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二章 二度目の人生
42【お父様との再会①】
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リリーとの話が終わり、部屋で一人で過ごしているといつの間にか昼時になろうとしていた。
部屋から出て行くリリーの悲しそうな後ろ姿が頭から離れなかった。
いつお父様が帰ってくるのか分からず不安でそわそわしていると、執事がお父様の帰宅を知らせにきてくれた。
お父様に会ったらなんて声をかけよう?
私が話しかけたらお父様はどんな表情をするんだろう? 返事は返ってくるのかな?
私のことを見てくれるだろうか。
そんな不安でいっぱいになりながも、私はお父様がいるであろう執務室へと急いで向かった。またすぐにお仕事に行ってしまうかもしれないから。
それに、早く会いたい……。
自然と小走りになっていた。
あそこを曲がれば執務室だ。
そうして廊下を曲がったところで、奥からお父様が歩いて来ているのが目に入り私の足はその場でピタリと止まった。
「あ、お……父様……」
遠くからでもよく分かるその髪色は、記憶の中と同じだった。青みを帯びた銀色の髪に金色の瞳。お兄様と本当にそっくりだ。
まだ三十代のお父様はとても若くて、娘の私から見てもかっこいい人。けれど、ひどく疲れているように見える。
お父様をまとっている空気はとても近寄りがたいものだった。
六家の一つであるコンフォート侯爵家の現当主、レオ・クラウス・コンフォート。
お父様は執事長と難しい顔をして話をしている。このままでは私に気が付かずに執務室へと入ってしまう。
声をかけなければと思うのに、声が出ない。緊張しているのか、怖くて声が出ないのか。それともお父様に気が付いて欲しいのか……。
すると、お父様が私に気が付いた。
視線が合う。
大袈裟にびくりとした私を見てお父様はどう思ったのだろう。父親を見て震える娘など嬉しいはずがない。
何も言わずになぜかそこに立っている私に、お父様が怪訝そうにしている。
その表情は私を鬱陶しく思っているのか、娘とどう接したらいいか分からないのか、どちらなのか。
以前の私なら前者だと思い込んでここをすぐに逃げ出していたはずだ。でも、今はそうは思わない。
私はゆっくりとお父様の方へと足を進めた。
「あ、あの、お父様」
「……なんだ?」
「えっと、おかえりなさい……」
私の言葉にお父様は少しだけ眉を動かした。表情は特に変わらない。
「あぁ」
そう言い、お父様は執務室へと体を向けた。
だめ、待って!
気が付ければ私はお父様の足に抱きついていた。
「……なっ」
私の理解できない行動にさすがのお父様も動揺したようだ。何やら難しそうな事が書いてある書類を持った手が、行き場を無くし空中で止まっている。
静かに書類が床へと落ちる。
この侯爵家で、今までなら絶対に見られないようなおかしな光景だろう。
この場に私たち三人だけなのが救いだろうか。
執事長は何も言わずに開けたドアから手を離し、落ちた書類を拾い、無言でお父様からまとめて書類を受け取った。
誰も動かない、話さない。
たった数秒のことだけれどとても長く感じた。
あの時、最後に聞いたお父様の声はとても優しくて切実だった。今までの悪いことなんて忘れてしまうくらいに。
今度は頑張るから。
どうかお父様も私を見てほしい。
抑えられない気持ちが溢れてくる。
「……っ、」
私は声を出すことなく、静かに涙を流した。しがみついた服からはお父様のさわやかな香りがした。
お父様はこんな匂いだっただろうか……。あ、いや、臭いとかではなくて!
こんなにも心地良く安心できるものだったんだと、このような状況でも嬉しく思ってしまった。
足にしがみつきながら突然涙を流した娘を無理矢理引き離す訳にもいかず、どうしたらいいのかお父様も戸惑っているようだ。
当然、しがみついた本人である私も戸惑っている。後のことなど考えていなかったから……。
ど、どうしよう。この後どうしたらいい?
お父様も執事長も何も言わない。静かなこの廊下で、ただ無言の時間が流れる。
「旦那様、とりあえず執務室に入られてはいかがですか?」
最初に声を発したのは執事長のセバスティンだった。行動に移せない親子を見てどうやら気を利かせてくれたようだ。
「あ、あぁ。そうだな」
私はこのタイミングしかないと思い、そっと顔をお父様の足から離した。目の前には私の涙と鼻水で濡れてしまった服が。
「ご、ごめ——」
私は急いで謝ろうとしたけれど、セバスティンがドアを開けてくれてお父様はそのまま執務室へと入ってしまった。
私も一緒に入っていいのか、このままここを立ち去るべきなのか分からず困っていると——。
「入らないのか?」
お父様が声をかけてくれ、後に続いて静かに執務室へと入った。
部屋から出て行くリリーの悲しそうな後ろ姿が頭から離れなかった。
いつお父様が帰ってくるのか分からず不安でそわそわしていると、執事がお父様の帰宅を知らせにきてくれた。
お父様に会ったらなんて声をかけよう?
