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二章 二度目の人生
52【サラへの聴き取り②】
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「どうしてこんなことしまったのか……その理由ですが……私はその、実は……」
サラが小さな声で話し始めた。その様子から話し難いことなんだと予想ができる。
「私には子供が一人おります」
……ん? 今なんて……?
「「え?」」
私とリリーの声が重なる。重かった空気のはずが、二人ともポカンとしてしまった。
まさかサラから子供という言葉が出てくるとは思わなかった。
私もリリーも混乱してしまう。
サ、サラ……ちょっと待って。
「今年で六つになります。あ、男の子なんです」
私とリリーの戸惑いに気付いていないのか、サラはそのまま話を続けようとした。
「いえ、ちょ、ちょっと、待ってサラ。え?」
「……………」
リリーにいたっては口をパクパクさせて固まってしまっている。サラに子供がいたことだけでも驚きなのに、まさかの今年で六歳。今の私とそんなに変わらない歳の子供がいるなんて……。
リリーにはあまりにも衝撃だったようだ。
「ちょ、あの、サラ?」
「はい、お嬢様」
「あなた、結婚していたの!?」
「その、結婚はしておりません……」
サラは気まずそうに下を向く。
「サラ、それは……」
結婚をしていない女性に子供がいるということに対してこの国では悪い印象が強い。
特に貴族が多く暮らしているここ、王都ではその印象は強いものだ。
「サラ、子供の父親は……? 相手が誰なのかは教えて……あ、いえ、話したくないのなら……」
まさか望まぬ妊娠だったとか……。
「え? いえ! お嬢様が心配されているようなことはございません。結婚を考えていた方との子ですので」
「それならどうして……?」
「お互い両親に反対されてしまったのです。家を出て一緒に暮らそうと約束をしていたのですが、約束の日に来てくれず……ずっと待ったのですが結局そのまま会えなくなりました……」
「そんなことって!!」
どうサラに声をかければいいのかと思ったけれど、私が話をするよりも先にリリーが大きな声を出した。
「そんな! そんなのひどい!」
「リリー、ちょっと落ち着いて?」
サラも驚いているじゃない。
「サラ、相手のことは探したの?」
「もちろんです。でも、どこに住んでいるのか分からず、それ以上探すことができませんでした……」
「「え?」」
いや、サラ……。
どこに住んでいるかも分からない相手って、結婚を考えていたのよね? 子供まで妊娠して……。
この話は今度じっくり聞くことにしましょう。
サラは私の考えていることが分かったのか、「恋に盲目になっていたといいますか……」と小さな声で話した。
「サラ、それであなたの子供が人質にとられているということ?」
「は、い……」
「どういうことなのか教えてくれる?」
「私の子はその、魔力を持って生まれたのです。でも、誰かにそのことを知られる訳にはいかなくて……」
「魔力を?」
「はい、でもまさか生まれてすぐに魔力が不安定になるとは思わなかったのです。薬を買ってなんとか抑えてきたのですが……」
「そんなに早くから? 珍しいね……」
魔力を持って生まれても、すぐにそれが分かるわけではない。普通は早くても五歳か六歳頃に魔力を感じることができるようになる。
魔力に素質のある家系や、六家のような特別な力は別だけれど。
それなのに、サラの子供は魔力が不安定のまま生まれてしまったということなのね。
「サラ、魔力を持っているということは子供の父親は……」
「それ、は……」
サラも確信はないようだけれど、薄々気付いているのだろう。魔力があるということは子供の父親は貴族の可能性が高い。
「父親がいないのに、魔力のあるあの子を医者に診せることもできなくて……。幸い、大きな怪我や病気もなくこれまで医者にかからず済んだのですが……」
確かに医者に診せることはできないだろう。子供の話がどこから漏れてしまうか分からない。
もし、子供の外見や魔力に特徴があれば家系が分かってしまうかもしれない。
