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完全犯罪は異世界転移で
閑話 エルヴィーラ・エーベルト
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「うーむ……」
蝋燭の火の光によってできた影が、壁でゆらゆらと揺れる。その唸り声は決して大きなものでは無かったが、この広間には存外響いた。
奥には、数々の宝石が散りばめられた大きな玉座が置かれている。
そこに座る壮年の男。銀色の髪は短くカットされており、男の端正な顔立ちも相まって気品と野性味の両方が感じられる。
彼こそが魔国ロスーアを束ねる王。実力主義のこの国において、トップに長年君臨し続け、今なおその武勇は多く語り継がれる人物――〈魔王〉ヴァルター・エーベルトその人である。
しかし、その燃えるような真紅の瞳は悩ましげに揺れ、落ち着きのない子供のように何度も足を組み替えていた。
普段は威厳のあるその振る舞いも、今は見る影もない。それは、彼のある悩みが関係していた。
エルヴィーラ・エーベルト。今年で十六になる彼の可愛い娘だ。
巷では〈殺戮姫〉なんて二つ名で呼ばれたりもしているが、彼にとっては大切な娘だった。
「一体何があったんだろうか……?」
そんな娘が、任務から帰ってきてからというもの様子がおかしかった。熱に浮かされたような顔で帰ってくるなり、部屋に閉じ篭ってしまったのだ。
それならまだ良かった。しかし、部屋から奇声のようなものが時々聞こえてくるともなれば、不安も積もる。
心配で見に行くように部下に指示しようにも、彼女を恐れて誰も近寄りたがらない。
彼は娘のことをもっと知っておくべきだったと後悔していた。そうすればこの悩みも解決出来たかもしれないのに、と。
娘は生まれつき、【共心眼】というユニークスキルを持って生まれてきた。
その力は、目に映った者の心を見ることができるという強力なスキルだった。能力を強めれば、心すら読み取ることができた。
実は相手に触れることで自分の心を伝えることも出来るのだが、このことを知っているのは本人とその姉しかいない。
そしてこの能力は生まれついてのものだ。コントロールができるようになるまで、随分と時間がかかってしまった。
そしてその時間は、まだ子供だった娘の心を歪めるのに充分だった。
知りたくもない心の声を聞かされ、人の醜悪な心を見続けた彼女は、次第に目に入った生き物を全て殺すようになってしまったのだ。
結果、当然のように娘は孤立してしまった。思えば、その瞳の色も関係していたかもしれない。
通常、彼ら吸血鬼族は紅い瞳を持って生まれてくる。しかし、特殊な瞳を持って生まれてきた彼女の瞳の色は蒼。
母親譲りの金髪だったこともあり、父であるヴァルターとは掛け離れた容姿もあってか、あまり接しようとしなかった。
エルヴィーラを産んだことで妻は他界。唯一、姉である第一王女とは会話を交わすようだが、その姉も自らの部屋から出ることは無い。
「よし! 私自ら聞きに行くとしよう」
魔王である彼だが、今は時間があった。
つい先日まで、侵略してくるシオン王国との戦争で仕事は多かった。異世界人を召喚したと報告を受けた時など、寝る暇もなく忙しかったものだ。
しかし、聖国の介入で戦争は休戦となった。これもひとえに娘の活躍があったからだとヴァルターは頬を緩ませる。
元々、資源を狙って戦争を仕掛けてきたのはシオン王国だった。
シオン王国は大陸の西方に位置している。そのシオン王国から北東の方角に位置するのがこの魔国ロスーアだ。
八年前、シオン王国と魔国ロスーアを海と挟むようにして南から北へと連なるラキウス山脈からミスリル金属が採掘された。
しかし、それは山脈のごく一部でしか採掘されず、魔国ロスーアの領土内だったのだ。
特殊な魔道具や武器に使用するのに、魔力伝導率の高いミスリルはうってつけだ。シオン王国が狙って戦争を仕掛けてくるのも当然ではあった。
だがそれも終わった。個々の戦闘能力は高い魔族が多く住むこの国ではあるが、如何せん数が人族と比べて少ない。いい加減辟易していた所だった。
