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二章 二度目の人生
67【公爵夫人】
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そうして案内された部屋はロゼリア様のお母様の部屋だった。
中へ入ると、部屋の隅のクッションにトワラさんが丸まっているのが見えた。部屋に戻るって、ここのことだったのね。
「姉さま、大丈夫なのですか? ここだとトワラがいるけど……」
事情を知らないユーシスは心配している。
「大丈夫よ、心配しないで」
促されてソファーへと座ると、ユーシスはまだ心配しているのか私の隣でそわそわと落ち着かない様子だった。
すると、隣の部屋からフィペリオン公爵夫人が入ってきた。
「まぁ、シアさん。お久しぶりね。こんなに大きくなって……。といっても小さな頃だからシアさんは覚えていないわよね。どうか私のことはアイシラと呼んでほしいわ」
「お会いできて嬉しいです、アイシラ様」
アイシラ様はロゼリア様とそっくりな顔で優しく微笑んだ。
けれど、その笑顔からは少し体調が悪そうに見えた。
「母さま、体調は大丈夫なのですか?」
そんなアイシラ様をみてユーシスも心配そうにしている。
私はお母様を五歳の時に亡くしているから、体調の悪そうなアイシラ様を見ると心が痛んでしまう。
「あの、アイシラ様。体調が悪いのでしたらまた後日でも……」
「シアさん、心配しなくても大丈夫ですよ。ユーシス、私の体調のことは説明したでしょう?」
ユーシスは「そうですけど、心配なんです……」と言ってトワラさんの方を見た。
……どうしてトワラさんの方を見ているんだろう?
「シアさん、私の体調が悪いのは病気などが理由ではないのですよ。トワラが子を宿しているため、魔力の乱れが契約者である私に流れてきてしまっているのです」
「あの、魔獣と契約をするとそのようなことがあるのですか?」
「本来そのようなことは滅多にありません。私が公爵家の血筋ではないからですね。副作用のようなもの、とでも言えばいいのかしら? トワラとは魔力の相性がよかったのでこれでも症状は少ない方なんですよ」
それは知らなかった。だからユーシスはトワラさんの方を見たのね。
アイシラ様が魔獣と契約をすることができても、副作用のようなものがあるなんて……。
「ねぇ、シア。魔獣の出産は危険って知ってた?」
「え、危険……?」
「魔獣の出産の時に、近くに人がいると危ないんだよ」
ユーシスの説明によると、魔獣は出産時に魔力が周囲に溢れ出てしまうらしく、魔力に耐性のない人が近付くことは危険なんだと。
「生まれてくるのは楽しみなんだけど、トワラたちも心配なんだ……」
ユーシスは不安そうな表情で私の膝の上にいるクロを撫でる。
「ク……この子にきょうだいができるのは楽しみだね」
アイシラ様が「そうだわ」と何かを思い出したように手をぱん、と叩いた。
「ユーシス。まだその子の名前を決めていませんでしたね?」
「はい、まだです」
「ではせっかくこうしてシアさんが来てくれたことですし、シアさんにその子の名前を決めてもらうのはどうですか?」
アイシラ様は私に目配せをしてきた。
もしかしてトワラさんから名前のことを聞いたのかな?
「母さま、そうします! シア、この子の名前を決めてくれる? 何がいいかな?」
何も知らずに明るく聞いてくるユーシスに少しだけ罪悪感が……。
クロも、今まで寝ていたのに自分の名前の話になったからなのか起きてしまった。
ユーシスもクロも期待に満ちた目で私を見ている。
クロは尻尾をぶんぶん振っていてとても可愛いく、ユーシスにまで耳と尻尾があるように見えてしまう。
……クロ、あなた自分の名前知っているでしょう?
「えーと、そうね……何がいいかな」
そこで私は困ったことに気が付いた。
以前の私はクロの黒い毛並みを見てクロと名付けてしまった。
けれど今のクロはまだ毛が生え変わっておらず、黒色よりもまだ灰色の毛並みだ。
アイシラ様は私の名付けた理由を知っていないからか、にこにこと微笑みながら私が命名するのを待っている。
ロゼリア様も気のせいか期待しているような……。
何か気の利いたことを言わないと。
ここでみんなをがっかりさせてはいけないわ。
「えっと、」
「うん!」
「しょ、将来……」
「うん?」
「く、黒い毛並みになるからクロがいいと思うな」
一瞬だけシン……とした部屋の中。
気のせいではなく、みんな静かだった。
ユーシスはぽかん、と首を傾げている。
けれど、すぐに笑顔を見せた。
「クロ! うん、いいね。この子も毛が生え変わったらトワラのような綺麗な黒色の毛並みになるはずだよ」
「シア様、先のことまで考えて名付けられたのですね」
「ふふ、シアさん。可愛い名前でいいと思いますよ」
うぅっ……公爵家のみなさんの触れない優しさに涙が出そう……。センスがないと言わない優しさがしみます。
クロを見れば以前名付けた時は不満そうな顔をしていたのに、今は嬉しそうにしている。
やっと名前で呼んでもらえるからなのかな?
「よし、お前は今日からクロだよ!」
「きゃんきゃん!」
あぁ、よかった。
クロは嫌だとユーシスに言われたらどうしようかと一瞬不安になってしまったけれど、あの時もユーシスは笑って受け入れてくれた。
公爵家の人たちを見て、少しだけ羨ましくなってしまう。
私も、お父様やお兄様とこんな風に笑って過ごせる日がくるのだろうか。
まだまだ先は長そうだけど、そのためにはまずは魔力を取り戻さないと。
そんな私の思いを感じとったのか、アイシラ様が何かに気付いたようにトワラさんを見た。
「ロゼリア、ユーシス。少しいいかしら?」
「母さま、なんでしょう?」
「シアさんへのプレゼントをとってきてもらえないかしら」
え、私へのプレゼント?
「わかりました、お母様。さぁ、ユーシス。一緒にとりにいきましょう」
「そうだ、僕もあるんだよ! シア、ちょっと待っててね!」
そのままユーシスたちは部屋から出て行った。
「シアさん、少ししか時間がありませんがトワラがあなたと話をしたいと言っています」
「あ……ありがとうございます」
アイシラ様に説明をしないと、と口を開きかけるとアイシラ様は首を横に振ったあと優しく微笑み、「いいのですよ」と言った。
そうして何も聞かずに立ち上がり、ユーシスたちを追うように部屋を後にした。
アイシラ様も席を外してくれたため、この部屋には私とトワラさん、クロだけとなった。
トワラさんの目の前に座る私を見ればユーシスは心配するだろうなと思い、ふふっと笑ってしまう。
【ユーシスと仲が良さそうで安心しましたよ】
「はい、これからも仲良くしてもらえたら嬉しいのですけど……」
時間を遡りこうしてやり直す機会をもらえたのだから、これからは人との関係を大切にしていきたい。
中へ入ると、部屋の隅のクッションにトワラさんが丸まっているのが見えた。部屋に戻るって、ここのことだったのね。
「姉さま、大丈夫なのですか? ここだとトワラがいるけど……」
事情を知らないユーシスは心配している。
「大丈夫よ、心配しないで」
促されてソファーへと座ると、ユーシスはまだ心配しているのか私の隣でそわそわと落ち着かない様子だった。
すると、隣の部屋からフィペリオン公爵夫人が入ってきた。
「まぁ、シアさん。お久しぶりね。こんなに大きくなって……。といっても小さな頃だからシアさんは覚えていないわよね。どうか私のことはアイシラと呼んでほしいわ」
「お会いできて嬉しいです、アイシラ様」
アイシラ様はロゼリア様とそっくりな顔で優しく微笑んだ。
けれど、その笑顔からは少し体調が悪そうに見えた。
「母さま、体調は大丈夫なのですか?」
そんなアイシラ様をみてユーシスも心配そうにしている。
私はお母様を五歳の時に亡くしているから、体調の悪そうなアイシラ様を見ると心が痛んでしまう。
「あの、アイシラ様。体調が悪いのでしたらまた後日でも……」
「シアさん、心配しなくても大丈夫ですよ。ユーシス、私の体調のことは説明したでしょう?」
ユーシスは「そうですけど、心配なんです……」と言ってトワラさんの方を見た。
……どうしてトワラさんの方を見ているんだろう?