相手の家門に子供をとられる可能性だってある。それに、男の子ということは後継者問題で最悪の場合……。
「息子は成長するにつれ不安定になる日が多くなって……それで薬が高く買えなくて困っていたときにその男が現れたのです。そして、私にこう言ったのです。"父親はこの事を知っているのか"と……。私、こ、怖くて……! あの子がもしいなくなってしまったらと考えると……」
サラは涙を流す。
「サラ……」
その男はサラの相手の家のことをすでに知っているのかもしれない。
「息子の魔力を抑える薬と、誰にも話さないという約束の代わりに、私は……」
サラは震えていた。
子供を失うかもしれないという恐怖と、それと引き換えにした選択を。
「サラ、その男が現れたのはいつ? 私に毒を飲ませるためにここへ来たんじゃない、よね……?」
「それは違います! 私は家と縁を切って王都に来たので頼れる人が誰もいなくて……侯爵家の使用人の募集を見てここへ来たのですが、奥様が事情を酌んで下さって……」
「お母様は知っていたのね。サラは今年で二十五歳だったかしら? それなら子供を産んだ時はまだ十九、よね……一人で大変だったでしょう?」
「………っ」
サラはまた涙を流す。一人で大変だったに違いない。私が想像できないほどに。
「お嬢様、申し訳ありませんっ! 実はその、私の年齢は二十五ではありません……」
「え?」
「本当は今年で二十二になります。ここで働くには年齢が条件から外れていたので奥様が……」
「に、二十二!? なら、それなら十六で産んだというの!?」
十六歳で出産して一人で……。
「はい、そうです。十五で結婚できますので十六で出産することはそう珍しいことではありません」
そうだけど、でも。それにしたって……。
「でも、年齢を詐称したことになるわ。今からもしお父様に知られてしまえば……」
「はい、承知しております……。奥様が念のためにと一筆書いてくれたものがございます」
「そうだったの。お母様はリリーだけではなくあなたのことも気にかけていたのね」
リリーは事情があり幼い頃からこの侯爵家にいるが、本来ならメイドとして働く場合は十八歳以上でなければならない。
賃金の安い、簡単な仕事の下働きなら十八歳以下でも働けるがそれだとサラがメイドとして働けないためお母様が年齢に目を瞑ったのだろう。
「サラ、その男とはいつ会ったの?」
「男が接触してきたのは私がここで働き始めて一年が経ったころでした」
「その時どんなことを言っていたの?」
「その……奥様が、」
「大丈夫よ、続けて」
「奥様はもう長くはない……亡くなった後のこと、息子のことを考えろと……私のことはすでに調べられていたようです」
「………」
「申し訳、ございません……っ。あの時はここを辞めることになったらどうしたらいいのかもう、分からなくて……自分のことしか考えておりませんでした」
その時サラはまだ十代で、子供が一人。
頼れる人もいなくてここを辞めさせられたら生きていけないと考えたのかもしれない。
そう考えてしまうのは仕方のないことだと思う。でも……。
「サラ、だからって……どうしてお嬢様をっ」
リリーも複雑な心境なんだろう。リリーにも頼れる人は誰もいない。ここから出て一人で生きていくとなると……。
「もう抜け出せなくなってしまって……誰にも言えなくて……」
「男からの接触は今もあるの?」
「いえ、ありません」
「それならどうやって私に飲ませる薬を手に入れていたの?」
「部屋の荷受けに定期的に入れられています」
「部屋?」
「はい、息子がいるところです。教会に併設された施設なんですが、ただ……そこも男から紹介されたもので……」
「そう、教会の施設……そこは安全なところなのかしら?」
「はい、多分大丈夫……だと思います。国営されているところですので……」
それならひとまずは安心、と言いたいところだけれどその男が紹介したところなら絶対に安全とは言えないだろう。
できることならサラの子供を侯爵家に連れてきた方がいいけれど、今そうしてしまえは私が気付いたことが知られてしまう。
まだそれは早い。私にはまだ何もないから。
サラが小さな声で話し始めた。その様子から話し難いことなんだと予想ができる。
「私には子供が一人おります」
……ん? 今なんて……?
「「え?」」
私とリリーの声が重なる。重かった空気のはずが、二人ともポカンとしてしまった。
まさかサラから子供という言葉が出てくるとは思わなかった。
私もリリーも混乱してしまう。
サ、サラ……ちょっと待って。
「今年で六つになります。あ、男の子なんです」
私とリリーの戸惑いに気付いていないのか、サラはそのまま話を続けようとした。
「いえ、ちょ、ちょっと、待ってサラ。え?」
「……………」
リリーにいたっては口をパクパクさせて固まってしまっている。サラに子供がいたことだけでも驚きなのに、まさかの今年で六歳。今の私とそんなに変わらない歳の子供がいるなんて……。
リリーにはあまりにも衝撃だったようだ。
「ちょ、あの、サラ?」
「はい、お嬢様」
「あなた、結婚していたの!?」
「その、結婚はしておりません……」
サラは気まずそうに下を向く。
「サラ、それは……」
結婚をしていない女性に子供がいるということに対してこの国では悪い印象が強い。
特に貴族が多く暮らしているここ、王都ではその印象は強いものだ。
「サラ、子供の父親は……? 相手が誰なのかは教えて……あ、いえ、話したくないのなら……」
まさか望まぬ妊娠だったとか……。
「え? いえ! お嬢様が心配されているようなことはございません。結婚を考えていた方との子ですので」
「それならどうして……?」
「お互い両親に反対されてしまったのです。家を出て一緒に暮らそうと約束をしていたのですが、約束の日に来てくれず……ずっと待ったのですが結局そのまま会えなくなりました……」
「そんなことって!!」
どうサラに声をかければいいのかと思ったけれど、私が話をするよりも先にリリーが大きな声を出した。
「そんな! そんなのひどい!」
「リリー、ちょっと落ち着いて?」
サラも驚いているじゃない。
「サラ、相手のことは探したの?」
「もちろんです。でも、どこに住んでいるのか分からず、それ以上探すことができませんでした……」
「「え?」」
いや、サラ……。
どこに住んでいるかも分からない相手って、結婚を考えていたのよね? 子供まで妊娠して……。
この話は今度じっくり聞くことにしましょう。
サラは私の考えていることが分かったのか、「恋に盲目になっていたといいますか……」と小さな声で話した。
「サラ、それであなたの子供が人質にとられているということ?」
「は、い……」
「どういうことなのか教えてくれる?」
「私の子はその、魔力を持って生まれたのです。でも、誰かにそのことを知られる訳にはいかなくて……」
「魔力を?」
「はい、でもまさか生まれてすぐに魔力が不安定になるとは思わなかったのです。薬を買ってなんとか抑えてきたのですが……」
「そんなに早くから? 珍しいね……」
魔力を持って生まれても、すぐにそれが分かるわけではない。普通は早くても五歳か六歳頃に魔力を感じることができるようになる。
魔力に素質のある家系や、六家のような特別な力は別だけれど。
それなのに、サラの子供は魔力が不安定のまま生まれてしまったということなのね。
「サラ、魔力を持っているということは子供の父親は……」
「それ、は……」
サラも確信はないようだけれど、薄々気付いているのだろう。魔力があるということは子供の父親は貴族の可能性が高い。
「父親がいないのに、魔力のあるあの子を医者に診せることもできなくて……。幸い、大きな怪我や病気もなくこれまで医者にかからず済んだのですが……」
確かに医者に診せることはできないだろう。子供の話がどこから漏れてしまうか分からない。
もし、子供の外見や魔力に特徴があれば家系が分かってしまうかもしれない。
相手の家門に子供をとられる可能性だってある。それに、男の子ということは後継者問題で最悪の場合……。
「息子は成長するにつれ不安定になる日が多くなって……それで薬が高く買えなくて困っていたときにその男が現れたのです。そして、私にこう言ったのです。"父親はこの事を知っているのか"と……。私、こ、怖くて……! あの子がもしいなくなってしまったらと考えると……」
