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二章 二度目の人生
82【お父様との距離②】
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「……お父様、私のことを心配……してくれたのですか?」
「あぁ」
「……どうしてですか?」
私が小さな声で話しかけると、お父様はゆっくりと顔を上げその視線は私へと向けられていた。
お父様の綺麗な金色の瞳はしっかりと私を見ていた。
「お前は、私の娘だろう」
「え――?」
お父様の口からしっかりと聞くことのできた「私の娘だ」という言葉。そのたった一言が聞けただけで私の目からは自然と涙が溢れ出した。
「……っ、う……」
ぽろぽろと溢れてくるのは悲しみの涙じゃなくて嬉しくて止まることのない涙だった。
お父様の言葉を噛み締めるように、無言で泣き出した私にお父様の瞳が大きく開き動揺しているのがすぐにわかった。
私は泣きながらもお父様から視線を逸らさずにいた。
「どうして泣くんだ」
どうしてかな?
ずっとわからなかったお父様の感情が、今になってわかるようになったからだろうか。
「こら、泣くんじゃない……なぜお前は私の前では泣いてばかりいるんだ」
泣いてる子どもに泣き止めだなんて、お父様らしいというか。そういえば、時間が遡ってから初めてお父様に会った時も泣いてしまった。しかもお父様のお洋服まで汚してしまって。
でもまだ二回だけだから、今は泣くのを許してほしい。
「……っ、心配を……かけて、ごめんなさい……」
「あぁ、二度とこんな勝手なことはするな。何かあるなら話してほしい」
「……でも、お父様はいつも忙しいのでしょう」
私がそう言うと、お父様は申し訳なさそうに顔を歪めた。
こんなに戸惑っているお父様を見るのは初めてのことで、私自身も少し困惑している。
「それ、は――、すまなかった」
そう返事をするお父様の声は小さくて。
「私の話を、怒ったりせずに……聞いてくれますか?」
「内容に――いや、努力しよう」
「…………」
えっと……お父様、今"内容による"って言いかけましたよね? でも、言葉を選んで言い直してくれたんですよね?
そう考えると不思議と心が温まった。
私が泣きながら頬を緩めると、「何がおかしいんだ」と少し不貞腐れたような声を出した。
そんな貴重な姿を見られたことも、私の気持ちを汲んでくれたのか、努力すると言い直しをしてくれたことにお父様の歩み寄りが感じられて嬉しくなった。
「お父様なりの、でいいですから努力……してください。私も頑張って話しますから」
「あぁ、わかった」
お父様はそう言いながら目の前で膝を折ると、私と視線が同じ高さになった。ハンカチで私の涙を不器用ながらも優しく拭いてくれた。こんな私たち親子の姿をルカお兄様が見たらどんな表情をするだろう。
「ふふっ」
「……なぜ笑う」
私たちはもう大丈夫なんだと。
すぐにお父様との距離が近付くことは難しいかもしれないけれど、これからは怯えたり、気を遣ったりしなくても大丈夫なんだと、そう思えた。
私の心は温かい気持ちでいっぱいに、と思っていると――。
「……うっ、」
なぜか突然クロがお父様の指に噛み付いた。
「……えっ、ク、クロ!?」
もぞもぞと腕の中から顔を出したかと思えばいきなり噛み付いたクロ。小さな口はお父様の小指にしっかりと噛み付いていた。
「ど、どうしたの? 噛み付いたらだめよ、クロ」
そう言ってみるものの、クロは指から口を離そうとはしなかった。クロに噛まれたお父様は無理やり指を離そうとはせずにそのままじっとしていた。
てっきり力付くでクロを離そうとするのではと思ったけれど、小さな魔獣相手にそうすることをしないその姿に少しの優しさが垣間見えた。
この状況をどうしようかと思っていると、公爵様が慌てたようにこちらへと来てくれた。
「こらこらこら! クロ、やめなさい」
この場を見守っていた公爵様だったけれど、噛み付いたままのクロをそのまま放っておくわけにもいかないと思ったようだ。
「こら、クロ。せっかくいい感じの雰囲気だったのに……空気を読みなさい! まぁ、こいつにがぶっと噛み付きたくなる気持ちはわかるけども」
「おい、公爵。それはどういう意味だ」
「いや、まぁ……それは」
「お前のところの魔獣だろう。早くなんとかしてくれ」
公爵様に諭されてクロはやっと小指から口を離した。お父様の小指を見ると、歯形がしっかりと付いてはいたけれど血は出ていなかった。
お父様はなぜか、噛まれた小指を訝しげにじっと見つめていた。
クロはお父様に怪我をさせる気はなかったようだ。
それにしても、どうして突然噛み付いたんだろう。
【侯爵があなたにひどいことをした人間だと、クロは感じているのでしょうね】
「トワラさん……?」
トワラさんがいる方を見れば、いつの間にか番と一緒に寄り添いながらこちらの様子を見守っていた。
【ちなみに侯爵に対して怒っているのはクロだけではありませんよ。聖獣も触れることはできなくても小さな前足で侯爵の頭を――、あぁ、ごめんなさい。小さな、は余計でしたね。そんなに怒らないでください】
どうやらクロは記憶の中のお父様と、目の前にいるお父様の姿が混同してしまったようだ。私が死んでしまったあとのことはわからないけれど、もしかして何かあったのだろうか……。
お父様には申し訳ないけれど、私を想って噛み付いてしまったクロの姿を愛しく感じてしまう。
聖獣の猫ちゃんも、お父様に対していい感情はないみたいね。姿が見えるようになったらなんだか大変なことになりそう――、とそう思っているとお父様との公爵様の表情が険しくなっていることに気が付いた。
「なんだ? 今の声は……」
え、まさか。
心臓の鼓動が早まっていくのがわかった。
「おいおい、トワラ。今のはどういうことだ?」
まさかトワラさん、今の会話は私だけでなくお父様たちにも聞こえるようにしていたの……!?
「あぁ」
「……どうしてですか?」
私が小さな声で話しかけると、お父様はゆっくりと顔を上げその視線は私へと向けられていた。
お父様の綺麗な金色の瞳はしっかりと私を見ていた。
「お前は、私の娘だろう」
「え――?」
お父様の口からしっかりと聞くことのできた「私の娘だ」という言葉。そのたった一言が聞けただけで私の目からは自然と涙が溢れ出した。
「……っ、う……」
ぽろぽろと溢れてくるのは悲しみの涙じゃなくて嬉しくて止まることのない涙だった。
お父様の言葉を噛み締めるように、無言で泣き出した私にお父様の瞳が大きく開き動揺しているのがすぐにわかった。
私は泣きながらもお父様から視線を逸らさずにいた。
「どうして泣くんだ」
どうしてかな?
ずっとわからなかったお父様の感情が、今になってわかるようになったからだろうか。
「こら、泣くんじゃない……なぜお前は私の前では泣いてばかりいるんだ」
泣いてる子どもに泣き止めだなんて、お父様らしいというか。そういえば、時間が遡ってから初めてお父様に会った時も泣いてしまった。しかもお父様のお洋服まで汚してしまって。
でもまだ二回だけだから、今は泣くのを許してほしい。
「……っ、心配を……かけて、ごめんなさい……」
「あぁ、二度とこんな勝手なことはするな。何かあるなら話してほしい」
「……でも、お父様はいつも忙しいのでしょう」
私がそう言うと、お父様は申し訳なさそうに顔を歪めた。
こんなに戸惑っているお父様を見るのは初めてのことで、私自身も少し困惑している。
「それ、は――、すまなかった」
そう返事をするお父様の声は小さくて。
「私の話を、怒ったりせずに……聞いてくれますか?」
「内容に――いや、努力しよう」
「…………」
えっと……お父様、今"内容による"って言いかけましたよね? でも、言葉を選んで言い直してくれたんですよね?
そう考えると不思議と心が温まった。
私が泣きながら頬を緩めると、「何がおかしいんだ」と少し不貞腐れたような声を出した。
そんな貴重な姿を見られたことも、私の気持ちを汲んでくれたのか、努力すると言い直しをしてくれたことにお父様の歩み寄りが感じられて嬉しくなった。
「お父様なりの、でいいですから努力……してください。私も頑張って話しますから」
「あぁ、わかった」
お父様はそう言いながら目の前で膝を折ると、私と視線が同じ高さになった。ハンカチで私の涙を不器用ながらも優しく拭いてくれた。こんな私たち親子の姿をルカお兄様が見たらどんな表情をするだろう。
「ふふっ」
「……なぜ笑う」
私たちはもう大丈夫なんだと。
すぐにお父様との距離が近付くことは難しいかもしれないけれど、これからは怯えたり、気を遣ったりしなくても大丈夫なんだと、そう思えた。
私の心は温かい気持ちでいっぱいに、と思っていると――。
「……うっ、」
なぜか突然クロがお父様の指に噛み付いた。
「……えっ、ク、クロ!?」
もぞもぞと腕の中から顔を出したかと思えばいきなり噛み付いたクロ。小さな口はお父様の小指にしっかりと噛み付いていた。
「ど、どうしたの? 噛み付いたらだめよ、クロ」
そう言ってみるものの、クロは指から口を離そうとはしなかった。クロに噛まれたお父様は無理やり指を離そうとはせずにそのままじっとしていた。
てっきり力付くでクロを離そうとするのではと思ったけれど、小さな魔獣相手にそうすることをしないその姿に少しの優しさが垣間見えた。
この状況をどうしようかと思っていると、公爵様が慌てたようにこちらへと来てくれた。
「こらこらこら! クロ、やめなさい」
この場を見守っていた公爵様だったけれど、噛み付いたままのクロをそのまま放っておくわけにもいかないと思ったようだ。
「こら、クロ。せっかくいい感じの雰囲気だったのに……空気を読みなさい! まぁ、こいつにがぶっと噛み付きたくなる気持ちはわかるけども」
「おい、公爵。それはどういう意味だ」
「いや、まぁ……それは」
「お前のところの魔獣だろう。早くなんとかしてくれ」
公爵様に諭されてクロはやっと小指から口を離した。お父様の小指を見ると、歯形がしっかりと付いてはいたけれど血は出ていなかった。
お父様はなぜか、噛まれた小指を訝しげにじっと見つめていた。
クロはお父様に怪我をさせる気はなかったようだ。
それにしても、どうして突然噛み付いたんだろう。
【侯爵があなたにひどいことをした人間だと、クロは感じているのでしょうね】
「トワラさん……?」
トワラさんがいる方を見れば、いつの間にか番と一緒に寄り添いながらこちらの様子を見守っていた。
【ちなみに侯爵に対して怒っているのはクロだけではありませんよ。聖獣も触れることはできなくても小さな前足で侯爵の頭を――、あぁ、ごめんなさい。小さな、は余計でしたね。そんなに怒らないでください】
どうやらクロは記憶の中のお父様と、目の前にいるお父様の姿が混同してしまったようだ。私が死んでしまったあとのことはわからないけれど、もしかして何かあったのだろうか……。
お父様には申し訳ないけれど、私を想って噛み付いてしまったクロの姿を愛しく感じてしまう。
聖獣の猫ちゃんも、お父様に対していい感情はないみたいね。姿が見えるようになったらなんだか大変なことになりそう――、とそう思っているとお父様との公爵様の表情が険しくなっていることに気が付いた。
「なんだ? 今の声は……」
え、まさか。
心臓の鼓動が早まっていくのがわかった。
「おいおい、トワラ。今のはどういうことだ?」
まさかトワラさん、今の会話は私だけでなくお父様たちにも聞こえるようにしていたの……!?
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