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"あなたは甘い恋と苦い恋♡どちらを選ぶ? ~ビッターバター王国物語~"

 とかいうちょっと変なタイトルの乙女ゲームがあった。友人に強く勧められて、一応最後までプレイしたけれど。

 甘いと苦い、どちらを選ぶ? とかいってるけど、甘い要素なんてあったかな。

 なんかもうただの育成ゲームだったような気がする。なぜ好感度を上げることよりも、ステータスを上げるのに必死になっていたんだろ?
 乙女ゲームならキスの一つでもしなさいよ!
 どうしてデートが魔物退治になるのよ!
 



 なんて大学の講義中に考えていただけなのに。
 講義があまりにもつまらなくてちょっと居眠りをしていただけなのに。

 はて、なぜ私はこんなところにいるのだろうか? 
 まるでここはお金持ちのパーティー会場のように見える。右も左も、キラキラと。目が痛いわ。

 着ている服装も、なぜかドレス。いや、重いし動き辛いわ! おかしいなぁ、たしかに普通のブラウスとスカートだったはずなのに。

 周りをよく見れば女の子たちはみんな派手なドレスを着ている。男の子たちも気合が入っているではないか。
 うわぁ……髪色がすごく派手じゃない。
 え、ピンクとかいるんですけど!? 染めるの大変そう……。え、赤に青まで……。ウィッグかな?
 それに瞳の色もカラフル。
 わざわざみんなカラコンまで入れてるの!?

 と、そこで気が付いた。
 そんな派手な女の子たちは私の方を見て嘲笑っている。

 なんだなんだ?
 あなたたち感じ悪いわね?

「ほらみて、ラテ令嬢ったら殿下にエスコートしてもらえなかったみたいよ」

「あらやだ。会場に一人で来るとか恥ずかしくないのかしら?」

「私だったら恥ずかしくてとても無理だわ~」

 おやおや。
 それって私のことかしら?
 喧嘩なら買うわよ。

 私はあなたたちのことを知らないのに、私のことをよくご存知のようね? まぁ、夢だから仕方ないけれど。なんとも感じの悪い夢だわ。

 で、私ってどういう役なの?
 本当におかしなこともあるものだ。さっきまで大学で授業を受けていたはずなんだけれど。

 あ、そうか夢か。これは夢ね!
 夢に違いないわね。

 でなければこんな派手なドレスを着てこんなところにいるわけないものね!
 だってほら、それに私はこんな髪色してないよ? 
 手で髪を触るとそこには見事な金髪が。
 ウィッグかと思って引っ張ってみたら取れなかったから地毛のようだ。 だから夢。
 今どきここまで真っ金髪ってなかなかいないよ? だって髪痛むじゃない。どれだけ色抜いてから染めたんだろう。
 というよりこれ長すぎよ。邪魔だわ。

 一人でぶつぶつ言っていると、突然会場がざわざわと騒がしくなった。
 みなが同じ方向を見ている。

 そしてすぐにシン、と静まった。
 そこへ大きな声が響き渡った。

「ビッターバター王国の第一王子ユイール殿下、ならびにオー男爵令嬢のご入場です!」

 ん? ビッターバター。
 今、ビッターバターって言った?

 あの変なゲームの王国の名前じゃない。
 しかもユイールにオーって言ったよね? 
 ゲームと一緒の名前だ。

 ねぇ、それより、二人の名前ってただの油と水じゃない。
 相性悪いじゃん。いいの? すぐ別れるかもよ?

 うん、これ絶対夢だわ。
 だってゲームの中とかありえないもの。

 なんてまた一人でぶつぶつと考えていたら、いつの間にか王子と男爵令嬢が目の前まで来ていた。

「ラテ! よく逃げずに来たな。それだけは褒めてやろう」

 王子が私に向かってビシッと指をさす。
 人に指をむけてはいけませんよ。

 あ、やっぱりラテって私のことなんだ。 
 ん? ラテ……?

「私は真実の愛を見つけたのだ! よって、今日ここで貴様との婚約を破棄する!」

「はぁ、そうですか」

 私の返事に王子はポカーンとした。
 あー、この場面って悪役令嬢の断罪シーンだっけ? 目の前で言われるとなんか腹が立つわね。

 というより、ラテってやっぱり悪役令嬢なんだ。いやだわ、私そんな役なの!?

「うぐっ。そうですか、ではない! 貴様のこれまでの数々の……」

「悪行をここで暴く! とか言うんですか?」

 王子が話している途中だったけれど最後まで聞くのは面倒なので先に言ってあげる。
 私、優しい。

「私が今から何をするか分かったということは、自ら罪を認めるということだな!?」

 なぜそうなる。
 そして王子はなぜかドヤ顔だ。
 せっかくのイケメンが台無しではないか。

 このゲームの王子ってこんな性格だったかな?
 違うよね、だって人気投票で一番人気だったはずだもの。友人が推していたから覚えてる。
 その人気一位がなぜこのような姿に……!

 そんな王子の周りをふと見てみると、ゲームの他の攻略者たちが私を睨みつけながら立っていた。
 うわぁ、とりまきーず勢揃いじゃないですか。
 この中では一番背が低く可愛らしい見た目をした男の子が目に入った。
 あらやだ、悪役令嬢の弟くんまでいるじゃない! そんなゴミを見るような目で見ないで!

「お、おい! 聞いているのか!? 罪を認めるんだな!?」

 えー、面倒だな。
 これって、今から断罪されるんでしょ?

 私がやっていないと言っても冤罪確定なやつではないですか。

 証拠はないのに、男爵令嬢の勇気ある証言こそが証拠だ~! とか言うのでしょう?

 この場面だって、もっとかっこよく王子が悪役令嬢を断罪するシーンだったはずなのに。
 なぜかゲームとは違う王子のアホっぽさにしらけてしまう。

 ねぇ、そもそも夢なんだからゲーム通りにしなくてもいいよね?

 私を……じゃなかった、悪役令嬢を陥れる男爵令嬢を一発ぐらい殴ってもいいような気がしてきた。
 いや、そうするべきだわ!
 だってここは夢の中。

 ゲームの中のバッドエンドではいつも処刑されてしまったかわいそうなラテ。
 今ここで私があなたの恨みを晴らしてあげてもいいんじゃないかしら?

 そして決心した私は男爵令嬢へ狙いを定めた。

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