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一章 一度目の人生
29【リリーの行方①】
しおりを挟む「……は、リリー!?」
目が覚めると私の部屋のベッドの上だった。声を聞いて部屋のドアがすぐに勢いよく開いた。
「お嬢様!」
リリーかと思ったが、部屋へ入ってきたのはサラだった。
「よかった……。お体は大丈夫ですか? どこか痛いところはないですか……?」
サラは目に涙を浮かべている。
「ねぇ、サラ! リリーは? リリーはどこにいるの? 大丈夫なの!?」
私はサラの腕を掴んで矢継ぎ早に聞いてしまう。
「お嬢様、ご安心下さい。リリーは大丈夫ですよ。どこも怪我はしておりませんが大事をとって今はまだ休んでいるそうです」
「ほ、本当に? 本当にリリーは大丈夫なのよね? うぅ、よかった……」
あれだけ多くの血を流してしまったリリー。もしかしたら……と考えてしまった。
あれ、でも。どこも怪我はないと言った? もしかして、あの後すぐに誰かが治癒魔法をかけてくれたのかな……。
「誰がリリーの怪我を治してくれたの? あの後どうなったのか覚えていなくて……」
「あの、お嬢様? リリーはどこも怪我はしておりませんが……」
「え? そんなはずないわ。だって、あんなに血を流して——」
「警備隊を呼んでくれた方のお話だと、お二人とも怪我はなくただ気を失っていたと……」
そんなはずはない。確かにリリーは私の目の前で大きな怪我をして倒れてしまった。血だって地面にまで流れていたし、服だってボロボロになっていたのに。
「……ごめんなさい、サラ。私まだ気が動転しているみたいね」
私とサラしかいないため、部屋の中がシン、としてしまう。
「……さぁ、お嬢様! 三日も眠っておられたのですからまずはお食事の前にお風呂に入りましょう!」
サラが明るい声を出す。
「え、三日も眠っていたの!?」
そういえば喉が渇いて若干痛い気がする。それに髪も……なんだか臭う気がしてきた!?
「もしかして、私臭ってる……?」
「ふふ、そんなわけありませんよ! リリーの代わりに、私がしっかりとお世話しておりましたから。もう、お嬢様……どれほど心配したか……」
「心配をかけてしまってごめんなさい。リリーにも後で謝らないといけないわ。私のせいで巻き込んでしまったから……」
「お嬢様。何があったかは分かりませんが、リリーは気にしていないと思いますよ……? リリーはお嬢様がとてもお好きなんですから」
「きっとそう言うでしょうね。リリーはとても優しい人だもの……。ねぇ、サラ。お風呂の前にお茶を入れてもらえる? とても喉が渇いてしまって……」
話をしていると余計に喉が痛くなってきた。
「あ、申し訳ございません! すぐにご用意いたしますね」
サラが急いで部屋を出ようとした時、ドアが開き、部屋へと入ってきた人と鉢合わせした。
「え、アメリア? どうしたの?」
アメリアだった。サラはアメリアを見て驚いた表情をしている。
「お嬢様、お茶をお持ちいたしました」
「まぁ、ありがとう、アメリア! 私ったら気が利かなくて」
サラはアメリアからお茶を受け取る。
「いいえ、お気になさらず。シアお嬢様、お目覚めになられて安心いたしました。それでは私はこれで失礼いたします」
「ありがとう、アメリア」
アメリアは一礼してすぐに部屋から出て行った。
「アメリアはこういう時、本当に気が利きますよね」
「うん、そうね」
この日はまだ疲れと倦怠感が残っていた為、そのまま早めに休むことにした。
そして次の日、リリーに会いに部屋まで行った。けれど、リリーの部屋は生活感が感じられない無機質な物がただそこにあるだけだった。
「え——?」
クローゼットを開けても、机の引き出しを開けても何もない。リリーがここにいる、と思えるものが何もない。
私は急いで部屋を出た。この別棟は本邸に比べれば広くはない。探せばすぐに見つかるはずだ。
それなのに、リリーはどこにもいない。
どうして? どこにいるの?
本邸へと続く廊下でサラを見つけた。
「サラ!」
「お、お嬢様……」
「ねぇ、リリーがいないわ。部屋へ行ってみたけれど何もないの! リリーはどこにいるの!?」
「あの、」
サラは話すことを躊躇っているような、複雑な表情をしている。
「リリーは、もうここにはおりません……」
「え、ど、どうして? リリーがいないって、それはどういうことなの!?」
ここにいない? だって昨日は休んでいると言ったじゃない!
「私も何がなんだか分からないのです……。申し訳ありません、私からは何も話せないのです」
「それは——。お父様に何か言われたの……?」
何も話せないということはサラが逆らえない人。そんな人はお父様かお兄様しかいない。
「………」
サラは黙ったまま。その表情はとても苦しそうに見える。
「ねぇ、サラ。お願い! リリーは私が小さな頃からずっと一緒にいたの!」
「その、侯爵様ではなく奥様——。い、いえ、申し訳ありません!」
「お、奥様……!? サラ、奥様って……フレイアさんのこと!?」
サラから奥様なんて言葉が出てくるとは思っておらず、ひどく動揺してしまい大きな声を出してしまった。
「申し訳ございませんっ、申し訳ございませんっ、私たちのような、使用人の立場では……」
サラはフレイアさんに何か言われたのだろうか。ひどく怯え、震えていて心配になる。けれど、それと同時に急にサラが遠く感じた。
「ごめんなさい、サラ。大きな声を出してしまって……」
はっとして周りを見れば、他のメイドに見られていることに気が付いた。側から見れば私がサラを怒鳴り散らしていると見えてしまうだろう。
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