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二章 二度目の人生
40【リリーへの信頼①】
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"コン、コン、コン……"
部屋で考え事をしていると誰かがドアをノックした。「どうぞ」と声をかけるとリリーが部屋へと入ってきた。
私の顔を見たリリーは心配そうな表情になった。
「お嬢様、ハーブティーはいかがですか? なんだかお疲れに見えます……」
「ありがとう、リリー」
リリーが用意してくれる飲み物はなんだって美味しい。私は一口飲んでから、ゆっくりと息を吐いてリリーを真っ直ぐに見た。
リリーは不思議そうにきょとんとしている。
「……? お嬢様、どうかされましたか?」
「私ね、リリーのことが大好きなの」
リリーは一瞬ぽかんとしたけれど、顔を真っ赤にしてあたふたとしている。その度にリリーのふわふわした濃い茶色の髪の毛が肩の上で揺れている。その姿を見てつい、笑ってしまう。
「えぇ!? い、いきなりどうされたのですか!? でも、ありがとうございます……。わ、私もお嬢様のことが大好きです!」
「ふふっ」
「もう、シアお嬢様! からかわないで下さいっ」
可愛い顔を真っ赤にして恥ずかにそうにしているリリー。この笑顔が十年も経たずに奪われてしまうなんてあの時は知らなかった。
まだ二十代だったのに。
本当は考えたくはないけれど、リリーが姿を消した後は……もしかしたら……。
リリーは何か見てはいけないものを見てしまったのか、知ってしまったのか。
それとも別の理由があったのか。
あの時何かを言いかけたリリーの顔が忘れられない。
あの時私を助けたせいで——。
リリーに私に起きたことを話してみようと思う。この不安を一人で抱えるのは正直、辛い。話をしてリリーを巻き込んでしまうと分かってはいても、話してしまいたい、聞いて欲しいという気持ちが強い。
全てを話すことはまだできないけれど、私の話を笑わずに聞いてくれるはずだから。
そして、リリーは信頼できる人だから。
ずっと私のそばにいてくれた。私を大切にしてくれた。リリーは絶対に私を裏切らない。
なぜだかそう思えるの。
だから大丈夫。
「あの、お嬢様……?」
いざ話すと思うと、どう切り出していいか困ってしまう。何から、どこから話したらいいんだろう。
「えっと、リリー、あのね……」
「はいっ!」
リリーは微笑みながら私が話をするのを待ってくれる。
「リリーに聞いてもらいたいことがあるんだけど……とりあえず、ここに座ってもらえない?」
「……?? えっと、それでは失礼します」
本来、メイドが一緒のテーブルにつくことはないけれど私の真面目な表情を察してかリリーはすぐに座ってくれた。
落ち着くためにもう一口、ハーブティーを飲む。飲む、というよりも流し込んだ。
「ふぅ……」
緊張して手がかたかたと震えてしまう。カップが音をたててしまうため手を離し、膝の上でぎゅっと両手を握る。
「誰かに聞かれると困るから、小声で話すね」
私のその言葉にリリーはなぜかパッと口に手を当てる。声を出さないようにこくこくと頷くその可愛らしい仕草に心が少し落ち着いた。
「えっと、驚かないで聞いてね? 例えばなんだけど……。もし、私が十年後に死んでしまうって言ったら、リリーは……信じてくれる?」
「え……」
「死ぬ、というか……殺される、というか……」
リリーは驚きよりもショックの方が大きかったようで顔が真っ青になってしまった。今にも後ろに倒れないかと心配になってしまう。
「お、お嬢様……それは……な、なにが」
「今のままだと私は十歳を過ぎても侯爵家の能力が発現しないの。それだけじゃなくて、簡単な魔法一つさえ使うことができない……」
「でも……でも、お嬢様はまだ八歳です……。まだ二年もあります、だから——」
リリーの表情がますます悪くなっていく。
「ううん、違うの……。私、体の中にある魔力の循環がだめになってしまったせいで魔法が使えないの。だからこの先発現することはない」
「そんな、まさか……どうしてそのようなことが……」
「長い間、薬を盛られていたみたい。私にとっては毒ね……」
「どっ!?」
リリーは毒という単語にとても驚いて大きな声を出しそうになったけれど、急いで両手で口を覆った。
「うん、毒」
「そんな……そんなはずは! だってシアお嬢様が、お嬢様が口にされるものは私も同じようにちゃんと確認しています……! 私は決して……!」
「え……? ち、ちょっと待って! リリー、あ、あなたまさか毒見をしているの!?」
リリーはまずい、という表情になる。
「確認って……まさか直接口に入れて確認しているということ!?」
今度は私の方が驚いてしまい、大きな声を出してしまった。その声に、リリーがビクッとしてしまう。
「あ……大きな声を出してごめんね……。でも、リリー。それはどういうことなの……?」
「いえ、あの——」
「まさかお父様が命令を……? でもそんなはずは……」
「お嬢様、違いますっ。侯爵様に言われてしているわけではありません! 命令されてではありませんのでどうか誤解なさらないで下さいっ」
「リリー……」
「私が勝手にしていることですから……」
皇族をはじめ、貴族などで使用人に毒見をさせているところはあるだろう。
けれど、侯爵家では毒見をさせることは絶対にない。癒しの力を継ぐ侯爵家が使用人にそのようなことをさせるわけがない。
そもそも、お父様とお兄様には毒など意味がない。侯爵家の能力のおかげで毒が効くことはないからだ。
私は力が使えないけれど……。
あの人が言っていた、私に飲ませていたという毒。特別に調合したと言っていたけれど……毒という言葉をそのままの意味で捉えてもいいのだろうか?
