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一章 一度目の人生
11【シア、十二歳】
しおりを挟むあっという間に十二歳になった。発現することもなく、魔法も使えないまま。何も変わらない。
そのせいか、魔法に関する授業がなくなってしまった。魔法が使えなくても、知識だけでもということで続けていた授業だった。
魔法の勉強は楽しかったのに。
教えてくれる人も良い先生だったからとても残念だ。私に対して丁寧に接してくれる数少ない貴重な先生だったのに。
妖精や精霊、聖獣と魔獣のお話はとても楽しかった。特に、六家を象徴とする四大精霊と、魔獣、聖獣のことは優先的に学んでいた。
四大精霊は火、水、風、土。
そして魔獣は闇。聖獣は光。
コンフォート侯爵家は聖獣だ。治癒や浄化に特化しており、聖獣と契約ができればさらに大きな力を得ることができる。
けれど、残念ながら聖獣を見たことがない。
聖獣を象徴としているはずの侯爵家だけれど、ここ百年ぐらいは契約できた人はいないんだって。お父様のお祖父様の世代から契約ができていないと聞いている。
なぜ契約ができないのか、理由は分からないらしい。昔は多くの聖獣がいたみたいなんだけど……。見えないだけなのか、もう侯爵家との縁がなくなってしまったのか。
魔獣は公爵家の人たちが契約している。魔獣は魔物と名前が似ているから誤解されやすいけれど、全くの別物だ。魔物は人を襲うし、瘴気を出して環境を破壊してしまう。
そんな瘴気を持つ魔物に対抗できるのが魔獣だ。そんな魔獣と契約している公爵様と、癒しの力を持つお父様は魔物討伐を皇室から任されている。
お父様は国のために危険な仕事をしている。
私も魔法を使えるようになったら癒しの力を受け継ぐ侯爵家の者として困っている人たちを助けたい。
癒しの力は浄化の力でもあるから、"国にとってとても重要なこと"って先生が教えてくれた。
でもまさか授業がなくなるなんて。
お父様にお願いすることなんてもちろんできないし、これからはもっと本を読むしかないのかな……。
でも、本を借りに本邸まで行くことが少し怖い。本邸は多くの人がいるから。
リリーたちに頼めば快く持ってきてくれると思うけど、嫌な思いはして欲しくない。私のせいで、リリーたちがいじわるをされているなんて知らなかった。
お父様が屋敷に戻ってくることがほとんどないから、前よりもひどくなっている気がする。
久しぶりに帰ってきても、私には姿を見せないからそれだけ私のことに関心がないということ。
だってお兄様とは会っているんだもの。お父様の仕事のお手伝いをしているからとはいえ、少しぐらい私にも会ってくれたっていいのに……。
もう、お父様が家にいるのかいないのか。そんなことさえ、別棟にずっといる私には分からない。
お父様が会いにきてくれるのを待っていないで、私から会いに行けばいいと思ったんだけど——。
そもそもお父様に取り次いでもらえなかった。
若い執事では私の話を聞いてくれない。執事長はお父様と行動を共にすることが多いから、お父様と同じで会うことが難しいし……。
待ち伏せを考えてみたけど、いつ帰ってくるのかも分からないからどれだけ待てばいいのか。周りを困らせてこれ以上嫌われたくない。
だから私は、聞きたい事やお願いしたい事があっても諦めることにした。諦めることになれてしまった。
私はお父様に嫌われているのだろうか。最近はそんなことを考えてしまうようになった。他に理由がないんだもの。
それを使用人たちは知っているから、だから私への態度が悪いのだろう。
お父様と最後にまともに会話をしたのはいつだったかな? 一緒に食事をしたのは……?
名前を、呼んでもらったのは。
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