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16話

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どんどんと奥に歩いていき数人の生きている人間の女性を見つけ、眠らせていく。
「これが最後の分かれ道だな──やっとあの妙な反応の持ち主が分かるな。」
俺は«探索»を使い、不可思議な反応の持ち主が動いていないか確認する。動いては無さそうだ。

洞窟深部───
「貴様、何者だ──。」
そこには一人の女が立っていた。
その妙な反応を持つ女の容姿は漆黒の髪に紅い瞳、何故かメイド服を着ておりそこから見える肌は真っ白に近い色をしていた。
『──Лилит』
女が何か言っているが何を言ったかは分からん
「ふむ…古代の言語か?」
『─Не понимаю?───Изменение языка ──これで分かりますか?』
女は暫く考える素振りを見せ、何かを呟き人族語を話し出した。
「分かるぞ。言語理解の魔術でも使ったか?」
『違います──此処に連れられてきた者たちの言葉から基づき話しています。』
「それなら最初から喋れたんじゃないか?」
『はい─貴方様が人間では無かったので、魔族や獣人族が話していた言葉を話しました。』
女は質問に対しさも普通の事のように答えた。
セバーヌを除く誰一人として俺の正体を見破った事がないのにこの女、ここ数分で俺の正体を見破っただと?
敵意は向けられていない事だ、それは後から聞くとしよう
「それで貴様は何者だ?名前は」
『名前はリリスと申します。魔導自律型御世話用メイドE01です。』
と言うと無表情のまま一切無駄のない動きでお辞儀をした。
「魔導具か……それならばこの気配も納得がいくが、
しかし今の時代に造られてはいないな」
俺はなるほどなと持っていた剣を鞘に納める。
『今から1000年程前にご主人様の曾祖父様からご主人様の為だけに造られ、ご主人様が亡くなられるまでずっと付きっきりでお世話をさせて頂き、ご主人様がお亡くなりになられた後も各地方を転々とし旅をしてきました。』
「1000年か──それは長いな。しかし停止機能は付いていないのか?」
『はい。停止機能は装備されています。しかし、自己防衛機能により自身ではする事ができません──』
とリリスは徐ろに胸の辺りのメイド服のボタンを外し、心臓辺りを押して開ける。
心臓がある辺りに濃い紅のブリオレットカットされた魔石が浮遊し輝いていた。
これまた希少な魔石を使っている──その主とか言う者はさぞ金を持っていたようだな。
「何故他の者に壊してもらう様に言わなかった?」
俺はそう答えた。
そこが疑問だ──自己防衛機能がある事で自身では止めれないのであれば他者にして貰えばいい、何故やらなかった?そんな思考に至るのは普通のことだ。
『曾祖父様は自己防衛機能と共にご主人様をお守りできる様に竜種とも互角に戦えるだけの戦闘モードの搭載、身体のパーツ全てにミスリルが混ぜられ、それにより自己の破壊を目的とする攻撃に対して無意識下で抵抗が入ってしまい相手を瀕死の状態まで持っていってしまうのです。更に、年が経てば経つほど大気中の魔素を吸収しより強固になっていく性能です。』
とリリスは自身の身体の性能を説明し、自己停止も他者に止めて貰う事も出来ない理由を簡潔に答える。
また厄介な仕組みだな──いや古代文明の賜物とでも言うのか…
「一年どれくらい強くなるんだ?」
『はい。約0.05%ずつ上昇していきます。』
「0.05%か…1000年生きていると言うと…約50%
元が竜種を倒せる設計となっていたのであれば倒せるものもいなかっただろうな…。」
これは厄介な…竜種と一括りに言うが、どの階の竜種だ…それによっては頼まれても俺では倒せんな。
流石に千年も前の人間が作ったんだ、劣等種のワイバーンなどではなく古竜か或いはそれに近しい竜種であろうな。
『仰る通りです──』
とリリスは肯定する。
「一旦区切るようで悪いがこの話は一旦やめよう、先に救出を済ませて、ボスを倒さないと行けないのでな。」
『了解しました。』
とリリスはいい、隅に置いてあったトランクを持って来る。
「さて、戻るか。」
と俺とリリスは来た道を戻り、途中で眠らせた女性を«浮遊»で浮かせて連れて行く。


「カイさん!」
とヴィレが俺を見つけたのか俺の名を言って駆け寄ってくる。
「待たせたなヴィレ、ゴブリンはこっちに逃げて来なかったか?」
「はい。偵察か食糧調達に行っていたか分かりませんが洞窟の外からゴブリンが数匹入ってきましたが洞窟内からは来ていません。えっと…カイさんに教わった様に死角から忍び寄ってちゃんと目を開いて心臓を刺すように倒しました。」
「よく頑張ったなヴィレ」
と俺はヴィレの頭を軽く撫でる。
「…………ッ」
ヴィレは少し照れくさいのか頬を染めて嬉しそうに微笑んでいる。
『……坊っちゃま……?』
「え?」
『坊っちゃま……!!お会いしとうございました!』
「えっ!?カイさん、この女性の方は誰ですか!?」
リリスはヴィレを見ると目を見開き、トランクを投げ捨ててヴィレに涙を流しながら抱きついていた。
『坊っちゃま……またお会い出来てリリスは光栄です……』
「えっと……カイさん何とかしてください……」
「リリスよ。ヴィレが苦しそうだ」
『……!!すみません!』
やっと我に返ったのかリリスがヴィレから離れる。
「リリスよ。ヴィレはお前の言う"坊っちゃま"とはどう言う事だ?」
『髪や瞳の色は違いますが余りに坊っちゃまと瓜二つであり取り乱してしまいました…坊っちゃまは私のお仕えするご主人様の事であります。ヴィレ様申しあけありません…』
「いえ、大丈夫ですよ」
「ふむ…しかしそれは千年前の事であろう?」
『仰る通りです。お姿が瓜二つである事と共に魂そのものが坊っちゃまのものと同じなのです。』
「輪廻転生か──」
『はい─』
「えっと…輪廻転生ってなんですか?」
ヴィレは何を話しているのか理解が追いつかず頭に疑問符を浮かべる。
「輪廻転生とはな、命あるものが何度も転生し、人だけでなく動物、植物、魔族なども含めた生類として生まれ変わることだ。」
「なるほど…」
「まぁ、記憶を持って生まれてくるものは稀であるからな。ヴィレはリリスが言う昔お世話係をしていた者の魂の生まれ変わりの存在と言う事だ。」
「な…何となく理解しました。」
とヴィレは余りしっくり来ないのか無理やり理解したようだ。
『不躾な事であると思いますが、坊っちゃま─いえヴィレ様、どうか私リリスをお傍に世話係としてお使いしてもよろしいでしょうか』
とリリスは言い跪く。
「えっ!?えっと…ッ!」
と此方に助けを求める様にヴィレは見てくる。
仕方ない──
「ヴィレ、リリスは仕えていた者が亡くなってから千年もの間独りで居たのだ。ヴィレも俺と会う前は独りの事が多かったのだろ?その気持ちはよく分かるのではないか?」
「そうですね…リリスさんお願いします」
ヴィレは少し考える仕草をしてからリリスの方を見てぺこりとお辞儀をした。
『よろしくお願い致します』
とリリスはヴィレの両手を自身の手で優しく包み込む。
またご主人様に仕えることが出来ることに喜びと嬉しさに満ち、リリスの顔は優しく微笑んでいた───
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