毒、というよりもそのような効力のあるものを比喩して毒と言っただけなのかもしれない。
部屋で考え事をしていると誰かがドアをノックした。「どうぞ」と声をかけるとリリーが部屋へと入ってきた。
私の顔を見たリリーは心配そうな表情になった。
「お嬢様、ハーブティーはいかがですか? なんだかお疲れに見えます……」
「ありがとう、リリー」
リリーが用意してくれる飲み物はなんだって美味しい。私は一口飲んでから、ゆっくりと息を吐いてリリーを真っ直ぐに見た。
リリーは不思議そうにきょとんとしている。
「……? お嬢様、どうかされましたか?」
「私ね、リリーのことが大好きなの」
リリーは一瞬ぽかんとしたけれど、顔を真っ赤にしてあたふたとしている。その度にリリーのふわふわした濃い茶色の髪の毛が肩の上で揺れている。その姿を見てつい、笑ってしまう。
「えぇ!? い、いきなりどうされたのですか!? でも、ありがとうございます……。わ、私もお嬢様のことが大好きです!」
「ふふっ」
「もう、シアお嬢様! からかわないで下さいっ」
可愛い顔を真っ赤にして恥ずかにそうにしているリリー。この笑顔が十年も経たずに奪われてしまうなんてあの時は知らなかった。
まだ二十代だったのに。
本当は考えたくはないけれど、リリーが姿を消した後は……もしかしたら……。
リリーは何か見てはいけないものを見てしまったのか、知ってしまったのか。
それとも別の理由があったのか。
あの時何かを言いかけたリリーの顔が忘れられない。
あの時私を助けたせいで——。
リリーに私に起きたことを話してみようと思う。この不安を一人で抱えるのは正直、辛い。話をしてリリーを巻き込んでしまうと分かってはいても、話してしまいたい、聞いて欲しいという気持ちが強い。
全てを話すことはまだできないけれど、私の話を笑わずに聞いてくれるはずだから。
そして、リリーは信頼できる人だから。
ずっと私のそばにいてくれた。私を大切にしてくれた。リリーは絶対に私を裏切らない。
なぜだかそう思えるの。
だから大丈夫。
「あの、お嬢様……?」
いざ話すと思うと、どう切り出していいか困ってしまう。何から、どこから話したらいいんだろう。
「えっと、リリー、あのね……」
「はいっ!」
リリーは微笑みながら私が話をするのを待ってくれる。
「リリーに聞いてもらいたいことがあるんだけど……とりあえず、ここに座ってもらえない?」
「……?? えっと、それでは失礼します」
本来、メイドが一緒のテーブルにつくことはないけれど私の真面目な表情を察してかリリーはすぐに座ってくれた。
落ち着くためにもう一口、ハーブティーを飲む。飲む、というよりも流し込んだ。
「ふぅ……」
緊張して手がかたかたと震えてしまう。カップが音をたててしまうため手を離し、膝の上でぎゅっと両手を握る。
「誰かに聞かれると困るから、小声で話すね」
私のその言葉にリリーはなぜかパッと口に手を当てる。声を出さないようにこくこくと頷くその可愛らしい仕草に心が少し落ち着いた。
「えっと、驚かないで聞いてね? 例えばなんだけど……。もし、私が十年後に死んでしまうって言ったら、リリーは……信じてくれる?」
「え……」
「死ぬ、というか……殺される、というか……」
リリーは驚きよりもショックの方が大きかったようで顔が真っ青になってしまった。今にも後ろに倒れないかと心配になってしまう。
「お、お嬢様……それは……な、なにが」
「今のままだと私は十歳を過ぎても侯爵家の能力が発現しないの。それだけじゃなくて、簡単な魔法一つさえ使うことができない……」
「でも……でも、お嬢様はまだ八歳です……。まだ二年もあります、だから——」
リリーの表情がますます悪くなっていく。
「ううん、違うの……。私、体の中にある魔力の循環がだめになってしまったせいで魔法が使えないの。だからこの先発現することはない」
「そんな、まさか……どうしてそのようなことが……」
「長い間、薬を盛られていたみたい。私にとっては毒ね……」
「どっ!?」
リリーは毒という単語にとても驚いて大きな声を出しそうになったけれど、急いで両手で口を覆った。
「うん、毒」
「そんな……そんなはずは! だってシアお嬢様が、お嬢様が口にされるものは私も同じようにちゃんと確認しています……! 私は決して……!」
「え……? ち、ちょっと待って! リリー、あ、あなたまさか毒見をしているの!?」
リリーはまずい、という表情になる。
「確認って……まさか直接口に入れて確認しているということ!?」
今度は私の方が驚いてしまい、大きな声を出してしまった。その声に、リリーがビクッとしてしまう。
「あ……大きな声を出してごめんね……。でも、リリー。それはどういうことなの……?」
「いえ、あの——」
「まさかお父様が命令を……? でもそんなはずは……」
「お嬢様、違いますっ。侯爵様に言われてしているわけではありません! 命令されてではありませんのでどうか誤解なさらないで下さいっ」
「リリー……」
「私が勝手にしていることですから……」
皇族をはじめ、貴族などで使用人に毒見をさせているところはあるだろう。
けれど、侯爵家では毒見をさせることは絶対にない。癒しの力を継ぐ侯爵家が使用人にそのようなことをさせるわけがない。
そもそも、お父様とお兄様には毒など意味がない。侯爵家の能力のおかげで毒が効くことはないからだ。
私は力が使えないけれど……。
あの人が言っていた、私に飲ませていたという毒。特別に調合したと言っていたけれど……毒という言葉をそのままの意味で捉えてもいいのだろうか?
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