誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

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二章 二度目の人生

68【魔力を取り戻す方法】

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「ユーシスとロゼリア様とは、仲の良いお友だちになれたら嬉しいです」

【ユーシスはそれだけではないと思いますが――。シア、先程話したことですが、私の状態が落ち着いたらすぐに始めましょう。ただ、少し問題があります】

「問題、ですか?」

【はい。私が力を使うと契約者であるアイシラに気付かれます。そして、私の番にも】

「そう、ですよね」

 なんとなく、そうかもしれないと思っていたけど……。
 トワラさんの番といえば、フィペリオン公爵様が契約している魔獣だ。となれば、その魔獣から公爵様にも伝わってしまうだろう。

【もともと私とシアが二人で会うことは難しいので誰かしらの協力が必要となります】

「協力、ですか……」

 コンフォート侯爵家の私がフィペリオン公爵家の魔獣と二人きりで会うことなど、おかしなことだろう。

【シア、あなたの父親に話すことはできないのですか?】

「すみません、今はまだ難しいかと……」

 お父様にはまだ話せない。
 今の時点では信じてもらえない可能性が高いから。
 それにこんなこと、どう説明したらいいのかわからない。

【けれど、公爵から侯爵へ話が伝わる可能性は高いです】

 友人である二人なら当然、そうなるだろう。
 そうでなくても、大人の保護下にいる侯爵家の子どもの行動が伝わらないほうがおかしい。

 そもそも、公爵様に内緒でこんなことをしてもいいのだろうか。

「あの、公爵様には……」

【シアが言いたいのなら止めません。魔獣は公爵家の所有物ではないので、私が何をしようと公爵から口を挟まれる理由はありませんよ。あなたを危険に晒すわけでもありませんし、逆もそうです】

「どうしましょう……」

【公爵もあなたの父親も、何をしたかよりも、黙っていたこと、頼りにしてくれなかったことを咎める可能性はありますね。でもそれは心配からくるものでしょうから】

「お父様たちに話をしてしまって、機会を失うのは……嫌です」

【その時は一緒に怒られましょう。迷惑だなんて思わないでくださいね。ただ、私たちは公爵家と契約している魔獣ですから、嘘をつくことはできないので近いうちに私たちは話をすることになるはずです】

「はい、わかりました」

 その時が来たらお父様に話ができるように考えておかないと。

【シア、先ほど私は魔力を取り戻す方法はいくつかある、という話をしましたね】

「あ、はい。他にも方法があるのですか……?」

【そうです。ただ、今のあなたではどれも実行するのは難しいので聞く価値があるかはわかりません】

「それでも、聞きたいです」

 難しくても、方法があれば聞いておきたい。
 今の私では、ということならその先があるということだ。

【では、一つ目は先ほど話しましたが、私が黒い魔力を吸収することです。完全に取り除くことはできませんが、魔力を取り戻すきっかけになるでしょう】

「はい」

【そして、二つ目はあなたの家族である侯爵家の能力を使って浄化することです。これはあなたも考えたことなのではないですか?】

「はい、ですが……」

【えぇ、父親に話せないのならこれは無理でしょう。それに完全に取り除くまでに毎日能力を使ってもらうことになりますし】

「それほど私の中にある黒い魔力は強い、ということなのでしょうか?」

 侯爵家の"癒しの力"を使っても簡単には浄化できないなんて、どれほど強いものなんだろう……。

 お父様とお兄様が、私のために毎日能力を使ってくれるという状況を想像できないのが悲しい。

 それに、魔物討伐や魔物から出る瘴気の浄化に魔力が必要なお父様にそれを頼めば仕事に支障が出てしまうかもしれない。

【黒い魔力が強い……それもありますが、聖獣と契約していないので侯爵家は本来の能力を発揮できていないのです】

「え……?」

【知りませんでしたか?】

 知らなかった……。
 癒しの力は万能ではない、と言われるのはそれが原因なんだろうか。

【魔獣と契約している公爵との魔物の討伐は、侯爵にとってそれはそれは大変なことのはずです】

 毎日忙しそうにしているお父様の姿を思い出す。
 忙しそう、ではなく本当に大変なんだろう。

 それなのに私は……。

【とは言っても、もともとの能力の高さがありますから心配してしなくても大丈夫ですよ】

「はい……」

【三つ目ですが、聖獣に浄化をしてもらうことです。これも今のところは不可能でしょう。状態も不安定ですから】

 トワラさんに、あの子猫の聖獣は力が不安定で今は姿が見えなくなってしまっていると教えてもらった。

 残された力を温存するために見えないだけで、そばにはいるはずだと。

【あの聖獣が力を取り戻すには、まずはシアが魔力を取り戻さないといけませんからね。契約をすれば、お互いの魔力を共有できますから】

 三つ目は不可能だということ。
 あの猫ちゃんが力を取り戻すには私が、私が魔力を取り戻すには聖獣が必要だから。

【今の侯爵家では、他の聖獣を探したところで協力してもらえるかもわかりません】

 今の侯爵家、では――?

【コンフォートが治めているクラウス領にシアが一人で聖獣を探しに行くこともできないでしょう? 領地については今は考えるのはやめておきましょう】

 八歳の私が一人でクラウス領に行くのはまず無理だ。
 行くにしても、お父様に説明ができない。

 自分の中で考えていたことも今はまだ不可能で詰んだ状態なんだと、改めて話をして現実が突きつけられたようでもどかしい気持ちになる。

 お父様に話ができれば違ったはずなのに――。

【そして最期の方法は一つの可能性に過ぎませんが、この黒い魔力を作り出した人を消すことです】

「は、……え?」

 待って、消す……?
 トワラさんの口から人を消すという恐ろしい言葉が。

【この話をシアにするのは気が引けるのですが、やめておきますか?】

「それ、は……」

 心臓の鼓動が早まっているのが自分でもわかる。
 それはつまり、もしかしたらフレイアさんを……?
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