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37【はじめての?お出かけ①】
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公爵家へ来てから一年が経った。
その間のことを少し振り返ってみる。
ある日、公爵家のみなさんと食事をしていると突然アルヴァートからお出かけをしないかと誘われた。
「ねぇ、フィー姉さん。明日一緒に広場にお出かけしない?」
「え?」
突然の誘いに、少し戸惑ってしまった。
王都へ来てからというもの、公爵家の敷地外へ出たことがなかったからだ。
外へ出たくないとかではないけれど、特別出たいとも思わなかった。
「先週ね、授業で宿題を出されたんだ」
アルヴァートが私の返事を聞かずに嬉しそうに話を続けた。
「毎日お手伝いをして、お小遣いをもらったんだ。それに、毎月のお小遣いも使わずにとっておいてもらったの」
お小遣い……? 不思議そうに聞いていると、今度はリティシアが話した。
「そのお小遣いを使ってお買い物をしないといけないの」
「そうなんだね」
リティシアたちは今年で八歳だ。
お金の使い方を学んできなさい、ということなんだろうか。貴族の子どもだから自分でお金を払ってお買い物をするということをしたことがないんだろう。
それに、身なりの良い子どもがお金を持っていたら普通に危ないもんね。ひったくりにあうか、誘拐されちゃうよ。
それにしても、お手伝いをしてもらったお金で、なんて……えらいなぁ。
「僕、まだ一人でお買い物をしたことないんだよ。だからフィー姉さんも一緒に行こうよ」
「王都の広場にあるお店、楽しいよ?」
双子たちにすぐ返事ができないでいた。
ここで私が行きたいと言ってもいいのか判断ができなかったからだ。公爵家に保護してもらっている身なのだから。
「フィーちゃんはどうしたい? あなたの好きにしていいのよ。王都には大勢人がいるし、もし外に出るのが怖いのなら……」
セレスさんは少し心配そうな表情をしていた。
あまりにも私が出かけようとしないから、もしかすると怖いと思っていると勘違いをさせてしまっていたのかもしれない。
「いえ、怖いとか、そういうことはありません。あの、あまりにもここにいるのが心地よくて、外に出たいとか思わなかっただけなんです」
これは本当のことだ。
こうしてみんなと過ごさせてもらっているうちに、ここが自分の家のような気持ちになってしまった。
気を付けないとな、と頭ではわかっていてもつい思ってしまう。
「そう? それなら明日おでかけしてみたら?」
セレスさんのその言葉に「では、せっかくなので……」と私が返事をすると双子は嬉しそうに笑った。
「母様、三人では不安なので私も行きましょうか?」
それはグレイシアさんだった。
「でも、せっかくのお休みなのにこの子たちの面倒をみてもらっていいのかしら? 最近学園が忙しかったでしょう?」
「いえ、大丈夫ですよ。落ち着きましたから。母様もたまには父様とゆっくり過ごしてください」
「なら、まかせちゃおうかしら」
ヴィンセントさんがグレイシアさんのその言葉に"こほん"と恥ずかしそうに咳払いをした。
「えー! 兄様も行けるの? やったぁ!」
「なら、みんなで行きたい。アリシティア姉さまは一緒に行けないの?」
アリシティアさんを見れば、申し訳なさそうに微笑んだ。
「明日は友人と約束をしてしまっているの。残念だけれど、また誘ってくれると嬉しいわ」
「そっかぁ、しかたないよね」
アルヴァートはがっかりしていたが、先に約束をした人を断るなんて失礼なことをアリシティアさんがするわけないものね。
「じゃぁ、明日はおでかけね!」
「ごちそうさまでした。明日の準備があるから、もう部屋に戻るね」
そうして双子は嬉しそうに部屋へと戻っていった。すると、なぜかセレスさんが申し訳なさそうにこちらを見た。
「フィーちゃん、あの子たちがいきなりごめんなさいね」
「いえ、私も楽しみです。出かけるきっかけが特になかったので……」
「実はね、あの子たち、フィーちゃんがどうしたら外に出られるか考えていたのよ」
「え?」
「ずっと家の中にいるから、あの子たち心配していたみたいなの。それであんなことを思い付いたのね」
おでかけの誘いは、まさか私のためだったなんて。
私を外に出すために、頑張ってお手伝いをしていたんだろうか。
「あ、でも授業の宿題というのは本当なのよ? どうやってお買い物をしてくるのか楽しみだわ」
「何を買うのか気になりますね」
「もちろんそれも気になるわね。それに、あの子たちには金貨を一枚渡したの。まずそれをどうやってくずすのか気になるわ」
「くず、す……?」
「えぇ。明日行く広場は庶民向けのお店が並んでいるところなの。だから金貨を渡すとお店の人は困ってしまうのよ」
「え、そう……なんですか?」
前世でいう一万円札をだす、みたいな感覚なんだろうか。
そういえば、小説とかで貴族の子どもが何気なく金貨を出してお釣りがないと困らせてしまう場面とかあったような……。
いや、ちょっと、まって?
金貨一枚って、この世界ではどれくらいの価値があるんだろう? そんなことも知らなかったということに今更ながらに気が付いてしまった。
私の記憶の中にある"お買い物"なら、一人で問題なくできていただろう。けれど、ここはもう別の世界。
「その……」
「どうしたの? フィーちゃん」
「あの、私もお買い物をした記憶が……ありません……」
私の言葉に、ここにいる全員が黙ってしまった。
記憶喪失だからということももちろんあるけれど、外に出たことがないのだからお買い物なんてしたことがあるわけがない。
いや、してもらったことなら一度だけある。
「そうだわ、フィーちゃんもお買い物をしたことがないんだったわ!」
「盲点だったな……」
「てっきり金銭感覚は大丈夫かと……」
セレスさんもヴィンセントさんも、なぜかショックを受けていた。
「あの、でも、王都へ来る前にヴィンセントさんに服を買っていただいたので……その時にお買い物は経験しています! ただ、貴族のお買い物でしたが……」
私の言葉に何が言いたかったのか気が付いたんだろう。
ヴィンセントさんに服を買ってもらったけれど、いかにも貴族のお買い物といった感じだった。
あれもこれも買おうとしていたのをなんとか止めたのだ。
それからアリシティアさんにお金の使い方を教えてもらった。金貨一枚の価値や、物価など。当たり前のように思っていたことがこの世界では違うということが少しだけショックだった。
その間のことを少し振り返ってみる。
ある日、公爵家のみなさんと食事をしていると突然アルヴァートからお出かけをしないかと誘われた。
「ねぇ、フィー姉さん。明日一緒に広場にお出かけしない?」
「え?」
突然の誘いに、少し戸惑ってしまった。
王都へ来てからというもの、公爵家の敷地外へ出たことがなかったからだ。
外へ出たくないとかではないけれど、特別出たいとも思わなかった。
「先週ね、授業で宿題を出されたんだ」
アルヴァートが私の返事を聞かずに嬉しそうに話を続けた。
「毎日お手伝いをして、お小遣いをもらったんだ。それに、毎月のお小遣いも使わずにとっておいてもらったの」
お小遣い……? 不思議そうに聞いていると、今度はリティシアが話した。
「そのお小遣いを使ってお買い物をしないといけないの」
「そうなんだね」
リティシアたちは今年で八歳だ。
お金の使い方を学んできなさい、ということなんだろうか。貴族の子どもだから自分でお金を払ってお買い物をするということをしたことがないんだろう。
それに、身なりの良い子どもがお金を持っていたら普通に危ないもんね。ひったくりにあうか、誘拐されちゃうよ。
それにしても、お手伝いをしてもらったお金で、なんて……えらいなぁ。
「僕、まだ一人でお買い物をしたことないんだよ。だからフィー姉さんも一緒に行こうよ」
「王都の広場にあるお店、楽しいよ?」
双子たちにすぐ返事ができないでいた。
ここで私が行きたいと言ってもいいのか判断ができなかったからだ。公爵家に保護してもらっている身なのだから。
「フィーちゃんはどうしたい? あなたの好きにしていいのよ。王都には大勢人がいるし、もし外に出るのが怖いのなら……」
セレスさんは少し心配そうな表情をしていた。
あまりにも私が出かけようとしないから、もしかすると怖いと思っていると勘違いをさせてしまっていたのかもしれない。
「いえ、怖いとか、そういうことはありません。あの、あまりにもここにいるのが心地よくて、外に出たいとか思わなかっただけなんです」
これは本当のことだ。
こうしてみんなと過ごさせてもらっているうちに、ここが自分の家のような気持ちになってしまった。
気を付けないとな、と頭ではわかっていてもつい思ってしまう。
「そう? それなら明日おでかけしてみたら?」
