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19【これからについて②】

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「これからのことだけど、フィーはウィスタリア公爵家でこのまま保護するべきだと考えているんだ。教会だと施設はあるが、警備が弱い。フィーの魔力の高さは正直不安だ。誰にも知られずに髪色を隠して過ごすのは難しいだろう」

「そうですね、教会はやめた方がいいわ。フィーちゃんを私たちが保護するのは賛成です。ただ……」
 
 セレスは横に座っているグレイシアへと視線を向けた。子どもたちのことも心配なのだ。

 長男グレイシアと長女アリシティアは両親がそうすると決めたら反対はしないだろう。けれど双子は——。

「アルヴァートが嫌がると思いますわ。リティシアも我慢はしていましたが不満に思うはずです」

「そうだな、最初の印象が悪くなってしまったからな……。アリシティアは大丈夫だろうか?」

 長女であるアリシティアはとてもしっかりしており、双子の面倒をよく見てくれるためヴィンセントたちは助かっていた。

 いたずら盛りのアルヴァートも、アリシティアにはできないほどだ。

 アリシティアは水の魔力が強く氷魔法も得意だ。以前アルヴァートがアリシティアを怒らせてしまった時、周囲の空気を一瞬で凍らせてしまったことがある。

 それからアルヴァートはアリシティアの前ではいたずらを控えるようになった。

「アリシティアなら大丈夫ですよ。私もアリシティアももう子どもではありませんから。ただ、正直に言うと心配はしています」

 ヴィンセントは"私たちにとってはまだまだ子ども"と思いつつ、それは口に出さずにグレイシアの話を聞いた。

「どんな心配だい?」

「公爵家が何か問題に巻き込まれないかと」

「そうか、けれど心配はいらないよ。私もセレスもいるし、公爵家には騎士団もいるからね」

「大丈夫よ、グレイシア。そういう可能性は私たちも考えているわ。けれど、フィーちゃんの安全も守りたいのよ」

「もちろんわかっています。私は公爵家で保護することに反対はしません」

「ありがとう、グレイシア」

 グレイシアの表情が特に変わることはなく感情を読み取ることはできないけれど、フィーのことを見捨てたりせずどうするのが一番いいのかわかっているのだろう。

「あなた、王都へ戻ればフィーちゃんの存在を隠すことは難しいですよね?」

「正直なところ、この領地内なら安全だが王都へと戻った後のことは保証できない」

 このウィスタリア公爵家の領地内なら問題はない。"公爵家の騎士団"のため選ばれた騎士しかいないからだ。

 けれど、王都にある騎士団本部には様々な派閥の者がいる。そのため存在を隠すのは難しいだろう。

 ウィスタリア公爵家が身元預かりでは余計な関心を集めてしまうだけだろう。その場合、フィーが公爵家に巻き込まれる形となってしまう。

 ウィスタリア家というだけで良くも悪くも人々からの関心は高い。

 だからいっそ、初めからウィスタリア公爵家で保護してしまえばいいとヴィンセントは考えたのだ。

 後から誰にもこのことで手を出されないように。

 ウィスタリア領地内で発見しそのまま保護していたのだから問題はない、ないと言い切ってしまえばいいのだ。

「フィーが私たちの目の届かないところで余計な関心を集めるのは避けたい。私なら申請も届け出もなんとでもできるからね。あ、いや、不正をしようという訳ではないよ!?」

 ヴィンセントはセレスから痛い視線を感じ、"しまった"という表情を浮かべ取り繕った。

「あなた、仮にも騎士団長なんですから発言には気を付けてくださいね……?」

「あ、あぁ、すまない」

「それでは父様、あの子はこのまま公爵家で保護する、ということですね?」

「そうだな。グレイシア、すまないが双子のことをよく見ていてくれ。私たちは家にいる時間も限られているから、気付いてやれないこともでてくるだろう。グレイシアも何か思うことがあったら私やセレスにちゃんと話すんだよ」  

「グレイシア、何かあれば話してね?」

「はい、わかりました」

 長男のグレイシアは小さな頃から手のかからない子だったが、最近はさらに大人びてしまいウィスタリア夫妻は少し寂しく思っていた。

 いつか公爵を継ぐ立場とはいえ、もう少し甘えてくれてもいいのにと。

「あなた、フィーちゃんの捜索願が出ていないか確認はするのですよね?」

「あぁ、教会を出る時すでに部下に頼んだよ。この領地内なら明日にはわかるだろう。ただ王都にまで範囲を広げて調べるとなると時間がかかるだろうな。似たような子の捜索願は何件か出るだろう」  

「結果が出しだい、すぐに申請しましょう。早い方がいいですからね。誰かに横やりを入れられる前に済ましてしまいましょう」

「あぁ、そうだね。フィーと子どもたちには、今日の夜話をしよう」



◆◆◆



 グレイシアは弟たちのことを気にかけつつ、フィーという少女のこともできる限りのことはしてあげたいと思っていた。

 その想いの底に、亡くなった妹フィーリアへの悲しみもあったのだろう。

 この日の夜、公爵夫妻は子どもたちを寝室へ集めてフィーのこと、これからのことについて話しをした。

 長女のアリシティアはすぐに同意をしてくれ、フィーの心配までしてくれた。

 リティシアも黙って聞いていたが、反論することはなかった。

 けれど、夫妻が懸念したとおりアルヴァートはひどく反対した。フィーを公爵家で保護するということにはなんとか同意はしてもらえたが、不安は残った。

 アルヴァートも本来は優しい子だ。フィーの置かれた状況を理解することはできたはずだ。

 自分とそう歳が変わらない女の子が頼れる人もおらず、記憶もなく、行くあてもないということに多少同情したようだ。

 ただ、気持ちが追い付かないのだろう。

 だがアルヴァートは少し頑固で、むきになってしまうところがある。それを知っている夫妻は何か問題が起きないかと不安に思った。

 ウィスタリア家が王都へと戻るまであと二週間ほど。家族全員で、フィーも一緒に戻ることになるだろう。

 子どもたちを自室へと戻らせ、ウィスタリア夫妻はフィーのいる部屋へと向かった。
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