そんな訳で、娘の部屋を訪問する決意を固めたヴァルターは玉座から立ち上がる。
だが、そこに部下の男が慌てた様子で駆け込んできた。
「大変です魔王様! え、エルヴィーラ様が――
我々を見ても襲ってきませんっ!」
その報告に、ヴァルターはかつて無いほど動揺する。
「あ、あの娘がか!? 俺を見るなり加齢臭で臭いとか言い放って殺そうとしてくるあの娘がか!?」
酷い言い様だった。しかし、それ程までに普段の彼女は荒れていたのだ。
そして、ヴァルターと部下の前に彼女は現れる。
コツ、コツ――。
騒がしかった広間に靴音が響く。
「「ヒ、ヒィッ!」」
現れた彼女に、二人は同時に情けない悲鳴を漏らす。最強の魔王も愛する娘の前では形無しだった。
「お父様、おはようございます。話があるのですがよろしいでしょうか?」
そんなことを気にも留めず、エルヴィーラ・エーベルトは魔王である父に話しかけた。
「お、おおおおおおお! あんなに冷たかった娘がっ! 挨拶までしてくれるな――」
「お話を進めてよろしいかしら?」
遂に娘の反抗期が終わったのかとヴァルターが感動していたが、 その首にいつの間にか大鎌が添えられていた。
ヴァルターは今のは気の所為だったのかと気落ちするが、娘がいつものゴミを見るような目ではなく、口元に笑みを作り浮かれたような表情をしていることに気付く。
「おうっ! 私の可愛い娘の言う事だ! 何でも頼むといいぞ!」
娘の機嫌がいいことを見抜いたヴァルターは、胸を張って娘の言葉を待つ。
だが、次の言葉を聞いて硬直した。
「シオン王国に行ってもいい? ――愛する夫を迎えに行きたいのだけど」
「……夫、だと?」
その言葉を絞り出すので精一杯だった。
よく見れば、娘の姿はいつもと気合いが違うことが分かる。
新品であろう黒のドレスには幾つもレースが施され、頭には黒い蝶のアクセサリー。顔は薄らと化粧がしてあり、彼女の魅力を一段と引き出している。
「シオン王国……、その男は人族なのか?」
「ええ。召喚された異世界人の一人よ。心に……一目惚れだったわ」
その言葉にヴァルターは驚愕に目を見開く。娘の気に入るような男とはどんな人物なのか。
そして……その男はマトモな人間なのか。
「ダメだダメだ! 恋愛なんぞお前にはまだ早い!」
「そうですぞ姫様! そんな得体の知れない野蛮な人族など――」
その瞬間、ヴァルターの横にいた部下の男の体が左右に分かれた。
真っ二つになった顔を見れば、男が何が起きたか理解できないまま死んだことが分かる。広間に瞬く間に血が広がっていった。
ヴァルターがギ、ギ、ギと壊れた人形の様に部下の男のいた所に顔を向ける。そこには、大鎌を振り抜き広間の床ごと男を切り裂いた娘が凍てつくような表情で立っていた。
「私の愛する人を馬鹿にしたら殺すわ。それに子供扱いしないで頂戴。……もうやることはやってるしね」
言う前に殺してるじゃん! なんてツッコミを我慢したヴァルターだったが、後の娘の言葉にはすぐさま反応した。
「や、やることはやってるって……」
「ええ」
顔を青くしたヴァルターは恐る恐る聞く。
「手を繋いだりとか……」
「全身を密着させて抱き合ったわ」
「――っ! ……まさかキスとかは……」
「したわ。飛びっきり濃厚なのを、ね」
「――きゅっ、吸血やさらにその先は……」
「唇からたっぷりと吸わせてもらったわ。……子供は楽しみにしててね」
そのやり取りを最後に、ヴァルターは膝から崩れ落ちた。その姿はまるで太陽の光を何年も浴びた吸血鬼のように、絶望の表情で真っ白に燃え尽きていた。目元から一筋の涙が零れ落ちる。
彼ら吸血鬼族にとって、吸血することは性行為と同じ位重要視される。
娘は初めてだった筈だ。それがこうもあっさりと肯定されるとは思わなかったヴァルターのショックは計り知れない。
二人の亡骸を見下ろしたエルヴィーラは、弾む心を隠せないとばかりに、早速シオン王国れ向かおうとする。
「それじゃあ、お父様。行って来るわね」
「――待てっ!」
踵を返そうとした彼女を、不死鳥の如く蘇ったヴァルターは急いで止める。
「……何?」
