11 / 40
11【夢とペンダント②】
しおりを挟む
部屋をノックする音が聞こえて、思わず背筋が伸びてしまう。
「ど、どうぞ」
部屋へと入ってきたのはヴィンセントさんとセレスさんだけで、ベッド横へと腰掛けた。
「ぐっすり眠れたようで安心したわ。顔色もいいわね。ご飯もたくさん食べられたみたいだし、もう大丈夫そうね」
「はい、もう大丈夫です。あの、昨日はすみませんでした。せっかく会いに来てくれたの……それにこんなにお世話になってしまってどうお返しすればいいのか……」
私の言葉にセレスさんは驚いたように目を開いた。
「まぁ、そんなこと考えなくていいのよ。私たち大人を頼ってくれて大丈夫なんだから」
「で、でも……」
「ね?」
「ありがとう、ございます」
どこの誰ともわからない子どもの世話をここまでしてくれる人はそういないだろう。助けてくれたのがこの人たちで本当に幸運だったと思う。
「それでね、これからのことをセレスと話し合ったんだ。君にもちゃんと伝えておこうと思ってね」
「はい」
今日はヴィンセントさんも話をしてくれるのかな?
「まず、君の中にある違和感なんだけど、それは君が転生者だからだと思うんだ」
転生者? ってなんだろう。
「転生者というのは、前世の記憶をもったまま生まれてきた人のことをいうんだよ」
「え、前世……ですか?」
「そうだよ。ただ、前世での自分を詳細に覚えている人はごくごく稀なんだ。多くの転生者は前世のことを少し覚えているぐらいで、知らない言葉を話すとか、この世界にない物の話をするとかで初めて分かるんだけどね」
「では……私のこの記憶は前世のものということですか?」
「そういうことになるね。だから、君の頭がおかしいとかそういうことではないから安心して大丈夫だよ。それに、この国では転生者はそこまでめずらしいことではないから理解があるんだよ。ちなみにセレスの祖父も転生者なんだ」
「そうですか……」
前世の記憶だと、そう言われて少しだけ安心した。この世界はどこか違うと思っていたから原因がわかってよかった。
それにこの国は私みたいな人にも理解があるということだから、多少変なことを言っても頭のおかしい子だとは思われないかな?
私がおかしいんじゃなくてよかった!
「これは私たちの推測なんだけど、何か衝撃的なことがあって記憶を忘れてしまったんじゃないかな? 代わりに、というのもおかしいけれど眠っていた前世の記憶を思い出した可能性があると思うんだ」
「衝撃的なこと、ですか?」
「うん、それが何かは私たちにはわからないんだけれどね」
もちろんろ記憶のない私にも心当たりはない。けれど、私が一人で怪我をして倒れていたことから、何か問題があったのは事実だろう。
「だから、無理して思い出そうとしなくていいんだよ。無理をすると記憶が壊れてしまう可能性があるし、もしかすると嫌なことを思い出してしまうかもしれないからね」
ヴィンセントさんは森で私を見つけたあの状況から、私が何か辛い思いをしたと思っているんだろう。だから、無理に思い出さなくてもいいと言ってくれている。
「でも、何も思い出せなかったら私は……」
「これからのことは心配しなくても大丈夫だよ。私たちがいるんだから」
ヴィンセントさんはそう言いながら微笑み、セレスさんも大きく頷いた。
「えぇ、私たちがついているわ。だから安心してね」
「あ……」
"ありがとうございます"そう言いたかったのに自然と涙が溢れてきてしまい、声に出してお礼を言うことができなかった。
本当はとても不安だったのだ。
記憶もない、生きていく術もない子どもがどうやってこれから一人で生きていけばいいのか。
私たちがいると言ってくれたヴィンセントさんとセレスさんにはただただ感謝するしかなかった。
涙を流す私に、セレスさんは様子を伺いながらハンカチをそっと近付けた。
私が一度その手を避けてしまったからだろう。あの時はただ驚いてしまって、セレスさんに申し訳ないことをしてしまった。
けれど今はもう大丈夫だから。
そのままセレスさんはほっとした表情を見せて私の涙を拭ってくれた。
「これからの詳しいことはおいおい話していこうね。それでさっそくなんだけれど、体調が良ければ明日私たちと一緒に教会へ行ってほしいんだけれどいいかな?」
「教会、ですか?」
セレスさんが私の手をそっと握って話し始めた。
「この部屋から出て、外へ出ることになるけど大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「そう……? 怖かったら遠慮なく言ってね。教会へは私もヴィンセントも一緒だし、護衛に騎士団も付いてきてくれるから」
「むしろ外に出られるのが嬉しいです」
ずっと部屋の中にいたから外に出られるのなら正直嬉しい。記憶がなくて不安なのは本当だけれど、好奇心が勝ってしまった。
「それならよかったわ。教会では個人に関する情報を見ることができるの。もしかしたら、あなたの名前や出身地がわかるかもしれないわ。適性魔力も分かるのよ。適性が分かれば、魔法の練習だってできるんだから」
「えっ」
魔法の練習ができるかもしれない!?
それを聞いた私の表情は今とても緩んでいるだろう。どうしよう、落ち着かない。
「ふふ、思った通り。あなた、魔法にとても興味があるのね」
「わ、わかりますか……?」
やっぱり顔に出ていたようだ。
「えぇ、わかるわ。これでも私、子を持つ母親なのよ。子どもの表情を見れば嬉しいかどうかわかるわ」
恥ずかしい、自分の名前のことよりも、魔法に反応してしまったなんて。
二日もぐっすり眠ったおかげか、少しずつ前世の記憶が鮮明になってきている。そのせいか、魔法に関してどうしても心惹かれてしまうところがある。
前世の記憶を詳細に覚えている人は稀だと言っていたから、もしかすると私がそうなのかもしれない。
魔法は前世なら実際にはありえないことだった。それが自分にも使えるかもしれないとなれば期待も膨らんでしまう。
前世の自分のことは思い出せないのに、知識だけは頭の中に溢れてくるから不思議だ。
「ど、どうぞ」
部屋へと入ってきたのはヴィンセントさんとセレスさんだけで、ベッド横へと腰掛けた。
「ぐっすり眠れたようで安心したわ。顔色もいいわね。ご飯もたくさん食べられたみたいだし、もう大丈夫そうね」
「はい、もう大丈夫です。あの、昨日はすみませんでした。せっかく会いに来てくれたの……それにこんなにお世話になってしまってどうお返しすればいいのか……」
私の言葉にセレスさんは驚いたように目を開いた。
「まぁ、そんなこと考えなくていいのよ。私たち大人を頼ってくれて大丈夫なんだから」
「で、でも……」
「ね?」
「ありがとう、ございます」
どこの誰ともわからない子どもの世話をここまでしてくれる人はそういないだろう。助けてくれたのがこの人たちで本当に幸運だったと思う。
「それでね、これからのことをセレスと話し合ったんだ。君にもちゃんと伝えておこうと思ってね」
「はい」
今日はヴィンセントさんも話をしてくれるのかな?
「まず、君の中にある違和感なんだけど、それは君が転生者だからだと思うんだ」
転生者? ってなんだろう。
「転生者というのは、前世の記憶をもったまま生まれてきた人のことをいうんだよ」
「え、前世……ですか?」
「そうだよ。ただ、前世での自分を詳細に覚えている人はごくごく稀なんだ。多くの転生者は前世のことを少し覚えているぐらいで、知らない言葉を話すとか、この世界にない物の話をするとかで初めて分かるんだけどね」
「では……私のこの記憶は前世のものということですか?」
「そういうことになるね。だから、君の頭がおかしいとかそういうことではないから安心して大丈夫だよ。それに、この国では転生者はそこまでめずらしいことではないから理解があるんだよ。ちなみにセレスの祖父も転生者なんだ」
「そうですか……」
前世の記憶だと、そう言われて少しだけ安心した。この世界はどこか違うと思っていたから原因がわかってよかった。
それにこの国は私みたいな人にも理解があるということだから、多少変なことを言っても頭のおかしい子だとは思われないかな?
