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序章
4【プロローグ④】
しおりを挟む「あぁ、それと。もう一つ大事なことを教えてあげるわ。私の娘はあなたの父親の血なんて引いていないわよ? だって、侯爵とは別の男との子だもの」
は、まさか、そんな……。
それなら、私たちは本当の姉妹ではなかったというの!?
私のことを、"お姉さまっ!"と愛くるしい笑顔で話しかけてくれたあの子のことを思い出す。
「あぁでも、侯爵家の血筋なのは間違いないのよ? まさかあの子が純粋な金色の瞳を持って生まれてくるなんて私も思っていなかったわ。おかげで実子だと偽ることが出来たけれど」
「…………っ」
「あの子は直系じゃないのに、そんなこともあるのね~」
ありえない。
金色の瞳は侯爵家の直系にのみ現れるもののはずだ。たまたま血を濃く受け継いだの?
妹がお父様の子ではないというのなら、それならなぜあの子は侯爵家の直系だけが使えるはずの能力が発現したというの?
「どうして私の娘に能力が発現したのか不思議なんでしょう? あの子にそんな力無いわよ。ふふ、ただの魔石よ。あなたの父親の魔力を魔石に込めて娘に持たせていただけ。魔力があれば魔石を使うことができるでしょう? まぁ、それも見せかけの能力だけれど」
そんな、それだけ……?
本当は能力なんてないのに、たった魔石一つで妹は侯爵家の能力が発現したと思われていたの?
私がずっとずっと望んでいたものが、魔石一つで事足りたというの?
血の繋がりがない妹に、どうしてお父様はそんな事をしていたの?
私がいるのに。
私にはそこまでしてくれなかったのに。
私のことなんて、本当にどうでもよかったの?
「あらあら? 疑問がいっぱいのようね? 子供でも思い付くような簡単な方法だったのに、案外誰にもばれないものね」
頭が追いつかない。
あまりの衝撃に、床を見つめることしかできない。
「さて、もういいわ。あなた、もう少しいい表情を見せてくれると期待してせっかくここまで来たのに……。期待外れだわ」
私が今どのような表情をしているというのか。
この人はそんなことの為にわざわざこんな汚い場所まで来たのか。私にはまだこの人に聞きたい事がたくさんある。
お父様は? それに、お兄様は? 二人は今どこで何をしているの?
あなたがここへ来たことは知っているの?
私が聞いた内容を二人は知っているの?
——ねぇ、あの子は何を思っているの?
あの子は——、ソフィアは今どんな気持ちでいるのかこの人は分かっているのだろうか。自分の娘を皇太子妃にする為だけにこんなことをしただなんて。
たった、そんなことのために。
ソフィアは絶対に喜ばない。
この人はそれを分かっていないの?
娘のことなのに、何も知らないの?
あの子の気持ちは考えないの?
私の十八年間はいったいなんだったのか。九歳を迎えてから周りが焦り始めていることに気付いた。十歳になっても能力が発現されず、一日一日時間が経つことが辛かった。
侯爵家の娘ではないと使用人にまで馬鹿にされて。大好きなお母様まで侮辱されて。
魔法も使えないのに学園に通うことがどれだけ惨めだったか。
五歳の時にお母様が亡くなってから、家族との間に深い溝ができてしまった。
もともと口数が多くなかった父は仕事ばかりで、人を、家族を遠ざけるようになった。
兄は母親が亡くなったのは私を産んで体が弱くなったせいだと思っているのだろう、私に辛く当たるようになった。
母が私たち家族を繋ぐ糸だった。
糸がなくなれば、もう繋ぎ止めるものはない。
そこに追い討ちをかけたのが私の出生の疑惑。
私はお父様の本当の子供だったのに。
私がお父様の本当の子供だと信じてもらえていたら、例え能力の発現がなかったとしても私も周りの人たちも、何か違っていたのかな?
いえ……何も変わらなかったかもしれないわね。
だって、そもそもお父様もお兄様も私に何の関心もなかったもの……。
お父様に声をかければ"忙しいから後で"と言われ、執事にお父様に会いたいと言えばまた同じように断られた。
仕事から久しぶりに帰ってきたと思ったら、顔を見ることなくまた仕事へ。
義務的な事以外だと、もう何年もまともに一緒に食事すらとっていなかった。
そもそも私だけ離れで暮らしていたんだもの。
お兄様も話しかければ鬱陶しそうにしていたわね。学園では、私が嫌がらせをされていても特に助けてはくれなかった。
妹には……あんなに優しかったのに。
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