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14【ステータスの確認②】

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「さぁ、時間が惜しいからね。はじめようか」

 魔石の前まで行くと「ここに手を触れるだけでいいから心配しないでね」と言われたのでドキドキしながらそっと手を触れた。

 あたたかいなと思った次の瞬間、触れた魔石に何かが現れた。よく目を凝らして見てみると、何やら文字のようなものが浮かび上がっていた。

「えっと、あれ?」

 いや、ちょっと待って?

 私ってこの世界、というかこの国の文字って読めるの?

 記憶喪失だからとか関係なく、今の私はまだ子どもだから文字の勉強とかしてないんじゃ。

 なんて心配したけれど、普通に読めた。
 すごい、私。

 えーっと、どう見ればいいんだろう。

「フィーちゃん、どうかしら? 何か見えた?」

「あ、はい。文字が見えます」

「私たちは保護者じゃないから見ることができないんだ。フィーの承認があれば私たちも見ることができるんだけれど、一緒に見ても大丈夫かい?」

 あ、本人以外は見えないんだ。

 どうせ私が見てもよくわからないし、何よりヴィンセントさんたちに隠すようなことはしたくないから。

「はい、許可します」

 でいいのかな? 二人にも見えるかな?

 ヴィンセントさんとセレスさんが私の横へ来て、浮かび上がった文字をじっと見た。

 少しして、二人の表情がみるみる曇っていく。

「あ、あの……?」

 落ち着かなくて声を掛ける。

「そんな、あなたの名前が秘匿になっているわ」

「え?」

「フィーちゃん、あなたの名前のところが秘匿扱いになっていて見ることができないの。あなたには見えるかしら? ここなんだけど」

 秘匿とはどういうことなんだろうか。セレスさんに指を差されたところを見るけれど……何も見えなかった。

 名前のところが赤くなっていて、何も表示はされていなかった。

「私にも見えません」

「そうなのね……。事情は分からないけど、あなたのご両親がきっとそうしたのね」

 どうして名前を隠す必要があったのかな。

「あ、でも年齢は分かるわ。えっと……まぁ、フィーちゃん。あなた来月の誕生日で十歳になるわ」

「え」

 ということは今九歳ということ? そして来月が誕生日でもうすぐ十歳?

 え、見た目から年齢は七、八歳くらいだと思ってた……。見た目より歳をとっていたらしい。

 いや、成長が遅いのかな? 以前の私は食が細かったのかな。今の私はけっこう食べちゃうけど……。

 呑気なことを考えていた私の横で、ヴィンセントさんとセレスさんにとっては衝撃的だったようで、「そんな……」と声を漏らしていた。

「あ、あの! 他にも何かわかりますか?」

「え、えぇ。だめだわ、出身地も秘匿よ」

 出身地まで不明だなんて、私はいったいどこの誰なんだろう? そこまでして私の存在を人に知られたくなかったんだろうか。

「どうしよう、もしかして不法入国とかしてるんじゃ……」

「フィーちゃん、どうしたの?」

「あ、あの。もしこの国の国籍じゃないのにここにいたりするとどうなってしまうんでしょう? 捕まったり、罰とか……」

「まぁ、落ち着いて。大丈夫だから、心配しないくていいのよ。ねぇ、あなた?」

 セレスさんがヴィンセントさんの方を向くと、ヴィンセントさんは何やら考え込んでいる様子でセレスさんの声に気が付いていない。

「あなた!」

「あ、あぁ。すまない、セレス」

「何か考えてらしたの?」

「いや、なんでもないよ。それでどうしたんだい?」

「フィーちゃんが、出身地が不明になっているのを心配しているのよ。もしかして不法にここにいるんじゃないかって……」

「すみません、この国の法律とかは知らないんですけど……そういう場合ってどうなるんでしょうか?」

 不法入国はだめだというのは分かる。それがこの国にもあるなら身元不明の私はそのあたりはどうなるんだろうか。

「フィー、そういうことも含めて私たちに任せてくれればいいよ。君は子どもだ。それにこの国は難民の保護もしているし、悪意があってしているわけではないのだから問題ないよ。君の場合は、だけどね」

「そう、ですか……」

 少し含みのある言い方でひっかかるけれど、とりあえず捕まることはないらしい。

「あら、見て。フィーちゃんの適性魔力だけれど、本当にすごいわ」

 セレスさんに言われて魔力値のところを確認すると、どれも"適性あり"となっていた。

「ほぉ、これはたしかにすごいな」

 ヴィンセントさんも感心したように頷いていている。

「すべての属性に適応しているね。その中でも聖と暗が飛び抜けて高い」

「ということは、私も魔法が使えるんですか?」

「えぇ、しかも聖と暗以外の属性もどれも平均値以上だわ」

「わぁ、よかったぁ」

 ちゃんと適性があってよかった。これで魔力の扱い方を学んでペンダントを開けることができる。何より魔法を使える!

 ヴィンセントさんたちも喜んでくれてるみたいで嬉しい。

「他に何かわかることはありますか?」

「そうね、これ以上のことはないわね。ところでフィーちゃん、あなたはこの魔石に浮かんだ文字が読めたのよね?」

「え? あ、はい、読めました。全部はよく見ていませんが……。こちらの記憶がないので心配していたんですけど、読めてよかったです」

「そうね、文字が読めたのはいいことだわ」

「そうですね!」

 たしかに文字が読めてよかった。これなら本を読むことができるから多くのことを学べるはずだ。

「では、この魔石に複製して帰ろうか」

 ヴィンセントさんがポケットから小さな白色の魔石を取り出した。

「それはなんでしょうか?」

「あぁ、これはこのステータスを簡易的に記録できる魔石なんだよ。後から確認したいこともあるだろう? ただ、更新はできないし魔力値や属性もしか記録できないんだけれどね」

「それは便利ですね!」

 ヴィンセントさんに記録してもらい、無くさないよう箱にしまってから大切にポケットに入れた。
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