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二章 二度目の人生
57【お兄様のお誕生日パーティー③シアの怪我】
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後ろからドンっと強く体が押され、勢い余って頭から床にごつんと倒れてしまう。
これは痛い。
かなり痛い。
……そして恥ずかしい。
まぁ、子どもの喧嘩って、こうなるわよね……。
なんて、冷静に考える。
落ち着くの、怒ってはダメ。
騒いではダメ。
近くにいたどこかの貴族の女性が急いで駆け寄ってきてくれた。女性と言っても、リリーと同じぐらいの年齢だろうか。
「大丈夫ですか!?」
女性は優しく抱き起こしてくれる。
「は、はい、ありがとうございます」
「もっと早く私が止めていれば……申し訳ありません、まさかあなたに手を出すなんて……」
女性は申し訳なさそうに謝る。
「えっ、そんな! 謝らないで下さい。大人気なかった私が悪いんです」
「いえ、私が……きゃぁ! ち、ち、血が……!」
「え?」
ツーっと生温かい血が頬を伝わるのがわかった。頭が切れてしまったようだ。
「な、な、なんてこと!」
女性はわなわなと震えている。
急いでハンカチで押さえてくれた。
「あの、頭ってちょっと切れただけで大袈裟に血が出るんですよ。だから大丈夫です」
「大丈夫なわけないですっ! そんな、ひざも……!」
言われてみればひざも痛い。そして手首も痛い。捻ってしまったのかな?
貴族の女性からすると大怪我に見えてしまうようだ。
でも、子どもの頃木登りしては怪我をしていた私にとってはこんなのは軽い方だ……って今も子どもだった……。
「子ども同士だと思って様子を見ていたけれど……これはやりすぎだわ」
そう言いながら女性は立ち上がった。
心配してきてくれた他の若い夫人に私を託して。
「あなたたち」
女性は厳しい声で男の子たちに声をかける。
「な、なんだよ。俺たちは悪くないぞ!」
「そうだよ! そいつが言ったじゃないか! 自分が大人気なかったせいだって!」
女性は大きくため息をついた。
「大人気ないって……あなたたちの方が年上でしょう。それに、ここがどこなのかわかってる? 自分たちが誰に何をしたか、本当に理解できないのかしら?」
「な、なんだよ! お前も女のくせに生意気だな! 父上に言いつけてやる! 俺の父上はえらいんだぞ!」
これはもう聞いていられない。このままでは助けてくれた女性にまで迷惑をかけてしまう。
この大広間はとても広いけれど、さすがにお父様の耳に入りそうだ。
"……家のご令嬢になんてことを"
そんな声が聞こえた。
もしかしてこの女性、かなりの上位貴族なのかな、と考えるていると突然声をかけられた。
「何かあったのか?」
その声はルカお兄様だった。
たまたま近くにいたのだろうか。
ざわざとし始めたこの場所の様子を見にきたようだ。
男の子たちは明らかに"まずい!"という顔をした。
お兄様は男の子二人を見て、そして助けてくれた女性を見た。
そして、頭をハンカチで押さえながら壁際で座り込んでいる私と目が合う。
お兄様の雰囲気が一瞬で変わった。
いつも表情を出さないのに。
この状況を見たお兄様の専属執事であるエドワードは、周りで様子を窺っている他の貴族たちに気にしないよう声をかけてこの場から遠ざけるように離した。
この場が気になって仕方がない人もいたようだが、エドワードの有無を言わさない笑顔に気圧されてサーっといなくなる。
「お、お兄様……あの、これはその……申し訳ありません……」
あぁ、どうしてお兄様に嫌なところばかり見られてしまうのかしら。あの人が階段から落ちた時だってそうだ。
お兄様は無言で私の側まで来た。
「あ、の……お兄様の、誕生日パーティーを台無しにして……」
どうにかこの場をごまかそうとあたふたしてしまう。どうにも取り繕える状況ではないのだけれど。
「黙れ」
そう言ってお兄様の手が顔へと伸びてきた。
つい、ぎゅっと目を瞑ってしまう。
その瞬間暖かな金色の光に優しく包まれた。
そっと目を開くとお兄様と目が合う。
その目はなんだか悲しそうに見えた……気がした。
「お兄様……今……」
体のどこにももう痛みは無かった。
お兄様が癒しの力を使って治してくれたおかげだ。
「こんなことに力を……」
「……こんなことだと?」
「あ、いえ、ありがとうございます」
こんな怪我なら治癒魔法で十分なのに……。
「それで……これはどういう状況なんだ?」
あぁ、その言葉も以前聞いたことがあるな、なんて考えてしまう。
助けてくれた女性が何があったのかお兄様に説明をしてくれた。
「ありがとうございました。今日のお礼は必ず——」
「いいえ、お気になさらないで下さい」
私を支えてくれていた夫人はドレスを血で少し汚してしまったため着替えをしてもらうことを提案したら——。
「……失礼します」
お兄様がそう言うと、また金色の光が細く糸のように夫人のドレスを囲んだと思ったらすっかり血が取れていた。
「え!?」
え、何が起きたの!?
夫人はなぜか感激した表情をして、「光栄ですぅぅぅ……!!」と言ってそのまま下がってしまった。
「え!?」
夫人の行動も私には理解できなかった。
「侯爵家の力を間近で見れて、かつ体験できることは滅多にないですからね。しかもあれは浄化ですね。あんな使い方をするとは……」
女性がこっそり耳打ちで教えてくれた。
そ、そうなんですか……。
……って、え? 浄化?
私も知らない事をよくご存知ですね……。
ここに残されたのは私とお兄様と女性、それに逃げようとしたところをエドワードに捕まった男の子二人。
と、貴族の皆さんを引き連れたお父様。
……お、お父様!?
これは痛い。
かなり痛い。
……そして恥ずかしい。
まぁ、子どもの喧嘩って、こうなるわよね……。
なんて、冷静に考える。
落ち着くの、怒ってはダメ。
騒いではダメ。
近くにいたどこかの貴族の女性が急いで駆け寄ってきてくれた。女性と言っても、リリーと同じぐらいの年齢だろうか。
「大丈夫ですか!?」
女性は優しく抱き起こしてくれる。
「は、はい、ありがとうございます」
「もっと早く私が止めていれば……申し訳ありません、まさかあなたに手を出すなんて……」
女性は申し訳なさそうに謝る。
「えっ、そんな! 謝らないで下さい。大人気なかった私が悪いんです」
「いえ、私が……きゃぁ! ち、ち、血が……!」
「え?」
ツーっと生温かい血が頬を伝わるのがわかった。頭が切れてしまったようだ。
「な、な、なんてこと!」
女性はわなわなと震えている。
急いでハンカチで押さえてくれた。
「あの、頭ってちょっと切れただけで大袈裟に血が出るんですよ。だから大丈夫です」
「大丈夫なわけないですっ! そんな、ひざも……!」
言われてみればひざも痛い。そして手首も痛い。捻ってしまったのかな?
貴族の女性からすると大怪我に見えてしまうようだ。
でも、子どもの頃木登りしては怪我をしていた私にとってはこんなのは軽い方だ……って今も子どもだった……。
「子ども同士だと思って様子を見ていたけれど……これはやりすぎだわ」
そう言いながら女性は立ち上がった。
心配してきてくれた他の若い夫人に私を託して。
「あなたたち」
女性は厳しい声で男の子たちに声をかける。
「な、なんだよ。俺たちは悪くないぞ!」
「そうだよ! そいつが言ったじゃないか! 自分が大人気なかったせいだって!」
女性は大きくため息をついた。
「大人気ないって……あなたたちの方が年上でしょう。それに、ここがどこなのかわかってる? 自分たちが誰に何をしたか、本当に理解できないのかしら?」
「な、なんだよ! お前も女のくせに生意気だな! 父上に言いつけてやる! 俺の父上はえらいんだぞ!」
これはもう聞いていられない。このままでは助けてくれた女性にまで迷惑をかけてしまう。
この大広間はとても広いけれど、さすがにお父様の耳に入りそうだ。
"……家のご令嬢になんてことを"
そんな声が聞こえた。
もしかしてこの女性、かなりの上位貴族なのかな、と考えるていると突然声をかけられた。
「何かあったのか?」
その声はルカお兄様だった。
たまたま近くにいたのだろうか。
ざわざとし始めたこの場所の様子を見にきたようだ。
男の子たちは明らかに"まずい!"という顔をした。
お兄様は男の子二人を見て、そして助けてくれた女性を見た。
そして、頭をハンカチで押さえながら壁際で座り込んでいる私と目が合う。
お兄様の雰囲気が一瞬で変わった。
いつも表情を出さないのに。
この状況を見たお兄様の専属執事であるエドワードは、周りで様子を窺っている他の貴族たちに気にしないよう声をかけてこの場から遠ざけるように離した。
この場が気になって仕方がない人もいたようだが、エドワードの有無を言わさない笑顔に気圧されてサーっといなくなる。
「お、お兄様……あの、これはその……申し訳ありません……」
あぁ、どうしてお兄様に嫌なところばかり見られてしまうのかしら。あの人が階段から落ちた時だってそうだ。
お兄様は無言で私の側まで来た。
「あ、の……お兄様の、誕生日パーティーを台無しにして……」
どうにかこの場をごまかそうとあたふたしてしまう。どうにも取り繕える状況ではないのだけれど。
「黙れ」
そう言ってお兄様の手が顔へと伸びてきた。
つい、ぎゅっと目を瞑ってしまう。
その瞬間暖かな金色の光に優しく包まれた。
そっと目を開くとお兄様と目が合う。
その目はなんだか悲しそうに見えた……気がした。
「お兄様……今……」
体のどこにももう痛みは無かった。
お兄様が癒しの力を使って治してくれたおかげだ。
「こんなことに力を……」
「……こんなことだと?」
「あ、いえ、ありがとうございます」
こんな怪我なら治癒魔法で十分なのに……。
「それで……これはどういう状況なんだ?」
あぁ、その言葉も以前聞いたことがあるな、なんて考えてしまう。
助けてくれた女性が何があったのかお兄様に説明をしてくれた。
「ありがとうございました。今日のお礼は必ず——」
「いいえ、お気になさらないで下さい」
私を支えてくれていた夫人はドレスを血で少し汚してしまったため着替えをしてもらうことを提案したら——。
「……失礼します」
お兄様がそう言うと、また金色の光が細く糸のように夫人のドレスを囲んだと思ったらすっかり血が取れていた。
「え!?」
え、何が起きたの!?
夫人はなぜか感激した表情をして、「光栄ですぅぅぅ……!!」と言ってそのまま下がってしまった。
「え!?」
夫人の行動も私には理解できなかった。
「侯爵家の力を間近で見れて、かつ体験できることは滅多にないですからね。しかもあれは浄化ですね。あんな使い方をするとは……」
女性がこっそり耳打ちで教えてくれた。
そ、そうなんですか……。
……って、え? 浄化?
私も知らない事をよくご存知ですね……。
ここに残されたのは私とお兄様と女性、それに逃げようとしたところをエドワードに捕まった男の子二人。
と、貴族の皆さんを引き連れたお父様。
……お、お父様!?
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