人間不信の異世界転移者

遊暮

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完全犯罪は異世界転移で

4話 逮捕者と悲劇

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 食堂に集まったクラスメイト達が騒ぐ中、宰相から衝撃のニュースが伝えられる。

「昨夜、城の宝物庫に無断で侵入したそなたらの仲間二人を捕縛した」

『……』

 その内容に、騒がしかった食堂内が水を打ったように静かになる。
 クラスメイト達の心が今なら少し分かる気がする。
 きっと「マジかー」って感じだ。うん、俺もそう思う。

 最悪だった。抜け出したならまだしも、宝物庫への侵入は不味い。
 これによって、俺達に負い目ができてしまったになるだろう。これから先、条件次第で向こうの要求を飲まなくてはいけなくなる可能性もある。

 というか、その二人は何をやっているんだ。
 ここはこの国の国王が住む堅固な城だ。
 当然、警備はかなり厳しく、いくら強力な能力を持ったところで一番警備の厳しいであろう宝物庫に計画もなく簡単に侵入できるわけが無いだろうに。
 それでも実行したということは、余程隠れるのに長けた能力を得たのだろうか。

「捕縛したのは、畝元郁夫うねもといくお向谷英樹むかいやひできの両名だ。」

 確か畝元と向谷は世間一般から見ればオタクに分類される人間だ。大方、チートだぜひゃっほい! みたいな感じで調子に乗ったのだろう。気持ちはよく分かる。

「実は昨日の内に【鑑定】は済ませてありますので、こちらで皆さんの能力は全て把握しております」

 その言葉に、俺の心臓が一瞬跳ねた気がした。
 【偽装】前の称号を見られていたのかと焦ったが、冷静になって考えればもし見られていたのならば放置しておくようなことは無いだろう。向こうから何らかのアクションはある筈だ。
 それに思い出してみれば、昨日の嫌な感覚がそうだったのだろう。
 あれは弄った後に感じたものだ。思えば、誰かに覗き見られているような感じだった。

 【直感】はかなり有用なスキルのようだ。
 だがこれで、俺が他人のステータスを覗きにくくなってしまった。【鑑定】を使ったことがバレれば、警戒されてしまうだろう。

 そこで、一人の生徒がどうして勝手に見たのかと質問をする。
 顔を見れば、少し怒った様子だ。
 確かに、向こうにも事情があるとはいえ何も言わずに覗き見られていい気はしないだろう。

「これからパーティを組んでもらうことにあたって必要なことでしたので」

 ハッキリと宰相が答え、質問した生徒も言葉を詰まらせる。
 だが、すぐに真剣な表情のまま、宰相は頭を深く下げた。

「この世界では、無断で【鑑定】を使うのはマナーとしてあまり褒められたことではありません。必要なこととはいえ、申し訳ございませんでした」

 これには、一部の不快な表情かおをしていたクラスメイト達も慌てる。

 この世界で生きていくならばいずれ分かることだが、まさか素直にマナー違反だと自ら自白し、謝罪したのだ。宰相が、である。
 お陰でいくらかの溜飲は下がったようだ。

 ここまで下手に出られるとは、この国は相当甘いのだろうか?
 それとも、他に何か理由があるというのか。

 話はここまでのようだ。午後からはこの世界についての一般常識についての授業、明日は魔法講義と戦闘訓練があるらしい。本当に至れり尽くせりだ。

 何故こんなに良くするのか。奴隷のように無理矢理命令を下すことだって出来る筈だ。
 俺達にはなんの後ろ盾もない。それにここはファンタジーの世界だ。
 そういった無理矢理にでも服従させる魔法のようなものだってあるのではないだろうか


 分からない、分からない、分からない。








「あぁ――」






 ――キモチワルイ。


 △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △


 部屋に戻った俺は、戦闘訓練までの時間を考え事に当てる。途中、トイレで朝食を全て戻してしまったが、たまにある事なので慣れている。

 よく考えてみれば、今の俺のこの状況はさほど悪いものではない。
 元の世界では、牢獄行きは確定していたのだ。そう、俺は異世界に召喚された事で、完全犯罪を成し遂げたのだ!
 元の世界には未練なんてないし……未、れん……?




「――あああぁぁぁぁぁ!!!!」

「――っ! ど、どうしましたかっ! ハブキ様っ!」

 俺の絶叫が聞こえたのか、ドアの外にいたであろうメイドが、驚いた声を発しながら扉を叩く。だがそれも悲嘆にくれる俺の耳には入らなかった。

 俺は気づいてしまったのだ。召喚されたことによって、かけがえのない者を失ってしまったことに。
あの小柄な体躯に、つぶらな瞳、その体毛は雪のように真っ白で、俺の最大の癒しだった最愛のウサギを。

 自分にとても懐いていた。他人が信じられない俺にとって、彼女シロだけが唯一の友達だったのに。

「しろおおぉぉぉ……」

 失敗だった。俺は親を殺すべきではなかったのだ。いや、どちらか片方でも生かしておけば良かったと後悔する。#彼女は誰もいなくなった家でたった一人、誰にも知られることなく飢えて死んでいくのだ。

 俺は鍵を開けて入ってきたメイドにも気付かず、午後になるまで泣き続けた。
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