サラは涙を流す。
「サラ……」
その男はサラの相手の家のことをすでに知っているのかもしれない。
「息子の魔力を抑える薬と、誰にも話さないという約束の代わりに、私は……」
サラは震えていた。
子供を失うかもしれないという恐怖と、それと引き換えにした選択を。
「サラ、その男が現れたのはいつ? 私に毒を飲ませるためにここへ来たんじゃない、よね……?」
「それは違います! 私は家と縁を切って王都に来たので頼れる人が誰もいなくて……侯爵家の使用人の募集を見てここへ来たのですが、奥様が事情を酌んで下さって……」
「お母様は知っていたのね。サラは今年で二十五歳だったかしら? それなら子供を産んだ時はまだ十九、よね……一人で大変だったでしょう?」
「………っ」
サラはまた涙を流す。一人で大変だったに違いない。私が想像できないほどに。
「お嬢様、申し訳ありませんっ! 実はその、私の年齢は二十五ではありません……」
「え?」
「本当は今年で二十二になります。ここで働くには年齢が条件から外れていたので奥様が……」
「に、二十二!? なら、それなら十六で産んだというの!?」
十六歳で出産して一人で……。
「はい、そうです。十五で結婚できますので十六で出産することはそう珍しいことではありません」
そうだけど、でも。それにしたって……。
「でも、年齢を詐称したことになるわ。今からもしお父様に知られてしまえば……」
「はい、承知しております……。奥様が念のためにと一筆書いてくれたものがございます」
「そうだったの。お母様はリリーだけではなくあなたのことも気にかけていたのね」
リリーは事情があり幼い頃からこの侯爵家にいるが、本来ならメイドとして働く場合は十八歳以上でなければならない。
賃金の安い、簡単な仕事の下働きなら十八歳以下でも働けるがそれだとサラがメイドとして働けないためお母様が年齢に目を瞑ったのだろう。
「サラ、その男とはいつ会ったの?」
「男が接触してきたのは私がここで働き始めて一年が経ったころでした」
「その時どんなことを言っていたの?」
「その……奥様が、」
「大丈夫よ、続けて」
「奥様はもう長くはない……亡くなった後のこと、息子のことを考えろと……私のことはすでに調べられていたようです」
「………」
「申し訳、ございません……っ。あの時はここを辞めることになったらどうしたらいいのかもう、分からなくて……自分のことしか考えておりませんでした」
その時サラはまだ十代で、子供が一人。
頼れる人もいなくてここを辞めさせられたら生きていけないと考えたのかもしれない。
そう考えてしまうのは仕方のないことだと思う。でも……。
「サラ、だからって……どうしてお嬢様をっ」
リリーも複雑な心境なんだろう。リリーにも頼れる人は誰もいない。ここから出て一人で生きていくとなると……。
「もう抜け出せなくなってしまって……誰にも言えなくて……」
「男からの接触は今もあるの?」
「いえ、ありません」
「それならどうやって私に飲ませる薬を手に入れていたの?」
「部屋の荷受けに定期的に入れられています」
「部屋?」
「はい、息子がいるところです。教会に併設された施設なんですが、ただ……そこも男から紹介されたもので……」
「そう、教会の施設……そこは安全なところなのかしら?」
「はい、多分大丈夫……だと思います。国営されているところですので……」
それならひとまずは安心、と言いたいところだけれどその男が紹介したところなら絶対に安全とは言えないだろう。
できることならサラの子供を侯爵家に連れてきた方がいいけれど、今そうしてしまえは私が気付いたことが知られてしまう。
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