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第一章

第一章12「感謝」

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 走り出したセイナは、炎の近くに着くと、

「お前ら!!離れてくれ!!俺が消すから!!!!」

 と、これまでにない大声で叫ぶ。

 それに気づいた商人、旅人、子供、が一斉に離れる。
 が、一人、腰を抜かして倒れている商人がいた。
 その商人はその屋台の店主らしく、目を揺らして何もしゃべらない。

「どいてくれ!」

 動かない。

「仕方ないか、」

 そう呟くと、一人の女性が発狂する。

「主人が!主人が!!!」

 どうやらあの店主の奥さんらしい。

「水魔法とか知らないんだが!!」

 炎を消すのは氷で固めればいいことだが、そこに人がいるなら氷は使えない。
 どうすれば。どうすれば。
 そう考えた末―――。
 結論が出ない。積んでいる。
 俺はこの程度の男なんだ。
 
 そう、絶望していると、

「セイナ!!早く消すよ!!」

 すぐ背後にリアがいた。

「どうやって?!!」

「私が氷撃つから!セイナは同じタイミングで炎撃って!!!――行くよ!!」

「グラシエス!!」 「フラマ!!」

 飛び出した氷柱が、溢れ出す炎を混ざり合い、液体になる。

 踊るように大きい炎が一瞬にして消えた。
 
 その後、拍手に覆われた。

「やるな!あんたたち!!」 「すご!!」 「助かりました!!」 「この恩は一生忘れん」 「僕もあれ撃ちたーい!」

 様々な歓声が聞こえてくる。

 俺はリアを見て、

「助かった。俺だけじゃ何もできなかった。」

 リアは俺を見て、

「もっと褒めてくれ!」

 なんだこいつ、普通は、セイナのお陰だよ!とか、普通のことだよ。とか謙遜する場面じゃないのかよ。
 でも、面白くて、一緒に来て良かったなと思う。

「なんだそれ。」

 だが、そんなこと言えない。
 
 そうだ、これから中央王国に行くということを話すんだった。
 なんでこんな人助けなんかしたんだろ。
 でも、感謝されたらこんなに気持ちいいだな。

 セイナは感謝される気持ちを知った。

 一件落着し、宿に戻る。

「いやぁ、私の判断良かったね!」

「いつまで言ってるんだ、もうくどいぞ。」

「冷たいなー。」

「いいからこれからについて話すからよく聞いておけよ。」

「はーい。」

 不機嫌になった。本当にめんどくさい。

「これから中央王国に行く。」

「ん?もう一回行ってもらえる?」

「これから中央王国に行く。」

「戦争してるんじゃないの?!もしかして戦闘狂になったとか?」

「違う。これはあの杖を買ったおじいさんから聞いたんだが、今は休戦中らしい。あっ、」

「えっ。何それ、あっ、って何?めっちゃ気になるんだけど!」

「落ち着いてくれ、さっきのは休戦しているっていうことは聞いたけど北と東のどちらともと休戦しているのか、それともどちらかだけなのか、それを聞き忘れていたなってこと。」

「なるほどね。確かにそれは気になる。でも、休戦って聞いたら、どっちもだと思うけどな。」

「俺もそう思う。だから中央王国に行くんだ。確認しにな。あと、杖を買いに。」

「なるほどね。って杖?杖ならもう買ったでしょ?」

「じゃあ出してみろよ。」

「分かった。」

 俺と同じように体中を探す。

「ない!多分取られた!」

 盗られるほど接近した覚えはあるのか?

「壊れたんだ。俺達両方とも上級魔法使っただろ?それに木の杖が耐えられるわけない。」

「なるほどね。」



 リアを納得させ、出発する。
 3回目の出発だ。

「前は強く言ってすまなかった。俺達は出るよ。」

「ああ、頑張ってくれよ。」

 門番の人にも謝罪し、思い残したことは、もうないだろう。

 ここから北東に行けば中央王国に着くはずだ。
 中央王国はとても土地が広い。
 だから無鉄砲に北東に行っても着く、という算段だ。
 東に行くと、俺達が最初に入った町、インティウムに着いてしまうだろう。

 そういえば、宿の時に聞いておきたかったことがあった。

「おいリア。まだあの―――ベスはいるのか?」

「今名前忘れてたよね!可哀そうに。」

 リアは半回転する。

「ほら!いるでしょ!」

 確かにいる。
 あんなに激しい戦闘を繰り返していたのに、絶対にタダモノではない、と再び意識する。
 こいつの素性も中央王国に行ったら解決するものなのだろうか。
 色々と中央王国に期待してしまっているが仕方ない。
 何せ中央王国という如何にも最先端そうな場所だからだ。
 まあファンタジー世界に最先端なんて言う概念はないだろう。
 でも、少しの間世話になったこの町よりは全然良いだろう。

 のちにこの期待は裏切られることになる、とかいう展開になったらどうしようもない。
 あまり期待しないでおこう。
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