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二章 二度目の人生
41【リリーへの信頼②】
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リリーを見ると、目に涙を浮かべている。
「え、」
「お嬢様、私は決して毒など……! 信じて下さい……!」
「違うわ、リリー。あなたのことを疑ったことなんて一度も、全く、ないわ!」
リリーを勘違いさせてしまったようで、誤解を解くために強調して訂正する。
「そう、ですか……? よかった……」
「リリー、私はあなたのことを一番信頼しているの。それと、もう絶対に毒見はしないって約束してくれる?」
「わ……かり、ました」
歯切れ悪くそう言ったリリーの目は、すーっと視線を私から逸らした。
「…………」
「…………」
「リリー?」
「うぅ、はい……」
リリーは私から視線を逸らしたまま気まずそうにしている。
「ねぇ、リリー。あなたまで私と同じ毒を口にしていたかもしれないんだよ……? 魔力のないリリーにはどんな影響があるか分からないのに。だからもう絶対にしないって約束、してくれる……?」
「それならなおさら私が……!」
「お願い……」
私は泣きそうな顔になっていると思う。それはリリーも同じだった。想っているからこそ、お互い譲れないものがあるのかもしれない。
時間が遡る前、リリーは不調などを訴えたことはなく、いたって健康そうに見えた。けれどもしリリーも毒を口にしていた場合、あの後どのような影響が出ていたかは分からない。
「お嬢様、わかりました。お約束します……」
「うん、約束。絶対だからね? もう毒見なんてしないって、約束だよ……?」
リリーの目を見て念を押す。リリーならこっそり毒見を続けかねないから。
「お嬢様、これからはお飲み物やお食事も全て気を付けないといけませんよね……? あ、でもさすがにキッチンはどうしよう……。でも、いったいどこで……」
「心配しなくて大丈夫よ。これから確かめていけばいいから」
私が本当の意味で毒殺されることはないから、あの毒にさえ気をつければ大丈夫なんだけれど……。
「それで、その……お嬢様」
「うん?」
「聞いてもいいのか……。どうしてそのようなことが分かったのでしょうか……?」
「うん、そう……だよね。どう言えばいいのかな……」
「…………」
「まずはね、リリーがこの嘘みたいな話を信じてくれてとても嬉しいわ」
「そんなっ、私はいつでもお嬢様を信じておりますから……。それに、今日のお嬢様はやっぱりどこか変です。あ、変って言うのは悪い意味ではなくてですねっ」
リリーが一生懸命に話をしてくれる。私はうん、と頷きながら静かに聞く。
「その、今日のお嬢様はなんだか年上の女性と話をしているような感覚になる時があるんです。急にお嬢様の話し方とか雰囲気が……うーん、その、大人びていて……? あ、いえ、もちろんお嬢様は子供らしくて可愛いですけど!」
確かに以前のように話してしまう時があるかも……。子どもらしく、がなかなかに難しいんだもの。
「ごめんね、リリー。まだ詳しく言えないの。というより、証明ができないから……」
聖獣の力のおかげで、実は十年時間を遡ったの。なんて、さすがに言えない。あの時の猫ちゃんも姿が見えないから会わせることができないし……。
猫ちゃんも言っていたけれど、まずは私が魔力を取り戻さないと。
「私が魔法を使えるようになったら……そうしたらリリーに会わせたい猫ちゃんがいるの。その時に話すから……。それでもいい……?」
「はい、わかりましたっ。もちろん、私はお嬢様が嘘をついているとか思っていませんからね! ただ不思議なだけなんです」
「うん、大丈夫。分かってるよ」
「あの、ところでお嬢様はいつの間に猫のお友達ができたのですか? この屋敷に動物はいないと思っていたのですが」
「ふふっ、とても可愛かったの」
本人(?)は猫じゃないって言っていたけど、どうみても小さくて可愛い猫だったよね。聖獣は様々な姿でいるから、見た目が猫でももちろん聖獣で間違いないんだけれど……。
はぁ、可愛かったな。
「お嬢様、最後にあと一つだけ聞いてもいいでしょうか……?」
リリーは不安そうな表情だ。聞いてもいいのか迷っているようで、そわそわと少し落ち着きがない。
「うん、大丈夫よ。何か知りたいことがあるの?」
「その——。お嬢様に毒を盛ったのが誰なのか……もう分かっているのですか……?」
「……思い当たる人はいるの」
「その人を……教えていただくことはできますか? そうすれば気を付けることができると思うんです。私はシアお嬢様の専属メイドなので防ぐことができますし……」
「うん、そう……だね」
思い当たる人は一人しかいない。
私はずっと前から毒を口にしていた。
そこから考えるのなら、私が小さな頃からずっと侯爵家にいた人。そして、私が十八歳になってもこの侯爵家にいた人。もちろん、それが一人でしたことではない可能性だってあるけれど。
いつも私の近くにいて、私の食事に手を出せる人。
私が落ち込んでいると優しくしてくれた。
リリーがいなくなった後もアメリアがいなくなった後も、ずっとずっとそばにいてくれた。
名前を伝えて、ショックを受けないだろうか……。リリーだって、さすがに信じてくれないかもしれない。
