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32【近付いた心の距離】
しおりを挟む「ねぇ、アルヴァート、私と話をしよう? 何がそんなに気に入らないの?」
「離してよ! そんなこともわからないの!?」
本当はなんとなく知っている。
でもアルヴァートの口からちゃんと聞きたい。
「話してくれなきゃわからないよ」
観念したのかアルヴァートが話し始めた。
「あんたが、フィーリア姉さまの代わりみたいにいるのがいやなの!」
ついにあんた呼ばわりされてしまった。
「それで?」
「それで!? それだけだよ!」
「私は誰の代わりでもないし、フィーリアさんにとって代われる人なんて誰もいないわ」
「そ、そんなことわかってるよ!」
足元の地面がなんかおかしい。
周りの地面がボコボコと動き始めた。
アルヴァートを見ると、体の周りに魔力が漏れ出していた。これはもしかして魔力が暴走している!?
まずい。
「アルヴァート、ちょっと落ち着こうか!?」
「ただの嫉妬だってわかってるもん!」
「お願いだから落ち着いて!」
「でも、でも!」
その時地面がバコッと割れた。
私はとっさにアルヴァートを抱き寄せる。
魔法を習う時、ヴィンセントさんに教えてもらったことがある。それは魔力への干渉は危ないから絶対にしてはいけないということを。
干渉をされた者より、した者への反動が大きいと。
だけど今しないでいつするのよ!? ってね!
私は自分の魔力を使ってアルヴァートの漏れ出した魔力を押さえ込もうとした。
やったことなんてないし、もちろんやり方も知らないけど。
触れているところから自分の魔力でアルヴァートの魔力へと干渉する。これで合っているのかわからないけれど、そうしているうちにだんだんと苦しくなってきた。
ちょ、すごい苦しいんだけど。
アルヴァートの方は大丈夫だろうか。
アルヴァートも今の状況がまずいと思ったのか、「離して!」って言うけど、ここで離したら二人とも大怪我をしてしまうだろう。
すごく苦しくて"あ、もうやばいかも"と思ったところで大きな音がして周りの魔力が消えた。
もしかして成功にたの? それともアルヴァートが落ち着きを取り戻した?
腕の中にいるアルヴァートに怪我がないか確認をする。
「痛いところは、ない?」
「あんた……バカじゃないの」
「なっ、それが助けてくれた人に言うこと!?」
「僕ね……」
うん?
「フィーリア姉さまのことで、思い出せないことがあるのに気付いたの。それで怖くなったんだ……」
思い出せなくなる…?
あぁ、そうか。
アルヴァートはまだ七歳だから、時間が経つにつれて記憶を忘れていってしまうのだろう。
大人になると子どもの頃の記憶ってあまり覚えてないと思う。
あ、私は何も覚えてないんだけどね……。
「あの時なんて言ってた? とか思い出せないの……このまま全部忘れちゃったらどうしよう?」
「大丈夫だよ。まだ思い出せることいっぱいあるでしょう? あ、そうだ! 今のうちに紙に書いておくのはどう? そうすれば後から何度も読み返せるよ!」
「紙に書くって……もうちょっといい案はないの? やっぱりバカだね」
ひどい、結構いい案だと思ったんだけど。
「でも、ありがと。助けてくれて」
アルヴァートが小さく呟いたのでよく聞こえなかった。
「え? もう一度言って?」
「やだ」
「えぇ……」
「本当は、あんたのことも、家族が増えたみたいだって思っちゃったの」
え、何、急にどうしたの? そこまで飛躍する?
「まぁ私も、遊び相手ができたみたいで楽しかった、かな? ずっと勉強ばっかりだったからね。ただちょっと過激だったけど」
「怪我させてごめんなさい」
「いいの。私もごめんね」
私とアルヴァートは起き上がって周りを見渡す。地面がひどいことになっている。
これ、セレスさんに見られたらまずいんじゃ。
「ねぇ、アルヴァート、これ、直せる……?」
「うん、多分……やってみる」
アルヴァートは得意の土の魔力で地面を直していった。よし、これならバレないだろう。
「すごいわ、アルヴァート!」
「こんなこともできないの? 僕より年上なのに」
「私はまだ勉強中なの! ねぇ、アルヴァート。このことは二人だけの秘密ね? セレスさんとアリシティアさんに怒られちゃう」
「うん、怒らせると本当に怖いから秘密にしてね」
それから二人で本邸へと戻った。そこにはみんなが私たちを待ってくれていた。
私たちのことを信じて待っていてくれたんだろう。
セレスさんを見てアルヴァートの表情が強張った。まぁ、怒られるって思うよね。
だって逃げ出してそのままなんだよ?
だけどなんだかその姿がかわいそうで、落ち着かせるために私はアルヴァートの手を握った。
意外にも、アルヴァートが握り返してくれて手は離されなかった。
「二人ともその姿はどうしたの!?」
セレスさんが心配そうに私たちを見比べた。
あ、まずい。服が汚れたままだった!
「アルヴァートも私も怪我はしていませんよ!?」
慌ててセレスさんに二人の無事を伝える。
こういう時のためにやっぱり綺麗にする魔法を覚えておけばよかった。
アルヴァートは私の手をぎゅっと握る。
あら、可愛いところもあるじゃない。
「大丈夫だよ」
私はアルヴァートに優しく声をかける。
そんな私たちのやりとりをみて誰もなにも言わなかった。
グレイシアさんが私たちの前に来て手をかざすと、一瞬で服がきれいになった。
「グレイシアさん、ありがとうございます」
もう驚くまい。
「お兄様は、風、火、水の魔法が得意だからこういうこともできるのね。三つの魔力を同時に扱えるなんて知らなかったわ」
アリシティアさんが感心したように言った。
「今初めてやったからな」
あれ、ついさっきもこんなやりとりがあった気がする。
アリシティアさんの表情は無になっていた。
見てはいけない、見てはいけない。
「初めてでここまでできるなんて、グレイシアはやっぱりすごいわね」
セレスさんは感心しているけど、魔力は扱えても使ったことのない魔法は危ないんじゃなかったっけ……? あれ? いいの?
「さぁ、みんな入りなさい」
さっきは緊急事態でこの本邸に入ってしまったけど、また私が入ってもいいのだろうか。
公爵家の人間ではない、私が――。
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