「シアさん、私の体調が悪いのは病気などが理由ではないのですよ。トワラが子を宿しているため、魔力の乱れが契約者である私に流れてきてしまっているのです」
「あの、魔獣と契約をするとそのようなことがあるのですか?」
「本来そのようなことは滅多にありません。私が公爵家の血筋ではないからですね。副作用のようなもの、とでも言えばいいのかしら? トワラとは魔力の相性がよかったのでこれでも症状は少ない方なんですよ」
それは知らなかった。だからユーシスはトワラさんの方を見たのね。
アイシラ様が魔獣と契約をすることができても、副作用のようなものがあるなんて……。
「ねぇ、シア。魔獣の出産は危険って知ってた?」
「え、危険……?」
「魔獣の出産の時に、近くに人がいると危ないんだよ」
ユーシスの説明によると、魔獣は出産時に魔力が周囲に溢れ出てしまうらしく、魔力に耐性のない人が近付くことは危険なんだと。
「生まれてくるのは楽しみなんだけど、トワラたちも心配なんだ……」
ユーシスは不安そうな表情で私の膝の上にいるクロを撫でる。
「ク……この子にきょうだいができるのは楽しみだね」
アイシラ様が「そうだわ」と何かを思い出したように手をぱん、と叩いた。
「ユーシス。まだその子の名前を決めていませんでしたね?」
「はい、まだです」
「ではせっかくこうしてシアさんが来てくれたことですし、シアさんにその子の名前を決めてもらうのはどうですか?」
アイシラ様は私に目配せをしてきた。
もしかしてトワラさんから名前のことを聞いたのかな?
「母さま、そうします! シア、この子の名前を決めてくれる? 何がいいかな?」
何も知らずに明るく聞いてくるユーシスに少しだけ罪悪感が……。
クロも、今まで寝ていたのに自分の名前の話になったからなのか起きてしまった。
ユーシスもクロも期待に満ちた目で私を見ている。
クロは尻尾をぶんぶん振っていてとても可愛いく、ユーシスにまで耳と尻尾があるように見えてしまう。
……クロ、あなた自分の名前知っているでしょう?
「えーと、そうね……何がいいかな」
そこで私は困ったことに気が付いた。
以前の私はクロの黒い毛並みを見てクロと名付けてしまった。
けれど今のクロはまだ毛が生え変わっておらず、黒色よりもまだ灰色の毛並みだ。
アイシラ様は私の名付けた理由を知っていないからか、にこにこと微笑みながら私が命名するのを待っている。
ロゼリア様も気のせいか期待しているような……。
何か気の利いたことを言わないと。
ここでみんなをがっかりさせてはいけないわ。
「えっと、」
「うん!」
「しょ、将来……」
「うん?」
「く、黒い毛並みになるからクロがいいと思うな」
一瞬だけシン……とした部屋の中。
気のせいではなく、みんな静かだった。
ユーシスはぽかん、と首を傾げている。
けれど、すぐに笑顔を見せた。
「クロ! うん、いいね。この子も毛が生え変わったらトワラのような綺麗な黒色の毛並みになるはずだよ」
「シア様、先のことまで考えて名付けられたのですね」
「ふふ、シアさん。可愛い名前でいいと思いますよ」
うぅっ……公爵家のみなさんの触れない優しさに涙が出そう……。センスがないと言わない優しさがしみます。
クロを見れば以前名付けた時は不満そうな顔をしていたのに、今は嬉しそうにしている。
やっと名前で呼んでもらえるからなのかな?
「よし、お前は今日からクロだよ!」
「きゃんきゃん!」
あぁ、よかった。
クロは嫌だとユーシスに言われたらどうしようかと一瞬不安になってしまったけれど、あの時もユーシスは笑って受け入れてくれた。
公爵家の人たちを見て、少しだけ羨ましくなってしまう。
私も、お父様やお兄様とこんな風に笑って過ごせる日がくるのだろうか。
まだまだ先は長そうだけど、そのためにはまずは魔力を取り戻さないと。
そんな私の思いを感じとったのか、アイシラ様が何かに気付いたようにトワラさんを見た。
「ロゼリア、ユーシス。少しいいかしら?」
「母さま、なんでしょう?」
「シアさんへのプレゼントをとってきてもらえないかしら」
え、私へのプレゼント?
「わかりました、お母様。さぁ、ユーシス。一緒にとりにいきましょう」
「そうだ、僕もあるんだよ! シア、ちょっと待っててね!」
そのままユーシスたちは部屋から出て行った。
「シアさん、少ししか時間がありませんがトワラがあなたと話をしたいと言っています」
「あ……ありがとうございます」
アイシラ様に説明をしないと、と口を開きかけるとアイシラ様は首を横に振ったあと優しく微笑み、「いいのですよ」と言った。
そうして何も聞かずに立ち上がり、ユーシスたちを追うように部屋を後にした。
アイシラ様も席を外してくれたため、この部屋には私とトワラさん、クロだけとなった。
トワラさんの目の前に座る私を見ればユーシスは心配するだろうなと思い、ふふっと笑ってしまう。
【ユーシスと仲が良さそうで安心しましたよ】
「はい、これからも仲良くしてもらえたら嬉しいのですけど……」
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