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憎悪と嫉妬の武闘祭(本戦)
78話 二つ名
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久しぶりの更新。遅くなって申し訳ございません。
まだ忙しくはありますが、多少は落ち着いてきたので更新頑張ります。
今回は短め。次回からはいよいよ戦いが始まる予定です。
□ □ □
死にたい。
ささやかな祝いの席。辺りを見渡すとどこも宴状態、きっと真白の結界が無ければ下品な笑い声とキツい酒の臭いで食事どころではなかったに違いない。
「ど、どうぞ」
「あぁ、どうも」
青い顔で料理を運んできたウェイトレスは、目があった瞬間にそそくさと逃げていった。
それを横目に俺は机に突っ伏し、呟く。
「死にたい……」
「……どんまいです……ぷっ」
吹き出したリリーを殺意を込めて睨み付ける。
誰のせいだと……。
「いいよな、リリーは。〈銀閃〉だろ? まるで閃光のような早さで動く銀髪の獣人。……捻りのない名前だな」
そう、事の発端は予選を終えて、俺達が冒険者ギルドに向かったことに起因する。
ギルドに入った途端に集まる視線。畏怖や殺意の篭もったそれに、少し気分が良くなっていた時のことだ。
やけにキラキラとした目で話しかけてきたのは、俺達のパーティーを担当する受付嬢のヘルミーナだった。
そして聞かされた、俺達の二つ名。どうやら予選突破した者には自然と付くらしく――大会を盛り上げるためもあるだろう――全員の二つ名を教えて貰った。何故クウにも付いていたのかは謎だが。
「……シン様の二つ名もいいと私は思うです。……ぷぷ」
〈銀閃〉のリリーが思ってもいないことを言うと、
「申し訳ございませんでした」
〈人形姫〉真白が頭を下げる。
「……かっこいいよー?」
〈悪無〉クウのフォローが、唯一の救いだった。
「いや、真白は悪くない。悪いのは全部リリーだからな」
犯人を睨むも、目を逸らされる。絶対に悪いと思ってないだろ!
「素晴らしいと私は思うですよ? ――〈呪王〉シン様?」
ああぁぁぁぁぁ!!
最初はかっこいいと思ったよ、うん。でも今ではそれを聞くだけで死にたくなる。
「普通さ、呪われた武器を使ってたからだと思うじゃん。なのに……」
「一応、その意味もあったと聞いたです」
そっちが広まればよかったんだけどな!
だが、広まった二つ名の意味は――『呪われたハーレムの王』。
だから略して〈呪王〉。
それもこれも、早々に予選の終わったリリーが、真白とルヴィの戦いを面白おかしく吹聴して回ったせいである。
曰く、彼女達はあの黒髪の男を巡って争っている、と。
予選で俺が目立ってしまったせいもあって、その噂は瞬く間に広がってしまった。
……一つ、言わせてもらいたい。
「何がハーレムだ!」
ルヴィはまあ、仕方がない。だが真白は二つ名のまるで人形という意味ではなく、正真正銘本物の人形。しかも二人ではハーレムとは普通呼ばない。ということは、クウとリリー、両方かどちらかがカウントされている可能性もある。ロリコンじゃねぇか。
俺はどっかのラノベ主人公みたいなキャラじゃない。一般男子として確かにハーレムという言葉に惹かれるものがあるのも事実だが、信じられる者がいないので不可能だ。
「死にたい……」
今日何度この言葉を吐いただろうか。
「ごしゅじんさま、はい!」
健気に料理を差し出してくれるクウ。涙が滲んでくる。……うん、そうだな。とにかく今は、この豪華な食事を楽しもうか。
あ、その前に。
「リリーは飯抜きな。――真白」
「はい」
「えっ……し、シン様ぁぁぁ……!」
黒い空間に吸い込まれていったリリーを見送って、俺達三人は食事を楽しむことにしたのだった。
「マスター、私は本戦でどのようにいたしますか?」
一通り食べ終えて一息ついたところで、突然真白が切り出した。
どうしたら、とは多分、もしルヴィと当たったらということだろう。
予選を突破できるのは各ブロック二名ずつ。真白とルヴィの戦いはその余波で、ほかの参加者を全員吹き飛ばしてしまった。
結果、ルヴィは本戦への出場権を得た。
あの傷ではしばらくはまともに戦えないだろう。だが、このまま彼女が諦めるとは思わなかった。
本戦はトーナメント方式。しかし、肝心のトーナメント表は公開されず、特殊な魔道具で作られた空間内で一体一で戦うことになるらしい。
そしてそれは、全試合が同時に行われる。
つまり、誰と戦うかは分からないのだ。ともすれば、再びルヴィと真白が戦うことも有りうる。
「命令だ。好きなようにしろ」
俺は笑う。きっとそれが、一番楽しい。
それに。俺には一つの確信があった。
「かしこまりました、全てはマスターのために」
明日は激戦になるだろう。そしてきっと、俺はルヴィと戦うことになる。
「くーもがんばっておーえんする!」
「ああ、頼むぞ」
クウは冒険者ギルドで預かってもらう予定だ。最近頭がおかしい疑惑が出ている受付嬢のヘルミーナに頼んだら快諾してくれた。
ギルドでもモニターのような魔道具で試合が見られるらしい。魔道具は何でもありだな。
クウを抱えて、膝に乗せる。俺を見上げたクウは、花が咲いたような笑顔を見せた。
真白はじっと、俺を静かに見つめている。
……ルヴィは今頃、何をしているのだろうか。
俺は未だに、答えを出せていない。
とにかく楽しむことが先決、無理に答えを見つける必要はないとはいえ、気になるのは変わらない。
あの時俺が真白を止めなければ、ルヴィは死んでいただろう。
それは俺が楽しむため。彼女との決着を自身で着けたいから。
……そうだ。それ以外の思惑なんてある筈がない。
だからきっと、ルヴィが殺されそうになった時、両親を殺した時のことを思い出したのも、気のせいだったに違いない。
そう、気のせいだ。
例えそれが、愛する人を殺した全ての始まりだったとしても。
まだ忙しくはありますが、多少は落ち着いてきたので更新頑張ります。
今回は短め。次回からはいよいよ戦いが始まる予定です。
□ □ □
死にたい。
ささやかな祝いの席。辺りを見渡すとどこも宴状態、きっと真白の結界が無ければ下品な笑い声とキツい酒の臭いで食事どころではなかったに違いない。
「ど、どうぞ」
「あぁ、どうも」
青い顔で料理を運んできたウェイトレスは、目があった瞬間にそそくさと逃げていった。
それを横目に俺は机に突っ伏し、呟く。
「死にたい……」
「……どんまいです……ぷっ」
吹き出したリリーを殺意を込めて睨み付ける。
誰のせいだと……。
「いいよな、リリーは。〈銀閃〉だろ? まるで閃光のような早さで動く銀髪の獣人。……捻りのない名前だな」
そう、事の発端は予選を終えて、俺達が冒険者ギルドに向かったことに起因する。
ギルドに入った途端に集まる視線。畏怖や殺意の篭もったそれに、少し気分が良くなっていた時のことだ。
やけにキラキラとした目で話しかけてきたのは、俺達のパーティーを担当する受付嬢のヘルミーナだった。
そして聞かされた、俺達の二つ名。どうやら予選突破した者には自然と付くらしく――大会を盛り上げるためもあるだろう――全員の二つ名を教えて貰った。何故クウにも付いていたのかは謎だが。
「……シン様の二つ名もいいと私は思うです。……ぷぷ」
〈銀閃〉のリリーが思ってもいないことを言うと、
「申し訳ございませんでした」
〈人形姫〉真白が頭を下げる。
「……かっこいいよー?」
〈悪無〉クウのフォローが、唯一の救いだった。
「いや、真白は悪くない。悪いのは全部リリーだからな」
犯人を睨むも、目を逸らされる。絶対に悪いと思ってないだろ!
「素晴らしいと私は思うですよ? ――〈呪王〉シン様?」
ああぁぁぁぁぁ!!
最初はかっこいいと思ったよ、うん。でも今ではそれを聞くだけで死にたくなる。
「普通さ、呪われた武器を使ってたからだと思うじゃん。なのに……」
「一応、その意味もあったと聞いたです」
そっちが広まればよかったんだけどな!
だが、広まった二つ名の意味は――『呪われたハーレムの王』。
だから略して〈呪王〉。
それもこれも、早々に予選の終わったリリーが、真白とルヴィの戦いを面白おかしく吹聴して回ったせいである。
曰く、彼女達はあの黒髪の男を巡って争っている、と。
予選で俺が目立ってしまったせいもあって、その噂は瞬く間に広がってしまった。
……一つ、言わせてもらいたい。
「何がハーレムだ!」
ルヴィはまあ、仕方がない。だが真白は二つ名のまるで人形という意味ではなく、正真正銘本物の人形。しかも二人ではハーレムとは普通呼ばない。ということは、クウとリリー、両方かどちらかがカウントされている可能性もある。ロリコンじゃねぇか。
俺はどっかのラノベ主人公みたいなキャラじゃない。一般男子として確かにハーレムという言葉に惹かれるものがあるのも事実だが、信じられる者がいないので不可能だ。
「死にたい……」
今日何度この言葉を吐いただろうか。
「ごしゅじんさま、はい!」
健気に料理を差し出してくれるクウ。涙が滲んでくる。……うん、そうだな。とにかく今は、この豪華な食事を楽しもうか。
あ、その前に。
「リリーは飯抜きな。――真白」
「はい」
「えっ……し、シン様ぁぁぁ……!」
黒い空間に吸い込まれていったリリーを見送って、俺達三人は食事を楽しむことにしたのだった。
「マスター、私は本戦でどのようにいたしますか?」
一通り食べ終えて一息ついたところで、突然真白が切り出した。
どうしたら、とは多分、もしルヴィと当たったらということだろう。
予選を突破できるのは各ブロック二名ずつ。真白とルヴィの戦いはその余波で、ほかの参加者を全員吹き飛ばしてしまった。
結果、ルヴィは本戦への出場権を得た。
あの傷ではしばらくはまともに戦えないだろう。だが、このまま彼女が諦めるとは思わなかった。
本戦はトーナメント方式。しかし、肝心のトーナメント表は公開されず、特殊な魔道具で作られた空間内で一体一で戦うことになるらしい。
そしてそれは、全試合が同時に行われる。
つまり、誰と戦うかは分からないのだ。ともすれば、再びルヴィと真白が戦うことも有りうる。
「命令だ。好きなようにしろ」
俺は笑う。きっとそれが、一番楽しい。
それに。俺には一つの確信があった。
「かしこまりました、全てはマスターのために」
明日は激戦になるだろう。そしてきっと、俺はルヴィと戦うことになる。
「くーもがんばっておーえんする!」
「ああ、頼むぞ」
クウは冒険者ギルドで預かってもらう予定だ。最近頭がおかしい疑惑が出ている受付嬢のヘルミーナに頼んだら快諾してくれた。
ギルドでもモニターのような魔道具で試合が見られるらしい。魔道具は何でもありだな。
クウを抱えて、膝に乗せる。俺を見上げたクウは、花が咲いたような笑顔を見せた。
真白はじっと、俺を静かに見つめている。
……ルヴィは今頃、何をしているのだろうか。
俺は未だに、答えを出せていない。
とにかく楽しむことが先決、無理に答えを見つける必要はないとはいえ、気になるのは変わらない。
あの時俺が真白を止めなければ、ルヴィは死んでいただろう。
それは俺が楽しむため。彼女との決着を自身で着けたいから。
……そうだ。それ以外の思惑なんてある筈がない。
だからきっと、ルヴィが殺されそうになった時、両親を殺した時のことを思い出したのも、気のせいだったに違いない。
そう、気のせいだ。
例えそれが、愛する人を殺した全ての始まりだったとしても。
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