セレスさんのその言葉に「では、せっかくなので……」と私が返事をすると双子は嬉しそうに笑った。
「母様、三人では不安なので私も行きましょうか?」
それはグレイシアさんだった。
「でも、せっかくのお休みなのにこの子たちの面倒をみてもらっていいのかしら? 最近学園が忙しかったでしょう?」
「いえ、大丈夫ですよ。落ち着きましたから。母様もたまには父様とゆっくり過ごしてください」
「なら、まかせちゃおうかしら」
ヴィンセントさんがグレイシアさんのその言葉に"こほん"と恥ずかしそうに咳払いをした。
「えー! 兄様も行けるの? やったぁ!」
「なら、みんなで行きたい。アリシティア姉さまは一緒に行けないの?」
アリシティアさんを見れば、申し訳なさそうに微笑んだ。
「明日は友人と約束をしてしまっているの。残念だけれど、また誘ってくれると嬉しいわ」
「そっかぁ、しかたないよね」
アルヴァートはがっかりしていたが、先に約束をした人を断るなんて失礼なことをアリシティアさんがするわけないものね。
「じゃぁ、明日はおでかけね!」
「ごちそうさまでした。明日の準備があるから、もう部屋に戻るね」
そうして双子は嬉しそうに部屋へと戻っていった。すると、なぜかセレスさんが申し訳なさそうにこちらを見た。
「フィーちゃん、あの子たちがいきなりごめんなさいね」
「いえ、私も楽しみです。出かけるきっかけが特になかったので……」
「実はね、あの子たち、フィーちゃんがどうしたら外に出られるか考えていたのよ」
「え?」
「ずっと家の中にいるから、あの子たち心配していたみたいなの。それであんなことを思い付いたのね」
おでかけの誘いは、まさか私のためだったなんて。
私を外に出すために、頑張ってお手伝いをしていたんだろうか。
「あ、でも授業の宿題というのは本当なのよ? どうやってお買い物をしてくるのか楽しみだわ」
「何を買うのか気になりますね」
「もちろんそれも気になるわね。それに、あの子たちには金貨を一枚渡したの。まずそれをどうやってくずすのか気になるわ」
「くず、す……?」
「えぇ。明日行く広場は庶民向けのお店が並んでいるところなの。だから金貨を渡すとお店の人は困ってしまうのよ」
「え、そう……なんですか?」
前世でいう一万円札をだす、みたいな感覚なんだろうか。
そういえば、小説とかで貴族の子どもが何気なく金貨を出してお釣りがないと困らせてしまう場面とかあったような……。
いや、ちょっと、まって?
金貨一枚って、この世界ではどれくらいの価値があるんだろう? そんなことも知らなかったということに今更ながらに気が付いてしまった。
私の記憶の中にある"お買い物"なら、一人で問題なくできていただろう。けれど、ここはもう別の世界。
「その……」
「どうしたの? フィーちゃん」
「あの、私もお買い物をした記憶が……ありません……」
私の言葉に、ここにいる全員が黙ってしまった。
記憶喪失だからということももちろんあるけれど、外に出たことがないのだからお買い物なんてしたことがあるわけがない。
いや、してもらったことなら一度だけある。
「そうだわ、フィーちゃんもお買い物をしたことがないんだったわ!」
「盲点だったな……」
「てっきり金銭感覚は大丈夫かと……」
セレスさんもヴィンセントさんも、なぜかショックを受けていた。
「あの、でも、王都へ来る前にヴィンセントさんに服を買っていただいたので……その時にお買い物は経験しています! ただ、貴族のお買い物でしたが……」
私の言葉に何が言いたかったのか気が付いたんだろう。
ヴィンセントさんに服を買ってもらったけれど、いかにも貴族のお買い物といった感じだった。
あれもこれも買おうとしていたのをなんとか止めたのだ。
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