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憎悪と嫉妬の武闘祭(本戦)
79話 本戦開幕
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もう少し早く更新する予定だったのですが……戦闘描写や三人称で色々と悩んだり書き直したりして遅くなってしまいました。
そして長くなったので、二話に分けます。
明日にもう一話更新予定です!
□ □ □
――初戦で負けたら今日も昼飯抜きな。
そんな恐ろしいことを言い残され、リリーはシンと別れた。
「まだ怒ってるです……」
間違いない。でなければ幼女……子供には優しいあのシンがそんな酷いことをする筈がないのだ。
ちなみに夕食を抜かれたリリーの今日の朝食は食パンの耳であった。
もちろん無加工、彼女の口内から水分は消えた。
「私も食べたかったです」
リリーのパンの耳に対し、シン達は三角が美しいサンドイッチ。耳本体の行方は明らかである。
リリーのお腹がグウと鳴る。
空腹は嫌いだ。村にいた時のことを思い出す。
食べ物は当然のように分けてもらえず、自身で調達するしかなかった。まともな食事にありつけず、木の皮さえ齧った時もあった。
「こちらが〈銀閃〉様のお部屋になります」
案内係に連れられて、宛てがわれた部屋に入る。
「はぁ……」
リリーは見回して食べ物がない事に落胆する。部屋には台座とその上にキューブが浮かんだ魔道具とモニター、あとはシンプルなソファーしか置いていなかった。
「こちらの魔道具に触れると、試合会場に飛ばされます。戦いの様子は中継されておりますので、どうぞ頑張ってください。」
言うことだけ言って、案内係は部屋を出た。
愛想はなかったが、リリーは気にしない。
あのシンの仲間、もといハーレムメンバーである。知り合いを殺された者も多い、完全にアウェーなのはわかり切ったことだ。
「ふふっ」
それが堪らなくリリーには嬉しい。
自分が愛する人の仲間だと、そう認識されている証拠だから。
「……さて、行きますか。いくら外堀を埋めるためとはいえ、大きく動きすぎました。ここは勝って少しでも好感度を上げるべきですね」
部屋で一人、素に戻ったリリーが呟く。
上げると言うよりは、下がるのを止めると言う方が正しそうだが、リリーはポジティブに考えるのだ。
「……どうか、シン様とは当たりませんように! ――です!」
キューブに触れると、リリーの視界は白く塗りつぶされた。
「僕はヤンド。よろしくねぇ、〈銀閃〉ちゃん」
「……よろしく、です」
「幼女……ふふ」と小さく呟き、ヤンドは気持ち悪い笑いを漏らした。
身の危険を感じたリリーは思わず半歩下がり、鳥肌の立った腕を摩る。
気合いの入れた第一試合。美味しいご飯を食べるためにも、リリーは負けられない。
……しかしその相手は変態であった。
短い足に、はち切れんばかりに膨らんだお腹。手には何も持っておらず、戦闘ができるようには見えない。
しかしヤンドからは、不思議と威圧感のようなものを感じる。
……果たしてそれは強者のものか、変態だからなのか。
満足に食事はとれず、戦う相手は変質者。
思わずリリーは、泣きそうになった。
「なんでこんな目にあうです……」
「ふおぉぉ、泣き顔もいいっ……!」
「開始はっ……合図はまだです!?」
早くも心が折れそうになったリリーは、縋るように上空を見た。
目玉のような球体が浮かんでいる。あれで戦いの様子を放送しているのだろう。
球体の上部に、試合開始までのカウントダウンが映っている。
「早くっ、早くっ!」
「むふふふふふふ」
数字は減っていき――大きく、音が響いた。
「死ねです!」
開始の合図と同時に、まさしく閃光のようにレイルの背後に回ったリリーが、その首をへし折るべく飛び上がって蹴りを放った。
その目は殺意に溢れている。リリーは一刻も早く、この試合を終わらせたかった。
多少強いくらいの人間では、リリーの姿を追いきることは不可能。だからこそ、このヤンドという男もまた、強者であった。
「……っ!?」
リリーの体が空中で突如、貼り付けられたように停止した。
両手両足、首さえも締め付けられたように動かなくなる。
悪寒を感じさせる声が、リリーの耳朶を打つ。
「はい、終わりぃ」
「これは……糸、です?」
すぐにリリーは己の体に纒わり付いたものの正体を看破した。
「ふふ、せいかーい! うぅーん、動けない幼女が僕の前に……夢みたいだぁ!」
「チッ」
鋭い眼光でレイルを射抜きながら、リリーは糸から抜け出そうと藻掻く。その様子を見て、更にヤンドは怪しい笑みを深くする。
「ふふっ、僕のユニークスキル【糸魔法】は、体中から見えない糸を生成して操ることができるんだぁ。鋼よりも頑丈で、動きも長さも自由自在。一度捕まったら抜け出すことは不可能!」
勝ちを確信するヤンドは上機嫌だ。
「敵に教えていいのです?」
「Bランク冒険者の僕くらいになると、その辺はとっくに広まってるから問題ないよぉ」
もう勝負は決まったしね、とヤンドは付け足す。
強靭な糸を締めれば、肉を断ち骨を折ることだって可能である。
レイルはこの魔法で沢山の魔物や盗賊を討伐してきた。ハイスペックな変態と影で呼ばれている彼の実力は、決して伊達ではなかった。
「さぁーて、〈銀閃〉……リリーちゃん、降参するかい? しないなら……するまでイタズラするよぉ~」
ヤンドはそう言いながら、手をワキワキさせながら吊るされたリリーに近づいていく。
ここに事案発生である。
レイルの言葉を聞いて顔を伏せたリリー。だがそれは、決して諦めたという訳ではなかった。
むしろ――
「はぁ……つまらないです」
リリーにとって、能力に頼った戦い方をするヤンドとは相性が良い。いや、相手にすらならない。
そう、ヤンドはリリーにとって一般人と変わらない程に。
「なに、をぉ?」
ヤンドの首に衝撃が走る。彼の視界が回り、何が起きたのか分からないまま間の抜けた声が漏れた。
ヤンドが倒れると共に、タッと、銀の雷を纏ったリリーは地面に降り立つ。
その瞬間、リリーの目先に再び、この空間に入るために触れたものと同じキューブの魔道具が出現する。
「はぁー、雑魚だったのに無駄に疲れたです。うぅ、お昼ご飯……早く食べたいです」
試合が終わったことが分かり、リリーは酷く疲れたように溜息を吐き、事も無げに呟いた。
彼女の頭の中は、すでに食べ物のことでいっぱいである。
よろよろと飢えた狼のように進み、キューブへと触れる直前、「……あ」と、何かを思い出したように立ち止まった。
後ろに振り向き、すでに骸となったヤンドと、浮かぶ目玉――試合を見ていた変態に向けて一言、最後に吐き捨てた。
「――シン様以外のロリコンは死ね! です」
こうして、まともな戦いをすることなく、リリーは変態を倒し一回戦を突破したのだった。
……なお後から話を聞いたシンによって昼食が抜かれることを、この時のリリーには知る由もない。
一回戦第一試合 リリー VS ヤンド
ヤンドの死亡によりリリーの勝利
そして長くなったので、二話に分けます。
明日にもう一話更新予定です!
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――初戦で負けたら今日も昼飯抜きな。
そんな恐ろしいことを言い残され、リリーはシンと別れた。
「まだ怒ってるです……」
間違いない。でなければ幼女……子供には優しいあのシンがそんな酷いことをする筈がないのだ。
ちなみに夕食を抜かれたリリーの今日の朝食は食パンの耳であった。
もちろん無加工、彼女の口内から水分は消えた。
「私も食べたかったです」
リリーのパンの耳に対し、シン達は三角が美しいサンドイッチ。耳本体の行方は明らかである。
リリーのお腹がグウと鳴る。
空腹は嫌いだ。村にいた時のことを思い出す。
食べ物は当然のように分けてもらえず、自身で調達するしかなかった。まともな食事にありつけず、木の皮さえ齧った時もあった。
「こちらが〈銀閃〉様のお部屋になります」
案内係に連れられて、宛てがわれた部屋に入る。
「はぁ……」
リリーは見回して食べ物がない事に落胆する。部屋には台座とその上にキューブが浮かんだ魔道具とモニター、あとはシンプルなソファーしか置いていなかった。
「こちらの魔道具に触れると、試合会場に飛ばされます。戦いの様子は中継されておりますので、どうぞ頑張ってください。」
言うことだけ言って、案内係は部屋を出た。
愛想はなかったが、リリーは気にしない。
あのシンの仲間、もといハーレムメンバーである。知り合いを殺された者も多い、完全にアウェーなのはわかり切ったことだ。
「ふふっ」
それが堪らなくリリーには嬉しい。
自分が愛する人の仲間だと、そう認識されている証拠だから。
「……さて、行きますか。いくら外堀を埋めるためとはいえ、大きく動きすぎました。ここは勝って少しでも好感度を上げるべきですね」
部屋で一人、素に戻ったリリーが呟く。
上げると言うよりは、下がるのを止めると言う方が正しそうだが、リリーはポジティブに考えるのだ。
「……どうか、シン様とは当たりませんように! ――です!」
キューブに触れると、リリーの視界は白く塗りつぶされた。
「僕はヤンド。よろしくねぇ、〈銀閃〉ちゃん」
「……よろしく、です」
「幼女……ふふ」と小さく呟き、ヤンドは気持ち悪い笑いを漏らした。
身の危険を感じたリリーは思わず半歩下がり、鳥肌の立った腕を摩る。
気合いの入れた第一試合。美味しいご飯を食べるためにも、リリーは負けられない。
……しかしその相手は変態であった。
短い足に、はち切れんばかりに膨らんだお腹。手には何も持っておらず、戦闘ができるようには見えない。
しかしヤンドからは、不思議と威圧感のようなものを感じる。
……果たしてそれは強者のものか、変態だからなのか。
満足に食事はとれず、戦う相手は変質者。
思わずリリーは、泣きそうになった。
「なんでこんな目にあうです……」
「ふおぉぉ、泣き顔もいいっ……!」
「開始はっ……合図はまだです!?」
早くも心が折れそうになったリリーは、縋るように上空を見た。
目玉のような球体が浮かんでいる。あれで戦いの様子を放送しているのだろう。
球体の上部に、試合開始までのカウントダウンが映っている。
「早くっ、早くっ!」
「むふふふふふふ」
数字は減っていき――大きく、音が響いた。
「死ねです!」
開始の合図と同時に、まさしく閃光のようにレイルの背後に回ったリリーが、その首をへし折るべく飛び上がって蹴りを放った。
その目は殺意に溢れている。リリーは一刻も早く、この試合を終わらせたかった。
多少強いくらいの人間では、リリーの姿を追いきることは不可能。だからこそ、このヤンドという男もまた、強者であった。
「……っ!?」
リリーの体が空中で突如、貼り付けられたように停止した。
両手両足、首さえも締め付けられたように動かなくなる。
悪寒を感じさせる声が、リリーの耳朶を打つ。
「はい、終わりぃ」
「これは……糸、です?」
すぐにリリーは己の体に纒わり付いたものの正体を看破した。
「ふふ、せいかーい! うぅーん、動けない幼女が僕の前に……夢みたいだぁ!」
「チッ」
鋭い眼光でレイルを射抜きながら、リリーは糸から抜け出そうと藻掻く。その様子を見て、更にヤンドは怪しい笑みを深くする。
「ふふっ、僕のユニークスキル【糸魔法】は、体中から見えない糸を生成して操ることができるんだぁ。鋼よりも頑丈で、動きも長さも自由自在。一度捕まったら抜け出すことは不可能!」
勝ちを確信するヤンドは上機嫌だ。
「敵に教えていいのです?」
「Bランク冒険者の僕くらいになると、その辺はとっくに広まってるから問題ないよぉ」
もう勝負は決まったしね、とヤンドは付け足す。
強靭な糸を締めれば、肉を断ち骨を折ることだって可能である。
レイルはこの魔法で沢山の魔物や盗賊を討伐してきた。ハイスペックな変態と影で呼ばれている彼の実力は、決して伊達ではなかった。
「さぁーて、〈銀閃〉……リリーちゃん、降参するかい? しないなら……するまでイタズラするよぉ~」
ヤンドはそう言いながら、手をワキワキさせながら吊るされたリリーに近づいていく。
ここに事案発生である。
レイルの言葉を聞いて顔を伏せたリリー。だがそれは、決して諦めたという訳ではなかった。
むしろ――
「はぁ……つまらないです」
リリーにとって、能力に頼った戦い方をするヤンドとは相性が良い。いや、相手にすらならない。
そう、ヤンドはリリーにとって一般人と変わらない程に。
「なに、をぉ?」
ヤンドの首に衝撃が走る。彼の視界が回り、何が起きたのか分からないまま間の抜けた声が漏れた。
ヤンドが倒れると共に、タッと、銀の雷を纏ったリリーは地面に降り立つ。
その瞬間、リリーの目先に再び、この空間に入るために触れたものと同じキューブの魔道具が出現する。
「はぁー、雑魚だったのに無駄に疲れたです。うぅ、お昼ご飯……早く食べたいです」
試合が終わったことが分かり、リリーは酷く疲れたように溜息を吐き、事も無げに呟いた。
彼女の頭の中は、すでに食べ物のことでいっぱいである。
よろよろと飢えた狼のように進み、キューブへと触れる直前、「……あ」と、何かを思い出したように立ち止まった。
後ろに振り向き、すでに骸となったヤンドと、浮かぶ目玉――試合を見ていた変態に向けて一言、最後に吐き捨てた。
「――シン様以外のロリコンは死ね! です」
こうして、まともな戦いをすることなく、リリーは変態を倒し一回戦を突破したのだった。
……なお後から話を聞いたシンによって昼食が抜かれることを、この時のリリーには知る由もない。
一回戦第一試合 リリー VS ヤンド
ヤンドの死亡によりリリーの勝利
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