35 / 40
35【魔力の反動】
しおりを挟むアルヴァートとの一件があってから。
次の日の朝、目が覚めるとなんだか体がだるく感じた。
ふらふらしながら朝の支度をなんとか終えることができたが、これ以上はとても体を動かすことができない……。
朝食までまだ時間があるからベッドでもう少しだけ休もうと思っただけなのに、私が次に目を覚ました時、そのまま三日も経ってしまっていたことには驚いた。
さらに、目が覚めたときにアルヴァートがベッドで眠っていたことにも驚いた。
◆◆◆
「ふわぁぁ、よく寝たな……」
体があちこち痛くてベッドから起き上がりたくない。
けれどふと、異変に気が付いた。
あれ、見知らぬ天井だ――?
体を起こして部屋の中を見渡したがここは見覚えのない部屋だった。
え、デジャブ……?
もしかしてまた記憶喪失になってるなんてことはないよね? いやいやなんてね、ちゃんと記憶はある。
「……って、うわぁぁぁ!?」
驚いて可愛くない叫び声を出してしまった。すぐ横で人の気配がしたと思ったらアルヴァートが隣で寝ていたのだ。
「え、アルヴァート……?」
ちょん、とアルヴァートをつついてみる。すると、「うぅ~ん……ん?」と唸りながらアルヴァートが私に気付いてガバッと勢いよく起き上がった。
「フィー姉さんっ、ねぇ、大丈夫? どこか痛いところはない? ごめんなさい、僕のせいで……」
「え、どういうこと?」
「フィー姉さん、三日も眠ってたんだよ。多分、あの時魔力をたくさん使ったせいだと思う……」
「み、三日も!?」
あの時っていつだろう。魔力をたくさん使った記憶はないけど……。と考えたところでふと思い出した。
もしかしてアルヴァートの魔力が暴走した時?
反動がひどいとは聞いていたけど、あの後すぐ異変はなかったし、朝起きて体がだるいなとは思ったけれど、それだって魔力を使ってから何時間も経っていたし……。
こんな風に時差で反動がくるものなの?
「ごめんなさい、父様たちに僕のせいだって言えなかった……」
アルヴァートがそのまま泣き出してしまった。
「私との約束を守ってくれたんでしょ? 二人だけの秘密にしてって私が言ったじゃない」
「でも、僕……」
きっと怒られるのが怖かったのだろう。私に怪我をさせてしまったことで、叱られたはずだ。それに加えて魔力の暴走まで起こしそうになったとは言えなかったんだろう。
でも、私との約束も守りたかったんだと思う。
アルヴァートはわかりにくいけど優しい子だ。
頑固で負けず嫌いで泣き虫だけど。
それに、アルヴァートは気が付いていないけど、ヴィンセントさんたちはアルヴァートの魔力が暴走しそうになったことを知っていると思うなぁ……。
「このまま目が覚めなかったらどうしよう、って怖かったんだよ。フィー姉さんはいなくなったりしないよね? ずっとここにいてくれるよね?」
フィーリアさんのことを思い出してしまったんだろうか。
目を真っ赤にして泣いているアルヴァートの頭を優しく撫でると、ぎゅっと抱きついてきた。
「アルヴァート、ずっとここにいてくれたの?」
「うん、心配だったから、みんなで交代でみてたの」
「そう、ありがとう」
「うん……」
その時、ドアが開いてヴィンセントさんとセレスさんが部屋へと入ってきた。その表情からとても心配してくれたのがすぐにわかった。
「フィーちゃん、目が覚めて本当によかったわ」
「すみません、またご心配をおかけしました……」
二人は何か言いたげだが、私の隣にいるアルヴァートの姿を見て少し躊躇しているようだ。二人が何かを言う前からすでに目を真っ赤にして泣いているのだから無理もない。
「本当にすみませんでした。その、もう危険なことはしませんので……」
「本当に心配したんだよ。二度と危ないことはしないこと。二人とも約束だからね?」
ヴィンセントさんはそう言いながらも、アルヴァートと私の頭をわしゃわしゃと優しく撫でてくれた。
やはり、ヴィンセントさんは何があったのか知っているのだろう。
「「はい……」」
私とアルヴァートは素直に返事をした。
それからグレイシアさんやアリシティアさん、ハンナさんたちも様子を見にきてくれた。
アルヴァートの涙と鼻水でぐしょぐしょになった私の服をグレイシアさんがじっと見ていたから、また魔法で綺麗にしてくれるのかな、と思ったけれど――。
「心配させた罰だ」
と言って綺麗にしてくれなかった。
「そんなぁ……!」
アリシティアさんも笑っているだけで助けてはくれない。
あっ……と、ふと閃いた。
「私、魔法の勉強をもっと頑張りますね。そうすればどんなに服が汚れても大丈夫だものっ!」
「なぜその方向に考えるんだ……?」
グレイシアさんが呆れているような気もするけど、魔法の勉強を頑張りたいのは本当のこと。
もしまたあのような事があっても適切に対応出来るかもしれない。危険な事はしないと約束したから、ちゃんと魔力を扱えるようになればいいんだよ。あ、念のためっていう意味ですよ!?
そして目が覚めたときからの疑問が。
「あの、ところでここはどこですか?」
「本邸にある、フィーちゃんのお部屋よ」
アリシティアさんがにこにこと笑いながら話してくれたけれど理解できなかった。
「え、本邸? 私の……部屋?」
「えぇ、そうよ。フィーちゃんのお部屋をこちらに移そうと思っていたんだけど、相談する前にあなたが気を失ってしまったからそのままこちらに移したの」
と、セレスさんが詳しく説明をしてくれた。
どうして……私を本邸に…?
「でも……」
「フィー姉さんは私たちと過ごすの嫌なの……?」
リティシアが目をうるうるさせながら聞いてくるが、それは反則じゃないかい。
「そ……そんなことはないよ?」
「うん、じゃぁ決まりね」
リティシアはしれっとしていた。
将来きっと恐ろしい小悪魔とやらになるに違いない。
「フィーちゃん、メイドのみんなも一緒にこちらで過ごすことになるから心配しなくて大丈夫よ」
「わぁ、本当ですか!?」
よかった。たくさんお世話になっていたのにいきなり本邸で過ごすのは……と思っていたので安心だ。
セレスさんたちは私がメイドさんとご飯を一緒に食べたり、お手伝いをしていたことももちろん把握しているのだろう。
◆◆◆
それから私は公爵家でとても幸せな時間を過ごしていた。
まるで、家族のように――。
334
お気に入りに追加
1,362
あなたにおすすめの小説
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる