名前が広まれば、生きていることがバレてしまう。そうなれば、城での事件の犯人も俺だと分かってしまうだろう。

 あまり弱くて舐められるのも嫌なので、レベルはそのままに見られても構わないものと隠しても分からないようなスキルは一部【偽装】した。

「クウ、これから俺はシンって名前を名乗るから、そうお前も呼んでくれ」

「わかったよ! ごしゅじんさま!」

 そういえばクウには関係なかったな。
 少し寂しい気持ちになりながらも、俺達は見えた街へと歩き出した。
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