私がおかしいんじゃなくてよかった!
「これは私たちの推測なんだけど、何か衝撃的なことがあって記憶を忘れてしまったんじゃないかな? 代わりに、というのもおかしいけれど眠っていた前世の記憶を思い出した可能性があると思うんだ」
「衝撃的なこと、ですか?」
「うん、それが何かは私たちにはわからないんだけれどね」
もちろんろ記憶のない私にも心当たりはない。けれど、私が一人で怪我をして倒れていたことから、何か問題があったのは事実だろう。
「だから、無理して思い出そうとしなくていいんだよ。無理をすると記憶が壊れてしまう可能性があるし、もしかすると嫌なことを思い出してしまうかもしれないからね」
ヴィンセントさんは森で私を見つけたあの状況から、私が何か辛い思いをしたと思っているんだろう。だから、無理に思い出さなくてもいいと言ってくれている。
「でも、何も思い出せなかったら私は……」
「これからのことは心配しなくても大丈夫だよ。私たちがいるんだから」
ヴィンセントさんはそう言いながら微笑み、セレスさんも大きく頷いた。
「えぇ、私たちがついているわ。だから安心してね」
「あ……」
"ありがとうございます"そう言いたかったのに自然と涙が溢れてきてしまい、声に出してお礼を言うことができなかった。
本当はとても不安だったのだ。
記憶もない、生きていく術もない子どもがどうやってこれから一人で生きていけばいいのか。
私たちがいると言ってくれたヴィンセントさんとセレスさんにはただただ感謝するしかなかった。
涙を流す私に、セレスさんは様子を伺いながらハンカチをそっと近付けた。
私が一度その手を避けてしまったからだろう。あの時はただ驚いてしまって、セレスさんに申し訳ないことをしてしまった。
けれど今はもう大丈夫だから。
そのままセレスさんはほっとした表情を見せて私の涙を拭ってくれた。
「これからの詳しいことはおいおい話していこうね。それでさっそくなんだけれど、体調が良ければ明日私たちと一緒に教会へ行ってほしいんだけれどいいかな?」
「教会、ですか?」
セレスさんが私の手をそっと握って話し始めた。
「この部屋から出て、外へ出ることになるけど大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「そう……? 怖かったら遠慮なく言ってね。教会へは私もヴィンセントも一緒だし、護衛に騎士団も付いてきてくれるから」
「むしろ外に出られるのが嬉しいです」
ずっと部屋の中にいたから外に出られるのなら正直嬉しい。記憶がなくて不安なのは本当だけれど、好奇心が勝ってしまった。
「それならよかったわ。教会では個人に関する情報を見ることができるの。もしかしたら、あなたの名前や出身地がわかるかもしれないわ。適性魔力も分かるのよ。適性が分かれば、魔法の練習だってできるんだから」
「えっ」
魔法の練習ができるかもしれない!?
それを聞いた私の表情は今とても緩んでいるだろう。どうしよう、落ち着かない。
「ふふ、思った通り。あなた、魔法にとても興味があるのね」
「わ、わかりますか……?」
やっぱり顔に出ていたようだ。
「えぇ、わかるわ。これでも私、子を持つ母親なのよ。子どもの表情を見れば嬉しいかどうかわかるわ」
恥ずかしい、自分の名前のことよりも、魔法に反応してしまったなんて。
二日もぐっすり眠ったおかげか、少しずつ前世の記憶が鮮明になってきている。そのせいか、魔法に関してどうしても心惹かれてしまうところがある。
前世の記憶を詳細に覚えている人は稀だと言っていたから、もしかすると私がそうなのかもしれない。
魔法は前世なら実際にはありえないことだった。それが自分にも使えるかもしれないとなれば期待も膨らんでしまう。
前世の自分のことは思い出せないのに、知識だけは頭の中に溢れてくるから不思議だ。
244
お気に入りに追加
1,360
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる