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しおりを挟むどうしましょう、朝から大変なことに巻き込まれてしまいました。
「グレイス様、ひどいですぅっ。どうして私のことを虐めるんですか!? こんなことして楽しいですか!?」
そう言いながら一人の子爵令嬢が目に涙を浮かべながら茶番を始めた。いや、本人はいたって本気のようですが。
グレイス、とは私のことだ。
「グレイス様は伯爵家、私は平民上がりの私生児だから気に食わないんですか!? うぅっ、」
教室へと入って来た他のクラスメイトたちも、「何かあったのか?」と集まり始めた。
「えっと、ララさん? 私があなたを虐めたというのはどういうことなんでしょうか? 私はあなたを虐めたことなど一度もありませんが……」
これは本当のことだ。私は今まで誰かを虐めたことなど一度もないし、嫌がらせだって、嫌味だって言ったことなどない。
「嘘ですっ、嘘ですっ! だって見てください、私の教科書……こんなに破かれて……お母さんが私のために買ってくれたのに……」
そう言われてララさんの手元を見れば、確かに破かれた教科書が。先ほどから目に入っていたから気にはなっていたけれど、まさかそれをやったのが私だと言われるとは思っていなかった。
「あの、どうして私がやったということになるのでしょう?」
「だって、アンナさんが言ってたんだもの。今日の朝一番に教室に来たのはグレイス様だって! ねぇ、そうでしょう? アンナさん」
アンナさんの表情を見ればそれはそれは青くなっていた。
「ラ、ララさん、そういう意味ではなくて……」
「え? だって、あなたが教えてくれたんじゃない。グレイス様を見かけたって」
「それは、言いましたけれど……でも、そうじゃなくて……」
アンナさんはますます顔色が悪くなっていく。アンナさんは伯爵家出身だ。いくら爵位は上でも、心の優しいアンナさんは押しの強いララさんに言い返すことができないのだろう。
「まぁ、アンナさんっ。もしかしてグレイス様に脅されているの!? この事を言ったらどうなるか分かっているの? とか言われたのね、可哀想に……」
言ってない、言ってないです。
「それに、グレイス様は他の子たちも虐めてるではありませんかっ!」
「と、言いますと……?」
「この前の教養の授業だって、リーンさんを笑い者にしたではないですかっ!」
名前を出されたリーンさんは顔を真っ赤にして目に涙を浮かべた。
「ほら、グレイス様見てくださいっ! リーンさんの泣きそうな顔をっ!」
教養の授業で何があったか思い出してみるけれど、心当たりはない。強いて言うのなら、リーンさんのマナーが少し違っていたので指導しただけだ。
でも、本人にだけ聞こえるように小さな声で指摘をしたのだ。私は笑い者になんてしていない。
というよりも、ララさんがそれに気付いて事を大きくしたのではなかったかしら。
「こっそり教えてあげればよかったのにわざわざ他のみんながいる中でマナーを指摘するなんてっ。リーンさんが可哀想だわ! そうですよね、リーンさん!」
そんな大きな声で言われてしまったリーンさんに、嫌でも視線が集まってしまう。
「ひ、ひどいです、ララさん! あなたが「さすがグレイス様、マナーの違いが分かるんですね!」だなんて言うからみんなに知られたんじゃないですかぁ!」
リーンさんは泣きながら教室から出て行ってしまった。その後を急いで追いかけたのはリーンさんの婚約者の伯爵令息だった。
リーンさんは男爵家で、教養の家庭教師を付けることができなかったと言っていた。そんな男爵家と婚約をしてくれた伯爵家との夕食会が近く、私はリーンさんからマナーなどを教えて欲しいと言われていたのだ。
授業中も、間違っていたら教えてほしいと。だから、こっそり指導していた。恋する女の子を応援していただけなのに。
「それについてはララさんが知らないふりをしてくれていればリーンさんが傷付くことはなかったと思いますが」
「いいえ、それはだめですっ! 悪いことはその場で教えてあげないといけないってお母さんに言われたんだもの!」
おっと、そうきましたか。
これはどうしてあげたらいいのかしら?
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