8 / 95
完全犯罪は異世界転移で
4話 逮捕者と悲劇
しおりを挟む
食堂に集まったクラスメイト達が騒ぐ中、宰相から衝撃のニュースが伝えられる。
「昨夜、城の宝物庫に無断で侵入したそなたらの仲間二人を捕縛した」
『……』
その内容に、騒がしかった食堂内が水を打ったように静かになる。
クラスメイト達の心が今なら少し分かる気がする。
きっと「マジかー」って感じだ。うん、俺もそう思う。
最悪だった。抜け出したならまだしも、宝物庫への侵入は不味い。
これによって、俺達に負い目ができてしまったになるだろう。これから先、条件次第で向こうの要求を飲まなくてはいけなくなる可能性もある。
というか、その二人は何をやっているんだ。
ここはこの国の国王が住む堅固な城だ。
当然、警備はかなり厳しく、いくら強力な能力を持ったところで一番警備の厳しいであろう宝物庫に計画もなく簡単に侵入できるわけが無いだろうに。
それでも実行したということは、余程隠れるのに長けた能力を得たのだろうか。
「捕縛したのは、畝元郁夫と向谷英樹の両名だ。」
確か畝元と向谷は世間一般から見ればオタクに分類される人間だ。大方、チートだぜひゃっほい! みたいな感じで調子に乗ったのだろう。気持ちはよく分かる。
「実は昨日の内に【鑑定】は済ませてありますので、こちらで皆さんの能力は全て把握しております」
その言葉に、俺の心臓が一瞬跳ねた気がした。
【偽装】前の称号を見られていたのかと焦ったが、冷静になって考えればもし見られていたのならば放置しておくようなことは無いだろう。向こうから何らかのアクションはある筈だ。
それに思い出してみれば、昨日の嫌な感覚がそうだったのだろう。
あれは弄った後に感じたものだ。思えば、誰かに覗き見られているような感じだった。
【直感】はかなり有用なスキルのようだ。
だがこれで、俺が他人のステータスを覗きにくくなってしまった。【鑑定】を使ったことがバレれば、警戒されてしまうだろう。
そこで、一人の生徒がどうして勝手に見たのかと質問をする。
顔を見れば、少し怒った様子だ。
確かに、向こうにも事情があるとはいえ何も言わずに覗き見られていい気はしないだろう。
「これからパーティを組んでもらうことにあたって必要なことでしたので」
ハッキリと宰相が答え、質問した生徒も言葉を詰まらせる。
だが、すぐに真剣な表情のまま、宰相は頭を深く下げた。
「この世界では、無断で【鑑定】を使うのはマナーとしてあまり褒められたことではありません。必要なこととはいえ、申し訳ございませんでした」
これには、一部の不快な表情をしていたクラスメイト達も慌てる。
この世界で生きていくならばいずれ分かることだが、まさか素直にマナー違反だと自ら自白し、謝罪したのだ。宰相が、である。
お陰でいくらかの溜飲は下がったようだ。
ここまで下手に出られるとは、この国は相当甘いのだろうか?
それとも、他に何か理由があるというのか。
話はここまでのようだ。午後からはこの世界についての一般常識についての授業、明日は魔法講義と戦闘訓練があるらしい。本当に至れり尽くせりだ。
何故こんなに良くするのか。奴隷のように無理矢理命令を下すことだって出来る筈だ。
俺達にはなんの後ろ盾もない。それにここはファンタジーの世界だ。
そういった無理矢理にでも服従させる魔法のようなものだってあるのではないだろうか
分からない、分からない、分からない。
「あぁ――」
――キモチワルイ。
△ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △
部屋に戻った俺は、戦闘訓練までの時間を考え事に当てる。途中、トイレで朝食を全て戻してしまったが、たまにある事なので慣れている。
よく考えてみれば、今の俺のこの状況はさほど悪いものではない。
元の世界では、牢獄行きは確定していたのだ。そう、俺は異世界に召喚された事で、完全犯罪を成し遂げたのだ!
元の世界には未練なんてないし……未、れん……?
「――あああぁぁぁぁぁ!!!!」
「――っ! ど、どうしましたかっ! ハブキ様っ!」
俺の絶叫が聞こえたのか、ドアの外にいたであろうメイドが、驚いた声を発しながら扉を叩く。だがそれも悲嘆にくれる俺の耳には入らなかった。
俺は気づいてしまったのだ。召喚されたことによって、かけがえのない者を失ってしまったことに。
あの小柄な体躯に、つぶらな瞳、その体毛は雪のように真っ白で、俺の最大の癒しだった最愛の人を。
自分にとても懐いていた。他人が信じられない俺にとって、彼女だけが唯一の友達だったのに。
「しろおおぉぉぉ……」
失敗だった。俺は親を殺すべきではなかったのだ。いや、どちらか片方でも生かしておけば良かったと後悔する。#彼女は誰もいなくなった家でたった一人、誰にも知られることなく飢えて死んでいくのだ。
俺は鍵を開けて入ってきたメイドにも気付かず、午後になるまで泣き続けた。
「昨夜、城の宝物庫に無断で侵入したそなたらの仲間二人を捕縛した」
『……』
その内容に、騒がしかった食堂内が水を打ったように静かになる。
クラスメイト達の心が今なら少し分かる気がする。
きっと「マジかー」って感じだ。うん、俺もそう思う。
最悪だった。抜け出したならまだしも、宝物庫への侵入は不味い。
これによって、俺達に負い目ができてしまったになるだろう。これから先、条件次第で向こうの要求を飲まなくてはいけなくなる可能性もある。
というか、その二人は何をやっているんだ。
ここはこの国の国王が住む堅固な城だ。
当然、警備はかなり厳しく、いくら強力な能力を持ったところで一番警備の厳しいであろう宝物庫に計画もなく簡単に侵入できるわけが無いだろうに。
それでも実行したということは、余程隠れるのに長けた能力を得たのだろうか。
「捕縛したのは、畝元郁夫と向谷英樹の両名だ。」
確か畝元と向谷は世間一般から見ればオタクに分類される人間だ。大方、チートだぜひゃっほい! みたいな感じで調子に乗ったのだろう。気持ちはよく分かる。
「実は昨日の内に【鑑定】は済ませてありますので、こちらで皆さんの能力は全て把握しております」
その言葉に、俺の心臓が一瞬跳ねた気がした。
【偽装】前の称号を見られていたのかと焦ったが、冷静になって考えればもし見られていたのならば放置しておくようなことは無いだろう。向こうから何らかのアクションはある筈だ。
それに思い出してみれば、昨日の嫌な感覚がそうだったのだろう。
あれは弄った後に感じたものだ。思えば、誰かに覗き見られているような感じだった。
【直感】はかなり有用なスキルのようだ。
だがこれで、俺が他人のステータスを覗きにくくなってしまった。【鑑定】を使ったことがバレれば、警戒されてしまうだろう。
そこで、一人の生徒がどうして勝手に見たのかと質問をする。
顔を見れば、少し怒った様子だ。
確かに、向こうにも事情があるとはいえ何も言わずに覗き見られていい気はしないだろう。
「これからパーティを組んでもらうことにあたって必要なことでしたので」
ハッキリと宰相が答え、質問した生徒も言葉を詰まらせる。
だが、すぐに真剣な表情のまま、宰相は頭を深く下げた。
「この世界では、無断で【鑑定】を使うのはマナーとしてあまり褒められたことではありません。必要なこととはいえ、申し訳ございませんでした」
これには、一部の不快な表情をしていたクラスメイト達も慌てる。
この世界で生きていくならばいずれ分かることだが、まさか素直にマナー違反だと自ら自白し、謝罪したのだ。宰相が、である。
お陰でいくらかの溜飲は下がったようだ。
ここまで下手に出られるとは、この国は相当甘いのだろうか?
それとも、他に何か理由があるというのか。
話はここまでのようだ。午後からはこの世界についての一般常識についての授業、明日は魔法講義と戦闘訓練があるらしい。本当に至れり尽くせりだ。
何故こんなに良くするのか。奴隷のように無理矢理命令を下すことだって出来る筈だ。
俺達にはなんの後ろ盾もない。それにここはファンタジーの世界だ。
そういった無理矢理にでも服従させる魔法のようなものだってあるのではないだろうか
分からない、分からない、分からない。
「あぁ――」
――キモチワルイ。
△ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △
部屋に戻った俺は、戦闘訓練までの時間を考え事に当てる。途中、トイレで朝食を全て戻してしまったが、たまにある事なので慣れている。
よく考えてみれば、今の俺のこの状況はさほど悪いものではない。
元の世界では、牢獄行きは確定していたのだ。そう、俺は異世界に召喚された事で、完全犯罪を成し遂げたのだ!
元の世界には未練なんてないし……未、れん……?
「――あああぁぁぁぁぁ!!!!」
「――っ! ど、どうしましたかっ! ハブキ様っ!」
俺の絶叫が聞こえたのか、ドアの外にいたであろうメイドが、驚いた声を発しながら扉を叩く。だがそれも悲嘆にくれる俺の耳には入らなかった。
俺は気づいてしまったのだ。召喚されたことによって、かけがえのない者を失ってしまったことに。
あの小柄な体躯に、つぶらな瞳、その体毛は雪のように真っ白で、俺の最大の癒しだった最愛の人を。
自分にとても懐いていた。他人が信じられない俺にとって、彼女だけが唯一の友達だったのに。
「しろおおぉぉぉ……」
失敗だった。俺は親を殺すべきではなかったのだ。いや、どちらか片方でも生かしておけば良かったと後悔する。#彼女は誰もいなくなった家でたった一人、誰にも知られることなく飢えて死んでいくのだ。
俺は鍵を開けて入ってきたメイドにも気付かず、午後になるまで泣き続けた。
2
お気に入りに追加
1,356
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。

クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる