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一章 一度目の人生
25【瞳の色】
しおりを挟む「……終わったのか?」
「はい、侯爵様」
「……それで」
「ご覧のとおり、お嬢様の瞳は間違いなく金色です! 何かによって変えられたものではありません!」
その言葉に私は心底ほっとした。もちろん信じていたけれど、何が起こるか分からないから。魔法士は私よりも安堵した表情に見え、嬉しそうにしている。検査をすることがとても負担だったのだろう。
よかった、お母様……。
「私たちに見せなさい」
お父様に言われて顔を上げる。そしてお父様と目が合う。本当は視線なんて合わせたくはなかったけれど、お母様のことを疑った人たちに自分たちがした事を分かってもらうためにも顔を上げた。
一瞬だけ。そう、一瞬だけどお父様の表情が悲しそうに見えた。
本当に一瞬だったので、見逃していたかもしれない。それをどちらに解釈したらいいのか、私には分からない。
お兄様を見れば、ほっとしているように見えた。
フレイアさんはただ微笑んでいる。
「侯爵様。無事に証明されましたので、これで私たちは失礼させていただきます」
魔法士の人たちは早くここから出て行きたかったようで、紙にサインをしてお父様に渡した。
「あぁ、ご苦労だった」
「そ、それでは失礼します。あぁ、そういえば……。あの、侯爵様」
私を検査した魔法士がふと何かを思い出した。
「なんだ?」
「その、実は検査で気になっ——」
そこで魔法士の言葉は遮られてしまった為、続きを聞くことができなかった。
言葉を遮ったのはフレイアさんだった。
「さぁ、侯爵様。もうシアさんをお部屋へ帰してあげましょう。急に呼び出されてこのようなことになってしまい、動揺しているみたいですもの。魔法士のみなさんもご苦労様でした」
フレイアさんがそう言うと、魔法士の人たちは"それでは失礼します!"とそのまま急いで部屋から出て行ってしまった。
「まぁ、こんなに泣いて可哀想に……。侯爵様、このようなことは二度としないであげて下さいね」
どうしてフレイアさんの言葉はこんなにも嫌に感じてしまうのだろう。
そもそも、せっかくの証明する機会だと言ったのはフレイアさんではないか。それなのに、可哀想だから二度としないであげてって……?
「もう部屋へ戻りなさい」
お父様はただ一言、それだけ言った。私に、娘にかける言葉はないの? 私がどのような気持ちで今ここに立っているのか考えてはくれないの?
用が終わったからさっさと出ていけということ……?
そんなの、あんまりじゃない——?
「お父様は、」
「「…………?」」
部屋の中にいる人たちが私の方を見ている。
「お父様は、私の気持ちなんて、どうでもいいのでしょうね……。何の力もない、生まれも分からない娘のことなど……!」
私はこの時、初めて本気でお父様を睨んだかもしれない。
「まぁ、シアさん!」
「……!?」
フレイアさんもお兄様も、私がお父様に反論するなど思ってもいなかったでしょうね。
でもね? 私だって嫌なことを言われれば傷つくし、こんな大勢の前で恥をかかされれば泣けてしまう心ぐらいはあるの。
私だけ別棟で生活をしていて、寂しいと思っていないとでも? それで急に呼び出されたと思ったらこんなことをされて。
私はマナーなどお構いなしに、挨拶などせずにそのままドアへと振り返った。
「シア!」
誰かが私を呼ぶ声がしたけれど、勢いよくドアを開けて止まることなく走った。
家の中を走るなんて、小さな頃だからもう何年も前のこと。泣きながら家の中を走る私を見て、使用人たちが驚いている。
はしたない? そんなのもう、気にしない。
そんなこと誰が気にするというの。
別棟にある自分の部屋へ戻ると、私はそのままベッドへと勢いよく飛びのった。
「お、お嬢様っ!?」
目を真っ赤にして戻ってきたと思ったら、無言で通り過ぎた私にリリーとサラが驚いている。
ベッドに顔をうずめたまま私は何も言わなかった。何もしたくなかった。
二人は何かを察して、それ以上声をかけることはなくそのまま一人にしてくれた。
本邸から誰かが呼び戻しに来るかと思ったけれど、誰も来なかった。
お父様から何か一言ぐらいお叱りがあるかと思ったのに、怒られるどころか言い訳の一つもなかった。
この出来事から、自分の瞳の色が突然変わってしまうんじゃないかと心配で、毎日リリーに確認をするようになってしまった。
魔法で瞳の色を変えることができるかもしれないということを知ってしまったから。
心が落ち着くまでそれは続いた為、リリーには迷惑をかけてしまった。でも、リリーはいつも明るく「今日も綺麗な金色ですよ!」と言ってくれた。
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