38 / 40
38【はじめての?お出かけ②】
しおりを挟む次の日、朝食を食べながらどこかソワソワとしている双子が可愛らしくて自然とみんなの頬が緩んでいた。
「アルヴァート、グレイシアから離れてはいけないよ?」とヴィンセントさんが心配そうに話し――、「お金はちゃんとしまっておかないといけないからね」とアリシティアさんもアルヴァートに声をかける。
「大丈夫だよ、わかってるもん!」
と、アルヴァートは元気よく返事をしているが、みんなが心配するのも無理ないだろうなぁと思っちゃったのは秘密。
セレスさんも「リティシア、フィーちゃんのことよろしくね」と、リティシアに声をかけたあとにこちらを見て――。
「フィーちゃん、人が多いから人混みに流されないよう気を付けてね? 迷子になったら大変だもの。グレイシアと一緒に行動してね?」
と、セレスさんは心配そうな表情を見せた。
迷子の心配をされることが嬉しいやら悲しいやら……。
歳下のリティシアよりも心配されている。というよりも、アルヴァートと同じ扱いな気がするのは気のせいではない、よね!? ちょっぴり涙が滲んだ。
◆◆◆
そうして馬車に乗り込み王都にある広場へと向かった。
広場は想像よりも賑やかで、身分問わず大勢の人たちが楽しそうに行き来していた。
あまりの人の多さに酔いそうになったが、ここを見て回れるというワクワクの方が勝った。また、公爵家の子どもが三人もいて護衛の方は大丈夫なのか不安になったが――。
「騎士が何人かいるから問題はないはずだ。アルヴァートたちの機嫌が悪くなってしまうからな」
アルヴァートがはじめての(?)お出かけに、騎士を連れて歩くのは嫌だと言ったらしく、かといって護衛もなしに子どもたちを広場に行かせるわけにもいかないためそのような体制になったらしい。
「それでグレイシアさんも来てくれたんですね」
「アルヴァートがあとからそう言うだろうと思ったんだ。私も行くと言って正解だったな」
グレイシアさんが一緒に来てくれて本当によかった。
騎士が隠れているとはいえ、この二人とのお出かけはなにかと大変そうだもの。
「それに、お前たち三人だけでは何か問題を起こしそうな気がしてな」
「うっ……」
グレイシアさんの容赦ない言葉に、心当たりがありすぎて返事をすることができなかった。
「フィー、気になるものがあってもついて行ってはだめだからな」
「も、もちろんです、はい」
そんなやりとりをしているなど双子は気が付いてかいないのか、きょろきょろと辺りを見渡しながら「どこから行こう!?」とすでに楽しんでいる様子だった。
あ、金貨をまず両替するべきなんだよね?
でも私がそれを言ってはだめだよね。
セレスさんがアルヴァートたちに渡したのは、金貨の中で一番小さな小金貨だった。感覚的には、小金貨一枚が前世でいう一万円ほどの価値になる。――というのを昨日知ったばかりだ。
心配していたが、リティシアがすぐに「まずは両替しないとだめだよ」とアルヴァートに教えていた。
「どうして?」と聞くアルヴァートに「じゃぁ、ここのお店を見てみて」と小さな屋台のようなお店を指差した。
「見るって、どこを?」
「これを一個買うのに、私たちが小金貨を出したらお店の人はどうする?」
「え? お釣りをくれるんだよね?」
「うん、そうだよね。でもどうやって?」
「どうって、あそこの……」
アルヴァートがそう言いかけて見たのは、お店の奥に置かれているお金を入れている箱だった。
そこには一番金額の少ない硬貨がたくさん入っているのが一目でわかる。
私には十円の商品に一万円札を出して、お釣りはすべて硬貨で返す……と想像したら大変なことがよくわかった。
「うーん、大変そう……みんなが同じことしたらもっと大変になる、よね……?」
「うん、だから両替しないとね」
「わかった。お店の人を困らせちゃだめだもんね!」
双子が二人でちゃんと考えている様子を見て、私は一人で勝手に感動していた。あのアルヴァートがお店の人のことを考えてくれるなんて――!
「フィー姉さん、なにか失礼なこと考えた?」
「え? そ、そんなことないよ。じゃぁまずは銀行に行こうか?」
そうして私たちは銀行でお金を両替することができた。
ちなみに私もヴィンセントさんからお小遣いをいただいており、「欲しいものがあれば遠慮せず買ってきていいからね」と言ってもらった。
両替したお金を種類ごとにわけて、落とさないようにしっかりとお財布にしまった。ポシェットがお金で少し重くなって心配したが、かなり丈夫らしく安心。
ちなみにこのポシェットはお誕生日に執事のルドルフさんからプレゼントされたものだ。こうして使える日がきて嬉しい限りだ。ポシェットを身に付けて出かけようとしていた私を見てルドルフさんが嬉しそうに微笑んでいた。
251
お気に入りに追加
1,413
あなたにおすすめの小説
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる