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33【双子はツンデレ……?】

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 ここへきて数ヶ月経つけど、実は今日初めて本邸へと入った。

 私が立ち止まっていると、アルヴァートがぐいぐいと手を引っ張ってくれた。

 その行動だけで私はすごく嬉しくて。

 談話室へ行くとみんながそれぞれソファーへ座った。どこに座ったらいいのか悩んでいると、リティシアが自分の隣をポンポンと叩いて「ここに座っていいよ」と言ってくれた。

 リティシアの左側に座ると、その私の左側にアルヴァートが座った。

 もしかしてここってアルヴァートの定位置だったんじゃ……? と、急いで移動しようとすると服を引っ張られて私はまたそこへ座ることになった。

 ここに座ってていいってことかな?

 セレスさん、グレイシアさん、アリシティアさんが、私たちのやりとりを呆気に取られて見ていたのは言うまでもない。

 そうね、これはどういう状況なんだろう?

 私の両隣には、あれほど苦戦した双子が大人しく座っておいしそうにお菓子を食べている。

 しかも——。

「フィー姉さん、これすごくおいしいんだよ」 

 リティシアがお菓子をわけてくれた。

「あ、ありがとう」

「こっちの方が甘いんだよ!?」

 今度はアルヴァートだ。うん、これすごく甘いね。いや、これ甘すぎでしょ。もはや砂糖の塊だよ。

 セレスさんもまだ状況が飲み込めないようだが、それでも嬉しそうだ。

「お前たちのその変わり身の早さはなんだ?」

 グレイシアさんの疑問はごもっともだろう。

「そんなことないわ。だって私は離れに遊びに行っていたもの。おかしいのはアルヴァートよ」

「ぼ、僕だって! 一緒に泥遊びしたもん!」

 いや、泥遊びはちょっと違うね?
 いつの間にかいたずらが仲良く遊んでいたことになっている。

「でも、本当によかったわ。こんな光景が見れる日が来るなんて……」

 セレスさんは目に涙を浮かべている。
 そんなに嬉しかったんですね。私もすごく嬉しいもの。

「そうね、お母様。なんだか私、嫉妬してしまいそうだわ」

 アリシティアさんがこちらを見てため息をつく。

「私もあの三人の輪の中に入りたいわ」

 あ、三人?

「そうね、まだこんなに小さな子どもたちが仲良く一緒にお菓子を食べてるなんて微笑ましいわねぇ」

 あの、双子と一緒にされてますがみなさんお忘れではないでしょうか?
 私、十歳。双子は七歳ですよ!

 それにしても、この家の子どもたちは年齢よりも大人びて見えるのは気のせいなんだろうか。

 まぁ、アルヴァートは年相応だけど。

 私も早く大きくなりたい。どうしてこんなに貧弱なんだろう? 毎日美味しいご飯を食べさせてもらっているのに、なかなか背が伸びない。

 みんなでお話しをしているといつの間にか夕方になっていた。

 ドアが開いてそちらを見ると、ヴィンセントさんが帰宅していた。

「あなた、おかえりなさい。すみません、話に夢中で気が付かなかったわ」

「父さま、おかえりなさい!」

「いや、いいんだよ。みんな楽しそうでなによりだ」

 ヴィンセントさんは私たちのところへきて一瞬だけ不思議そうな表情をした。

「それで、これは一体どういう状況なんだい?」

 私がこの本邸にいることもそうだし、なによりも私の両隣で双子が大人しく座って嬉しそうな表情をしてお菓子を食べているのだ。

 そうだよね、私も同じこと思ったから。

「あの、いろいろとありまして……」

「気になると思いますけど、それは夕食の後にしましょう」

 さぁ、とセレスさんが立ち上がった。

「あ、それでは私は戻りますね」

 夕食の時間なら、私も離れに戻らないと。

 私もなんだか急にお腹が空いた気がする。お菓子はいっぱい食べたけどそれは別腹。

 今日のご飯はなにかな? 毎日の楽しみなんだよね。

「え、フィー姉さんもこっちで一緒に食べようよ!」

「え? 私は自分の部屋に戻るね」

「あ……」

 私は「お邪魔しました」と足早に部屋から出た。アルヴァートの声が聞こえた気がしたけれど、私は振り返らずに急いで離れへと向かった。

 何も思っちゃいけない、悲しいなんて、寂しいなんて、思ってはいけないんだから。

 一線を超えては、いけないのだから。



◆◆◆



 私は早足で本邸を後にした。

 さすがに公爵家の団欒に入り込むようなことまではしたくない。一線はちゃんと守らないと――ね。

 それに、私は一人でご飯を食べているわけではないから大丈夫。寂しくなんて、ないんだから!

 朝と昼は自室で一人で食べているけど、夕食はハンナさんやティアナさん、他のメイドさんたちとキッチン横の部屋で一緒に食べるようになったから。

 せめて夕食だけでもと、ティアナさんが声をかけてくれた。
 そのまま後片付けの手伝いもさせてもらっている。

 このままお世話になるのは気が引けたため、ハンナさんに「何かお手伝いをさせて下さい」とお願いをしてみたけれど「私たちの仕事ですから」と最初は笑顔で断られてしまった。

 何度もしつこくお願いをして、夕食の片付けを手伝わせてもらえるようになった。

 前世のおかげが、手は小さくても皿洗いはちゃんとできたし、明日の分の下ごしらえのお手伝いもできた。結構器用なことに自分でも驚いた。

 私も少しは役に立てているかな?
 ……大丈夫かな? 一緒にいても、迷惑じゃないかな?

 心の奥底にある不安を押し込めるように、ただ毎日を過ごしていた。
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