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二章 二度目の人生
39【侯爵家のメイド】
しおりを挟む「うーん、キッチンやランドリールームによってみようかな……?」
お父様には会えなかったので部屋へと戻ろうかと思ったけれど、今この屋敷にいる使用人を把握しておくのもいいだろう。
そう思い、行き先を変更した。
まずは本邸にあるメインキッチンへと足を運んだ。ちなみに、離れなどにある小さなキッチンはサブキッチンと呼ばれている。
キッチンの中を覗いてみるとさすがにここではメイドたちが忙しそうにしていた。顔を確認してみても、ソフィアたちがこの屋敷に来る頃にはもういない使用人ばかりだった。
次はランドリールーム。
中にはたくさんの洗濯物が積まれていた。魔法もなしにこれだけの量を洗うのは大変そう……。
「あら……? シアお嬢様、おはようございます。こんなところでどうされました?」
こそこそ隠れて見ていると、後ろから声をかけられた。
「お、おはよう、何でもないの! 気にしないでね!」
子どもらしく笑う私を見てメイドは不思議そうにしていたけれど、それ以上何も聞かれることはなくランドリールームへと入っていった。
"お嬢様は朝からかくれんぼかしら?"
"ふふ、可愛いわね~"
と、くすくす笑いながらメイドたちは私を見ていた。その笑いは嫌なものではなく、お母様がいた頃と同じ温かい眼差しだ。
以前の私の立場だったら、"何をしにここへ来たんです?"とか問い詰められていただろうな……。
中を覗き込みながら、私は使用人たちの様々な記憶を思い出していた。
"お母様と一緒にきたメイドで、まだここに残ってくれている人"
"昔から侯爵家で働いてくれていたはず"
"人手が足りなくて臨時で雇われた使用人"
ぐるりとメイドたちを見回してからランドリールームを離れた。
お母様の生家である伯爵家からきたメイドは、本来ならお母様が亡くなられた時に伯爵家へと戻るはずだった。
けれど、まだここに残ってくれている人もいる。それがお父様の命令なのか、伯爵家の最低限の義理なのか……それともメイドの意思なのか。
お母様は上位貴族である伯爵家の生まれだ。その為、お父様との結婚時には大勢のメイドが一緒にこの侯爵家へとやってきた。
けれど、お母様が亡くなられてからは伯爵家からきたメイドたちのほとんどが伯爵家へと戻ってしまった。
ここに残ってくれたメイドはいつの間にかみんないなくなってしまった。伯爵家に戻ったのか、都合で辞めたのかは分からない。
現在、侯爵家は伯爵家との交流はない。
お父様とお母様にはもともと別の婚約者がいたけれど、それを無理やり破棄し二人は結婚したらしい。正直、その話を聞いた時は想像がつかなかった。
そこまでして結婚したのに……。
仕事ばかりでなかなか家に帰って来ないお父様を、お母様はどんな気持ちで帰りを待っていたのだろう——。
お母様の葬儀の時、母の父である——私にとってはお祖父様が声を荒げて言ったこと。
"あんな男と結婚したせいで"
"無理に子供を生んだせいで"
この言葉がまだ幼かった私の心に深く突き刺さった。
お母様が亡くなったのは私のせい——。
お父様の両親は葬儀にすら姿を見せなかった。
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