誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

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二章 二度目の人生

87【コンフォート侯爵家の過去】

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「……それで、私はどうすればいい。シアの状態について原因を知っているんだろう?」

【そうだ。この子の中にあるもの――、もともとは魔物の魔力ではあったがそうではなくなったものだ。それについてお前たちが理解するには先に侯爵家について話をしなければならない】

「……人に害を与えてきた家門があると言ったことか」

【実際に手を染めていたのは家門の傍系、ではあるがな】

 手を染めた、というデオンさんの言葉が改めて私の心に重くのしかかる。

「それが、シアとどう関係しているんだ?」

【そうだな――、まずはお前たちに聞きたい。侯爵家の能力は誰が使える?】

「なんだと……?」

【お前が持っているその癒しの能力――、それは誰が発現する?】

「侯爵家の直系だけが発現する能力だと聞いていますが……そうですよね? お父様」

「あぁ、そうだ」

【それで、その直系とは何で判断するんだ?】

「……え? 直系、なので……当主とその子どもではないのですか……?」

 直系を何で判断するかと聞かれて困惑してしまった。直系は直系、ではないのだろうか。デオンさんの質問の意図がわからない。

 何で判断する、か――。

 紙上の家系図で見れば上から下へ縦で繋がっていると見ればわかるけれど、能力に関しての直系って……なに?

【侯爵家の癒しの能力は、なぜ"直系しか発現しない"などと言われているんだろうな】

「それはどういう意味だ……?」

【不思議に思ったことはないのか、なぜ"直系しか発現できない"のか、と】

 デオンさんが強調して話すことにより、直系という言葉に対して疑わしいという気持ちを抱いてしまう。

 癒しの能力の発現に関してはそういうものなのだと疑いもしなかった。直系だから、お父様の子どもだから発現するのだと。直系ではないから発現しないのだと。

 まだ何も知らなかったあの頃――、ソフィアが発現した時はお父様の子どもだから発現したと思われていた。
 なぜならお父様の子どもなら直系にあたるから。

 けれど、ソフィアはフレイアさんによって発現したように見せかけていただけで本当は発現していなかった。フレイアさんも言っていたし、私も思った――発現しなかったのはお父様の子どもではないから、と。

「なぜ……直系しか発現してこなかったのでしょうか?」

【それはなぜだと思う? 能力が誰を発現させるか選んでいるわけでもあるまいし】

 選んでいる、という言葉に引っかかりを覚えた。それはお父様も同じだったらしく不可解な表情を見せた。

【なぜ侯爵家は他家に比べて圧倒的に傍系が少ないのか疑問に思ったことはないのか】

 なぜ、なのか。

 デオンさんに言われるまで、コンフォート侯爵家の家門というものを気にしたことがなかった。親戚に会うことがないのも、話を聞くことがないのも、お父様が人と関わるのが好きではないからだと思っていた。

 遡る前の授業で家門について学ぶ時間もあったけれど、とてもあっさり終わってしまった。当時の私は、聖獣と契約することができなくなったから目を逸らしていたのかと……。

 その時知ったことはお父様もお祖父様も兄弟がおらず、さらにその先代にあたる方には一人だけ兄弟がいたけれどまだ若いうちに亡くなってしまったということ。

 だから私とルカお兄様には再従兄弟さえいないほど、血縁者と呼べる人がいないのだ。

 デオンさんの話を聞いてからだと、若くして亡くなったというのが怖く感じてしまう。

【なぜ爵位を引き継いだ者以外の家系は絶えるんだろうな】

「コンフォート侯爵家は傍系を殺してきたとでも言いたいのか」

「お、お父様……なんて……」

 なんて恐ろしいことを言うのだと、お父様に言いそうになったけれど言葉にできなかった。
 だって、私も一瞬頭をよぎってしまったことだから。

【命を奪うという意味では違うがな】

「コンフォート侯爵家が人に害を与えてきた、ということは否定はしないんだな」

 侯爵家が人に害を与えた、ということを改めてお父様の口から聞いて体が震えてしまった。癒しの侯爵家などと言われているのに、まさかこんなことになっているなど誰も思わないだろう。

 いったい何をしてしまったの……?
 それが私と関係のあること……。

 私を二番目の子だと言ったデオンさん。
 魔法を使えない、能力が発現しない状態になっている私の現状……奪うのは命ではない? まさか――。

「直系以外の人たちが能力を発現できないようにしてきた……ということでしょうか?」

 例え血を分けた兄弟でも、爵位を引き継ぐ者以外は能力が使えないように――。だから、私を二番目の子だとデオンさんは言ったのね……。侯爵家はずっと、そうしてきたということなの……?

【発現できないように、か。そういうことだ】

「それで私を疑ったのか」

【そうだな。もちろん、お前がそんな愚かなことをしていないというのはわかっているからもう怒るなよ】

 少し挑発的に話すデオンさんに「お願いだからやめてくれ……」と公爵様はこの会話を見守っているが、お父様まで「怒らせるようなことを言われなければな」と言ってしまい、私まではらはらしてしまう。

「それはいつからなんだ?」

【いつからなのかはっきりしたことは私にもわからないが、知ったのは二百年ぐらい前だろうか。だが、お前の祖父の時代にはその傍系は家名も領地もすべて消えていた】

「なぜだ?」

【さぁな、領地ごと消えたのだから当時の当主がそうなるように何かしたんだろう。本当のところは私にもわからないぞ? なんせ何十年も前のことだからな】

「でも、デオンさん。なぜ侯爵家の人たちは……家族なのにそのようなことをしたのでしょうか……?」

【普通に考えれば能力を管理するためだろう。だが、その理由が能力が他家に引き継がれるのを防ぐためなのか、政治的な思惑があったのか、ただ単に直系だけという付加価値を付けたかっただけなのかはわからない】

「そんな……」

【侯爵家の人間にしてきたのはそんな理由だろう。だが、侯爵家とは関係のない人間にも同じことをしていたともなればそれは救いようのないことだ】

「それっ、て……侯爵家ではない人たちが私と同じように魔法を使えないようにされてしまった、ということですか……?」

【あぁ、そうだ。自分たちに都合の悪い人間にしていたんだろう】

 そんなひどいことをできる人がフレイアさんの他にもいたなど思いもしなかった。
 魔法が使えないということがどれだけ辛いことなのか身をもって知っている私には到底許せることではない。
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