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「その証人とは?」

 また注目を浴びることになってしまったアンナさんは今にも倒れそうになっている。

「で、殿下……違いますっ、ララさんが勝手に勘違いをしているんです。私は教科書を破いたのがグレイス様だなんて一言も言っていません! 本当ですっ、私がグレイス様を……そんなこと……」

 アンナさんが私を陥れようなんて思っていないことはもちろん分かっている。
 アンナさんはただ、聞かれたから言っただけに違いない。

「なんでっ!? だって言ったじゃないっ、朝一番にグレイス様がいたって!」

「それはっ、グレイス様は生徒会の仕事があって早く来ただけで……。教室に一番最初に来たとは言ってないのにっ、」

「どういうことなの!? だって、」

「ララさん、私は確かに早く学園へと着きましたが、それは生徒会の仕事のためです。教室には来ておりませんわ。アンナさんは花壇の手入れのために早く来てくれていて、朝の挨拶を交わしただけです」

 私の言葉にララさんはもう顔面蒼白だ。

「なら、ならっ! 私の教科書を破いたのは誰なの!? まさか、アンナさん!? だって、早くに学園には来てたんでしょう!?」

「そんな、ひどい……」

 後に引けなくなったのか、ララさんは犯人探しを始める。証拠もないのにアンナさんが犯人だと決めつける。アンナさんはそんな人ではない。

 だって、アンナさんはダミアンの想い人だもの。アンナさんが毎日花壇や教室に飾る花瓶の手入れをしているのを見て惚れてしまったのだ。

「さっきから黙って聞いていれば……」

 ダミアンが怒り出しそうになっているのをリカルド様が手で押さえているのが分かる。

「別に誰でもいいんじゃないかな?」

「え……なに、が……」

「だから、君の教科書を破いた犯人だよ」

 リカルド様はもうすでに興味がなさそうだ。

「そんな、ちゃんと探してくださいっ! 学園でこんなことが起きているのに、殿下は何もしてくれないんですかっ!?」

「どうして私がそんなことをしないといけないんだい?」

「だって、それはもちろんあなたが王族だから……」

「そう、なら。先ほど君が言っていた八百長疑惑もしっかりと調べないとね。連れて行け」

 リカルド様の一言でどこで待機していたのか、騎士が現れてララさんを連れて行ってしまった。

「リ、リカルド様……少しやり過ぎではないでしょうか?」

 ごめんなさい、で済ましていいのかあれだけれど、さすがに騎士に連れて行かせるのはやり過ぎのような気もしてしまう。

「私の婚約者だけではなく、ダミアンが好意を寄せている令嬢に、クラスメイトたちまで傷付けたんだ。あれくらいされて当然だろう? まぁ、大丈夫だよ。少しお説教をしてもらうだけだから」

「そう、ね。これ以上被害者が出なくてよかったと言うべきかしら……」

 このままだったら後何人のクラスメイトが犠牲になっていたか。

「それに、教科書のことは自作自演だ」

「え、どうして知っているのですか?」

「大切な生徒が通う学園なんだから、監視が多くいるんだよ。あちこちにね」

「そうでしたか。あぁ、それで何があったのかいつもご存知だったのですね。私と一緒にいない時のことまで知っていたので不思議でしたけれど」

「え、あ、あぁ。そうだね」

 この時ダミアンが、「いやそれ、ストーカーだからな?」と言っていたことに周りの誰も気が付かなかった。
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