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第一章

第一章21「研究施設」

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 その建物は、テクノロジアにあった研究所よりも謎めいた外見をしており、入ってしまったらもう出られないでは、と思わせるほどであった。
 そんな建物を前に、ナタンテは興奮している。

「なあ、ナタンテ。ここ入って大丈夫なところなのか?」

「それを確かめに行くんでしょ?早く行こうよ。」

 小声でリアに助けを求める。

「おいリア。ナタンテは入る気満々だがお前はどうなんだ?」

 それに小声で対応する

「ここで帰るのもおかしいでしょ?せっかくドラゴン倒したのに帰るのはちょっとなぁ。」

 ダメだ。仲間が全員狂っている。
 何回も言うが入って何が起こるかもわからない。
 そんなところに俺は今、入ろうとしている。
 この判断は正しいのだろうか。
 仲間を捨ててでも帰った方が良いのではないか、そう思わせるほど前の建物に恐れている。

「何してんの?早く行くよー?」

 いつのまにか隣にいた仲間が消えていて、少し前にいた。
 決めた。死んでも知らない。

「分かった。」

 駆け足で追いつき、改めて建物を見直す。

「本当に行くんだな?」

「うるさいなー。早く行くよ。」

 せめて緊張感をもって進んでほしいものだ。

 入口は両開きのドア、というよりも木の板と言った方が正しいだろう。
 その木の板はかなり弱っている。
 触ったら崩れそうなほどだ。

 そんな木の板を何も気にすることなくリアが押し始めた。

「おい!待てよ!罠があったらどうするんだ!」

 遅かった。
 木の板を押した瞬間、空から槍が落ちてきた。

「グラシエス!」

 それを氷の天井で防いだ。

「大丈夫だったよ?」

 何だこいつ。しかも今空から降ってきたよな?見たところ空には何もないが。

「お前の反射神経がバケモノなのは知っているが、これから反射神経じゃどうにも――」

 ならない、と続けようとしたが言葉が出なかった。

「え?何?後ろ?」

 刹那、リアに剣が降りかかる。

 幸い、頭には当たらなかったが肩のあたりが真っ赤になっていた。
 服を貫通し、肌まで貫通したようだ。
 リアの手から杖が零れ落ちる。
 幸い、と言っていいのか、骨までは通っていないようだ。

「マグ・テネブリス!」

 必死の叫びで闇魔法を相手に放つ。
 その間に、リアを。

 なんて考えは甘かった。
 剣の一振りで、闇魔法が消えた。

「なんだお前ら。また来たのか。鬱陶しいな。って、知らない顔じゃねえか。新しい仲間か?」

 やっと相手が話し始めた。

「俺たちはこの浮島について知りたくてここに来ただけだ。敵対するつもりはない。」

 リアを治癒魔法で回復させながら対話を続ける。

「お前らに知られていいとこじゃねえ。今すぐ出ていけ。」

 従うしかないだろう。
 圧倒的な戦力差は確認できた。
 ナタンテも流石にこの状況では狂った判断をしないと思う。

「分かった。今すぐ出ていく。」

 リアの代わりに俺が風魔法を使い、テクノロジアに戻ってきた。
 馴れないない風魔法だがなんとか杖のお陰で行けた。

 そしてナタンテの研究所に着き、中に入った。

「すまん、ナタンテ。あれはしょうがなかった。あのまま中に入ろうとしていたら死んでいたかもしれない。」

「そうだね。あの時は私も冷静な判断ができなかったよ。君がいて良かったと思っている。」

「ごめん。私も、油断してた。警戒しててもあれには勝てないと思うけど。」

「それでリア、傷は大丈夫なのか?」

「この世界の治癒魔法はすごいね。すぐ痛みがなくなったよ。」

 それなら良かった。あのグロい傷でも治せるのは確かにすごい。

「この世界?少し引っ掛かる言い方だね。まるでほかの世界の治癒魔法も知っているような。」

 ナタンテから指摘を受ける。
 詳しく言えば、読んだことのあるラノベの治癒魔法、と言った方が正しいが、どっちにしろまずい状況には変わりない。
 転生者だと明かすのも悪くないのかもしれない。

「前に本で読んだんだよ。私は本の中に入って内容を楽しむのが好きなんだよね。だからこの世界とか言っちゃった。」

「リアは本を読むのか。ちょっと意外だな。それなら納得だよ。」

 うまく回避してくれたみたいだ。
 焦っていたのが顔に出ていなかったら良いが。

「それで、君たちはこれからどうするのかな?私はこれからも浮島の研究をしながらほかの研究をしようと思ってるけど。これ以上君たちに迷惑をかけるのは申し訳ないからね。」

「俺達は、冒険しかないな。地図の全部の場所に行ってみたいんだ。だから浮島に行ったのも目標の一部だと考えれば良い冒険だったと思う。それと、ナタンテがいなかったらあのドラゴンに負けていたかもしれないし、とても感謝しているよ。」

「私も!」

 相変わらず口数が少ないリアだが、少し成長している気がする。

「それはいい目標だね。達成したらまたこの町に来てくれるかな?」

「もちろんだ。楽しみにしといてくれ!」

 再び、冒険が再開する。
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