誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

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二章 二度目の人生

44【使用人募集の件】

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 急いで出て行ってしまったお父様を見て、お父様とまともに話をするのは難しいのだと再認識することになってしまった。

 執事長は気にせず書類をまとめている。

「あの、」

「はい、お嬢様。いかがされましたか?」

「お父様はいつもあのようにお忙しの? 食事も途中だったし……」

「そうですね、でも今日はまだ話ができた方なんですよ」

 そう言って執事長は微笑んだ。

「そう、なんだ……」

「何かお話ししたいことがございましたか? 私から旦那様にお伝えいたしましょうか。ただ、なかなか時間がとれないかもしれませんが……」

「ううん、大丈夫。えっと、先程お父様がお話しされていた使用人のことなんだけど……」

「あぁ、新しい使用人募集の件ですね。公子様のお披露目パーティーまでにできるだけ人数を揃えておきたかったのですが、どうやら厳しいかもしれません。お嬢様、もしかして使用人のことで何か問題がございましたか?」

 その雇用のせいで数年後にね、と思いながら苦い思いをぐっと飲み込んだ。
 今から募集して雇用となると、以前のように推薦状だけで決めてしまいそうだ。

「ううん、大丈夫だよ。えーっと、使用人を雇用するときってどんな条件なの?」

「そうですね、今まで通りですと一定以上の資格がなければ侯爵家でまず雇用はしません。そこから面接をするのですが今回は面接まで行うのは難しいですね……。私が直接できればいいのですが、今月は旦那様について行かなければいけない日が多いので……」

 執事長も時間を取ることが難しいようだ。かと言って、私ができるようなことではない。

 使用人に関することは今までならお母様がしていた。執事長がだめならメイド長、と言いたいところだけれど、メイド長をしていた人は伯爵家へと戻ってしまっているし……。

 優秀なアメリアは領地にいてまだここにはいない。

 誰か他に適任な人はいないのだろうか。

 誰がいるか? そう、お兄様だ。
 優秀なお兄様がいるじゃない。

「シアお嬢様、どうかされましたか?」

 執事長は何も話さず考え込んでいた私の様子を伺っている。

「お兄様に……。ルカお兄様に使用人のことを任せるのは、ダメかな?」

「公子様にですか!?」

「うん。お兄様ならちゃんとした人を選んでくれると思うの!」

「たしかにそう、ですが……公子様も後継者教育でお忙しいかと。それにあの公子様が使用人の面接を……?」

 執事長のセバスティンも、お兄様が面接をする場面など想像ができないようだ。

 うん、そうよね。私だってお兄様が面接している姿とか想像できないもの。

 そもそもお兄様はまだ九歳だ。もうすぐ十歳になる侯爵家の跡取りとはいえまだ子供。

 でも、あのお兄様なら問題ないはずだ。年齢に対してやけに大人びている、私のお兄様。

「やっぱり、無理かな……? もしかしたら悪い人が来ちゃうかもしれないでしょう? でも、お兄様ならそういう人たちを雇ったりしないと思うの!」

 今の私はただの八歳の子供。

 こんなことを言っても聞いてもらえないかもしれないけど……。

「そうですね、侯爵家ですのでそういったことがないとは限りませんので。一度旦那様に相談してみます」

「あ、ありがとう!」

 よかった、お兄様が使用人の件を受けてくれれば以前よりも環境は良くなるはずだ。

 執事長に使用人の件は託して私は部屋へと戻った。
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