誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

文字の大きさ
上 下
31 / 88
一章 一度目の人生

31【シア、十八歳 私のペンダント】

しおりを挟む

 リリーとアメリアがいなくなってから一年と数ヶ月。私は十八歳になった。
 
 別棟での生活も随分と寂しいものになっていた。リリーの明るい話し声も、アメリアの厳しくも優しい声はもう聞こえない。

 サラは私を元気付けようといろいろと話しかけてくれたけれど、会話をしようという気力が湧いてこなかった。

 どうして私はこの歳になってもまだ学園に通っているのだろう。結局、十八歳になっても魔法一つ使えないまま。

 その間にもソフィアは侯爵家の能力で多くの人を助けていた。私との差は広がるばかり。ソフィアが学園で皇族や他の六家の人たちと一緒にいても、ソフィアの存在は引けを取ることはなかった。
 
 魔獣を見せてくれたあの時の男の子は、入学後に何度も私に話しかけてくれた。それなのに私はひどい態度をとり逃げてばかりだった。私に関わって迷惑をかけたくなかったから。

 もともとクラスが違うから偶然会うこと自体がほとんどない中、わざわざ私に会いにきてくれたのに。

 でも私はそんな彼に、最後の会話で「迷惑だからもう二度と話しかけないで」と言ってしまった。それから話しかけてくることはなくなった。あの時の彼の顔が今でも忘れられない……。

 それでいい、これでよかったんだと思っても、悲しくなってしまった。

 以前、「学園を卒業したらお姉様と二人で暮らしてみたいな」とソフィアに言われたことがある。私にはそれが不思議で、「どうして?」と聞くと、「どうしてかな?」とただ笑ってソフィアは答えた。
 ソフィアも家を出たいのかな……? でも、私からすればソフィアが侯爵家から出る理由なんてないと思った。みんなソフィアのことが大切だから。
 でも、私には分からないソフィアの想いもあるのかもしれない。

 最近ふと、思う時がある。

"どうして私はここにいるんだろう?"

 お母様が自分の命を削ってまで私を産んでくれたのに、そんなことを漠然と思ってしまった私への神様からの罰なのだろうか。

 それは突然だった。

 いつものように学園へ来て教室に向かおうとした。けれど、後ろから私を呼ぶ声がして足を止めて振り返った。
 その聞き慣れた可愛らしい声は妹のソフィアのものだ。

「お姉様っ!」

「……え、ソフィア?」

 振り返るとやはりそこにはソフィアがいた。笑顔でこちらへ近づいてくる。
 学園では私が嫌がるから気を遣って話しかけてこないのに、なぜか今は大きな声で私を呼んだ。

「あぁ、お姉様! 追いついてよかった!」

 ソフィアの表情はとても嬉しそうだ。

「どうしたの? 何かあったの?」

 ここは学園の正門前。いくらまだ時間が早いとはいえ、多くの生徒たちがいる。
 ソフィアが私に話しかけたことによってその場にいた生徒たちが私たちに注目しているのが嫌でも分かった。

 私は今とても焦っている。どうしてこんな場所で呼び止めたのかと手が震えていた。
 それでも、周りからの視線を感じてなるべく落ち着いて話した。

「お父様からお姉様にプレゼントですっ!」

「え、お父様から……?」

 お父様が私へプレゼント? プレゼントをもらったことなど、もう何年前のことかわからない。
 お母様がまだ生きていた頃かしら……?

 ソフィアはそう言って、手に持っていたものを私へ渡そうと手を伸ばす。
 そこには小さな箱が。ソフィアは箱を開けて中を見せた。

「これは……?」

「お姉様に早く渡したかったんです。さっき、家を出る前にお母さんがお姉様に渡してって。……その、正直、お母さん……お姉様とあまり上手くいってないかなと心配していたんですけど」

「フレイアさんが?」

「はい、お父様から預かったから渡してって」

 フレイアさん経由だと知ってしまうと、本当にお父様からだと信じていいのか……。なぜ私に直接渡さないの……? フレイアさんが私のことをあまりよく思っていないのは知っているから、少し疑ってしまう。

 ソフィアもなぜこんな目立つところで……と思ったけれど、周りの反応からどうしてなのか分かった。

"まぁっ、侯爵様からのプレゼントですって"

"長女のことは見捨てたのでは?"

"でもソフィア様はとても嬉しそうだわ"

"もともと侯爵様って冷たいお方だし……"

「あの、お姉様……?」

「ううん、ありがとう。ソフィア、あなたが付けてくれる?」

「もちろんです!」

 箱の中には石の付いたペンダントがあった。石は薄茶色をしていて、私の髪色と一緒だな、と思った。そしてソフィアはそっとペンダントを手に持つ。

「お姉様、このペンダント私とおそろいで可愛いですねっ! 実はこれちょっと秘密があるんです」

 ソフィアのペンダントは桜色をしている。みんなはソフィアの髪色をピンクだというけれど、私には綺麗な桜色に見える。

「お姉様、このペンダントには魔石が付いてるんです! この石の能力は……きゃっ」

 ソフィアが私へペンダントをかけてくれようとしたその時、バチっと静電気のような現象が起きた。

 お互い無意識に離れるが、静電気のような現象がなくなることはなかった。
 ペンダントを持っていたソフィアは衝撃が大きかったのか、それを地面へと落とした。

「あっ……ご、ごめんなさいっ!」

 ソフィアは急いで拾おうとしたけれど、それは跡形もなく消えた。

「えっ!?」

 私は驚いてソフィアを見ると、ソフィアはなぜか苦しそうにしている。

「……うっ」

「え、ソフィア? なに、どうしたの!?」

「お、お姉……さま……」

「大丈夫!? 苦しいの!?」

 ソフィアは胸元を押さえて苦しそうにしていた。よく見ると、胸元が小さく光っていた。

 胸元にはいつもソフィアが付けていたペンダントがあった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...