だって証拠はないから。私がそう思っただけ。
思い当たる人の名を伝えると、リリーは何も話さず、静かに涙を流した。
「え、」
「お嬢様、私は決して毒など……! 信じて下さい……!」
「違うわ、リリー。あなたのことを疑ったことなんて一度も、全く、ないわ!」
リリーを勘違いさせてしまったようで、誤解を解くために強調して訂正する。
「そう、ですか……? よかった……」
「リリー、私はあなたのことを一番信頼しているの。それと、もう絶対に毒見はしないって約束してくれる?」
「わ……かり、ました」
歯切れ悪くそう言ったリリーの目は、すーっと視線を私から逸らした。
「…………」
「…………」
「リリー?」
「うぅ、はい……」
リリーは私から視線を逸らしたまま気まずそうにしている。
「ねぇ、リリー。あなたまで私と同じ毒を口にしていたかもしれないんだよ……? 魔力のないリリーにはどんな影響があるか分からないのに。だからもう絶対にしないって約束、してくれる……?」
「それならなおさら私が……!」
「お願い……」
私は泣きそうな顔になっていると思う。それはリリーも同じだった。想っているからこそ、お互い譲れないものがあるのかもしれない。
時間が遡る前、リリーは不調などを訴えたことはなく、いたって健康そうに見えた。けれどもしリリーも毒を口にしていた場合、あの後どのような影響が出ていたかは分からない。
「お嬢様、わかりました。お約束します……」
「うん、約束。絶対だからね? もう毒見なんてしないって、約束だよ……?」
リリーの目を見て念を押す。リリーならこっそり毒見を続けかねないから。
「お嬢様、これからはお飲み物やお食事も全て気を付けないといけませんよね……? あ、でもさすがにキッチンはどうしよう……。でも、いったいどこで……」
「心配しなくて大丈夫よ。これから確かめていけばいいから」
私が本当の意味で毒殺されることはないから、あの毒にさえ気をつければ大丈夫なんだけれど……。
「それで、その……お嬢様」
「うん?」
「聞いてもいいのか……。どうしてそのようなことが分かったのでしょうか……?」
「うん、そう……だよね。どう言えばいいのかな……」
「…………」
「まずはね、リリーがこの嘘みたいな話を信じてくれてとても嬉しいわ」
「そんなっ、私はいつでもお嬢様を信じておりますから……。それに、今日のお嬢様はやっぱりどこか変です。あ、変って言うのは悪い意味ではなくてですねっ」
リリーが一生懸命に話をしてくれる。私はうん、と頷きながら静かに聞く。
「その、今日のお嬢様はなんだか年上の女性と話をしているような感覚になる時があるんです。急にお嬢様の話し方とか雰囲気が……うーん、その、大人びていて……? あ、いえ、もちろんお嬢様は子供らしくて可愛いですけど!」
確かに以前のように話してしまう時があるかも……。子どもらしく、がなかなかに難しいんだもの。
「ごめんね、リリー。まだ詳しく言えないの。というより、証明ができないから……」
聖獣の力のおかげで、実は十年時間を遡ったの。なんて、さすがに言えない。あの時の猫ちゃんも姿が見えないから会わせることができないし……。
猫ちゃんも言っていたけれど、まずは私が魔力を取り戻さないと。
「私が魔法を使えるようになったら……そうしたらリリーに会わせたい猫ちゃんがいるの。その時に話すから……。それでもいい……?」
「はい、わかりましたっ。もちろん、私はお嬢様が嘘をついているとか思っていませんからね! ただ不思議なだけなんです」
「うん、大丈夫。分かってるよ」
「あの、ところでお嬢様はいつの間に猫のお友達ができたのですか? この屋敷に動物はいないと思っていたのですが」
「ふふっ、とても可愛かったの」
本人(?)は猫じゃないって言っていたけど、どうみても小さくて可愛い猫だったよね。聖獣は様々な姿でいるから、見た目が猫でももちろん聖獣で間違いないんだけれど……。
はぁ、可愛かったな。
「お嬢様、最後にあと一つだけ聞いてもいいでしょうか……?」
リリーは不安そうな表情だ。聞いてもいいのか迷っているようで、そわそわと少し落ち着きがない。
「うん、大丈夫よ。何か知りたいことがあるの?」
「その——。お嬢様に毒を盛ったのが誰なのか……もう分かっているのですか……?」
「……思い当たる人はいるの」
「その人を……教えていただくことはできますか? そうすれば気を付けることができると思うんです。私はシアお嬢様の専属メイドなので防ぐことができますし……」
「うん、そう……だね」
思い当たる人は一人しかいない。
私はずっと前から毒を口にしていた。
そこから考えるのなら、私が小さな頃からずっと侯爵家にいた人。そして、私が十八歳になってもこの侯爵家にいた人。もちろん、それが一人でしたことではない可能性だってあるけれど。
いつも私の近くにいて、私の食事に手を出せる人。
私が落ち込んでいると優しくしてくれた。
リリーがいなくなった後もアメリアがいなくなった後も、ずっとずっとそばにいてくれた。
名前を伝えて、ショックを受けないだろうか……。リリーだって、さすがに信じてくれないかもしれない。
だって証拠はないから。私がそう思っただけ。
思い当たる人の名を伝えると、リリーは何も話さず、静かに涙を流した。
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