人間不信の異世界転移者

遊暮

文字の大きさ
上 下
93 / 95
憎悪と嫉妬の武闘祭(本戦)

78話 二つ名

しおりを挟む
久しぶりの更新。遅くなって申し訳ございません。
まだ忙しくはありますが、多少は落ち着いてきたので更新頑張ります。

今回は短め。次回からはいよいよ戦いが始まる予定です。




□ □ □





 死にたい。

 ささやかな祝いの席。辺りを見渡すとどこも宴状態、きっと真白の結界が無ければ下品な笑い声とキツい酒の臭いで食事どころではなかったに違いない。

「ど、どうぞ」

「あぁ、どうも」

 青い顔で料理を運んできたウェイトレスは、目があった瞬間にそそくさと逃げていった。
 それを横目に俺は机に突っ伏し、呟く。

「死にたい……」

「……どんまいです……ぷっ」

 吹き出したリリーを殺意を込めて睨み付ける。
 誰のせいだと……。

「いいよな、リリーは。〈銀閃〉だろ? まるで閃光のような早さで動く銀髪の獣人。……捻りのない名前だな」

 そう、事の発端は予選を終えて、俺達が冒険者ギルドに向かったことに起因する。
 ギルドに入った途端に集まる視線。畏怖や殺意の篭もったそれに、少し気分が良くなっていた時のことだ。

 やけにキラキラとした目で話しかけてきたのは、俺達のパーティーを担当する受付嬢のヘルミーナだった。
 そして聞かされた、俺達の二つ名。どうやら予選突破した者には自然と付くらしく――大会を盛り上げるためもあるだろう――全員の二つ名を教えて貰った。何故クウにも付いていたのかは謎だが。

「……シン様の二つ名もいいと私は思うです。……ぷぷ」

 〈銀閃〉のリリーが思ってもいないことを言うと、

「申し訳ございませんでした」

 〈人形姫〉真白が頭を下げる。

「……かっこいいよー?」

 〈悪無〉クウのフォローが、唯一の救いだった。

「いや、真白は悪くない。悪いのは全部リリーだからな」

 犯人を睨むも、目を逸らされる。絶対に悪いと思ってないだろ!

「素晴らしいと私は思うですよ? ――〈呪王〉シン様?」

 ああぁぁぁぁぁ!!

 最初はかっこいいと思ったよ、うん。でも今ではそれを聞くだけで死にたくなる。

「普通さ、呪われた武器を使ってたからだと思うじゃん。なのに……」

「一応、その意味もあったと聞いたです」

 そっちが広まればよかったんだけどな!

 だが、広まった二つ名の意味は――『呪われたハーレムの王』。
 だから略して〈呪王〉。

 それもこれも、早々に予選の終わったリリーが、真白とルヴィの戦いを面白おかしく吹聴して回ったせいである。
 曰く、彼女達は黒髪の男を巡って争っている、と。

 予選で俺が目立ってしまったせいもあって、その噂は瞬く間に広がってしまった。
 ……一つ、言わせてもらいたい。

「何がハーレムだ!」

 ルヴィはまあ、仕方がない。だが真白は二つ名のまるで人形という意味ではなく、正真正銘本物の人形。しかも二人ではハーレムとは普通呼ばない。ということは、クウとリリー、両方かどちらかがカウントされている可能性もある。ロリコンじゃねぇか。

 俺はどっかのラノベ主人公みたいなキャラじゃない。一般男子として確かにハーレムという言葉に惹かれるものがあるのも事実だが、信じられる者がいないので不可能だ。

「死にたい……」

 今日何度この言葉を吐いただろうか。

「ごしゅじんさま、はい!」

 健気に料理を差し出してくれるクウ。涙が滲んでくる。……うん、そうだな。とにかく今は、この豪華な食事を楽しもうか。

 あ、その前に。

「リリーは飯抜きな。――真白」

「はい」

「えっ……し、シン様ぁぁぁ……!」

 黒い空間に吸い込まれていったリリーを見送って、俺達三人は食事を楽しむことにしたのだった。





「マスター、私は本戦でどのようにいたしますか?」

 一通り食べ終えて一息ついたところで、突然真白が切り出した。

 どうしたら、とは多分、もしルヴィと当たったらということだろう。

 予選を突破できるのは各ブロック二名ずつ。真白とルヴィの戦いはその余波で、ほかの参加者を全員吹き飛ばしてしまった。

 結果、ルヴィは本戦への出場権を得た。

 あの傷ではしばらくはまともに戦えないだろう。だが、このまま彼女が諦めるとは思わなかった。

 本戦はトーナメント方式。しかし、肝心のトーナメント表は公開されず、特殊な魔道具で作られた空間内で一体一で戦うことになるらしい。
 そしてそれは、全試合が同時に行われる。

 つまり、誰と戦うかは分からないのだ。ともすれば、再びルヴィと真白が戦うことも有りうる。

「命令だ。好きなようにしろ」

 俺は笑う。きっとそれが、一番楽しい。
 それに。俺には一つの確信があった。

「かしこまりました、全てはマスターのために」

 明日は激戦になるだろう。そしてきっと、俺はルヴィと戦うことになる。

「くーもがんばっておーえんする!」

「ああ、頼むぞ」

 クウは冒険者ギルドで預かってもらう予定だ。最近頭がおかしい疑惑が出ている受付嬢のヘルミーナに頼んだら快諾してくれた。

 ギルドでもモニターのような魔道具で試合が見られるらしい。魔道具は何でもありだな。

 クウを抱えて、膝に乗せる。俺を見上げたクウは、花が咲いたような笑顔を見せた。
 真白はじっと、俺を静かに見つめている。

 ……ルヴィは今頃、何をしているのだろうか。

 俺は未だに、答えを出せていない。
 とにかく楽しむことが先決、無理に答えを見つける必要はないとはいえ、気になるのは変わらない。

 あの時俺が真白を止めなければ、ルヴィは死んでいただろう。

 それは俺が楽しむため。彼女との決着を自身で着けたいから。
 ……そうだ。それ以外の思惑なんてある筈がない。

 だからきっと、ルヴィが殺されそうになった時、両親を殺した時のことを思い出したのも、気のせいだったに違いない。

 そう、気のせいだ。
 例えそれが、愛する人を殺した全ての始まりだったとしても。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

処理中です...