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38【はじめての?お出かけ②】

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 次の日、朝食を食べながらどこかソワソワとしている双子が可愛らしくて自然とみんなの頬が緩んでいた。

「アルヴァート、グレイシアから離れてはいけないよ?」とヴィンセントさんが心配そうに話し――、「お金はちゃんとしまっておかないといけないからね」とアリシティアさんもアルヴァートに声をかける。

「大丈夫だよ、わかってるもん!」

 と、アルヴァートは元気よく返事をしているが、みんなが心配するのも無理ないだろうなぁと思っちゃったのは秘密。

 セレスさんも「リティシア、フィーちゃんのことよろしくね」と、リティシアに声をかけたあとにこちらを見て――。

「フィーちゃん、人が多いから人混みに流されないよう気を付けてね? 迷子になったら大変だもの。グレイシアと一緒に行動してね?」

 と、セレスさんは心配そうな表情を見せた。
 迷子の心配をされることが嬉しいやら悲しいやら……。

 歳下のリティシアよりも心配されている。というよりも、アルヴァートと同じ扱いな気がするのは気のせいではない、よね!? ちょっぴり涙が滲んだ。

  

◆◆◆



 そうして馬車に乗り込み王都にある広場へと向かった。
 広場は想像よりも賑やかで、身分問わず大勢の人たちが楽しそうに行き来していた。

 あまりの人の多さに酔いそうになったが、ここを見て回れるというワクワクの方が勝った。また、公爵家の子どもが三人もいて護衛の方は大丈夫なのか不安になったが――。

「騎士が何人かいるから問題はないはずだ。アルヴァートたちの機嫌が悪くなってしまうからな」

 アルヴァートがはじめての(?)お出かけに、騎士を連れて歩くのは嫌だと言ったらしく、かといって護衛もなしに子どもたちを広場に行かせるわけにもいかないためそのような体制になったらしい。

「それでグレイシアさんも来てくれたんですね」

「アルヴァートがあとからそう言うだろうと思ったんだ。私も行くと言って正解だったな」

 グレイシアさんが一緒に来てくれて本当によかった。
 騎士が隠れているとはいえ、この二人とのお出かけはなにかと大変そうだもの。

「それに、お前たち三人だけでは何か問題を起こしそうな気がしてな」

「うっ……」

 グレイシアさんの容赦ない言葉に、心当たりがありすぎて返事をすることができなかった。

「フィー、気になるものがあってもついて行ってはだめだからな」

「も、もちろんです、はい」

 そんなやりとりをしているなど双子は気が付いてかいないのか、きょろきょろと辺りを見渡しながら「どこから行こう!?」とすでに楽しんでいる様子だった。

 あ、金貨をまず両替するべきなんだよね?
 でも私がそれを言ってはだめだよね。

 セレスさんがアルヴァートたちに渡したのは、金貨の中で一番小さな小金貨だった。感覚的には、小金貨一枚が前世でいう一万円ほどの価値になる。――というのを昨日知ったばかりだ。

 心配していたが、リティシアがすぐに「まずは両替しないとだめだよ」とアルヴァートに教えていた。

 「どうして?」と聞くアルヴァートに「じゃぁ、ここのお店を見てみて」と小さな屋台のようなお店を指差した。

「見るって、どこを?」

「これを一個買うのに、私たちが小金貨を出したらお店の人はどうする?」

「え? お釣りをくれるんだよね?」

「うん、そうだよね。でもどうやって?」

「どうって、あそこの……」

 アルヴァートがそう言いかけて見たのは、お店の奥に置かれているお金を入れている箱だった。
 そこには一番金額の少ない硬貨がたくさん入っているのが一目でわかる。

 私には十円の商品に一万円札を出して、お釣りはすべて硬貨で返す……と想像したら大変なことがよくわかった。

「うーん、大変そう……みんなが同じことしたらもっと大変になる、よね……?」

「うん、だから両替しないとね」

「わかった。お店の人を困らせちゃだめだもんね!」

 双子が二人でちゃんと考えている様子を見て、私は一人で勝手に感動していた。あのアルヴァートがお店の人のことを考えてくれるなんて――!

「フィー姉さん、なにか失礼なこと考えた?」

「え? そ、そんなことないよ。じゃぁまずは銀行に行こうか?」

 そうして私たちは銀行でお金を両替することができた。

 ちなみに私もヴィンセントさんからお小遣いをいただいており、「欲しいものがあれば遠慮せず買ってきていいからね」と言ってもらった。

 両替したお金を種類ごとにわけて、落とさないようにしっかりとお財布にしまった。ポシェットがお金で少し重くなって心配したが、かなり丈夫らしく安心。

 ちなみにこのポシェットはお誕生日に執事のルドルフさんからプレゼントされたものだ。こうして使える日がきて嬉しい限りだ。ポシェットを身に付けて出かけようとしていた私を見てルドルフさんが嬉しそうに微笑んでいた。

 
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