私が話しかけたらお父様はどんな表情をするんだろう? 返事は返ってくるのかな?
私のことを見てくれるだろうか。
そんな不安でいっぱいになりながも、私はお父様がいるであろう執務室へと急いで向かった。またすぐにお仕事に行ってしまうかもしれないから。
それに、早く会いたい……。
自然と小走りになっていた。
あそこを曲がれば執務室だ。
そうして廊下を曲がったところで、奥からお父様が歩いて来ているのが目に入り私の足はその場でピタリと止まった。
「あ、お……父様……」
遠くからでもよく分かるその髪色は、記憶の中と同じだった。青みを帯びた銀色の髪に金色の瞳。お兄様と本当にそっくりだ。
まだ三十代のお父様はとても若くて、娘の私から見てもかっこいい人。けれど、ひどく疲れているように見える。
お父様をまとっている空気はとても近寄りがたいものだった。
六家の一つであるコンフォート侯爵家の現当主、レオ・クラウス・コンフォート。
お父様は執事長と難しい顔をして話をしている。このままでは私に気が付かずに執務室へと入ってしまう。
声をかけなければと思うのに、声が出ない。緊張しているのか、怖くて声が出ないのか。それともお父様に気が付いて欲しいのか……。
すると、お父様が私に気が付いた。
視線が合う。
大袈裟にびくりとした私を見てお父様はどう思ったのだろう。父親を見て震える娘など嬉しいはずがない。
何も言わずになぜかそこに立っている私に、お父様が怪訝そうにしている。
その表情は私を鬱陶しく思っているのか、娘とどう接したらいいか分からないのか、どちらなのか。
以前の私なら前者だと思い込んでここをすぐに逃げ出していたはずだ。でも、今はそうは思わない。
私はゆっくりとお父様の方へと足を進めた。
「あ、あの、お父様」
「……なんだ?」
「えっと、おかえりなさい……」
私の言葉にお父様は少しだけ眉を動かした。表情は特に変わらない。
「あぁ」
そう言い、お父様は執務室へと体を向けた。
だめ、待って!
気が付ければ私はお父様の足に抱きついていた。
「……なっ」
私の理解できない行動にさすがのお父様も動揺したようだ。何やら難しそうな事が書いてある書類を持った手が、行き場を無くし空中で止まっている。
静かに書類が床へと落ちる。
この侯爵家で、今までなら絶対に見られないようなおかしな光景だろう。
この場に私たち三人だけなのが救いだろうか。
執事長は何も言わずに開けたドアから手を離し、落ちた書類を拾い、無言でお父様からまとめて書類を受け取った。
誰も動かない、話さない。
たった数秒のことだけれどとても長く感じた。
あの時、最後に聞いたお父様の声はとても優しくて切実だった。今までの悪いことなんて忘れてしまうくらいに。
今度は頑張るから。
どうかお父様も私を見てほしい。
抑えられない気持ちが溢れてくる。
「……っ、」
私は声を出すことなく、静かに涙を流した。しがみついた服からはお父様のさわやかな香りがした。
お父様はこんな匂いだっただろうか……。あ、いや、臭いとかではなくて!
こんなにも心地良く安心できるものだったんだと、このような状況でも嬉しく思ってしまった。
足にしがみつきながら突然涙を流した娘を無理矢理引き離す訳にもいかず、どうしたらいいのかお父様も戸惑っているようだ。
当然、しがみついた本人である私も戸惑っている。後のことなど考えていなかったから……。
ど、どうしよう。この後どうしたらいい?
お父様も執事長も何も言わない。静かなこの廊下で、ただ無言の時間が流れる。
「旦那様、とりあえず執務室に入られてはいかがですか?」
最初に声を発したのは執事長のセバスティンだった。行動に移せない親子を見てどうやら気を利かせてくれたようだ。
「あ、あぁ。そうだな」
私はこのタイミングしかないと思い、そっと顔をお父様の足から離した。目の前には私の涙と鼻水で濡れてしまった服が。
「ご、ごめ——」
私は急いで謝ろうとしたけれど、セバスティンがドアを開けてくれてお父様はそのまま執務室へと入ってしまった。
私も一緒に入っていいのか、このままここを立ち去るべきなのか分からず困っていると——。
「入らないのか?」
お父様が声をかけてくれ、後に続いて静かに執務室へと入った。
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