誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

文字の大きさ
上 下
74 / 88
二章 二度目の人生

74【侯爵家】

しおりを挟む

 それから三週間ほど経ってからフィペリオン公爵家からまた手紙が届いた。

 公爵家へ行ってから手紙のやり取りはしていたけれど、今回の手紙には招待状が同封されていた。

「ユーシスからの招待状だわ!」

 てっきりロゼリア様から届くと思っていたので驚いた。
 ユーシスなりに頑張って書いたであろう招待状。

「ふふ、」

 可愛らしく書かれているそれを見て、ユーシスがどんな風に書いたのかを想像して微笑ましくなる。

 手紙の内容には無事にトワラさんが出産したということが書かれていた。

 クロに弟ができた。うん、絶対可愛いに違いない。
 触りたい……もふもふとした毛を触りたい。

 招待状の日付を確認するとなんと二週間後だった。

 え、こんなに早く会いに行っても大丈夫なのかな。
 トワラさん、出産からまだ時間が経っていないから他の人がいると落ち着かないと思うけど……。

"クロも、クロの弟も待ってるよ! そうだ、トワラが会いたいって言ってるんだって!"

 そう一文が書かれていたから大丈夫、なのかな。
 様子を見てお邪魔させていただこう。
 
 公爵家への訪問予定が決まったため、お父様に外出の許可をもらわないといけない。

 うーん、すぐに会えるかな?
 それが心配だわ……。
 
 次の日セバスに確認をしたところ、お父様はあと五日は朝も夜も会えそうにないと聞いて焦る。

「え、五日も!?」

「はい、そうです。急用でしょうか? 私から公爵様にお伝え致しますよ」

「またフィペリオン公爵家から招待されたの。二週間しかないから早めにお父様から許可をもらわらないといけないんだけど……」

「その件でございましたら心配いりませんよ。すでに公爵様より聞いております。お伝えするのが遅くなり申し訳ございません」

 え?

「お嬢様はその日をお待ちいただくだけで大丈夫ですよ」

「そ、そうなの……?」

 いつの間にお父様はどこからその話を聞いたのかな。
 あ、公爵様かな。

「それと、侯爵様からお嬢様に新しいお洋服のプレゼントがございます。

「プ、プレゼント……?」

 聞き間違いかしら? お父様からプレゼント……?

「はい、もうすぐ届くかと。公爵家へはぜひそちらをお召しになって行かれますと侯爵様も喜ばれると思いますよ」

「プレゼントって、贈り物っていう意味の、プレゼント……だよね?」

「もちろんでございますよ。ここだけの話ですが、侯爵様はお嬢様の服をどう選んだらいいかわからず、こっそり私に聞いてきたのです」

「お、お父様が……!? まぁ、そう……だよね。だって今まで私の着る服のことなんて関心がなかったんだもの」

「お嬢様、侯爵様は……」

「あ、違うの! 私に関心がなかった、って言いたいんじゃなくて……お父様って、服とか部屋の装飾にも、食事にだって興味がもともと薄そうだな、って思って……」

「たしかに、侯爵様はご自分の服装にさえ興味をお持ちにならないのです。もう少し関心を持っていただければ侯爵様の良さがもっと世に知らしめることが……」

「セ、セバス?」

 セバスは何か残念そうな表情をしている。

 それにしても、今まで私の服装に関心などなかったはずのに急にどうしたんだろう。
 公爵家に行った時に着ていたワンピースではだめだったのかな。たしかに公爵家の招待だもの、もう少し気を使うべきだったかな。

 今まではサイズに合った既製品の服を取り寄せていただけだから、誰かに言われないと私の服のことなど気にも止めないはずだ。

「セバス、お父様は誰かに私の服のことを言われたのかな?」

「………」

 セバスは気まずそうに私から視線を逸らした。

「え? セバス?」

 ちょうどその時、メイドが荷物が届いたと知らせに来た。

「さぁ、お嬢様。お洋服が届いたようです。お部屋へとお持ち致しますので先にお戻りください」

「う、うん、わかったわ」

 セバスから返事を聞けなかったので疑問を残しながら部屋へと戻った。

 
◆◆◆


 部屋へと戻り、リリーとサラと待っているとすぐに荷物が運ばれてきた。

「うわぁ、お嬢様! すごいですね!」

 リリーは興奮気味だ。
 私の目の前には箱、箱、箱。

「お嬢様、整理しますので少しお待ち下さい」

 サラは手際よく箱を開け種類別に並べてくれる。

「これ全部侯爵様が用意されたんですか!?」

「うーん、そうみたいだけど……」

「そろそろ新しく揃えたほうがいいと思っていたのでちょうどよかったですね」

 背も少し伸びたから服を買い替えた方がいい頃だとは思っていたけれど……。

「サイズ大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ、今着られているものより少し大きいサイズです」

「そう?」

 手に取っただけでサイズを把握してしまうサラはすごい。

「うわ、お嬢様、これすごいですね……」

 リリーは先程から手が止まっている気がするが、面白いのでそのまま眺めていた。
 サラがほとんどを整理してくれ、公爵家に着ていくワンピースも選んでもらった。

 新しい服へと入れ替えられた衣装部屋を見て、ほんのり心が温かくなる。
 以前は離れの小さなクローゼットに入るほどしか服を持っていなかったから。

 お父様に会えたのはそれから五日後になってしまったが、お礼が間に合ってよかった。
 やはり忙しいみたいでほとんど話すことはできなかったけれど、「他にも必要なものがあったら言いなさい」と、そう言ってもらえたのがとても嬉しかった。

 新しいワンピースを着ている私を見て、ちょっとだけお父様が微笑んでいたのに気が付いてしまい、心の奥がこそばゆい気持ちになった。


◆◆◆


 そうしてあっという間に公爵家へと行く日となった。
 相変わらずお父様は忙しいようで朝早くから仕事へと出ていた。

「あ、お兄様。おはようございます」

「あぁ、おはよう。今日だったか……?」
 
 お兄様はもう、私への挨拶を当たり前のように返してくれるようになっている。お兄様自身、そのことに気が付いているかはわからないけれど、指摘したら怒りそうなのでやめておく。

 お兄様は私の気合の入った服装を見て首を傾げる。

「そうです! ユーシスが招待をしてくれたんです」

「ユーシス……?」

「はい。私と仲良くしてくれて、手紙も交換しているんですよ」

「お前は公爵家の公女と会っているんだろう?」

「そうですよ。でも、ロゼリア様の弟のユーシスとも仲良くさせていただいてるんですっ! あ、それではお兄様、もう行ってきますね」

「お、おい待て……そいつ、弟ってことは男――」

「ごめんなさい、お兄様っ!」


 

 お父様とお兄様と少しずつ家族として距離が近付いているんだなと思えた、数日だった。
 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...