娘の今日何度目かの冷たい視線を浴びて心が折れそうになりながらも、ヴァルターは止めた理由を話す。
「シオン王国とは休戦になったばかりだ。今お前が行くと襲撃と見なされるやもしれん。せめて一月は待ちなさい」
先程までの痴態は見る影もなく、そこには一国を預かる威厳に満ち溢れた魔王としての姿があった。
だが、それもエルヴィーラにとってはどうでもいいことだった。
無表情になった彼女はゆっくりと大鎌を構える。
「ま、待ちなさい! ……ゴホンッ、色々とお前にも準備があるだろう。 それに一月もあるんだ。さらに強くなればその……「シンヤよ」シンヤとやらもお前に惚れ直すのではないか?」
実力主義の魔国ロスーアならではの考えだったが、エルヴィーラもなるほど、と納得した様子を見せる。
「分かったわ、一月ね。――ふふ、ふふふふふ。シンヤ楽しみにしてなさいっ! 私の魅力で貴方を虜にして上げるわ!」
そのまま笑いながら去って行った彼女の後ろ姿を見送ったヴァルターは、静かに溜息をつく。
----------------------------------------------------------
名前:エルヴィーラ・エーベルト
種族:吸血鬼族
Lv:189
称号:第二王女 殺戮姫 狂愛の姫
<パッシブスキル>
身体強化(7) 物理耐性(4) 痛覚耐性(3)
四属性耐性(4) 光耐性(2) 闇耐性(8)
状態異常耐性(3) 精神耐性(5)
<アクティブスキル>
剣術(2) 鎌術(7) 火魔法(5) 闇魔法(6)
直感 隠蔽(4) 気配察知(3) 隠密(4)
回避(2) 威圧(4) 礼儀作法(5)
暗視 詠唱破棄 吸血 直感
<ユニークスキル>
闇黒ノ王 共心眼 赤夜結界(6)
--------------------------------------------
齢十五歳にしてこの強さ。こっそり【鑑定】したヴァルターは、娘の才能に恐れすら抱いた。
いずれは、魔王である自分も超える強さを手に入れるだろうと期待と不安が入り交じった未来にもう一度大きく溜息を吐く。
どうか、彼女の見初めた男がマトモでありますようにと祈りながら。
称号は全力で見ない振りをしたようだ。
蝋燭の火の光によってできた影が、壁でゆらゆらと揺れる。その唸り声は決して大きなものでは無かったが、この広間には存外響いた。
奥には、数々の宝石が散りばめられた大きな玉座が置かれている。
そこに座る壮年の男。銀色の髪は短くカットされており、男の端正な顔立ちも相まって気品と野性味の両方が感じられる。
彼こそが魔国ロスーアを束ねる王。実力主義のこの国において、トップに長年君臨し続け、今なおその武勇は多く語り継がれる人物――〈魔王〉ヴァルター・エーベルトその人である。
しかし、その燃えるような真紅の瞳は悩ましげに揺れ、落ち着きのない子供のように何度も足を組み替えていた。
普段は威厳のあるその振る舞いも、今は見る影もない。それは、彼のある悩みが関係していた。
エルヴィーラ・エーベルト。今年で十六になる彼の可愛い娘だ。
巷では〈殺戮姫〉なんて二つ名で呼ばれたりもしているが、彼にとっては大切な娘だった。
「一体何があったんだろうか……?」
そんな娘が、任務から帰ってきてからというもの様子がおかしかった。熱に浮かされたような顔で帰ってくるなり、部屋に閉じ篭ってしまったのだ。
それならまだ良かった。しかし、部屋から奇声のようなものが時々聞こえてくるともなれば、不安も積もる。
心配で見に行くように部下に指示しようにも、彼女を恐れて誰も近寄りたがらない。
彼は娘のことをもっと知っておくべきだったと後悔していた。そうすればこの悩みも解決出来たかもしれないのに、と。
娘は生まれつき、【共心眼】というユニークスキルを持って生まれてきた。
その力は、目に映った者の心を見ることができるという強力なスキルだった。能力を強めれば、心すら読み取ることができた。
実は相手に触れることで自分の心を伝えることも出来るのだが、このことを知っているのは本人とその姉しかいない。
そしてこの能力は生まれついてのものだ。コントロールができるようになるまで、随分と時間がかかってしまった。
そしてその時間は、まだ子供だった娘の心を歪めるのに充分だった。
知りたくもない心の声を聞かされ、人の醜悪な心を見続けた彼女は、次第に目に入った生き物を全て殺すようになってしまったのだ。
結果、当然のように娘は孤立してしまった。思えば、その瞳の色も関係していたかもしれない。
通常、彼ら吸血鬼族は紅い瞳を持って生まれてくる。しかし、特殊な瞳を持って生まれてきた彼女の瞳の色は蒼。
母親譲りの金髪だったこともあり、父であるヴァルターとは掛け離れた容姿もあってか、あまり接しようとしなかった。
エルヴィーラを産んだことで妻は他界。唯一、姉である第一王女とは会話を交わすようだが、その姉も自らの部屋から出ることは無い。
「よし! 私自ら聞きに行くとしよう」
魔王である彼だが、今は時間があった。
つい先日まで、侵略してくるシオン王国との戦争で仕事は多かった。異世界人を召喚したと報告を受けた時など、寝る暇もなく忙しかったものだ。
しかし、聖国の介入で戦争は休戦となった。これもひとえに娘の活躍があったからだとヴァルターは頬を緩ませる。
元々、資源を狙って戦争を仕掛けてきたのはシオン王国だった。
シオン王国は大陸の西方に位置している。そのシオン王国から北東の方角に位置するのがこの魔国ロスーアだ。
八年前、シオン王国と魔国ロスーアを海と挟むようにして南から北へと連なるラキウス山脈からミスリル金属が採掘された。
しかし、それは山脈のごく一部でしか採掘されず、魔国ロスーアの領土内だったのだ。
特殊な魔道具や武器に使用するのに、魔力伝導率の高いミスリルはうってつけだ。シオン王国が狙って戦争を仕掛けてくるのも当然ではあった。
だがそれも終わった。個々の戦闘能力は高い魔族が多く住むこの国ではあるが、如何せん数が人族と比べて少ない。いい加減辟易していた所だった。
そんな訳で、娘の部屋を訪問する決意を固めたヴァルターは玉座から立ち上がる。
だが、そこに部下の男が慌てた様子で駆け込んできた。
「大変です魔王様! え、エルヴィーラ様が――
我々を見ても襲ってきませんっ!」
その報告に、ヴァルターはかつて無いほど動揺する。
「あ、あの娘がか!? 俺を見るなり加齢臭で臭いとか言い放って殺そうとしてくるあの娘がか!?」
酷い言い様だった。しかし、それ程までに普段の彼女は荒れていたのだ。
そして、ヴァルターと部下の前に彼女は現れる。
コツ、コツ――。
騒がしかった広間に靴音が響く。
「「ヒ、ヒィッ!」」
現れた彼女に、二人は同時に情けない悲鳴を漏らす。最強の魔王も愛する娘の前では形無しだった。
「お父様、おはようございます。話があるのですがよろしいでしょうか?」
そんなことを気にも留めず、エルヴィーラ・エーベルトは魔王である父に話しかけた。
「お、おおおおおおお! あんなに冷たかった娘がっ! 挨拶までしてくれるな――」
「お話を進めてよろしいかしら?」
遂に娘の反抗期が終わったのかとヴァルターが感動していたが、 その首にいつの間にか大鎌が添えられていた。
ヴァルターは今のは気の所為だったのかと気落ちするが、娘がいつものゴミを見るような目ではなく、口元に笑みを作り浮かれたような表情をしていることに気付く。
「おうっ! 私の可愛い娘の言う事だ! 何でも頼むといいぞ!」
娘の機嫌がいいことを見抜いたヴァルターは、胸を張って娘の言葉を待つ。
だが、次の言葉を聞いて硬直した。
「シオン王国に行ってもいい? ――愛する夫を迎えに行きたいのだけど」
「……夫、だと?」
その言葉を絞り出すので精一杯だった。
よく見れば、娘の姿はいつもと気合いが違うことが分かる。
新品であろう黒のドレスには幾つもレースが施され、頭には黒い蝶のアクセサリー。顔は薄らと化粧がしてあり、彼女の魅力を一段と引き出している。
「シオン王国……、その男は人族なのか?」
「ええ。召喚された異世界人の一人よ。心に……一目惚れだったわ」
その言葉にヴァルターは驚愕に目を見開く。娘の気に入るような男とはどんな人物なのか。
そして……その男はマトモな人間なのか。
「ダメだダメだ! 恋愛なんぞお前にはまだ早い!」
「そうですぞ姫様! そんな得体の知れない野蛮な人族など――」
その瞬間、ヴァルターの横にいた部下の男の体が左右に分かれた。
真っ二つになった顔を見れば、男が何が起きたか理解できないまま死んだことが分かる。広間に瞬く間に血が広がっていった。
ヴァルターがギ、ギ、ギと壊れた人形の様に部下の男のいた所に顔を向ける。そこには、大鎌を振り抜き広間の床ごと男を切り裂いた娘が凍てつくような表情で立っていた。
「私の愛する人を馬鹿にしたら殺すわ。それに子供扱いしないで頂戴。……もうやることはやってるしね」
言う前に殺してるじゃん! なんてツッコミを我慢したヴァルターだったが、後の娘の言葉にはすぐさま反応した。
「や、やることはやってるって……」
「ええ」
顔を青くしたヴァルターは恐る恐る聞く。
「手を繋いだりとか……」
「全身を密着させて抱き合ったわ」
「――っ! ……まさかキスとかは……」
「したわ。飛びっきり濃厚なのを、ね」
「――きゅっ、吸血やさらにその先は……」
「唇からたっぷりと吸わせてもらったわ。……子供は楽しみにしててね」
そのやり取りを最後に、ヴァルターは膝から崩れ落ちた。その姿はまるで太陽の光を何年も浴びた吸血鬼のように、絶望の表情で真っ白に燃え尽きていた。目元から一筋の涙が零れ落ちる。
彼ら吸血鬼族にとって、吸血することは性行為と同じ位重要視される。
娘は初めてだった筈だ。それがこうもあっさりと肯定されるとは思わなかったヴァルターのショックは計り知れない。
二人の亡骸を見下ろしたエルヴィーラは、弾む心を隠せないとばかりに、早速シオン王国れ向かおうとする。
「それじゃあ、お父様。行って来るわね」
「――待てっ!」
踵を返そうとした彼女を、不死鳥の如く蘇ったヴァルターは急いで止める。
「……何?」
娘の今日何度目かの冷たい視線を浴びて心が折れそうになりながらも、ヴァルターは止めた理由を話す。
「シオン王国とは休戦になったばかりだ。今お前が行くと襲撃と見なされるやもしれん。せめて一月は待ちなさい」
先程までの痴態は見る影もなく、そこには一国を預かる威厳に満ち溢れた魔王としての姿があった。
だが、それもエルヴィーラにとってはどうでもいいことだった。
無表情になった彼女はゆっくりと大鎌を構える。
「ま、待ちなさい! ……ゴホンッ、色々とお前にも準備があるだろう。 それに一月もあるんだ。さらに強くなればその……「シンヤよ」シンヤとやらもお前に惚れ直すのではないか?」
実力主義の魔国ロスーアならではの考えだったが、エルヴィーラもなるほど、と納得した様子を見せる。
「分かったわ、一月ね。――ふふ、ふふふふふ。シンヤ楽しみにしてなさいっ! 私の魅力で貴方を虜にして上げるわ!」
そのまま笑いながら去って行った彼女の後ろ姿を見送ったヴァルターは、静かに溜息をつく。
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名前:エルヴィーラ・エーベルト
種族:吸血鬼族
Lv:189
称号:第二王女 殺戮姫 狂愛の姫
<パッシブスキル>
身体強化(7) 物理耐性(4) 痛覚耐性(3)
四属性耐性(4) 光耐性(2) 闇耐性(8)
状態異常耐性(3) 精神耐性(5)
<アクティブスキル>
剣術(2) 鎌術(7) 火魔法(5) 闇魔法(6)
直感 隠蔽(4) 気配察知(3) 隠密(4)
回避(2) 威圧(4) 礼儀作法(5)
暗視 詠唱破棄 吸血 直感
<ユニークスキル>
闇黒ノ王 共心眼 赤夜結界(6)
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齢十五歳にしてこの強さ。こっそり【鑑定】したヴァルターは、娘の才能に恐れすら抱いた。
いずれは、魔王である自分も超える強さを手に入れるだろうと期待と不安が入り交じった未来にもう一度大きく溜息を吐く。
どうか、彼女の見初めた男がマトモでありますようにと祈りながら。
称号は全力で見ない振りをしたようだ。
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