誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

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二章 二度目の人生

78【穢れた黒い魔力②】

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 お父様に、魔力を感じることができるようになったと言えば喜んでもらえるだろうか……。それとも発現はまだなのかとがっかりされるのだろうかと不安になる。

【シアが何を心配しているかはわかります。ですがそれは必要ありませんよ、大丈夫です】

「はい、私もそう信じたいです」

【シア、前にも言いましたが、あなたの中にある黒い魔力は私では完全に取り除くことはできません。ですので魔力の循環が元に戻っても、何かしらの弊害が起こるはずです】

「弊害、ですか?」

【思ったように魔力が扱えないせいで、一定以上の魔法が使えないかもしれません。もしくは、体調を崩す可能性も】

「そうなんですね。わかりました、気を付けます」

【私にできることをしたあと、そこからどうするのかはシア、あなたが決めなければいけないことです】

「はい……お父様に、どう切り出したらいいのか……そんなことを考えてしまっています」

【父親に話すことにしたのですね】

 これ以上、侯爵家に関することを一人で考えるのは無理だと悟ってしまった。正直に、お父様に話すしかないと――。

 ただ、その話をどう伝えればいいのか、それが一番の悩みだった。もしお父様がリリーのように純粋に信じてくれる人ならよかったけれど、現実的なお父様には言葉を選ばないといけない。

【まだ悩む時間はありますから】

「はい、もう少し考えてみます。それであの、トワラさん」

【どうしました?】

「聖獣は……あの猫ちゃんと話をすることはまだ難しい、ですよね?」

 トワラさんは、もしかすると今日話をすることができるかもしれないと言っていた。

【すみません、期待をさせるようなことを言ってしまいましたね】

「いえ、私の状態が良くなかっただけですから」

【ですが、魔力は確実に動き出しているので聖獣から姿を現すことはできなくても、聖獣と繋がっているあなたならその姿を見ることぐらいはできるかもしれません】

「本当ですか!? 嬉しいです」

【聖獣は今、あなたの足元にいるのですが、何か感じられますか?】

 そう言われてその場に座り込んだ。
 集中してみても、まだ何も感じることはできないけれど、気のせいか一部の空間だけ暖かみを感じた……気がする。

【思っているよりも、回復速度が早いようですね。聖獣はあなたの側で嬉しそうにしていますよ】

 もうすぐで、あの時の猫ちゃんとやっと会えることができる。もしかするとすぐに話をすることだって。
 何を話そうか今から楽しみだ。
 そしてちゃんとお礼を言いたいから。

【あら……】

「トワラさん? どうかしたのですか?」

 その時、きゃんきゃんと聞き慣れた鳴き声が聞こえてきた。それはクロだった。

 クロは私の足元までくると心配そうに"きゅぅん……"と擦り寄ってきた。

【どうやらあなたの魔力に反応してここまで来てしまったようですね。魔力が戻ってきている証拠ですね】

「ふふ、クロ。心配してくれたの? ありがとう」

 優しく撫でているとクロがあるものに反応した。その視線の先には先程私が吐き出した穢れた黒い魔力の残りかすが……。

 クロがそれに飛びついてしまった。

「あ、ダメよ! クロ!」

 クロがそれを口にしてしまった。私は慌ててクロに駆け寄り、吐き出させようとする。

「ダメ、それはダメなのよ! ぺっして、ぺっ!」

 どうしようかと心配する私とは裏腹に、トワラさんが慌てる様子はなかった。

【シア、クロなら大丈夫ですよ。むしろおやつを食べて嬉しそうにしていますから】

「え、おやつ……?」

【私たち魔獣にとって、魔物の魔力や瘴気などはむしろ力の源となるのです】

 そこでふと思い出した。

 だから公爵様とお父様は一緒に魔物討伐などをしているのか。瘴気を吸い込むことのできる魔獣と、浄化することのできるお父様。

 相性がいいのだろう。

 いきなりクロが口にするものだから驚いてしまった。クロは何もわかっていないようで不思議そうに首を傾げて"くぅん?"と鳴いている。

「よかった、心配したよ……」

【…………!】

 トワラさんが突然何かに反応した。

「ど、どうしたのですか?」

【すみません、シア。問題が起きました】

「も、問題、ですか?」

【私の番が、公爵と一緒に戻ってきたようです。今日は一緒ではなかったはずですが……】

 もしかしてこのことが知られてしまったのだろうか。

【どうやらお客も来たようです。あなたにとって問題が起きたと言っていいでしょう】

 私にとって問題? 
 お客様ってどなたのことだろう。

 知り合いのいない私にお客様というのは少しおかしなことだ。

 けれど、公爵様と一緒だということ。
 私にとって問題だということ。

 頭に浮かぶのはただ一人だけ。

 私のお父様。

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