13 / 40
13【ステータスの確認①】
しおりを挟む次の日の朝、朝食後少ししてからセレスさんとハンナさんがやってきた。
「おはよう、フィーちゃん。体調はどう? 教会には行けそうかしら?」
「おはようございます。もちろん大丈夫です!」
「よかったわ。それでは着替えをしましょう。私が選んでもいいかしら?」
セレスさんはこの部屋のクローゼットからいくつかワンピースを取り出してベッドに並べていった。
どれにしようかしら? と私と服を交互に見ながら楽しそうに選んでくれている。
ベッドに並べられたワンピースはいかにも貴族のご令嬢が着るような可愛らしいものばかりだ。
これにしましょう、とセレスさんが手に取ったのは水色と白色を基調としたワンピースだった。
ハンナさんが手伝ってくれてワンピースへと着替えると、セレスさんもハンナさんよく似合っていると褒めてくれた。
全身を鏡で見てみるとクリームイエローの髪の毛の私によく似合っていた。鏡に映る可愛らしい小さな女の子。
この子が自分なんだということが不思議に思える。この容姿にも早く慣れていかないとなぁ。
ハンナさんが長い髪の毛も結ってくれてちょっと気分が上がる。
支度が終わり、この部屋から出るためドアの前まで行くと緊張と不安を感じた。この部屋から勝手に出たいとは思っていなかったから、いざ部屋を出るとなると少し緊張してきた。
誰かに会うかな? この家にはセレスさんの子どもたちもいるから会うかもしれない。もし子どもたち会ったらちゃんと挨拶しなくちゃ!
と意気込んでいたけれど玄関に行くまで誰にも会わなかった。
「さぁ、フィーちゃん。こっちよ」
玄関から外へ出ると大きな馬車がとまっていて、そこにはヴィンセントさんが待っていた。
うわぁ、馬車なんて初めて見たよ……。
「あなた、お待たせしました」
「おはようございます」
「おはよう、フィー。おや……そのワンピース、よく似合っているね。とても可愛いよ」
ヴィンセントさんは目を細めながら褒めてくれた。
「さぁ、それでは行こうか」
ヴィンセントさんが、セレスさんと私の手を取りエスコートをしてくれた。
微笑みながら手を取るヴィンセントさん、とても様になっていてかっこよくて、慣れないエスコートに私はただただ照れてしまった。
馬車のクッションはとてもふかふかで、その心地よさを実感していると「楽しそうでよかったわ」とセレスさんに言われてしまった。
うかれてしまっていたことに気が付いて、姿勢正しく座り直した。
「すみません、つい……」
「いいんだよ、私たちしかいないんだから楽にしてね」
そうヴィンセントさんが言ってくれたけれど、人のいるところではだめと言うことだよね。いや、もちろんお行儀が悪いから当たり前なんだけれど、やっぱりこの人たちは貴族なんだなと感じた。
ゆっくりと走る馬車に揺られながら窓から外を眺めていたけれど、残念ながら天気が悪いため外がよく見えなかった。
残念、せっかく外に出たのになぁ。
「また出かけましょうね」
私の残念そうな表情を見てセレスさんが提案してくれた。
外は風が少し吹いており雨が降っていた。ヴィンセントさんによれば、これでもだいぶよくなった方だとか。
ちなみに、国境側へ行くともっとひどい天候らしい。幸いなことに、街へは国境と真逆のため、街へ向かうほど天候は良くなるとのこと。
こんなに雨が降っているならまた後日にすればよかったんじゃないかな? と思ったけど、まだ数日はこの天気が続くからあまり変わらないと教えてくれた。
公爵家の別邸から少し離れると風も雨も弱くなっおり、窓から外を見るとだいぶ視界がよくなっていた。
この領地は自然に恵まれているようで緑が多く、畑が一面に広がっていた。果物のようなものがたくさんなっている木もあって、「おいしそう」なんてついつい呟いてしまう。
のどかでいいなぁ、なんて思っていると街が見えてきた。
「見えるかい? あそこが目的の街だよ」
見えてきた街は、良き古き街並みといった感じだろうか。それだけでわくわくしてしまう。
街に入る頃には雨はやんでいて、曇り空となっていた。人が多く住むこの辺りまで嵐の影響はないみたいでよかった。
多くの人が行き交い、楽しそうに笑っている。そこにはいろいろなお店が並んでいて屋台みたいに店先で販売している店もあった。
この世界でも屋台って言うのかな?
いいなぁ、見てみたいな……。
「ごめんなさいね、外に出ていろいろ見てみたいでしょう? でもまだフィーちゃんの事情が分からないから人目には触れない方がいいと思うから……」
セレスさんは申し訳なさそうに言った。その表情には悲しみが見てとれた。
セレスさんにこんな顔をさせてはだめだ。
「全然大丈夫です、また次の機会に楽しみはとっておきます!」
気を付けなければ。セレスさんたちに気を遣わせてしまう。
「周りを気にせず出掛けられるようになったらまた来ましょうね。どこだって連れて行ってあげるわ」
「ありがとうございます、楽しみです」
そのまま教会へと着き、馬車から降りた。
念のためにと、セレスさんから渡されたショールを頭からかぶり教会へと入る。
裏口っぽいところだし、なんだかお忍びの令嬢みたいだな。
教会の中へ入ると一人の男性が案内をしてくれた。そこは部屋、というよりは礼拝堂のようなところに見えた。
奥には祭壇のようなものがある。
「ここはどういうところなんでしょうか?」
「ここは礼拝堂だよ。この国の女神様への祈りと感謝を捧げるんだ。あそこにある祭壇が見えるかい? あれがステータスを確認するための魔石なんだよ」
私の知っている祭壇とは意味合いが違うようだ。世界が違うのだからまぁ、そうなのかな?
それにしてもあれが魔石? 魔石にしては大きい。と言ってもまだトイレでしか見たことないけれど。もはや石ばんといってもいいんじゃないかな。
ふと周りをきょろきょろと見渡した。ここには私たち以外に誰もいなかった。案内をしてくれた男性もいつの間にかいなくなっている。
裏口のようなところから入ったので、てっきり小さな部屋でこっそり確認するのかなと思っていた。
「他に人はいないんですね」
「事情が事情だからね。ちょっと権力を、んんっ。話をしてこの時間だけ立ち入り禁止にしてもらったんだ。街の人に迷惑はかけられないからこの礼拝堂を短時間だけね」
ヴィンセントさん、権力って言いかけませんでした?
セレスさんがにっこりとヴィンセントさんを見つめ、ヴィンセントさんは小さく"こほん"と咳払いをした。
248
お気に入りに追加
1,372
あなたにおすすめの小説
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる