人間不信の異世界転移者

遊暮

文字の大きさ
上 下
18 / 95
完全犯罪は異世界転移で

13話 宝物庫と脱出

しおりを挟む
 閉じた扉の隙間から半透明の体が染み込むようにして入っていく。やがて見えなくなると同時に、鍵の開く音が扉の内側から聞こえた。
 俺は壮麗な装飾の施された重い扉をゆっくりと押して開く。
 開いた内側からは、待っていたクウが飛び付いて来たので優しく受け止める。寂しん坊の甘えん坊。あまりの可愛さに、我を忘れて思いっきり抱き締めた。







「――ハッ!」

 数分後、我に返った俺はクウを抱えたまま宝物庫へと向き直った。
 ……あの触り心地が止められなくなるんだよなあ。

 入って見渡した宝物庫は、思ったよりも明るかった。
 学校の教室くらいの広さに、所狭しと色々な物が置かれている。武器や防具、装飾品や用途の分からない魔道具まで様々だ。それらが放つ光が、中を静かに照らしていた。
 それらをよく見ると、所々に細かな意匠の施された実用性の高そうな武器や、強い魔力の感じる魔道具が置いてあるのが分かる。

 俺は目当ての物を見つけると、棚の上にあったそれを手に取った。

「よし、これでいつでも抜け出せるな」

 薄緑に透けるその石は、宝石の様に美しかった。一応、確かめるために【鑑定】をかける。

----------------------------------------------------------
[転移石]
等級:特級
効果:瞬間移動
魔力を流すと、イメージした場所に転移する
ことが出来る。
割れやすく、割ると内包した魔力が暴走し、
ランダムに転移されるので注意。
----------------------------------------------------------

 俺の持つ魂削包丁と同じ等級だ。結構珍しいらしく、俺が手に持った物で最後のようだ。

 聞いた話によると、このアイテムにある等級というのは、上から順に幻想級、神域級、伝説級、英雄級、特級、上級、中級、下級と、全部で八段階まであるそうだ。
 とはいえ、一般に出回るのは高くても英雄級まで。一番上の幻想級ともなれば、世界でも数える程しかないらしい。

 そしてこの国の宝物庫には、この幻想級のアイテムが二つ存在する。今回の狙いの一つだ。
 どんな物かは聞いていないが、間違いなく役に立つだろう。というか、ロマン的にも最高ランクのアイテムを無視なんてできない。

 俺は宝物庫の奥に見える固く閉ざされた扉に目を向ける。
 以前、武器選びの時にここには来たことがある。だから大体どんな物があるのかは分かっているつもりだ。時間もないし、早い所持てるだけ持って退散するとしよう。

 扉の前まで立ち、胸に抱いていたクウを降ろす。
 俺の意図を理解したクウは早速、扉に張り付き中に侵入しようとする。しかし、どうやら特殊な魔法がかかっているらしく、隙間から入ろうとしても弾かれてしまった。

「うーん……」

 どうしようかと頭を捻る。扉は、幾つもの謎の紋様が彫られた鈍い銀色の扉だ。【鑑定】してみるが、それも弾かれて出来なかった。
 流石は幻想級アイテムを保管する宝物庫。一筋縄では行かなそうだ。

 悩んでいる間にも時間は過ぎていく。
 もう諦めて脱出しようかと思ったその時、閉ざされた扉の向こうから感じられる強い魔力に気付く。

「そうだ! あの中には強力な武器なんかもあるはず……」

 試したことは無い。だが、できる気がした。
 俺は扉の前に姿勢を正して立つと、目を閉じて集中する。

 十メートルにまで伸びた【武器支配】の射程を限界まで伸ばし、意識を集中させて探る。

 違う、……これも違う。――これだ!

 一際大きな魔力を持つ物へと辿り着いた俺は、それをゆっくりと持ち上げて反対側の扉の前まで慎重に持ってくる。
 目には見えなくとも、感じる魔力で分かった。そしてそのまま袈裟斬りに一閃。

 俺が目を開くと、そこには見事な切り口で切断された扉の姿があった――。

 俺は勢いよく息を吹き出す。かなり疲労が溜まっているようだ。

俺は前に転がった剣を手に取って見る。吸い込まれそうな光沢を放つ青みがかった銀色の刀身と、柄頭から鍔にまで絡みつく黒い荊棘の模様が特徴的だ。柄には、赤い宝玉が嵌め込まれている。
 というか、この剣。魂削包丁ウチの子の兄弟か何かですか? 禍々しい感じとかそっくり何ですが。

 近い物を感じた俺は、この剣を恐る恐る【鑑定】する。

----------------------------------------------------------
[魔剣デュランダル]
等級:神域級
効果:絶対切断 不壊 精神汚染
魔剣。聖剣だったものが、強い怨念によって
変化した。万物を切り裂くことができるが、
持った物の精神を破壊してしまう。
----------------------------------------------------------

「……え゛」

 気付いた時には遅すぎた。頭にルヴィの時のように何かが流れ込んでくる。だが、あの時と違うのは愛の言葉などではなく、誰彼構わず呪うような呪詛だった。

 "死ね死ね死ね殺してやるあんなにも愛していたのにクソが死ね裏切り者殺す殺す殺す殺す――"

 脳を侵すように絶え間なく流れてくる呪詛が、俺の心を乗っ取ろうとしているのが分かる。

「ははっ! あははははははは!!」

 それが俺には心地よかった。剣なのにこんなにも心をさらけ出している。精神汚染なんて関係ない。
 この剣はとても気に入った!

「だけど――うるさいから黙れよ」

 【武器支配】――このスキルは武器を操作することが出来るが、本質は『支配』するというものだ。やってみれば、この程度黙らせることなんて簡単だった。いくら武器が強くとも関係ない。

「お前は俺が使ってやる。異論はなしだ」

 静かになった剣を仕舞おうとして鞘が無いことに気が付く。
 すると、俺の意思を悟ったように刀身に黒い靄がまとわりつき、黒い鞘が現れた。それには少し驚いたが、神域級の武器ならそういう事もあるだろうと思い直す。

 あとさっきので一つだけ分かったことがある。この剣の元の持ち主の事だ。
 恐らく、この剣の元の持ち主は初代転移者、勇者と呼ばれた四ノ宮優樹のものに間違いない。彼はどんな相手でも一刀のもとに切り伏せたと聞いた。
 それにこの元聖剣という文字。転移者はどの代も【聖剣召喚】のスキルを持っているらしい。
 死んだ後も残るとは思わなかったが、今代の転移者も、幸正義が使っていた。確かその剣の名前は聖剣レーヴァテインだったか。
 何故元の世界でも聞いたことのある名前なのかと疑問だったが、異世界人である事が関係しているのだろう。

 さっきの声は……初代と相打ちになったっていう二代目転移者の一人かな。言っていることは支離滅裂でよく分からなかったが、裏切ったという言葉が少し気になった。
 まあ俺にはどうでもいいことだな。

 いつまでもここで考え込んでいてもしょうがないので、扉を跨いで足を踏み入れた。
 すると突然、けたたましくサイレンのような音が鳴る。

「――しまった! クウ急ぐぞ!」

 まさかこんな現代チックな罠があるとは思わなかった。俺はいつも肝心な所でダメだな。
 背後から慌ただしく鎧の擦れる音が聞こえてくる。早すぎだろっ!

 俺は中へと駆け込み、一番左奥で台の上に鎮座してある石の様なものを掴む。だがそこで、扉の入口付近から声が聞こえてきた。

「何者だ! 宝は盗らせん!」

 向こうから聞こえたこの声は騎士団長だ。レベルは聞いたところによると二百を超えるという。戦って勝てる相手ではない。
 俺は顔を見られる前に逃げようと、もう一つの宝は諦める。いつの間にやら横にいたクウに触れながら、デュランダルと一緒に握った転移石に魔力を流す。
 場所は指定している時間はない。とりあえず安全な場所に行けるように祈る。

 騎士団長が部屋に飛び込んでくるのと同時に、俺は白い光に包まれた――。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...