人間不信の異世界転移者

遊暮

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完全犯罪は異世界転移で

2話 異世界召喚とテンプレ展開

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 いきなりだが、物語の異世界召喚モノにおけるテンプレート、というものが存在する。

 話は簡単だ。ある日突然、現代から剣と魔法のファンタジーな異世界に日本人が召喚される。
 それは個人だったり、クラス丸ごとだったり、年齢、性別など様々だ。
 そして召喚された先の異世界で、その国の人達から魔王だとか魔神だとかを倒してくださいと無茶ぶり。断ろうとするものの、帰る方法を盾に取られたり、魔王が帰還方法を知っている、などと、まあ色々と騙され、丸め込まれて結局はやる羽目になる訳だ。

 なぜこんな話を思い出していたのかというと、今、まさに俺の目の前で全く同じような状況が繰り広げられているからである。

「この国の人達が困っているんだ! 魔王を倒して世界の平和を守るぞー!!」

『オオォォォーー!!』

 拳を点に突き上げ、高らかに演説するのは、カオスなクラスのハーレム野郎こと、幸正義みゆきせいぎだ。
 帰れないと知って、先程まで嘆いていた彼らの姿もはもうここにはない。
 熱に浮かされ、クラスメイト達も揃って声を上げる。これがカリスマか……

 ――全くもって、アホばかりだった。

 普通、頼まれたからって安請け合いするなよ!
 俺がいくら人を信じていないとはいえ、流石にこれは皆疑うべきだと思うんだが。

 まさか、異世界モノの小説を読んでいた時と同じツッコミを現実でしたくなるとは思わなかった。

 周囲を見渡せば、尊大な態度で頷く王様に、それを守護する騎士。
 その傍らには俺たちと同じくらいの年齢だろうか。桃色のツインテールに、煌びやかなドレスを纏った、先ほど自らを姫と名乗った美少女が立っている。

 俺はしっかりと見た。姫様を見た途端、クラスの男子共の目付きがハッキリと変わったのを。
 男子と言うのは全くもって単純だ。
 俺も見惚れはしたが、女子達が男子に向ける冷たい視線に気付いたのでそっと目を逸らした。

 未だに演説を続ける幸を見て、俺は内心で盛大なため息を吐いた。


 ……拳を突き上げながら。







「それで、僕達はどうやって魔王と戦えばいいんでしょうか?」

 ひとしきり熱狂が落ち着いた後、幸が国王に質問をする。
 知らないのに了承するなよと言いたくはなるが、これも予想通りの展開になるだろう。

「うむ。では、『ステータス』と念じてみよ。異世界から来たそなたたちには特別な力が宿っているはずだ」

 ですよね。もはや予定調和とでも言うべき流れで話は進む。
 ここでよくあるテンプレだと、無能な人間だったり、ハズレの能力を持つ者が現れたりして、後から超絶強化されたりするのだが……。

 とりあえず俺も気にはなっているので、ステータスを出すように念じてみる。すると、頭の中にボードのようなものが浮かび上がってきた。
 感動は一瞬。能力確認が先だと思い、出てきたステータスに集中する。

----------------------------------------------------------
名前:羽吹真夜
種族:人族
Lv:1
称号:人間不信 親殺し 転移者 魔剣士
<パッシブスキル>
身体強化(1) 精神耐性(4)
<アクティブスキル>
家事(3) 鑑定(1) 拷問 直感
<ユニークスキル>
武器支配(1) 偽装
----------------------------------------------------------

 ……能力は可もなく不可もなくってところか。

 [魔剣士]という、これまた中二心が刺激されるような称号が付いているが、それよりも気になるのが称号[親殺し]。
 ……これは見られたら不味いんじゃないか?
 他にもアクティブスキルにある【拷問】も見られたらと思うと、嫌な予感しかしない。

 とは言っても、どうやらご都合主義が発動するのは正義感溢れる主人公気質の人間だけではないようだ。

 おそらく、国王が言っていた特別な力、とはユニークスキルのことだろう。そして、二つあるスキルの内の一つである【偽装】。
 俺にはこれを使えばいいと直感する。
 もしかしなくても、これはステータスを偽れるんじゃないだろうか。


 ――と、いうことで早速弄ってみた。

----------------------------------------------------------
名前:羽吹真夜
種族:人族
Lv:1
称号:転移者 魔剣士
<パッシブスキル>
身体強化(1) 精神耐性(4)
<アクティブスキル>
家事(3) 鑑定(1) 直感
<ユニークスキル>
武器支配(1)
----------------------------------------------------------

 とりあえず、最低限隠したいものだけは隠せたようだ。[人間不信]は隠そうか迷ったが、見られてもいい印象は与えないと思ったので隠しておく。ちなみに、スキルは念じれば簡単に出来た。

 ――ん? 何か嫌な感覚が……

 一瞬気になる事があったが、話に置いていかれないようにと気に留める事はなかった。

 全員が確認を終えるのを待っていたのだろう。あたりを見回したあと、国王は口を開く。

「各々、確認はできたかね? この世界におけるステータスというのは、言わばその者の魂の情報を可視化したものだ。異世界より召喚されたそなたたちには、世界を渡る際、特別な力が魂に刻まれるという。……さて、今日は疲れたであろう。一人ずつ部屋が用意してある。今日はゆっくり休んでくれたまえ。明日には説明の続きをしよう」

 確認はしなくていいのかと疑問に思ったが、その内行うだろう。まだ右も左も分からないような状況だ。さっきの嫌な感じも気になるし、どんなことを企んでいようと、無闇に動くことが出来ないのが歯がゆい。

 俺は寄ってこようとする聖花を振り切り、案内された部屋に入る。ついでに、お付きになったメイドを追い出して一人、部屋に閉じこもった後、部屋を隅々までチェックしてから、ようやくベッドに腰掛ける。

 部屋は王城の一室にしては狭かったが、落ち着いた雰囲気でゆっくりと考え事をすることができた。

 こうして、俺の異世界生活初日は過ぎていった――。
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