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二章 二度目の人生
70【アメリアとの再会】
しおりを挟むその後、フィペリオン公爵家の夕食にも招待されたため侯爵家へ帰るのが遅くなってしまった。
公爵様もご一緒だったら緊張で食事が喉を通るか心配したけれど、仕事で不在だったため内心ほっとしてしまった。
公爵様は魔物討伐の統率をしているため、私のお父様と同じように家を不在にすることが多いのだそう。
◆◆◆
侯爵家の屋敷へ戻ると、そこにはずっと会いたかった人が。
「シアお嬢様、おかえりなさいませ」
「アメリア……!」
アメリアが私の帰りを出迎えてくれた。
リリーを見れば、嬉しそうに笑みを浮かべてアメリアの後ろに立っていた。
帰るのが遅くなったので、今日はもう領地へ戻ってしまったと思っていた。
「どうしてここに?」
私は嬉しさのあまり、アメリアのもとへ駆け寄った。
「お嬢様、走ってはいけません。もう幼子ではないのですからはしたないですよ」
アメリアの感情を読み取ることができない、なんともいえないこの表情が懐かしい。けれど、それは無関心や冷たさからくるものではないとわかっているからこんなにも嬉しいと思えてしまう。
「アメリア、とても会いたかったわ!」
注意をされてもおかまいなしに、アメリアへと抱きつく。
アメリアは「危ないですのでおやめください」と言ったけれど、優しく支えてくれるその手は無理に離そうとはしなかった。
ふふ、やっぱりアメリアは優しいのね。
「元気だった? ねぇ、こちらにはいつ戻ってこられる……?」
「変わりありません。それと、次の定期報告からこちらへ戻ることになりました」
「え、本当!?」
「はい、公子様から戻ってくるようにと。領地にある本邸への使用人を増やすことになったそうです。その為、教育と引き継ぎがありますので次の定期報告まではあちらにいることになりますが」
え、まさかお兄様が……?
使用人を増やすとは聞いていたけれど、こんなすぐだったなんて。
「公子様がシアお嬢様のためにアメリアをこちらに戻ってこられるようにしてくれたのではありませんか?」
「うーん、お兄様は私的な感情で物事を決めるような方ではないと思うわ」
「そんなことはないと思いますけど……。お嬢様、すぐに部屋へと戻られますか?」
「うん、今日は楽しかった分、とても疲れたの。先にお風呂の準備をお願いできる?」
リリーとアメリアと三人で部屋へと戻ろうとしたところ、廊下でお兄様とエドワードに出会った。
「あ、お兄様ただいま戻りました」
「あぁ。なにもなかったか?」
「はい、問題は起こしていないので大丈夫ですよ」
公爵家に行く前にお兄様に言われたものね。
おかしな行動はするなと。
問題は起こしていない、はず。
「いや、そうではなく……」
お兄様の顔を見れば少しばつの悪そうな表情をした。
「………楽しめたか?」
「え? は、はい。とても楽しかったです。また招待してくださるそうです」
「そうか、ならいい。それと……定期報告にきた使用人は明日の午後戻ることになっている。それまでは休むよう伝えある」
「えっ、それはつまり……」
お兄様は返事をすることなくそのまま私に背をむけて自室へと戻っていった。
エドワードはなぜかご機嫌なようで、いつにも増してその胡散臭い笑顔が際立っていた。
「お兄様、ありがとうございます!」
お兄様は振り返ることなくそのまま行ってしまったけれど、その背中から少し温かみを感じたのは気のせいではないと思う。
◆◆◆
その後お風呂を済ませ、リリーとアメリアと久しぶりの会話を楽しんだ。
久しぶりにみんなが同じ部屋に集まり他愛もないことをしているだけなのに、嬉しくて涙が出そうだった。
アメリアにはまだ何も話すつもりはない。
アメリアはとても真面目だから、すぐにお父様に知らせてしまうだろう。
サラだって解雇されてしまうかもしれない。
それどころか貴族を害した罪で処罰されてしまう可能性だってある。
そうなれば、サラの子どもの将来にも影響が出るだろう。
今後お父様たちに話すことになっても、それだけは絶対に止めなければいけない。
◆◆◆
次の日、私は朝早く起きてリリーに出かける準備をしてもらっていた。
せっかくだからリリーたちと一緒に買い物に行きたいと昨日話していたのだ。
時間が遡る前はほとんど外出というものができなかったから。私のわがままで寄り道をしてリリーを危険な目に合わせてしまったことを今でも昨日のように覚えている。
街に出るのが怖くないわけじゃないけれど、外へ出て私の気持ちも変えていかないといけない。
今の私はまだ八歳。
大人が一緒でないと出かけられないけれど、リリーたちメイドが三人もいれば大丈夫なはず。
リリーも、サラとアメリアがいれば外出許可が下りるはずだ。
そう思い、いざ出かけようとリリーに馬車の手配を頼んだら――。
「お嬢様、残念ですけど外出許可がおりませんでした……」
「え……どうして?」
「それが、執事長に頼みに行ったのですが断られてしまいました」
リリーは悲しそうに項垂れてしまっている。
「理由を聞くことはできた?」
「うぅ、はい、それが許可できないとだけ……」
何も聞かされていないリリーにそれ以上聞いても、と考えていたところで「私がお話しします」と横から声を掛けてきたのはアメリアだった。
「リリーが言ったように、とにかく許可できないとのことです」
アメリアは真面目な顔でそれだけ言った。
とにかく許可できないってどういうこと?
アメリアのことだから、言われた言葉をそのまま私に伝えているのだろう。
リリーたちが三人もいるのだから大丈夫だと思っていた。
「昨日の夜、先に執事長に話はしてあったのですが、先ほど確認したところ許可できないとのお返事をいただきました」
さすがアメリア。
昨日のうちに執事長に話をしてあったなんて。
あ、もしかして――。
「私には専属の護衛騎士がいないからだめなの?」
「それも理由に含まれると思います」
私にはまだ専属護衛がいない。
公爵家への外出は臨時で付けてもらうことができた。
もちろん侯爵家の体裁を保つためだと思うけど。
それにしても、馬車で公爵家へ行くだけだったのに護衛は必要だったかな。
「それなら前みたいに誰か臨時で一緒に来てもらえる人を探せば大丈夫かな?」
「………」
なぜかアメリアは黙ったままだ。
アメリアにはめずらしく、少し困ったような表情だ。
「それでも公爵様が許可するとは思えません」
お父様が?
執事長に許可をもらいに行ったはずでは。
昨日の夜、執事長からお父様に話をしたのかな。
私は何をするにもお父様の許可を取らないといけないということなのだろうか。
「執事長は今どこにいるか知ってる?」
「先ほどまでは書斎におりましたが……」
「書斎ね、私が話をしてくるわ! ちょっと待っててもらえる?」
私は急いで書斎へと向かった。
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