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35【魔力の反動】
しおりを挟むアルヴァートとの一件があってから。
次の日の朝、目が覚めるとなんだか体がだるく感じた。
ふらふらしながら朝の支度をなんとか終えることができたが、これ以上はとても体を動かすことができない……。
朝食までまだ時間があるからベッドでもう少しだけ休もうと思っただけなのに、私が次に目を覚ました時、そのまま三日も経ってしまっていたことには驚いた。
さらに、目が覚めたときにアルヴァートがベッドで眠っていたことにも驚いた。
◆◆◆
「ふわぁぁ、よく寝たな……」
体があちこち痛くてベッドから起き上がりたくない。
けれどふと、異変に気が付いた。
あれ、見知らぬ天井だ――?
体を起こして部屋の中を見渡したがここは見覚えのない部屋だった。
え、デジャブ……?
もしかしてまた記憶喪失になってるなんてことはないよね? いやいやなんてね、ちゃんと記憶はある。
「……って、うわぁぁぁ!?」
驚いて可愛くない叫び声を出してしまった。すぐ横で人の気配がしたと思ったらアルヴァートが隣で寝ていたのだ。
「え、アルヴァート……?」
ちょん、とアルヴァートをつついてみる。すると、「うぅ~ん……ん?」と唸りながらアルヴァートが私に気付いてガバッと勢いよく起き上がった。
「フィー姉さんっ、ねぇ、大丈夫? どこか痛いところはない? ごめんなさい、僕のせいで……」
「え、どういうこと?」
「フィー姉さん、三日も眠ってたんだよ。多分、あの時魔力をたくさん使ったせいだと思う……」
「み、三日も!?」
あの時っていつだろう。魔力をたくさん使った記憶はないけど……。と考えたところでふと思い出した。
もしかしてアルヴァートの魔力が暴走した時?
反動がひどいとは聞いていたけど、あの後すぐ異変はなかったし、朝起きて体がだるいなとは思ったけれど、それだって魔力を使ってから何時間も経っていたし……。
こんな風に時差で反動がくるものなの?
「ごめんなさい、父様たちに僕のせいだって言えなかった……」
アルヴァートがそのまま泣き出してしまった。
「私との約束を守ってくれたんでしょ? 二人だけの秘密にしてって私が言ったじゃない」
「でも、僕……」
きっと怒られるのが怖かったのだろう。私に怪我をさせてしまったことで、叱られたはずだ。それに加えて魔力の暴走まで起こしそうになったとは言えなかったんだろう。
でも、私との約束も守りたかったんだと思う。
アルヴァートはわかりにくいけど優しい子だ。
頑固で負けず嫌いで泣き虫だけど。
それに、アルヴァートは気が付いていないけど、ヴィンセントさんたちはアルヴァートの魔力が暴走しそうになったことを知っていると思うなぁ……。
「このまま目が覚めなかったらどうしよう、って怖かったんだよ。フィー姉さんはいなくなったりしないよね? ずっとここにいてくれるよね?」
フィーリアさんのことを思い出してしまったんだろうか。
目を真っ赤にして泣いているアルヴァートの頭を優しく撫でると、ぎゅっと抱きついてきた。
「アルヴァート、ずっとここにいてくれたの?」
「うん、心配だったから、みんなで交代でみてたの」
「そう、ありがとう」
「うん……」
その時、ドアが開いてヴィンセントさんとセレスさんが部屋へと入ってきた。その表情からとても心配してくれたのがすぐにわかった。
「フィーちゃん、目が覚めて本当によかったわ」
「すみません、またご心配をおかけしました……」
二人は何か言いたげだが、私の隣にいるアルヴァートの姿を見て少し躊躇しているようだ。二人が何かを言う前からすでに目を真っ赤にして泣いているのだから無理もない。
「本当にすみませんでした。その、もう危険なことはしませんので……」
「本当に心配したんだよ。二度と危ないことはしないこと。二人とも約束だからね?」
ヴィンセントさんはそう言いながらも、アルヴァートと私の頭をわしゃわしゃと優しく撫でてくれた。
やはり、ヴィンセントさんは何があったのか知っているのだろう。
「「はい……」」
私とアルヴァートは素直に返事をした。
それからグレイシアさんやアリシティアさん、ハンナさんたちも様子を見にきてくれた。
アルヴァートの涙と鼻水でぐしょぐしょになった私の服をグレイシアさんがじっと見ていたから、また魔法で綺麗にしてくれるのかな、と思ったけれど――。
「心配させた罰だ」
と言って綺麗にしてくれなかった。
「そんなぁ……!」
アリシティアさんも笑っているだけで助けてはくれない。
あっ……と、ふと閃いた。
「私、魔法の勉強をもっと頑張りますね。そうすればどんなに服が汚れても大丈夫だものっ!」
「なぜその方向に考えるんだ……?」
グレイシアさんが呆れているような気もするけど、魔法の勉強を頑張りたいのは本当のこと。
もしまたあのような事があっても適切に対応出来るかもしれない。危険な事はしないと約束したから、ちゃんと魔力を扱えるようになればいいんだよ。あ、念のためっていう意味ですよ!?
そして目が覚めたときからの疑問が。
「あの、ところでここはどこですか?」
「本邸にある、フィーちゃんのお部屋よ」
アリシティアさんがにこにこと笑いながら話してくれたけれど理解できなかった。
「え、本邸? 私の……部屋?」
「えぇ、そうよ。フィーちゃんのお部屋をこちらに移そうと思っていたんだけど、相談する前にあなたが気を失ってしまったからそのままこちらに移したの」
と、セレスさんが詳しく説明をしてくれた。
どうして……私を本邸に…?
「でも……」
「フィー姉さんは私たちと過ごすの嫌なの……?」
リティシアが目をうるうるさせながら聞いてくるが、それは反則じゃないかい。
「そ……そんなことはないよ?」
「うん、じゃぁ決まりね」
リティシアはしれっとしていた。
将来きっと恐ろしい小悪魔とやらになるに違いない。
「フィーちゃん、メイドのみんなも一緒にこちらで過ごすことになるから心配しなくて大丈夫よ」
「わぁ、本当ですか!?」
よかった。たくさんお世話になっていたのにいきなり本邸で過ごすのは……と思っていたので安心だ。
セレスさんたちは私がメイドさんとご飯を一緒に食べたり、お手伝いをしていたことももちろん把握しているのだろう。
◆◆◆
それから私は公爵家でとても幸せな時間を過ごしていた。
まるで、家族のように――。
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