誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

文字の大きさ
上 下
70 / 88
二章 二度目の人生

70【アメリアとの再会】

しおりを挟む

 その後、フィペリオン公爵家の夕食にも招待されたため侯爵家へ帰るのが遅くなってしまった。

 公爵様もご一緒だったら緊張で食事が喉を通るか心配したけれど、仕事で不在だったため内心ほっとしてしまった。

 公爵様は魔物討伐の統率をしているため、私のお父様と同じように家を不在にすることが多いのだそう。


◆◆◆


 侯爵家の屋敷へ戻ると、そこにはずっと会いたかった人が。

「シアお嬢様、おかえりなさいませ」

「アメリア……!」

 アメリアが私の帰りを出迎えてくれた。
 リリーを見れば、嬉しそうに笑みを浮かべてアメリアの後ろに立っていた。

 帰るのが遅くなったので、今日はもう領地へ戻ってしまったと思っていた。

「どうしてここに?」

 私は嬉しさのあまり、アメリアのもとへ駆け寄った。

「お嬢様、走ってはいけません。もう幼子ではないのですからはしたないですよ」

 アメリアの感情を読み取ることができない、なんともいえないこの表情が懐かしい。けれど、それは無関心や冷たさからくるものではないとわかっているからこんなにも嬉しいと思えてしまう。

「アメリア、とても会いたかったわ!」

 注意をされてもおかまいなしに、アメリアへと抱きつく。
アメリアは「危ないですのでおやめください」と言ったけれど、優しく支えてくれるその手は無理に離そうとはしなかった。

 ふふ、やっぱりアメリアは優しいのね。

「元気だった? ねぇ、こちらにはいつ戻ってこられる……?」

「変わりありません。それと、次の定期報告からこちらへ戻ることになりました」

「え、本当!?」

「はい、公子様から戻ってくるようにと。領地にある本邸への使用人を増やすことになったそうです。その為、教育と引き継ぎがありますので次の定期報告まではあちらにいることになりますが」

 え、まさかお兄様が……?
 使用人を増やすとは聞いていたけれど、こんなすぐだったなんて。 

「公子様がシアお嬢様のためにアメリアをこちらに戻ってこられるようにしてくれたのではありませんか?」

「うーん、お兄様は私的な感情で物事を決めるような方ではないと思うわ」

「そんなことはないと思いますけど……。お嬢様、すぐに部屋へと戻られますか?」

「うん、今日は楽しかった分、とても疲れたの。先にお風呂の準備をお願いできる?」

 リリーとアメリアと三人で部屋へと戻ろうとしたところ、廊下でお兄様とエドワードに出会った。

「あ、お兄様ただいま戻りました」

「あぁ。なにもなかったか?」

「はい、問題は起こしていないので大丈夫ですよ」

 公爵家に行く前にお兄様に言われたものね。
 おかしな行動はするなと。

 問題は起こしていない、はず。

「いや、そうではなく……」

 お兄様の顔を見れば少しばつの悪そうな表情をした。
 
「………楽しめたか?」

「え? は、はい。とても楽しかったです。また招待してくださるそうです」

「そうか、ならいい。それと……定期報告にきた使用人は明日の午後戻ることになっている。それまでは休むよう伝えある」

「えっ、それはつまり……」

 お兄様は返事をすることなくそのまま私に背をむけて自室へと戻っていった。
 エドワードはなぜかご機嫌なようで、いつにも増してその胡散臭い笑顔が際立っていた。

「お兄様、ありがとうございます!」

 お兄様は振り返ることなくそのまま行ってしまったけれど、その背中から少し温かみを感じたのは気のせいではないと思う。


◆◆◆


 その後お風呂を済ませ、リリーとアメリアと久しぶりの会話を楽しんだ。
 久しぶりにみんなが同じ部屋に集まり他愛もないことをしているだけなのに、嬉しくて涙が出そうだった。

 アメリアにはまだ何も話すつもりはない。
 アメリアはとても真面目だから、すぐにお父様に知らせてしまうだろう。

 サラだって解雇されてしまうかもしれない。
 それどころか貴族を害した罪で処罰されてしまう可能性だってある。
 そうなれば、サラの子どもの将来にも影響が出るだろう。

 今後お父様たちに話すことになっても、それだけは絶対に止めなければいけない。


◆◆◆


 次の日、私は朝早く起きてリリーに出かける準備をしてもらっていた。
 せっかくだからリリーたちと一緒に買い物に行きたいと昨日話していたのだ。

 時間が遡る前はほとんど外出というものができなかったから。私のわがままで寄り道をしてリリーを危険な目に合わせてしまったことを今でも昨日のように覚えている。

 街に出るのが怖くないわけじゃないけれど、外へ出て私の気持ちも変えていかないといけない。

 今の私はまだ八歳。
 大人が一緒でないと出かけられないけれど、リリーたちメイドが三人もいれば大丈夫なはず。

 リリーも、サラとアメリアがいれば外出許可が下りるはずだ。

 そう思い、いざ出かけようとリリーに馬車の手配を頼んだら――。

「お嬢様、残念ですけど外出許可がおりませんでした……」

「え……どうして?」

「それが、執事長に頼みに行ったのですが断られてしまいました」

 リリーは悲しそうに項垂れてしまっている。

「理由を聞くことはできた?」

「うぅ、はい、それが許可できないとだけ……」

 何も聞かされていないリリーにそれ以上聞いても、と考えていたところで「私がお話しします」と横から声を掛けてきたのはアメリアだった。

「リリーが言ったように、とにかく許可できないとのことです」

 アメリアは真面目な顔でそれだけ言った。
 とにかく許可できないってどういうこと?

 アメリアのことだから、言われた言葉をそのまま私に伝えているのだろう。

 リリーたちが三人もいるのだから大丈夫だと思っていた。

「昨日の夜、先に執事長に話はしてあったのですが、先ほど確認したところ許可できないとのお返事をいただきました」

 さすがアメリア。
 昨日のうちに執事長に話をしてあったなんて。

 あ、もしかして――。

「私には専属の護衛騎士がいないからだめなの?」

「それも理由に含まれると思います」

 私にはまだ専属護衛がいない。
 公爵家への外出は臨時で付けてもらうことができた。

 もちろん侯爵家の体裁を保つためだと思うけど。
 それにしても、馬車で公爵家へ行くだけだったのに護衛は必要だったかな。

「それなら前みたいに誰か臨時で一緒に来てもらえる人を探せば大丈夫かな?」

「………」

 なぜかアメリアは黙ったままだ。
 アメリアにはめずらしく、少し困ったような表情だ。

「それでも公爵様が許可するとは思えません」

 お父様が?
 執事長に許可をもらいに行ったはずでは。
 昨日の夜、執事長からお父様に話をしたのかな。

 私は何をするにもお父様の許可を取らないといけないということなのだろうか。

「執事長は今どこにいるか知ってる?」

「先ほどまでは書斎におりましたが……」

「書斎ね、私が話をしてくるわ! ちょっと待っててもらえる?」

 私は急いで書斎へと向かった。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...